第三十四話 『昇級のススメ』
宿で朝食を済ませ、俺はギルドハウスに出向いた。
そこで待ち構えていたのは職員は以前も見た赤毛で巨乳な女性であった。
朝八時頃で、ギルドハウスに集まっている冒険者たちの数は非常に少ない。
彼らは真面目な性分なのか、それとも早い者勝ちの狩り場行きの許可を得るためか。
「さっさとBランクに昇級しろ、ですか」
「ああ、あんたはCランクにしておく意味があんまり無いって色々突かれてね。詐欺新人だってのは聞いてたし、まああんたみたいなのを下に置いてたら他の連中の稼ぎに影響するだろ」
「……なるほど」
「見たとこ魔力の制御も出来てるようだし。いや、随分早いというか、上手いね。ラクティーナの嬢ちゃんの指導が上手くいったようだね。あの子、さすがAランクってことかね。ホークアイもあんたには期待してるって言ってたし、そりゃあ昇格させないと格好つかないねえ」
一息に語られた声は大きく、周囲の数人が怪訝そうに俺を見ていた。
聞かせるような内容ではないと思ったが、この分だと昨夜の一悶着も伝わっているかもしれない。
わざと、だろう。
軽く頭を下げると、受付の彼女は片目を瞑って笑ってみせた。
「Bランクは基本的に銀貨級を相手取ることになる……ってのは分かってるね」
「ええまあ」
「つっても、銀貨級にもピンキリあるわけだ。同じ銀貨級のくくりでも、駆け出しでも倒せる弱っちいモンスターもいれば、Aランクが苦戦するようなタチの悪いモンスターも存在する」
言われて気づいたが、こういう場合の常識は何を基準に調べるべきなのだろう。
ティナやアラウィーンとは具体的な次の仕事の約束などしなかった。
連絡先として常宿の場所は聞いたが、ギルドの受付に言付けた方が早いとも言われている。
ふむ。
まずは一人の冒険者として振る舞えるようになるのが先決か。
「ヨースケって言ったね。あんた聞いた話じゃ、田舎者だってことじゃないか。有名どころのモンスターの知識もあんまり無いって本当かい?」
「その通りです」
「ふうん」
知られている以上、見栄を張っても仕方がない。呆れられたかと思いきや、案外彼女は楽しそうに何かの台帳をめくり始めた。
しばらく唸っていたかと思うと、ぴたりと手を止めた。
「Bランクに昇級するためには、Aランクからの推薦か、冒険者ギルド指定の危険モンスターの駆除依頼で何かしらの功績があれば、ギルドが判断して認定できる。ヨースケはまあ、この両方の条件から昇級資格が有るわけだ」
「……あんまり良い話じゃなさそうな顔ですね」
「周りのやっかみがあるからね。コネとか偶然だと思われやすいんだ。普通の冒険者がBランクに昇級する場合は何かしらのギルド指定の試験を受けて、その結果に合格するかどうか。こっちの判定が大半だよ。実際には推薦されるのも実績出すのも試験よりよっぽど難しいんだけど……誰しも、自分の通った道が一番困難だと思いがちだからね」
冒険者ギルドのシステム上、ランクが上がるほど特典が増える、と思っても良いだろう。
装備品の流通や狩り場の許認可。それらを上手く調整する働きを持つ以上、ギルド側の思惑も分からなくもない。
「話の流れは読めました。やらなくてもいい試験をあえて受けろ、と」
「そ。Aランク二人の覚えめでたいあんたなら楽勝だろ? 詐欺新人」
「まあいいですけど。それで……何をすればいいんですか」
彼女は開いたままのページを指し示した。
「いわゆる採取依頼ってやつだね」
「……えー」
「これから指定する鉱石を、この袋いっぱいに拾ってきてくれればいいよ」
赤毛のお姉さんはニンマリと笑った。底意地の悪い笑みだった。
って、強敵モンスター退治とかAランク試験管と戦えとかじゃないのかよ。
俺は何か釈然としない気分を味わった。
と同時に、俺の近くで聞き耳を立てていた連中が、苦虫を噛みつぶしたような顔だったり、不愉快そうな表情だったり、何を考えているのか分からない無表情だったりしつつ、ぞろぞろと受付の彼女に詰め寄ってきた。
「アヴェイラさん! どういうことですか!」
「そうだ。採取依頼でBランクに昇級できるなんてずる……もとい、彼のためにならないだろう」
「コネですか! コネがあればギルドでも優遇されるんですか!」
「姐さん。……俺らがBランクになるまで、どれだけかかったと」
赤毛の彼女。アヴェイラと言うらしいが、受付の彼女は鼻で笑った。
「アンタたち、ピーチクパーチクうるさいねえ! そんなんだからいつまで経ってもAランクに上がれないんだよ。アンディ! あんたは文句言うよりまずモンスター倒す数を増やしな!」
「……で、でもアヴェイラさん」
「言い訳しない! 次にビリー。あんたはアンデッド系モンスターを怖がって退治のえり好みするんじゃない」
「う。しかし」
「それが無けりゃもうAランクでもおかしくないのにね」
「ちょ、それは」
「セイル。コネってのは信頼とか信用の別名だよ。ちゃんとした仕事をしてりゃあ見てくれてるひとはいる。いないなら、あんたのやり方に問題があるんだ」
「うわ、姐さんからマジ説教されちまった……」
一呼吸置いて、アヴェイラは真剣な顔をした。
「ダズ。あんたは……あの女と別れた方が良いよ。いや、これは本心からの忠告でね」
「え、Bランク云々の話なのに、どうして姐さんが俺の恋人について真顔で忠告するんだ……?」
「あ、俺も辞めた方がいいと思う。ダズには悪いが、実はあの女、三日前に住宅街の方でさ」
「聞きたくない! 聞きたくない!」
「やっぱり冒険者なんて不安定な職業だし、長期遠征で街から離れてると……」
「どおしてそんな話になるんだよおおお……」
同じパーティーというわけでもないのだろうが、全員Bランクのようだ。
その四人にアヴェイラの一言が突き刺さり、揃って表情を暗くしていた。
うち一人は床に膝から崩れ落ちて、ぐんにゃりとしながら、かすかに震えていた。
「話を戻そうぜ。でさ、姐さん」
「待て、アンディ。採取依頼というと……もしかするんじゃないか」
「え? あー」
俺を置き去りに盛り上がったり盛り下がったりしている彼らのうち、二人がアヴェイラの手元にある帳簿のページを覗き込んだ。
顔が引き攣った。
それから、軽く俺の顔に視線を向けて、哀れみのような表情を覗かせた。
へー。
ふーん。
なるほど。なんとなく分からんでもない。
「おい、これって」
「……アヴェイラさん」
「いや、本当にあんたらうるさいね。とりあえず全員その先走り癖を直しな。早いってことは決して悪いことじゃないが、早すぎる男は嫌われるよ。独りよがりな男はもっとだ」
「姐さん、それはちょいと」
「え、ああ……下ネタじゃないよ?」
「うそくせー」
というわけで、「騒がしくして悪かったな。……強く生きろよ」とビリーから告げられた。
試験内容に彼らは納得したらしく、一名は引きずられたままだが、この場から去った。
俺は首をかしげながら、アヴェイラに問いただした。
「これって危険な依頼ですよね?」
「そうだねえ」
「さっきの方々の表情からすると、Bランク昇級試験にしちゃ拙いレベルですかね?」
「そうだろうねえ」
「これって親切心ですかね。やっぱり」
「ったく。可愛げがないよ、ヨースケ」
「いや、誰でも分かりますよ」
「まあ……通常の昇級試験からするとイジメとしか思えない内容だけど、聞こえた話からすれば、あんたにはむしろ楽だろうさ。そのくらいなら勝てるんだろう?」
採取依頼で探す鉱石そのものは、どうやらさほど見つけにくいものではなく、難易度の高い試験ではないようである。
ただ、ちらりと見えた周辺に沸くモンスターに金貨級と注釈がついている。
つまりAランクが戦うようなモンスターが周囲にいる場所で鉱石を拾ってくることになる。
普通の新人相手なら、少々どころではなく荷が重いというか、死ねと言っているに等しい。
帳簿を借り受けてさらっと内容を確かめ直すと、色々と情報が記載されている。
読み込んでみた限りでは、これは元々はベテランBランク向けの依頼書らしい。
出現モンスターの特徴が簡潔に書き留めてあった。
金貨級モンスターであるメタルロック。
鉄より硬い表皮に覆われた、岩石の塊のようなモンスターであり、下手な剣では傷一つ付かず、魔法もほとんど意味を成さない。
反面、向こうの攻撃方法はその自重を使った体当たりだけだ。ゴロゴロと勢いをつけて転がりながらぶつかってくるだけの単純なもの。
しかし大きさ次第では一匹数百キロ、下手をすれば一トン近い物体であり、体当たりだろうと何だろうとぶつかれば骨は砕けるし、轢かれれば死ぬ。
一方で、冒険者が横を通り過ぎても、触られても、攻撃されたと感じなければ全く動こうとはしないらしい。
剣で切りつけられればともかく、素手で軽く叩いた程度では攻撃扱いにはならない。
何もしなくても人間と見るや襲いかかってくるモンスターが大半なのに、珍しい性質だ。
これを踏まえて考えれば、色々と分かることもある。
「ま、イヤならいいよ。Aランク二人の推薦に見合った依頼として出しただけだからね」
「注意事項はなんです」
「……おや、本当にやる気かい」
「そりゃやりますよ。鉱山の奥に金貨級モンスターは山ほどいるけど、鉱石拾いに専念して、戦闘しないで帰ってくればいい。そういう内容ですよね」
ギルドが冒険者の性質や性格、傾向を試すのに都合の良い採取依頼なのだろう。
そう考えれば、むしろ気を遣って貰ったと判断すべき事案である。
「ちょっと違う」
「え?」
俺の早とちりをクスクスと笑いながら、受付の彼女は肩をすくめた。
「戦闘は、絶対にしちゃダメって内容だよ」
「……え?」
「あんたはモンスターを倒す方法を持ってるかもしれないけど……一匹でも倒した場合は依頼失敗と見做すからね。普通ならそういう縛りはつけないんだけど今回は特別。分かったね?」
倒さなくて良い。
倒してはいけない。
結果は同じでも、この二つのあいだには大きな違いがある。
俺が眉を顰めるのを真正面に受け止めて、
「ま、試験を受けるってことでいいね。じゃあ三番の馬車に……この札を持って行きな。連れて行ってくれるから」
◇
というわけで、車窓から荒野を眺めること一時間後。
試験会場、もとい鉱石を拾うための鉱山の入り口に来た。
十数人いれば待っていてくれるそうだが、この場には俺一人だけなので、馬車は一度ギルド前に戻って別の送迎をするらしい。
まだ昼にもなっていないが、陽が落ちるまでは三時間に一回、別ルートの馬車がこのあたりを通るらしいので、それで帰るようにと言われた。
あんまり時間を掛けて夜になった場合は野宿か、徒歩で帰って来いとのことである。
切ない。
鉱山といっても洞窟風で、先日のゴブリンの巣とどこか似通った気配を感じる。
ただ、向こうは血の臭いを感じる、あまり居心地の良くない風の通りの悪い空間だったが、こちらは別の意味で好ましくない。
空気が悪いのだ。
そもそも空気の良い鉱山などない、と言われればその通りなのだが。
持ってくるように指定された鉱石の名前はカスレル。
ミスリルではなく、カスレル鉱石である。
赤茶けた色合いながら、ミスリルっぽい艶のある鉱石であり、精錬すれば鉄より丈夫になるのだが、かなり重い。
下手に筋力のない冒険者がこれで作った鎧や武器を身につけると、その場から動けなくなったり、一人で脱ぐこともできないことがあるとか。
鉱山である以上、鉱夫がいるはずと思ったのだが、それもいないらしい。
掘り出す必要すらないのは、中にいる金貨級モンスターのおかげだという。
丸い玉のようなカスレル鉱石は地面に点在しているから、上手いこと奥の方に転がっているそれを拾い集めてくればよい。
ツルハシもいらないのだから、ほとんど遠足気分である。
「で、ご主人様! 魔力操作はいかがですか!」
「ああ、上手くやれてるな」
歩きながら、このあいだの失敗を糧に、魔力を巡らせるだけに留めておく。
溜めて、あのときのようにひたすら圧縮した場合、使わないことにはどうにもならないのだ。
もちろん、その辺の壁に向けて《氷狂矢》でも撃てば良いだけではある。
しかし、無駄に魔力を溜めて、無駄に撃つのは、よく考えなくてもあほらしい。
というわけで適度に散らしつつ、効率化だけ考えて魔力の動きを意識する。
「さすがご主人様、もう名実共に魔導士と名乗っても大丈夫ですね!」
「んー」
「ご主人様は少しばかり心配性すぎます! もっとワガママに動いても大丈夫です!」
「それをスピカが言うか」
「……てへ」
実際問題として、やあやあ我こそは魔導士でござい、とやるのは実に難しかった。
現在、格好としては魔法使いスタイルのままで、見せ杖はすぐ取り出せる場所にある。
片手で借りたカンテラを手に、前方に向けて光で照らしている。
ローブの中のもう片方の手でスピカを握りしめている。
外からでは分からないだろう。
実情というのは、切っ掛けもなく、大々的に宣言するようなものではないのだ。
先日魔導士であることが露見した相手、あのティナやアラウィーンの反応が標準とは思えない。
しかしいくらかコネも出来たし、絶対隠さなければならない状態でもなさそうだった。
積極的にバラす必要は無いが、知られたらそのときはそのときで。
とりあえず人目があるときは、普通の魔法使いのように振る舞おう。
こんな中途半端な状態と気分なのである。
気兼ねなくスピカと喋りながら、ようやく普通の冒険者らしい活動が始まった。
ついに、普通の流れが来たのだ。
なんだかよく分からないまま怒濤のようにあれこれ起きる日々とはさよならだ。
さらば波乱。
こんにちは平穏。
見た感じ、鉱山内に他の冒険者の姿はない。
金貨級モンスターを退治して稼ごうとする連中がいるかもしれないとは思ったが、アヴェイラが何も言わなかったのだから、その心配はなかったのかもしれない。
というわけでサクサク進んで行く。
入り口付近からしばらく、モンスターの姿は一切見当たらなかった。
◇
何か起きると思ったが、しかし、何も起きていない。
おかしい。
何も無い、と思ったときが一番危ないはずなのだが。
ごくごく普通に、順調に奥へ奥へと進んでいる。
話通りならそろそろモンスターが出てくる頃合いだろう。
鉱石が転がっている場所と、モンスターが彷徨っている区画はほぼ重なっているとのことだ。
「ところでご主人様、先ほど仰ってたようにモンスターは全部無視しますか?」
「まあ、状況的にも無理に戦う必要は無いし、戦うなと釘を刺されたしな」
「現状、金銭的に困っているわけではありませんものね」
「今回は……Aランクのティナや緊急性抜きで普通の依頼の空気が知りたいってのが主目的だ。なぜか昇級試験も重なったが、これはこの際気にしないでおこう。CランクがBに上がるだけならデメリットは無いらしいし」
赤毛のアヴェイラの独断か、それともギルドの幹部なり上層部の判断なのかは分からないが、とにかく俺にとってはありがたかった。
いくら推薦があっても、Bランクに上がるのに早すぎるという声はあるのだ。
俺もそう思う。別にそこまで急ぐ必要もなかったのだし。
ともあれ、きつい試験を突破したから、というのは誰にとっても言い訳になる。
Bランクに上がると、買える装備品や施設その他に特典がつき、受けられるサービスに依頼、狩り場の幅などが広がるらしい。
登録しただけのCランクとは違い、Bランクになってようやく、ギルドにとって取引相手となる「冒険者」として扱われる、とはティナからの受け売りだ。
「身の危険がない限りは、言われたとおりに戦うのは無しだな。ま、派手にやりすぎて、あんまり目を付けられるのもどうかと思うし」
「ご主人様っ」
「なんだ」
「もう手遅れだと思いますっ!」
「明るく言うなよ……」
何かこう、スピカの言葉から遠慮が無くなったというか、容赦が無くなったというか。
「あ、ご主人様、前方が少し光りました! あれかもしれませんね!」
「……そうだな」
「あれ、ご主人様。なぜかお声が暗いよーな」
「モンスター……名前はメタルロックだったか。……すごいな、これ」
カンテラを掲げ、光源を高くする。
みっちりと、びっしりと、メタルロックが所狭しとひしめいている。
こう、イメージとしては満員電車の中だ。
狭い空間の中、ぎゅうぎゅう詰めになっているのが人間ではなくて黒光りする丸っこい岩型のモンスターであり、耳を澄ましてみるとぎちぎちと身動きが取れないような、岩肌とか鉄が強い力でこすれ合うような、そうした耳障りな音を発している。
通路を抜けた先、前方の少し広いはずの空間に、メタルロックがぎっしりと満ちていた。
その空間は、今まで俺たちが歩いてきた通路から一メートルほど低く、段差が出来ている。
プールのようなものだ。
トラップであれば水や酸などで満ちていてもおかしくない作りである。
しかし、現実にあるのは液体ではなく、大量のメタルロック。
メタルロック一匹は一メートル四方くらいの大きさだが、……群れというか、これはなんと呼べばいいのかよく分からないが、とにかく隙間無く敷き詰められた鈍色の岩塊の絨毯があり、光を向けた途端にその無数のメタルロックの各一つしかない巨大な瞳が、すべて一斉に俺を見てくる。
ぎょろりと。
空間の広さから逆算すると、約九十匹近いメタルロックがギチギチと蠢いている。
襲いかかってくるわけではないが、見ているだけで実に気持ち悪い。
動けるだけの隙間があれば、ゴロゴロとこっちに転がってきたのかもしれない。
一メートルの石だか鉄だか分からない塊が転がってきてぶつかったら、普通は致命傷だ。
そう考えると、ここまで前後左右が埋まって動けないメタルロックは全く怖くない。
怖くない、はずなのだが。
メタルロックは、こっちから手を出さなければ危険ではない。
性質も分かっていれば恐れる必要は無い。
しかし、詳細を知っていなくて、なおかつ見て動揺してたら、咄嗟に手が出るかも知れない。
その場合、このメタルロック軍団が一斉に転がってくるわけだ。
分かっていても心臓に悪い。
「……なんだこれ」
「なんでしょーね……ああご主人様っ、お気を確かにっ。そんな遠い目をされて!」
「いや、待て。鉱石はどこだ。まさか」
「……この下から探す、とかですかね……ああ、先に道が続いてます。良かった」
無視して通り過ぎる、というのはこの場合。
このメタルロックの上を踏みつけながら歩いて先に進むことになるのだろうか。
この様子では、上に乗っかる程度では攻撃扱いにならないだろう、と推測された。
俺とスピカは強いとか弱いとかではなく、もっと恐ろしいものを見た気がした。
なんだこれ。
魔法に強いという話だし、量が量だ。
この場合、《氷狂矢》だと全部は倒しきれない気がする。
全力で《不諦炎》を使えば倒せるだろうが、そこまでする必要は無いと分かっている。
なお、我慢してメタルロックを乗り越えていった先には普通に鉱石が落ちていた。
さっさと拾い集めて袋をいっぱいにしたあと、俺たちは無言で引き返した。
帰りもメタルロックの上を歩いて、踏みつけて、目玉にぎょろりと見られながら。
◇
俺は冒険者ギルドに戻ってきて、集めた鉱石を収めた。
戦闘は一度もなかった。肉体的には無傷である。
「ヨースケ。初めての採取依頼だけど……どうだったんだい」
「良い経験になりましたよ」
「で、本音は?」
「……疲れた」
「おや、多少は可愛げがあるじゃないか。ま、あれで我慢出来ないようだと先が大変だからねえ。試験としては案外良くできてるだろ」
頷くしかない。言われた通りに動けば簡単だが、それをするために気苦労が多い。
気ままにモンスターを倒して荒稼ぎしてこい、と言わないのは昇級の篩いだからだ。
「戦った場合、どうなってたんだ?」
「分かるだろ? 一匹でも敵対したら全部が襲いかかってくるんだ。あの鉱山の中にいるあいだずっと狙われる。鉱石採取どころじゃなくなるよ。まあ、全部一度に倒すって手もあるし、あんたなら出来たかもしれないけど……」
その言葉に、俺は肩をすくめた。
「採取依頼ってのは色々面倒なのが多いんだ。やれ葉っぱに傷つけるなだの、夜中の一瞬だけ咲いた花を決められた手順で摘んでこいだの、岩みたいなモンスターが吐き出した鉱石を拾ってこいだの……、まあ色々だよ。そういう手間がかかるけど、必要なやり方が守れないなら、そいつには頼めないからね」
ケラケラ笑うアヴェイラに、俺は肩をすくめた。
依頼達成の報酬として銀貨五枚を受け取り、俺はBランクに上がった。




