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清純派魔導書と行く異世界旅行(改訂前版)  作者: 三澤いづみ
第一章 「魔導書のご主人様」

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第四話 『経験値って、すごい!』

 

 決意を新たにしたものの、現実に変化が訪れたわけではない。

 ただ、気分は非常に楽になった。


「ありがとよ、……そういえば、名前はなんて言うんだ」


 魔導書とかこいつとかで済ませていた。が、世界最高の魔導書を自称するくらいだから、何か壮大だったり洗練された名前がついているに違いない。

 俺の言葉に魔導書は照れくさそうに、


「ワタシの名前、ご主人様が付けてくれませんか」


 と言った。詳しく聞くと、呼ばれている魔導書としての名前は存在しているらしいのだが、自分では気に入っていないらしく、その名前で呼ばれたくないらしいのだ。

 魔導書と契約する場合、完全に個人専用となることを示すために真の主による命名が行われることは珍しくないらしい。

 中国とか日本における、戦国時代の武将が何度も名前を変えるようなものだ、と説明されてしまった。徳川家康が竹千代、元信、元康、家康とどんどん変遷していったのと同じだと。


 そんなものだろうか。こいつ自身が言うからには、そうなのだろうと思うしかないが。

 とはいえ良い名前など、すぐに思いつくわけでもない。

 あとで正式な本契約を交わすときまでに決めておいて欲しい、と上目遣いっぽい感じで言われた。

 魔導書なのに上目遣い。

 いや、でも実際そんな風に感じたのだ。


 ともあれ、大目標についてはあんな感じでいいだろう。

 それに付随する魔法使いの資格を取って、中途採用目指しての就職活動――もとい、ではなく、この世界で生きていくため、そして日銭やら旅費やらを稼ぐための方法を考えねばなるまい。

 まあ、こいつの話を聞く限り、魔法が使えるのならさほど心配はいらなそうだ。

 細かいことは後で考えることにしよう。


 次に、中目標である。


 とりあえずは、帰還の可能性、方法、目処について調べることを指針とする。

 あるいは俺がこの異世界に来てしまった理由を確かめること。

 と同時に黒ローブの正体を確かめることも、これに含まれるだろう。


 こっちは急ぎではないが、蔑ろにするわけにもいかない。

 旅をするにせよ、調べるにせよ、一応は取っかかりを見つけないことには動き方も分からないのだ。

 しかしその調べ方、探し方、情報の手に入れ方すら手立てがない。


 まあ、情報収集と一言でまとめてしまっても良いのだが、大目標が生きること、死なないこと、自分の自由を確保することを目的とするのに対して、こちらはおまけに過ぎない。

 そもそも焦っても無駄だろうし。

 頭の片隅において、余裕があれば。何かのついで。そのくらいのつもりでいよう。


 最後に、小目的である。

 魔力制御について。まずはここから、と思ったが。


「ワタシを使う場合、詠唱魔法が選択肢から消えるので……」

「訓練の方法も分からないか」

「ワタシが門外漢のことを、ご主人様の大魔力で適当にやると……爆発くらいはするかもしれませんし!」

「え?」

「方法については……おおよその予想が付きますが、やはり正当な教師を探した方が良いかもしれません」


 爆発するなら仕方がない。


 観光くらいの心づもりで旅をする。適宜、路銀を稼ぐ。この大方針は少々大ざっぱすぎる。

 というわけで、観光なり異世界旅行なりでしてみたいことを色々考えてみる。


 食事。まずはこれだ。食べたことのないもの、美味しいものを探そう。

 モンスターも食えるのかもしれないし、生態系がまるっきり違うことは想像の範疇だ。


 少なくとも、人間の定義は変わらないようだし、味覚や食事習慣なんかも似たようなものだろう。

 問題は食糧事情が悪かったり、調理法まで中世レベルで止まっている可能性についてだが、その場合でも自分で調理するという最終解決手段がある。

 ただ、醤油や味噌については普通に手に入らないものとして諦めざるを得ない。無念だ。


 寄生虫や細菌その他については、ある程度は仕方ないとして受け入れよう。

 抗体の有無、ウイルスや体内菌保持にまで思いをはせてみた場合、異世界召喚そのものがダーティボム投下と変わらない暴挙であることを考えれば、そこまで行くともう俺の手には負えない。

 異世界転移の時点で何か素敵な保護があるか、魔力によって身体が頑丈になってることを祈るのみだ。 


 風景。見るもの全部珍しいのだから、風光明媚な場所を探す必要すら無いのだろうが、日本どころか地球ではありえない景色に出会えるかも知れない。なにしろ魔法があるのだ。とんでもない場所が各地にあるのかもしれない。

 少なくともダンジョンはあるようだ。


「冒険者もいますからね! まあワタシのご主人様ならきっと楽勝ですが!」


 褒め殺しである。というか、比較対象がない状態で得られた評価とか怖くて信用できない。

 魔力量が桁外れであることと、俺がこいつに気に入られたこと以外は話半分以下として聞く。


 生き物、については嫌でも出くわしそうだからわざわざ探したりするのは辞めておこう。

 あの緑の壁、グランプルみたいな下手に近づくと殺されそうなモンスターがうじゃうじゃいるのは分かっているのだ。

 メリットもないのに危険に近づく趣味はない。


 財宝、というか美術品にはさほど興味がない。

 しかし、武器防具はどうだろう。


 ゲームで遊んでいたときの装備集めは、クリアより全装備コンプを優先するほど大好きだった。


 ……盗みたかった源氏シリーズのことは忘れよう。


 現実に集めるとなると、結構高いだろうし、何より持ち運びが出来そうにない。


 何百でもどんな大きさでも入り持ち運べる四次元ポケットちっくなふくろ、ホールディング・バッグとか魔法の鞄とか呼ばれる便利道具があれば別だが、そんな都合の良いものがあるはずが……


「ありますよ、ご主人様がお望みの魔法!」

「……なに」

「普通の魔法には存在しませんが、魔導書と契約した場合に使えるようになる特殊な魔法として、空間倉庫と呼ばれる魔法がありますから!」

「すぐに使えるのか」

「えーと、その、ちょっと材料が足らないので、そのうち作れるようになるまでお待ちください……てへ」


 くっ、持ち上げて落とすとは。しかし希望は見えた。


 いざ集めることが現実的に可能と言われると、心が揺れる。

 とりあえず保留だ。だいぶ傾いてるが。


 装備品はさておき、一般的な魔法と、こいつと契約して使えるようになる特殊な魔法。

 その違いについては早めに知っておく必要があるようだ。

 というか、魔法が使えるという事実そのものがロマンである。


 小目的に追加だ。

 魔法のことを知る。魔法を使えるようになる。使いこなす。

 大事なことだ。


 運動神経はこれでも割と良い方だという自負はある。

 が、向こうでうねうねしているあのグリンプルのムチですら、見てから避けるのは無理だろう。

 動きが鈍そうな植物系のモンスターですらこうなのだから、動物型だの人型だの機敏な動きをする敵からは逃げることすら出来そうにない。


 きっとオオカミだのスケルトンだのゴブリンだの、その手のモンスターには事欠かないはずだ。

 一応、いくつか特徴を挙げてみると、やっぱり普通にいるらしい。

 しかし魔法使いであれば雑魚相手には問題無く戦えるとも言われた。


「ご主人様なら強くなれますから!」

「そういう漠然とした話じゃなくてな」

「いえいえ、事実です! ええと、ご主人様に分かりやすい概念としては……いわゆるレベルアップですね! 敵を倒していくうちに、それに似たことが出来ますから!」


 違うのは魔法とモンスターの存在だけではなかったらしい。

 ますますゲームじみてきた異世界の物理法則が気になったが、よく話を聞いてみると、どうやらちゃんとした理屈も存在しているようだ。


「つまりですね、この世界に存在するモンスターは体内に経験値のようなものを持っているんです。正確にはちょっと違いますが。で、モンスターを倒した瞬間、その経験値は破裂し、周囲にまき散ります。経験値は近くにいた人間の身体に浸透し、どんどん蓄積されていきます」

「ほう」

「その経験値のような何かを一定量浴び続けていると、人体に変化が起きます。この変化の割合や頻度はひとによってまちまちですが、多くの場合、身体が頑強になったり、筋力が強くなったり、反射神経が鋭くなったり、魔力の限界値が伸びたりします。体力が増えて、疲労をしにくくなったり、頭の回転が良くなったりすることもあるようです」


 確かにレベルアップと呼称するのがぴったりな現象である。


「強いモンスターであればあるほど蓄えている経験値は多い、らしいです」

「ちなみに経験値が届く距離は」

「せいぜい、死ぬ瞬間のモンスターを中心に、十メートルくらいが限度でしょうか。それ以上離れていても多少は経験値の影響を受けるみたいですが、離れれば離れるほど得られる量は減るようです」

「障害物とかは突き抜けるのか」

「……ああなるほど! さすがご主人様! アリです! 洞窟や遺跡で、隣の部屋に閉じ込めたモンスターを壁越しに焼き殺したときどうなるか、ということですね!」


 人聞きが悪い。まあ想定していたのはそんな感じなのだが。


「普通の壁や岩、人体くらいなら突き抜けてきますから大丈夫ですよ!」

「遮断する方法はある、ってことか」

「鉛だとか、特別な素材を挟んじゃうと遮蔽されるとは言われてますね」


 遮断しないとまずい状況も存在するらしい。


「遠距離攻撃だけし続けてモンスターにとどめを刺しても、恩恵は受けられないってことか」

「そうですね。あくまである程度近くにいないと経験値は人体に蓄積されません。逆に言えば、モンスターが死ぬ瞬間に近くにいさえすれば、戦っていなくとも、ダメージを与えていなくとも、経験値を獲得することができます」


 攻撃しない回復役には嬉しい話だが、弓使いとかいたら損だな。それ。


「貴族の中には強い護衛を雇って強力なモンスターと戦わせて、パワーレベリングしてもらう者もいるようです。まあ、最低限モンスターの攻撃を避ける能力がないと……下手すれば死にますけど」

「大丈夫なのか、その経験値獲得の流れって」

「普通は順を追って強くなっていきますから。身の丈にあったモンスターと戦うことが推奨されますね」


 つまり、耐性を付けているわけだ。


「非常に強力なモンスターを大量に撃破し、その瞬間に低レベルの者が近くにいたりすると、一度に限界を超えた経験値を得てしまって汚染されることがあるようです。貧弱な身体の場合、身体能力の急激な上昇に耐えられないというのが原因と言われています。別名経験値中毒とかレベルアップ中毒と言いまして、特殊で貴重な薬品を使うことで、人体に蓄積されすぎた経験値を取り除くことで治療することになります」


 ただ、話だけ聞いているとあまり身体によいものには思えないのだが。

 遺伝子破壊とかしてないか、それ。

 メリットの多い自然な人体改造と考えれば、まあ悪くはないだろう。


「……寿命に悪影響とかは、無いんだよな」

「高いレベルの方が早死にしたとは聞きません。おおむね、長生きする傾向があるようです。冒険者ほど高レベルが多いことも考えると、戦闘の結果死亡した高レベルの数だけ平均寿命が下げられているはずなので、あからさまに寿命が延びている、と考えることも出来ます。単純に頑健になりますからね」

「ならいいか」


 レベル上げについてはなるべくした方が良さそうだ。

 戦うリスクが高い場合には経験値を捨て、遠距離攻撃に終始することで対応できるだろう。

 だいたいのイメージはつかめた。


 あとは、魔法についてだ。

 本題に入ると、こいつのテンションが最初のように跳ね上がった。


「はい! 待ってました! とうとう魔法についてですね! 一応ざっくり説明しますと、普通の魔法使いが使うものは『規格化された魔法』ですね。ええ、はい。電子レンジの考え方で正しいです。すでに出来上がっている仕組みに、魔力を通して、詠唱で設定を変えて、呪文でスイッチを押す。すると定められた結果が得られる、ということになります!」


 ここまではいい。想定そのままだ。


「一方で、魔導書と契約した場合、魔法使いはランクアップし、魔導士と呼ばれます。ひとつ格上の存在というわけですね。ヒラだった僧侶が昇格して司祭になるのと同じで、魔法使いは魔導士になることが目標とされます。というのは、魔導士は魔導書を使うことで『規格化されていない魔法』を使えるのです。使える魔法は、契約した魔導書によって様々です。一番のメリットは呪文だけで魔法が発動する点でしょう。ただしデメリットもあります。詠唱魔法が一切使えなくなってしまうのです!」


 首をかしげたところ、すぐさま補足があった。

 規格化されていない魔法が使える。また、詠唱せずに魔法が使えることがメリット。


「契約者は、魔導書を介してのみ魔法が使えます。代わりに、詠唱することで発動する一切の魔法は使えなくなってしまいます。ここまでは大丈夫ですか。ついてきてますかご主人様!」

「普通の魔法使いと同じ魔法は使えない、ってことか」


 だとすると、場合によっては致命的なデメリットになりかねない。


「若干ニュアンスが違うんですが、……ええと、詠唱魔法がレシピにある料理をそのまま作ることだとすれば、それは出来ません。でも、ワタシを介した魔法では、創作料理として可能な限りよく似た見た目、味、香りの料理を作ることは出来ます。そんな感じでしょうか。可能な限り似せるというのは、傍目には一切区別がつかないレベルにすることも可能です。ただ、その魔法を使う場合にはワタシという魔導書に先に登録してなければなりません」

「なんとなく理解したが、可能な限り分かりやすく説明してくれ」

「使いたい呪文を先に開発して、ワタシに登録しておけば、呪文を口にするだけで発動できます。ただし詠唱魔法禁止」

「なるほど。フリーで個人営業かけていたときは仕入れ先が自分で選べたが、法人化して且つ独占契約を結んだことで決められた問屋で買わなければならなくなった、って感じか。ただし出来ることの種類や規模は個人のときよりずっと大きく増えた、と」


 先に開発して、というところがミソだ。

 既存の詠唱魔法は個人使用フリーだったが、法人利用は禁止だったのだ。それをそのまま使ってはいけない代わりに、自分で使う用途のために開発なり調達なりをしておく必要がある。

 全く同じような魔法でも、中身を一から自分で開発して、その結果として似てしまったものであれば押しつけられた利用禁止には引っかからない。

 

 魔法使いから魔導士になるのは、個人から法人化すること。

 魔導書と契約するとは、互いのために魔法と関係の独占契約をすることに等しい。

 つまり窓口の一本化である。

 魔法の行使にあたっては、全部こいつを通してやってくれ。俺の代理人だから。そういう立場に置くことなのだ。


 まさしく一蓮托生。

 そう受け止めた。若干違うかもしれないが、理解できれば何でも良いのだ。


 魔法使いと魔導士の差は、物量の差と言っても良い。

 詠唱、呪文、発動の三アクションを必要とする魔法使いに対して、魔導士は魔導書に先に登録しておく必要があるとはいえ、呪文、発動の二アクションで同じような結果が出せる。

 もし敵対したら、この速度の差がどれほど大きいか。


 剣士なら剣が鞘の中にあるか、すでに抜き放っている状態か、それくらい大きな差だ。とはいえ世の中には居合いだの抜刀術だのもあるから、優位であると慢心してはならない。

 一般的な詠唱にどれだけ時間がかかるのか分からないが、すごい早口で終わらせるとか、省略するとか、魔法を使うと見せかけて石を投げてくるとかもあり得るのだ。


 ただ分からないのは、魔導書側の利点である。

 こいつは道具は使ってもらわなければ意味が無いと言っていたが、本当にそれだけだろうか。人間に道具の気持ちなど推し量れるはずもないが、使われたくない道具だって世の中にはあるかもしれない。

 気遣ったつもりはないが、俺の表情を察して、こいつは笑った。


「ワタシのご主人様は、考えすぎです! ……でも、そうですね。ワタシのためにと思うなら、大事にしてください。ワタシがワタシの役割を果たせるように、ご主人様の力となれるように、存分に使って――愛してください。そうしてくれると信じたから、ワタシはご主人様に真の主となって欲しいんです!」


 まったく。健気なことを言う魔導書だった。


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