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第一次メグロ送電施設攻略戦線:後篇

つづき

 

 戦い続ける仲間を横目に、風を切り翻す長い銀髪。


 周囲のビルの屋上へと飛び上がる黒い巨躯。


 激しい銃撃が響く戦場を背に飛び上がる黒い巨人は、廃虚群を伝い、宵闇の中を潜るように前かがみに駆けていく。


 夜風を切り紅い目を暗闇に光らせ、弧を描いてビルから飛び降りる――


『ミア、このあたりか』


 地響きを上げ、片膝を立て地面に降り立つ黒きオルフェト。


 長い後ろ髪を靡かせながら、しなる膝を動かし立ち上がると、狼男は首を動かし周囲を見渡した。


『ここだよ、ランデブーポイントもここに設定したよ』


『ありがとう』


 地響きが収まり、静まり返る夜の街。


 廃虚の街を流れていく風。


 土煙が晴れ、周囲のビルの窓から顔を覗かせた異人の骸がモニターに映る。


 グシャリ……


 地面に転がる無数の死体を踏みしめ、ゆっくりとユウのオルフェトはビルの壁に腕を這わせ路地を歩く。


 だが敵の姿は見えなかった。


 崩れかけたビルが斜めに折り重なりながら、眼前の視界を遮るのみ。


 カラン……


 傾いたビルの窓から剥がれたガラス片が装甲を撫でる。


 地面を押し込む巨人の足音が静かにビルの間を反響し、冷たい風が黒い装甲を撫であげていく。


『……そこか』


 ―――ヒクリと尖る耳。


 遠くから聞こえる、キャタピラが地面を擦る音。


 鼻筋を掠めるは、金属の擦れる独特の匂い。


 来る―――


『隊長、今つき――』


『―――アリシア、ユン下がれ!ミナト行くぞ!』


『了解!』


『出力調整―――パルスバスター』


 後方のビルから飛び込んでくる中距離装備のオルフェトを背に、紅き瞳のオルフェトは地面に大きく足を踏み込んだ。


 脚部の装甲が展開し、四本のステークが微振動を上げてアスファルトに突き刺さる。


『―――始動』


 足元から噴き上がる土煙。


 ソレと共に、地面が大きく崩れ落ち、紅き瞳のオルフェトは地崩れに吸い込まれるよううに土煙の中へと潜った。


 ソレと共に後ろからついてきていたアサルトライフル装備のオルフェトが土煙へ飛び込み、極長のバレルを備えた対装甲ライフルを担ぎ二機のオルフェトが続いていく。


 そこは更に深い暗闇。入り組んだ道は蛇の如く、縦横無尽にメグロの地下を走り、立体状に入り組んだ暗闇は正に迷路だった


 東京地下メトロエリア。


 地下一キロに及ぶまでに広がった地下鉄道へと、紅き瞳のオルフェトは降り立つ。


 ―――暗闇に迸る激しい閃光。


 刹那、天井から地下道へと土煙を晴らし、いくつも弾丸が小さな雨をとなって、地下鉄道を走った。


 クワッと見開く紅い瞳。


 身じろぎひとつで弾丸をよけるままに、四機のオルフェトは背後から飛んでくる硝煙の匂いに身体を屈め、細長く入り組む鉄道の向こう、暗闇の中銃撃を行うエルザを捉える。


 数は四機。


 圧倒できる―――


『突っ込む―――ユン、アリシア。頼むぞ』


『了解、エンゲージ』


 ―――左腕から迫り出す鋭いブレード。


 弾丸に目を細めながら、紅き瞳のオルフェトは脚部の補助スラスターに火を灯し、ゆっくりと身体を屈める。


 飛び出さんと、黒い装甲を震わせる――


『ミナト、俺のケツを持て、行くぞッ』


『張りきって行きましょうか隊長!』


 ―――闇に走る紅い残光。


 装甲の隙間から噴き上がる光の粒子。


 屈む姿はまるで狩りをする夜の獣の如く――紅き瞳のオルフェトは光を放ちながら地面を蹴り飛び出した。


 何百メートルとある距離は一秒の壁を越え、縮まる。


 後ずさる暇すらなく、四機のエルザの目の前に、紅き瞳の巨人が、大きくブレードで虚空を薙ぎ払う姿が見える。


『遅い……!』


 二機の機体の表面に一文字に斬った痕が浮かび、そして火花すら上げず滑らかな断面を覗かせる。


 機影が真一文字に分かれて、崩れ落ちていく―――


『ユン!』


 二つの爆発に、光が地下道へと広がり、壁に映る黒い巨人の影。


 後ずさる三機を追いかけ、紅い瞳のオルフェトの背中から飛んで来る弾丸。


 片膝を折り、銃座を立てて放つ二発の徹甲弾は頭部を丸ごと粉々にして、衝撃に二機のエルザを吹き飛ばした。


 暗闇の中バウンドする二機のパワードスーツに追随し、闇に尾を引く紅い瞳。


 闇に飛び散る火花。


 その二機の胸部に喰らいつく獣の如く、飛び出した紅き瞳のオルフェトは、突き出した内蔵ブレードを突き刺し、二つの躯体を引き裂いた。


 そして、ぽっかりと二つの機体の胸元に穿たれた斬痕。


 連鎖的に噴き上がる爆炎。


 炎の匂いに鼻をひくつかせ、獣の如くしなやかに飛び退くままに、背を向け立つ紅い瞳の巨人の背後に、爆発が起きる。


 爆風に長い銀髪を靡かせ、その黒き影が壁に浮かぶ―――


『――良い腕だミナト、ハルカ……ユンもいいサポートだ。』


『一匹残してくださいよ……』


『遅いお前が悪い』


『ひどい隊長。これが俺らのトップとか……』


『いやか?』


 スゥと細める紅い双眸。


 左腕に内蔵ブレードが装甲に収納され、屈めていた身体がゆっくりと起き上がり、紅い瞳のオルフェトは三機の友軍機を見つめる。


 全機の生存を確認する―――


『うんにゃ。最高ですよ』


『ありがとう。……ミア、奴らのルートはどこからだ?』


 シュゥウウウ……


 装甲の隙間、或いは関節から零れる蒼い光の粒子。


 長い銀髪の後立を翻し、紅い瞳の残光を引き、オルフェトは入り組んだ周囲を見渡し、線路を踏みしめる。


『―――ん。解析完了。そっちEルートから来ているよ。地図をこっちで出すから』


『いや。こっちから送電施設には入らん。ゴルドチームがやってくれるだろうし、こっちは挟撃が入らないように見張る。


 他に挟撃の入りそうなところは?』


『―――いくつかありそうだけど、今のところどこも反応はないね』


『ポイントを提示してくれ。マンツーマンでオルフェトを向かわせる』


『本気でメグロを落とすの?』


『不利な戦いは今に始まったことじゃない』


 地下鉄エリアから撤退を始める三機のオルフェトに続き、紅い瞳のオルフェトは地面を蹴りあげ、地上から入ってきた天井の穴へと戻ろうとする。


 銀髪の後立を引き、その場を去ろうとする―――


 ―――フワリ……


 銀色の後ろ髪が、舞い上がり、肩装甲を撫でる。


『!』


 反射的に迫り出す左腕内蔵ブレード。


 立ち止まった紅い瞳のオルフェトはそのまま後ろを振り返るままに、グッと身体を屈め暗闇に向き合った。


『風が来た……』


『隊長?どういう―――』


 そして入り組んだ線路の向こう、蛇の如く大地の食い破る迷路の奥を覗く。


 生温かい風に目を細める―――


『地下鉄に乗ったことぐらい、お前にもあるだろうユン』


 ――暗闇を再び破る激しい閃光。


『来るぞ!』


 風を切り、巨大な槍のような弾丸が、アリシアのオルフェトの腕部を持っていた対装甲ライフルごと根こそぎ持っていった。


『キャアアッ!』


 吹き飛び地面にバウンドして転がるアリシアのオルフェト。


 ユンのオルフェトは後ずさるままに、闇の向こうから攻撃してくる敵の気配に後ずさりつつ、狙撃銃を構えた。


『クッ……いい数してるぅ!』


 だが矢次に降り注ぐ弾丸の中、照準はブれ、弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。


 それでも、立ち上がるアリシア機をミナト機と共に庇いつつ、銃口を迷路の暗闇に向けトリガーを引き絞る。


『隊長……!』


『アリシア、どうだ!』


『くぅ……腕……痛い、かも……』


『引くぞ!ステルスエフェクト起動する!』


 右腕の内蔵機関砲を放ちながら、紅き瞳のオルフェトの黒い装甲が一斉に花びらを開くように開いた。


 そして開いた装甲の隙間から光の粒が噴き上がり、闇をうっすらと照らすままに四機の機影を光の中に溶かしていく。


 そして光の膜は膨れ上がるままに、四機の姿を完全に消し去り、やがて収縮する。


 スゥと小さくなり、やがて粒子が消えてなくなる頃には、オルフェトの姿は闇の中に沈んで消えた。


 それでもマズルフラッシュで闇を照らし、銃撃は止むことなく暗闇の中、四機のオルフェトがいた場所へと十機のエルザは弾幕を浴びせかける。


『……ユウ……てめぇ……』


 銃撃と暗闇の中、呻くような声が闇に響いた。


『逃がさない……逃がさないぞ、絶対にだ』


 それは獣のような『人』の声だった。






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