2056年2月14日 そして世界は朝日に満ちる
「……よしっ」
手作りじゃ、さすがに引かれるかなと思って買ったのは、少し高い店に寄って手に入れたチョコレート。
鞄の中に入れて、少し早めに僕は学校へと家を飛び出した。
「行ってきますっお父さん、お母さんっ」
「はぁい行ってらっしゃいっ」
「ちゃんと勉強してくるんだぞ」
父と母は笑顔で僕を見送った。
いつもと変わらない、日常の風景だった。
僕は玄関を飛び出し、まだ太陽の昇りかけた朝の七時にあの坂道を走っていく。
寝不足のぎこちない顔は、二人に見せられなかった。
キリッとしっかりとした顔を、彼女に見せたかった。
ふと、坂道を降りて行きながら街を見下ろせば、朝焼けが海の方から昇ってきて、街を紅く染めていった。
灰色に染まっていた家の屋根は、光を浴びて様々に色を帯びる。
広がる海は太陽の光に赤い絨毯を引き、空は茜色に染まっていく。
木々は海の風にざわざわと揺れ、遠くで犬の鳴き声が聞こえて、朝がやってくるのを告げる。
―――2056年2月14日。
夜明けがやってくる。
注ぎ込まれる日差しに、胸の中の期待が膨らむ。
僕は冷たい空気を吸い込み、昇る朝日を全身に浴びながら、少しだけ顔を強張らせる。
(……彼女に告白しよう)
好きだって。
手を繋いで、一緒に同じ空を見ていたいって。
僕は昇る太陽を横目に、また坂道を下りていく。
彼女より先に、下駄箱に手紙を入れよう。それから―――彼女に会って、それから。
そう考えながら、顔がみるみる真っ赤になって、息ができないくらいに胸がドクドクいって苦しかった。