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視線を交わし嘘を重ねて

『……ここらへんだな』


 ―――遠くに見えるは、スポットライトに照らされた巨大なドーム状の白い施設。


 あちこちに聳え立つ煙突からは、煙ではなくうっすらと白い光の粒子が噴き上がり、警報が暗闇の中に絶え間なく響く場所。


 そこから遠く、三キロ程離れた廃虚の屋上。四機の黒装甲の巨人、オルフェトが四つの廃ビルの屋上に立ち、足もとのコンクリートに固定用のアンカーを打ちこんでいた。


 肩には巨大な筒が二本。両腕にはコンポーネントが付いた大型ジェネレーターが装備。


『大丈夫?いないピーター?』


『いない……行けるよ』


『よしっ、じゃあ皆準備。ピーターは索敵行動続けて』


『うん……』


 三機のオルフェトは肩に装備した二本のバレルを外し、残りの一機は周囲を警戒する。


 そして巨大なバレルを連結し、出来上がったのは、約全長十メートル超のパワードスーツを優に超える巨大砲台。それら三つの砲塔が、白いドーム状の施設に向けられ、バレルの底部から三本脚の脚立が迫り出す。


 そして隣のビルの屋上に脚立が突き刺さり、三機のオルフェトがグリップとトリガーを抱えたままその場に膝をつき、固定用のアンカーが膝から迫り出す中、アイサイトの向こうに巨大な施設を捉える。


『ジェネレーター直結』


『了解。……ピーター、本隊は?』


『信じろよ。皆うまくやる。これで戦いに一歩前に進める。隊長を信じるんだ』


 胸元の装甲が開き、剥き出しになる連結部


 アンカーが計四基地面に刺さる中、砲台のストック部分と胸元のコンポーネントが連結し、砲塔の先端に光が灯る。


『エネルギーを装填―――約五秒後に一斉射を行う』


『カウントダウン開始』


 ―――シュゥウウウウッ


 装甲の隙間から光の粒子が噴き上がり、ソレと共に砲塔の先から零れる光が膨れ上がっていく。


 そして今にも破裂せんばかりに、光の奔流がバレルの内側で暴れる。


『三、二、一―――』


 回転し始める十メートル超のバレル。


 ドーム状の施設を捉えながらガタガタとバレルが上下に揺れ、排莢口から光の粒子が止まることなく噴きだす。


 バレルの回転がさらに早くなり、加速に先端から光の塊が顔を出す。


 トリガーに指を添え、モニターの向こうにドームを捉える――


『ミハイル!』


『ゴルドチーム、敵施設を攻撃する!』


 ―――夜に沈んだ街を真っ直ぐに抉る光の刃。


 三つの光の柱は一つにまとまり、ビルの廃虚を一瞬で灰に融かし、三キロ先の一直線にドームを貫いた。


 追随するようにソニックブームが立ち上り、土煙と共に周囲のビルを吹き飛ばしドームの装甲をめくり上げる。


 そして光の奔流はその射線を太くしながら、内側まで紅く融かしていく。


『破壊を……確認っ』


 ―――ドームの装甲を破り、反対側から噴きだす紅い爆炎。


 太い光の道が一直線にドームを貫き、ぽっかりと刳り貫かれた施設の前後の壁から大きな爆発が立て続きに起きた。


 崩れていくドーム状の施設。


 爆音は遅れて、四機のオルフェトの下に届き、ビルの合間に反響すると共に、ひと際大きな爆発が起きて、ドーム状の施設が内側からはじけ飛んでキノコ雲が登った。


 そして崩れる建物と巨大な爆発に、衝撃波が土煙を巻き上げながら、津波の如く噴き上がり、周囲の廃虚に広がり飲み込み始める。


『退避するぞ皆!』


 コンポーネントから外れる巨大な砲塔。


 立ち上がるままに固定用アンカーが収納され、三機のオルフェトは廃ビルから降り立つと、土煙の津波に背に、本隊に向かって、土煙を上げ走り始めた。


 背後では、大きな衝撃波の壁が迫り、次々と倒れていく廃ビルの群れ。


 いくつもビルを押し倒し、砂塵を巻き上げながら、爆風が四機のオルフェトを撒きこまんと迫り、モニターに砂塵に呑まれた灰色の景色が映り始める。


 ガタガタと走行しながら、逆巻く風の中に機体が前後左右に揺さぶられる。


『ピーター!』


『もう少し!』


 そして過ぎ去っていく砂塵の大嵐の渦。


 晴れていくモニターの向こう、弱々しいマズルフラッシュが闇を裂くクレーター状の更地が見え、その奥に、オルフェトが集まる友軍機の姿がモニター越しに近づいてくる。


『ゴルドチーム、報告を』


 通信に響くのは、ライフルの重たい発砲音と共に、一人の落ち付いた男の声だった。


 ガングレド・ハイエク。


 獣人反乱軍の副官であり、総大将であるユウ・アトラの右腕としてのポジションを持つ優秀な獣人だった。


 四人はホッと通信機にため息を零し、そのガングレドに告げる。


『ゴルドチーム、作戦完遂しました……』


『ねぇねぇ見たガングレドさんっ、僕らやったよッ!』


『イエエエエイッ、最高っ!』


 本体に混ざる四機の黒いオルフェト。


 その言葉に、通信機越しのガングレドの声に、同じくホッとしたような声色が混ざる


『よくやった――全機に通達。これから撤退行動に移る、各員弾幕を張りつつ後退、ポイントSに集まれ』


 土煙の中に弾けるマズルフラッシュ。


 送電施設を失い、街全体を照らすスポットライトが次々と途切れ、深い宵闇が廃虚の街に広がり始めた。


 弾幕を張りながら、計四十機の黒きオルフェトが撤退を開始する。


 ソレと同じくして、日本連邦軍のエルザもまた、破壊された送電施設の方向へと下がっていき、広大な更地に響く銃撃音が小さくなっていく。


『……隊長……貴方も早く』


 そして、宵闇の中、ビルの間を潜り、黒いオルフェトの群れが下がっていき、再び廃虚のメグロに静寂が広がる。


 聞こえてくるのは、砂塵が風に巻かれて傾いたビルの窓を撫でる音。


 そして割れたアスファルトの下、地下から響く発砲音とキャタピラの走行音。


 地下の巨大な迷路の中、戦う二人がいた―――










 

『―――ユウゥウウウ!』


 線路の鉄が悲鳴を上げて火花を散らし、キャタピラで地面を擦りながら、残った四機が絡み合う地下道を走る。


 手に持っているのはビル一つを貫ける程に巨大な銃口の実弾ライフル。


 照準に捉えるのは、暗闇を走る銀色の狼。


 宙を舞う空薬莢が装甲を叩き、激しいマズルフラッシュが光一つない暗闇に閃光を放ち地下道の壁に巨人の影を映す。


 細めた紅い瞳を掠めるコンクリートの破片。


 弾丸の衝撃が地面を抉り、土煙が舞い上がるままに、視界を遮り、脚がもつれそうになり、狼は走りながら地面に片手をつく。


 そして膝をつくままに、滑るように身体を屈めたまま後ろを振り返り、手に持った二丁をかざす。


 その向こうに、近づいてくる六メートル強の巨人、エルザを睨む――


「アクスファラ―――アトラシア……!」


 ―――大きく後ろに下がるチェンバー。


 ドォオオンッ


 小さなマズルフラッシュとは対照的に、地下鉄に迸る重たい銃撃音。


 先端のブレーキから噴き上がるのは硝煙ではなく、白い光の粒。


 小さな弾丸は光の尾を引き真っ直ぐに巨人の装甲にめり込み、肩の装甲を関節ごと抉り、腕部分を持っていった。


 それが二つ―――両腕が一瞬で吹き飛び、機体と共に地面に大きくバウンドする。


 そして倒れるエルザをよそに、三機のパワードスーツが、立ちあがる銀の狼男を追いかけキャタピラを走らせる。


 オオカミは小さく息を吸い込むままに、長い尻尾を翻し踵を返し走り出す――


『逃げるなぁあああ!』


「―――タクト……」


 ドドドドドッ


 一発あたれば身体ごと吹き飛ぶ程の巨大な弾丸がすぐ傍を掠め、足元の地面を大きく抉る。


 すぐ足元から噴き上がる粉塵。


 衝撃に大きく体が浮き、天井へと身体が叩きつけられる―――


「……よっと」


 スッと天井に吸いつく脚。


 逆さに身体を傾けるままに、コウモリのように銀の狼は眼下を走る白いパワードスーツめがけて銃口を一つ向ける。


 トリガーを引き絞り、宙を舞う薬莢が天井を擦る――


 ―――迸る白い光の粒。


 内臓が潰れそうなほどに重たい爆音が地下鉄に響き渡り、小さな弾は光を放ちながらエルザの頭部を吸い込まれる。


 そして重しを乗せられた饅頭のように機体が上から押し潰され、眼下に小さなクレーターが出来上がった。


 スッと天井から離れる脚。


 重力に引っ張られ逆さに落下しながら、背中を掠める弾幕に振り返り、狼は二丁の拳銃の通路の暗闇に向ける。


 こちらに銃口を向ける二機の影に紅い目を細める――


「アクスファラ―――アトラシア……!」


 ―――トリガーを引き絞れば、迸る粒子の煙幕。


 勢いをつけ、光の粒が尾を引き、小さなマグナム弾が一機のエルザの胸部を一瞬で円形に刳り貫いた。


 そして同時に、もう一機のエルザの腕部関節を抉る。


 そして弾丸を追いかけ、地面を撫でる衝撃波。


 胸部を撃ち抜かれたエルザは分厚い風の津波に耐えられず、地下道を後方に転がり、もう一機は抉れた断面を押さえながら衝撃波によろめき壁に躯体を打ち付ける。


 ガシャンッと壁に打ち付けられながら大きく上下する頭部。


 アイサイトに接触障害が起き、ヘッドマウントモニターに雑音と磁気嵐が交互に走り、サーモグラフィックが途切れる。


 そしてどこまでも深く広がる暗闇が眼前に広がる―――


『クソ……動けよぉおお!』


「……今回は、俺の勝ちだな」


黒いスーツのベルトに捩じりこむ二丁の拳銃。


 音を立てず線路へと降り立ち、地下鉄の奥から噴きこむ風に尻尾を靡かせるままに、狼は悠然と地面を蹴った。


 優しく細める紅い双眸。


 火花を散らし壁にめり込む一機のエルザの足元で脚を止め、狼はガコンと鈍い音を立てて折れる頭部を見上げる。

 そして首元のハッチから這い出す人影を、暗闇の中に捉える。


 懐かしさに口の端に笑みを滲ませる――


「……よぉ」


「―――ユウ……!」


 ヨロヨロともたげる短いバレル。


 歪んだ首のハッチから這い出すままに、小型の拳銃を突き出すと、同じくスーツ姿の男は銀の狼男を睨みつけた。


 顔にハッキリと浮かぶ深い傷痕。


 左腕は義手の様相を呈し、右手で拳銃を握りしめながら男は顔をしかめ肩の装甲の上に立つ。


「久しぶりに、顔を合わせたのに、嫌な顔をする……」


 ―――頭部を狙う正確な射撃。


 短い射撃音を響かせ、弾丸が男の銃から飛び出しては、スッと額にかざした狼男の手の平に吸い込まれた。


 コロリ……


 下ろした手の平から潰れた弾丸が零れて、爪を撫でる――


「―――化け物が……なんでお前が生きてるんだよ……」


 ペタンと垂れる尖った耳。


 銀の狼男は言葉を発することなく困ったように肩をすぼめては、男は更にその顔を真っ赤にする。


「バカにして……あれから、俺がどれだけ大変だったと……!」


「―――俺もさ」


「……人間やめた奴が言うセリフかよぉおおおお!」


「……俺もそう思う」


 壁にめり込んだエルザから離れる人影。


 困ったように狼は鼻先を爪で引っ掻くと、崩れ落ちた機体の装甲を伝い駆けこんでくる男に苦い面持ちでそう告げた。


 ゴツリッ


 鼻先に押し付けられる拳銃の銃口。


 目を血走らせ、息も荒く、鼻血が垂れて口の端から歯ぎしりと共に血が滲み、顔はそのくせ蒼白だった。


「……死ねよ」


「――いやだ」


「美沙は……美沙は死んだんだぞ……!」


 肩を震わせ、男は血を吐き吠える。


 その姿は『人』でありながら、まるで獣の如く―――


「あの日……殺された……お前に殺されたんだ!」


「……違う」


「なのに、なんでお前だけ生きてるんだよぉおおおおお!」


「タクト……」


「答えろよぉおおおおおおお!」


 グッとトリガーが引き絞られる―――


 ―――フワリと風に揺らめく長い尻尾。


 パァンッ


 小さなマズルフラッシュと共に銃撃音が暗闇に響く。


 爪を食い込ませ、強く握りしめる拳銃のバレル。


 狼男は男の銃口を天井へと逸らすと、ハッと紅い瞳を見開くままに地下道の風が吹き込んでくる方向へと目を向けた。


「―――タクト……俺はお前が憎い」


「なんで……なんで俺を置いてそんな姿になったんだよぉ!」


「……。殺してほしいなら、堂々と来い。俺はお前を待っている」


「ユウぅううう!」


「……望むのなら、今にも殺してやりたいが……美沙は望まない」


 グルルルゥ……


 喉から零れる唸り声。


 拳銃を掴む狼の手を振りほどこうと身体をよじる男を払い飛ばすと、銀の狼男は地下道の深い暗闇に向きあった。


 そして天井を見上げ、目を細める―――


 ―――天井を走る重たい衝撃。


 瓦礫となって崩れ落ちる天井。土煙が立ち込めて視界を塞ぐ中、夜空が頭上に浮かび狼はスゥと紅く澄んだ瞳を細めた。


 暗闇はどこまでも広がり、夜空を照らすライトすら見えず、火蓋を切る音も聞こえず、ただ風の音が静かに廃虚に残響する。


 静けさだけが街に広がり、硝煙の匂いを乗せて風が戦いの終わりを告げる。


「俺の勝ちだ……」


 地下道に響く、激しいキャタピラの走行音


 晴れていく土煙の向こう、ぽっかりと空いた天井から、黒き装甲を闇に映し、オルフェトが顔を出した。


 その瞳は蒼く、立ちつくす銀の狼へと手を伸ばしては、マイクに声を乗せる。


『隊長!早く!』


「ガングレド……」


 小さく零れるため息。


 顔をしかめるままに、銀の狼は気だるそうに視線を落とすと、長い尻尾を翻すままに後ろを振り返った。


 そこには暗闇の奥、肩を押さえ蹲る男の影が紅い瞳に映った。


「……行くよ」


「―――なんで、死のうとしない」


「まだ死ねない……皆の為に」


 呟く声は小さく―――困ったように尖った耳を垂らすと、狼は顔を上げ再び天井の大穴から腕を伸ばす黒い装甲の巨人を見上げた。


『ユウ隊長!』


「すまない、遅れた」


『撤退命令は既に出しました。アストライアに戻りましょう』


「ああ」


『急がないと、説教をする時間がなくなります。早くッ』


「……あいよ」


 ヒュンッ


 耳元を掠める弾丸。


 怖々と肩をすぼめるままに、銀の狼は後ろを振り返ると、よろよろと立ちあがる男の影を横目に囁いた。


「……じゃあな。兄弟」


「逃げるなよ……逃げるなよぉおおおおおおお!」


「―――いや」


 うっすらと口の端に滲む笑み。


 地面を蹴りあげ、狼は天井の大穴から再び地上の暗闇へと飛び去って行った。


 その姿を見上げ、男は弾倉が空になるまで拳銃を撃ち続けていた。


「ユウぅううううううううううう!逃げるなぁああああ!」


 目を血走らせ、顔は獣のごとく歪めながら―――






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