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第九話 密談

 空を見上げると、三つの月が、夜空の星々を従えるように輝いている。

 

 紅い月、翠の月、蒼い月。

 光の三原色のような三つの月が重なりあうと、加法混色で白く輝くのかしら?


 取り留めの無い事を考えながら、全身に月明かりと星明りを浴びるが、私の足元に私自身の影は()()()()


 夜こそが私の時間だ。認識力と念動力を最大限に発揮。認識できる全ての『波動』に干渉する。

 私の周囲で光を()()させ、反対側に、突き放つ。

 可視光線だけじゃない。

 赤外線と紫外線、所謂、不可視光線も捻じ曲げる。

 熱放射も遮断する。

 理屈の上では、『熱光学迷彩』になっているはずなのだけど。

 想像通りの効果を得られているのかどうか、誰かに尋ねるわけにはいかない。

 私は現在隠密行動中なのだ。

 音波にも干渉し、私が発する全ての音波を外部に漏らさないよう、細心の注意を払う。

 堂々と歩き回っていても、誰にも見つからないという事は、なんとかなっているのだろう。


 

 さあ、始めよう。






 城内にある三つの食料庫。

 高級食材に手を出すのは、止めた方が無難だ。

 戦争中なら、兵糧に手をつけるのも、足が付きやすい。

 やはり、王城で働くエルフたちの為に蓄えられた食料庫にしておこう。


 念動力を使えば、食料庫の鍵程度など、簡単に解錠できる。

 食料庫に、文字通り音もなく忍び込む。

 生のまま食べられるものどれ?

 鋭敏化された嗅覚を頼りに探し出し、見つけた順番に口の中へ放り込む。

 つまみ食いの為に、ここまで必死になるみじめな私。

 食べ物は今日も涙の味がした。


 腹ごしらえを済ませ、ようやく本来の目的を思い出した。

 そろそろ、()()()()()頃合いかしら。


 扉越しに音波を把握する。

 ()()の寝息以外に、他の誰かの気配は感じ取れない。

 念動で音を立てないよう、鍵をこじ開け、忍び足で侵入する。

 生臭い()()()()が鼻孔を刺激する。


 換気の為に念動で窓を開け放つ。


 「……誰だっ!」


 あら、睡眠が浅かったのかしら?


 音波だけを開放する。


 「日向君、随分とお楽しみだったようね」


「その声は、響ちゃんかにゃー? 夜這いに来たなら姿を見せてほしいニャー」


 だが、断る。


 「熱光学迷彩が念動力で実現可能かどうか、検証しているの。私の姿を見る事は出来るかしら?」


 日向君は私がいる辺りに視線を彷徨わせながら。


 「声はすれども、姿は見えず。うまく行っているように見える……。いや、見えないかニャー」


 見えるのか見えないのか、どっちなのよ。まあ、いいや。本題に入ろう。


 「異世界に来ても日向君はぶれないわね。エルフを何人食べたのかしら?」


 「食べるだなんて、響ちゃんの、エッチ! 俺は『異文化交流』に挑戦しただけだぜ?」


 寝台の上でくねくねと、その身をよじらせる日向君。


 キモイわね。


 「武蔵を巻き込まないなら、日向君のお楽しみの邪魔をする気はないわ。いえ、むしろ好きなようにおやんなさい。六騎士を籠絡してくれたら、最高なんだけど」


 「最初の夜に、インガちゃんは美味しく頂いたけど、他の騎士は難しそうだぜ」


 インガ……。熊の氏族(クラン)のインガ。

 確か、日向君をこの世界に連れ込んだエルフね。

 あざとい金髪ツインテールの少女の姿を思い出す。


 「エルフは男性が少ないのでしょう? 生命の危機の際には、本能から性欲が増すと聞いたわ。戦場に出る機会があれば、上手く誘いなさい。日向君なら、男日照りのエルフぐらい、上手くあしらえるでしょう?」


 「本命は響ちゃんなんだけどなー。でも俺にそんな話をするなんて、何か考えがあるんだろ?」

 

 私は首肯を返しながら……日向君には見えないみたいだけど。


 「エルフたちは私たちを利用しようとしている。でも、いいように踊らされるのは業腹でしょう? 何でもいいから、主導権を握るための手札を増やしたいのよ。日向君が、エルフたちと肉体関係を重ねれば、相手も何らかの情を抱くかもしれない。それを利用するのよ」


 日向君はニヤリと私がいる辺りに微笑を浮かべ。


 「俺も響ちゃんと同じ考えだぜ。別に、エルフ少女ばかり食べ放題だ! って浮かれていたわけじゃない。寝物語に色々な話を聞き出してるから、内容をまとめて、有用なものは響ちゃんにも教えるぜ。その代わり、委員長を含めた他の女の子たちには内緒にしておいてくれよ」


 「当然ね。日向君の打算はどうでもいいけど、潔癖症の高雄さん辺りには、色々な意味で聞かせられない話だもの。こうした悪巧みは多分、日向君と私の間でしか成立しないでしょう。今後も情報交換をして、お互いに上手く立ち回りましょう」


 お互いに悪い笑みを浮かべているのがわかる。


 「何か、響ちゃんはご褒美を用意してくれないのかニャー?」


 「日本に帰還することが出来たら、一回ぐらいはデートしてあげるわ」


 日向君が声を殺して笑いながら。


 「いいね。それ。難攻不落だった響ちゃんとデートした最初の男は俺になるのか。デートはお持ち帰りはオーケーなのかにゃー?」


 「万が一、私をその気にさせることが出来たらね。チャンスはそう、この世界で日向君がどこまで私の役に立ってくれるかに懸かっているわ」


 「手付としては悪くない回答だな。見てな、響ちゃんをメロメロにさせてやるぜ?」


 私も声を押し殺して笑いながら。


 「日向君が、鮮やかに私たちのお父さんを取り戻してくれたら、メロメロになるかもね。ただし! 『エルフ食い』には、武蔵を巻き込まないように。絶対よ!」


 「武蔵は、性欲があるのかないのか、俺にもよく分からねえんだよなあ。鈴音ちゃんのあの「山脈」。男なら登ってみたいと誰もが考えると思うんだけどニャー」


 私は深々とため息を吐きながら


 「そこが理解出来たら、鈴音も武蔵を落とせるんだろうけど。付き合いが長い私も、武蔵の、異性関係限定で掴みどころのなさは理解できてないのよ」


 「響ちゃんは、鈴音ちゃんの恋の行方だけじゃなくて、自分の恋も探さないのかい?」


 見えてないだろうけど、肩をすくめながら。


 「そうねえ。特異な体質なせいか、イマイチ男性には魅力を感じないのよねえ」


 「キマシ! キマシタワー!」


 何を言っているのか理解できないが、不愉快な意味に違いない。 

 本題からどんどん話がそれてしまった。

 日向君が相手だと、調子が狂うわね。


 「内緒話には、ここが最高ね。誰もいない事を確認して、時々様子を見に来るわ。私は私でいろいろ試してみるから、お互いに情報交換をしましょう」


 「猥談する相手が響ちゃんってのは燃えるにゃー。いいぜ、契約成立だな」


 日向君と今後の事について、簡単な打ち合わせをしてから、自室に戻った。

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