終末世界と夕焼けソラ
十年前、この世界の片隅で異常な出来事が起きた。
ある日。突然、何の前触れも前兆も、科学的予見も起こる余地もなく。
人が、水風船のように膨らみ、そして弾けた。
街の真ん中で鮮血が人々に振りかかり、やがて騒動が東京の街の片隅で起きた。
ただそれは、一時的な猟奇的な殺人事件だと思われた。
だけど、半年後、同じことが起きた。
渋谷のど真ん中。
人が大勢行き交う、街の中心で三十の人間が場所を違えて破裂すると言う事が起きた。
ただこれはここで終わらなかった。
その後、その人達が、人の姿をやめ、異形の化け物へと姿を変えた。
それが、最初の『異人』だった。
壮絶なものだ――もげた首の断面から無数の触手がイソギンチャクのように伸び、肩からは動物の頭が迫り出していた。股の間からは大量の毛が生えて、イカのようだった。
背中には翼が生え、胸からは同じ動物の顔が出ていた。
まさに―――化け物だった。
その人間はすぐさまに捕らえられ、解剖され―――程なくして、解剖をする余裕がなくなった。
当然だ、全世界で同じようなことが起きたのだから。
街中で同じように、化け物へと変化する人間が増えてきて、普通の人間を殺していく事が起きた。
街が血の海に沈んだ。
子ども、老人、男女関係なく、無差別に、平等に全ての人間がそうなる可能性を、神は与えた。
そんな状況を誰も取り締まらなかった。政府には既に化け物どもが跋扈していた。
そんなあり得ない事が科学的に何の前兆もなく起きるわけがない。
だけど、何一つ手掛かりが見つかることなく、その変異現象は世界でワクチンの無いインフルエンザの様に増えていった。
結果、九十億人いた人類は、八十億人が『化け物』に、残りが人間に振り分けられた。
2056年、二月十四日。
神が与えたもう選別の時――その日、人は生きるべき命と、死すべき命に選別された。
皆、死んでいった。
残ったのは、普通の肌をした『人間』と獣のような頭と毛むくじゃらな肌をした、理性を残した『獣人』の二種類。
今は、その十億人のうち、残った二種類の人間が、互いに戦い、或いは狩りをしているだけだった。
獣と人が戦い、或いは異人と戦う日々。
文明はすでに退廃し、残ったのはいくつもの兵器と人だけ。
そして―――異人と魔法。
荒廃した世界が、この夕焼け空の下に広がっていた。
この世界は、もうすぐ終わろうとしていた。