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死神といっしょ!  作者: 是音
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第98話 冬の宝石

 曇った鉛色の空からとめどなく雪が降りしきるダスト・フィールド。

 その広大な雪原には激戦であった雪合戦の為に用意した壁やラインが引いてあり、死神業者三人やクレイジー三人娘はまだ争っていた。

 死神業者三人衆は、夏に一度ビーチバレーでクレイジー三人娘こと冬音さん、彩花さん、美香に敗北しており、リベンジだとか言っていた。


 ちなみに雪原を見渡せる場所にはペンションがあって、オレと三笠と渡瀬、そして閻魔さんと白狐さんと夜叉さんはその広い居間に集まっていた。


 カーペットを敷いた広い空間。暖炉の近くにはそれを囲むようにクッションが置かれ、暗めの室内はしかし、暖炉の炎によってほんわか赤く明るい。


 外で暴れまくる六人を若干心配しつつ、他のオレ達は暖炉の周りに円形で座り、暖まっていた。


『フハハハ、まったくアイツ等、元気いっぱいだなオイ』


 笑いながら言う閻魔さんは頭に包帯を巻いている。


『いやはや全くですな』

『命がいくつあっても足りないわよ』


 一見無傷に見える夜叉さんと白狐さんだったが、仮面を修復する前はヒビが入りまくっていた。


「雪合戦で死を覚悟したのは初めてですよー。ね、里原くん」

「ま、まあな」


 ケラケラと笑いながらそう語る渡瀬だったが、オレはチラリと居間の隅を見て苦笑いした。


 ベッコベコに歪み、へこみまくったヘルメットが、積まれていたからだ。

 まさに命の恩人。


「いやあ、しかしまさか僕が・・・」


 そう。まさか三笠が・・・。


「この姿で無傷だなんて驚きですよ」


 あの地獄の総大将でさえ無傷でないのにも関わらず、三笠だけは無傷だった。


・・・スキンヘッドに《ヘルメットの絵》を描いただけで参戦しやがったというのに。


 チームは【地獄】と【人間界】の6対6で行われた。

 のだが、あまりにルール違反(雪玉以外の危険物を投げる等)が多かった為、オレと白狐さんはほとんど審判みたいな感じだったから実際には5対5かもしれない。


 雪合戦のルールは簡単で、二つの陣地に別れて互いに相手陣地のフラッグを奪うというやつだ。

 雪玉に当たったら自分の陣地まで戻らなければいけない。


 ルールは簡単なのだが、場所が問題だった。

 ここはダスト・フィールド。


・・・場所が、広すぎたのだ。

 自分陣地と相手陣地との距離が、サッカー場のゴールくらい差がある。

 故に辿り着くまでにかなり疲れるし、雪玉に当たったらまた戻らなければならないという面倒くさい距離である。


 となると当然雪玉に当たりたくないという気持ちが一層強くなり・・・


 大激戦となったわけだ。


 そんな戦いをまだ続けるアホ神業者三人とクレイジー三人娘。

 疲れ切ってもメチャクチャ楽しそうだった、暖炉の周りを囲む面々。


 じゃあ今日のハイライトシーンを選りすぐってご紹介します。


――――――――


―――――


―――


【シーン1 策謀戦】


 地獄チームの大将は勿論閻魔さんで、人間界チームの大将は《武将モード》の渡瀬。

 この指揮がまた凄かった。

 先に指示を出したのは閻魔さん。


『フハハハ!てめぇら、一番手、二番手、三番手に分かれろ!《車懸りの陣》だ!』


 車懸りの陣。

 一番手、二番手と順次に分けておき、一番手が弱ったら二番手、二番手が弱ったら三番手、という感じに循環して敵に攻めかかる陣法だ。


 それを見た武将渡瀬も指示を出す。


『敵が車懸りで攻めてくるのなら、こちらは《魚鱗陣ぎょりんじん》を敷いて迎え撃てぇーー!』


 魚鱗陣。

 人字型に並べ、中央部を敵に最も近く進出させる陣形。

 かの徳川家康が敷いた《鶴翼の陣》を崩すべく武田信玄が用いた戦術。


 なのだが・・・。


 死神と冬音さんが、重要な部分を指摘した。


「閻魔さーん、陣形組む程たくさん人数が居ませーん!」

「渡瀬大将〜、陣形組む程たくさん人数が居ませーん!」


『あーーー!』

『あーーー!』


 策謀戦は無駄に終わった。


――――――――


―――――


―――


【シーン2 電子戦】


 戦いの裏にはサポート班という者が居る。


 それが彼ら。意外にも電子機器に詳しかったりする地獄チームの夜叉さんと、我らが人間界チームの三笠万座右衛門である。


 敵同士である二人はそれぞれの陣地でパソコンを開き、自チームへ作戦の指示を出すべく皆に渡した無線機に通信しようとしたのだが・・・。


『おや、電波障害ですな』

「おや、電波障害ですか」


・・・サポート班は役立たずだった。


――――――――


―――――


―――


【シーン3 結局】


「突撃ぃぃぃぃぃぃ!!」

「いえーーーーい!!」


「あらあら、佐久間さんも美香ちゃんも元気ねぇ」


 ま、結局は普通に雪玉を大量に抱えて激突する事になるよなぁ。

 オレは冬音さん達クレイジー三人娘が無茶をしないようにホイッスルを口にくわえながら走っていた。

・・・完璧に審判じゃんオレ。


「負けないんだからね冬音姉さんめぇぇぇ!!」

「ビーチバレーのリベンジを果たすんですーー!!」

「ロシュもメアも、まだ気にしてたんだ・・・」


 死神をはじめとする死神業者三人衆も駆け出した。バンプはもっぱら雪玉持ち係だ。


〈ピピピーーッ!〉


『こらー!雪玉に重力魔法をかけちゃダメでしょう!』


 あちら側を監視するのは白狐さんだから、まぁ大丈夫だろう。


 しかし冬音さん達、速ぇ。


 そして地獄チームと人間界チームが接触しようとしたその時。


「今だ伏兵!渡瀬、三笠ぁぁぁぁ!」


 冬音さんの合図でフィールドの雪の下から渡瀬と三笠が飛び出した。

 二人は死神達に奇襲攻撃を仕掛ける。


「うわぁぁぁ由良ちゃんと三笠くんだぁぁぁ!」


 ここぞとばかりにクレイジー三人娘も突攻をかける。


「冬音さん達も来たですーー!」


 すげぇラッシュだ。

 頑張って避けろよ死神業者。


・・・ん?


・・・。


・・・んーーーー?


 オレはヘルメットを押さえながら目を凝らして激戦を見た。

 なんか違和感がある。


・・・。


・・・あ。


 ああああああ!!


〈ピピピピピピピピィィーーーーッ!〉

「冬音さん!彩花さん!美香!それ《白く塗った石》だろぉぉぉぉぉ!」


「やっべ!」

「審判にばれちゃった♪」

「隠せ隠せ〜!」


 死人が出るぞコラァァァ!


 オレが人間界チームを注意している間に、地獄チームも動きだした。


「よっしゃ!冬音姉さん達が準くんに怒られている隙にこっちも伏兵だよメア!」


 雪の壁に隠れた死神は、玉補充係のバンプから雪玉を受け取りながら、同じく別の壁に隠れているナイトメアに向かって叫ぶ。


「了解よロシュ! 閻魔さん、夜叉さん、お願いしますー!」


 ナイトメアの合図で、雪の下から閻魔さんと夜叉さんが飛び出した。


『フハハハハ!くらえ《どすこいキャノン》!』


 消える魔球キターーー!


『行きますぞ佐久間殿方!《狩魔・鬼斬剣》!!』


バガァァァァァン!


 うわぁもう雪合戦じゃねぇぇぇぇ!!


〈ピピピピピピピピィィーーーーッ!!〉

『ぶっ殺すわよ夜叉ぁぁぁぁ!!』


――――――――


―――――


―――


 一言で言えば、とんでもねぇ雪合戦だった。


 暖炉の近くに居るのに軽く身震いしたオレは、あったかいココアを口に運んだ。

 あんな激戦をまだやっている六人はすげぇよな。

 死ぬ前に帰って来いよ。


 さて、オレがハイライトシーンを回想している間も特に何をするでもなく渡瀬は白狐さんや閻魔さんと会話していたし、三笠と夜叉さんものんびり話をしていたのだが。

 先程からうつらうつらと眠そうな顔をしていた渡瀬は、暖かい空間でクッションを枕にして眠ってしまった。


『あら、眠っちゃったわ。疲れたのね』

『フハハ、遭難に加えてそのまま雪合戦だったからなぁ』


 仮面を外した白狐さんとココアを口に運ぶ閻魔さんは、渡瀬の寝顔を見て笑った。


 ふと雪の降る外を見た閻魔さんは、しみじみとした表情になる。


『どうしたのよ閻魔?』


『感慨深げですな』


 白狐さんと夜叉さんはそんな閻魔さんの様子に首を傾げ、オレと三笠も顔を見合わせた。


『フハハ、いやあ。なかなか面白い事を思い出したんでな』


 言って閻魔さんはココアを一口飲み、ふう、と一息つくと、



『《今日は、雪でスノウ》なーんてな』


『・・・』×4


『ん?わかんねぇのか?これはだな、《雪ですのう》に《雪》つまり《スノウ》を掛けた上級の・・・』


『ただの駄洒落か貴様!!』×4


 渡瀬が眠っている為に派手に攻撃できないオレ達四人は、ムードぶちこわしなアジア支部長に最上級のメンチを切った。


『うわぁ!超怖ぇよてめぇら! つーか三笠、一番怖ぇ! 冗談、冗談だっての! ちゃんと別の事を思い出したから!』


 どうやら本当に冗談だったらしい。


『うむ、三笠あたりなら最初から気付いていたと思うが。この《ダスト・フィールド》って名前を初めて聞いた時、変だとは思わなかったか?』


 確かに。直訳でゴミ広場だからな。

 オレは三笠の方を向いた。


「三笠はどういう意味か知ってるのか?異界の土地の意味が」


 三笠は頷く。


「ええ。冬で有名な土地であるなら、その名前の由来もわかりますよ」


 と妙な事を言った。


 その時、窓の外を見た夜叉さんが、


『お、おや?雪が・・・』


 軽く驚き混じりの声を聞いたオレも窓の外を見てみると、あれだけ降っていた雪が止んでいた。


『あら、雪が止んだわね』


 ふむ。外からも、雪合戦をしていた面々の騒ぎ声が聞こえてくる。

 三笠と閻魔さんは同時に立ち上がり、外へ出ていく。


『フハハ、ナイスタイミーング』


「里原くん、面白いものが見られますよ」


 なにがだ?

 首を傾げたままのオレの傍らでは、白狐さんが渡瀬を起こしていた。


『渡瀬さん、起きて起きて』

「う〜ん、どうしたんですか?」

『今見ないと損だって閻魔が言ってるのよ』

「? わかりました、起きます〜」


 二人も外へ出ていく。


『では里原殿、我々も行きましょう』

「そうですね」


――――――――


―――――


―――


 ここで三笠の話を引用しよう。


 ある鉱物の話だ。


 炭素だけから成る鉱物。

 多くは正八面体・斜方十二面体をなす。

 硬度は最も高く、光沢は極めて美麗。

 光に対する屈折率が大きく、暗所でも幾分の光輝を発する。

 金剛石とも呼ばれるその鉱物の一般的な名前は


《ダイヤモンド》


――――――――

――――――――


 ペンションの外へ出たオレを待っていたのは、興奮状態の死神だった。

 モコモコとした防寒着を纏った死神は、手袋をはめた手でオレを引っ張った。


「すごいんだよ!すごいんだよ準くん!」


 引かれるがままに雪原を走り、立ち止まった時オレは初めてその異常に気付いた。


 無数のダイヤモンドが、ダスト・フィールド全体に浮かんでいたのだ。


「すごいでしょ!?」

「すげぇ」

「なんだろコレ!?」


 見渡せば、冬音さんはナイトメアを肩車して駆け回っており、


「おいメア!なんだこれは?」

「キラキラですー!」


 彩花さんはバンプと一緒に雪原に寝転んで転がり回り、


「すごいじゃないの♪」

「どこを見てもキラキラしてる!」


 そして美香と三笠は完全に見とれていた。


「ほわぁ〜、三笠くん何コレ? 宝石みたい」

「お、良い感想ですよ美香さん!実はですね・・・」


 夜叉さん、白狐さんも、バッチリ目が覚めた渡瀬の両隣に立って空を見上げていた。


「綺麗・・・」

『ふむ、これはなかなか』

『ダスト・フィールドでこんな光景が見られるなんて』


 本当に、なんだろう。

 ダイヤモンドの様に何色もの光を放ち、しかし浮いているので勿論石ではない。


「準くん、キャッチしようキャッチ!」


 せがむ死神を肩車し、腕を振りまくるコイツのバランスを保ちつつこの見事な現象に見とれていると、腰に手を当てた閻魔さんがやって来た。


『これが、この土地の名前の由来となった現象ダイヤモンド・ダストだ。別名《細氷》とも言い、人間界でも見られるぞ』


 《ダイヤモンド・ダスト》。聞いたことはあるぞ。

 見たことは無かったけど。


「これがダイヤモンド・ダストですか」


『おうよ。あまりの寒さに空気中の水蒸気が氷り、極めて小さい氷晶となる。それが空中に浮かぶダイヤモンドに見える。寒冷地で見られる現象だな』


「へー」


 なるほどね。三笠はこの現象の事を知っていたのか。

 肩車した死神は聞いているのかいないのか、大はしゃぎで腕を降っている。


 気付けば空は暗くなり始めていた。


『やれやれ。今日中に帰るのは無理かもな』


 仕事が大量に蓄まっているであろう閻魔さんは、周囲でそれぞれのリアクションを示す連中を見回しながら溜め息を吐いた。


「わざわざ貸し切って貰ってすみませんでした」


『フハハ、いいって事よ。まぁ蓄まった仕事はエリート餓鬼達がカブキの奴に押しつけるだろうさ』


 間違いなく計算の範囲内だったよね。


 まだまだ皆はこの現象に夢中だ。


―――――


―――


彩花:【キャーーー!誰かぁー!】


冬音:【どうした須藤・・・うわぁぁぁ!】


メア:【バ、バンプが冷たくなってるですーーー!】


死神:【た、大変だにゃぁぁぁ!】


美香:【よっしゃ!】


三笠:【何が〈よっしゃ!〉なんですか!?】


渡瀬:【う〜、眠いです】


白狐:【い、意外に】

夜叉:【図太いですな渡瀬殿】


閻魔:【フハハハハ、寝る子は育つってな】


バンプ:【(・・・僕無視!?)】


(大丈夫だバンプ。オレが居るよ)


――――――


 一晩泊まってから帰る旨を知った全員は一層はしゃぎだす。

 ダイヤモンド・ダストという冬の神秘に包まれ、暗くも明るい夜は続くのだった。


「ねえ準くん、もみの木を一本持ち帰ろうぜー!」


「ここのはデカ過ぎて無理だろ!」


 ああ、そういえばそろそろクリスマスだ。聖夜を楽しみにする死神ってのもおかしな話だなオイ。


 では、今回はこの辺で失礼します。

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