表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神といっしょ!  作者: 是音
97/116

第97話 鎧袖一触(がいしゅういっしょく)♪

 いや〜、良いねダスト・フィールド。

 見渡すかぎり一面、雪、雪、雪。白銀の世界。そして密集する木々。

 オレと冬音さんと彩花さんの引率を務める白狐さんは先頭を歩いている。雪の積もる場所には不釣り合いな着物姿に狐の仮面。


『一面銀世界とはまさにこのことね』


 と白狐さん。


「それに加えてそこらじゅうに高々と伸びる木!」


 と白狐さんの後ろを歩く冬音さん。


「ははっ、素敵な景色ばかりですね」


「ふふっ、そうね♪」


 更に後ろを歩くオレと彩花さんが積もった雪をザクザクと踏みしめながら言った。


 本当に皆の言う通り、一面銀世界でそこらじゅう木ばっかり。


・・・。


『・・・えっと』


「・・・わはは」


「・・・あの」


「・・・ふふ♪」


・・・。


 オレ達四人全員はいつの間にか、自然と立ち止まっていた。

 ゆっくりと顔を上に向けて雪の降る空をみんなで眺めた。


『(迷っちゃった・・・)』

「(迷っちゃった・・・)」

「(迷っちゃった・・・)」

「(迷える小羊、須藤彩花♪)」


 というわけで、遭難しちゃいました。

 閻魔さんと夜叉さんは気付いているのだろうか?いや、あの様子だと気付くのはもうちょい後だなぁ。


「ぬぁぁぁぁぁ!テメー白狐!何迷ってんだよコラァァァァ!!」


『はわわわわ・・・!も、申し訳ない!だって、だって・・・』


 冬音さんが怒りのままに白狐さんの肩を揺すりまくり、激しく揺すられた狐面の姉さんはフラフラになりながらパニックになっていた。


 しかし、まさかオレ達がここにきて・・・。


「遭難だなんて」


「うふふ♪そうなんで・・・」

「《そうなんですぅ〜♪》なんて言ったらぶちのめすぞ須藤・・・!」


「ガーーーーン!」


 軽く《悪人格》になりかけながら冬音さんは彩花さんを睨み付け、彩花さんは先に駄洒落を言われてしまってヘコんでいた。


「大体だな、須藤が大はしゃぎで道をそれなかったらこんな事には・・・」


「冬音さんも彩花さんと一緒に走ってたでしょう」


「・・・あ」


 冬音さんが白狐さんと彩花さんから猛攻撃を食らっている間に、回想でもしようかね。


『須藤さん!アナタも原因でしょう!!』

「うふふ♪悪い子ね佐久間さんは・・・♪」


「ひっ・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


――――――――


―――――


―――


 あれは一時間程前。


 オレ達はペンションまでの道を歩いていたのだが、雪に大興奮の死神業者三人組と美香、三笠、渡瀬は先導する夜叉さんと閻魔さんを引っ張って走っていってしまった。


 まぁオレ達には白狐さんが居るから問題ないのだが。


「なぁ白狐の姉さんよ。雪山に着物姿じゃあ雪女じゃないか」


 確かに。冬音さんの言う通り、白と桃色の着物に身を包んだ白狐さんはここだとむしろ雪女に見えてしまう。


『もう、ちゃんと狐の仮面という個性があるでしょ?』


 白狐さんはさらっと暴露した。


「ところで白狐ちゃん、一つ相談があるんだけど♪」


 と彩花さん。


『なにかしら?』


「今度カブキちゃんをお借りしたいの♪」


『全然構わないけど。何故?』


「うふふっ、《もっとド派手な化粧を施してあげたい》と思ってね♪」


 逃げろカブキさーーーん!!


『ふふっ、カブキもそろそろイメチェンね』


「《狂いカブキ》にしてギャルサーに放り込んでやるわ♪」


 逃げろカブキさーーーん!!


 彩花さんと白狐さんが特殊メイクアーティストの依頼がどうとか言っている傍らで、冬音さんは道の端をじーっと見たまま固まっていた。


「冬音さん、何してるんですか?」


「しーっ」


 冬音さんは人差し指を口の前に立てて〈静かに〉というジェスチャーをし、次に自分が見つめていた方を指差した。


・・・おー。


 見るとオコジョが一匹、こちらを見ているではないか。

 冬音さんはずっと見入っていたらしい。たまにこういうマジな子供っぽさ見せるところもこの人の特徴だったりする。


「むぅ。こっち来ないかなぁ」


 ファンタズマのリーダーは指をちょいちょいっと動かしたり、舌で音を出したりしているが、オコジョの方は興味を示してくれない。


「あーんダメかぁー」


 諦めずに小動物の興味を引こうと頑張っていたが、ここで介入してくるのは当然・・・。


 悪魔女子大生である。


「キャーー!!オコジョ!オコジョよーーー!!」


 彩花さんの感嘆の声に驚いたオコジョは当然ビックリして引っ込んでしまう。


「あぁ・・・!」


 心底がっかりした様子の冬音さん。


「大丈夫よ佐久間さん!追い掛けてとっ捕まえればOKなんだから♪」


 オイ。


「それもそうだな!」


 オイ。


 ぱぁっ、と明るい顔になった冬音さんは彩花さんと一緒に大はしゃぎで逃げた小動物を追い掛けて行った。


『ち、ちょっと須藤さん!?佐久間さん!?』


 慌てて二人を呼ぶ白狐さんだったが、時既に遅し。ノンストップコンビは夢中で森の中へ入っていく。


「どうしますか白狐さん」

『・・・とにかく追いましょう里原くん』


 というわけでオレと白狐さんも急いで二人を追い掛けたのだった。


「うふふっ、オコジョ〜♪」

「わははっ、オコジョー!」


「ちょっと冬音さーん!」

『須藤さーん!』


――――――――


―――――


―――


 というわけで当然といえば当然なのだが、この状況。

 でもってオレが回想をしているうちに、遭難した筈の状況だというのに妙な事になっていた。


「準、準、あいつら怖いよ」


 うん。あなたを含めてそれは百も承知だから、背後に隠れてオレを盾にしないでおくれ冬音さん。


『まったく、こんな事をしている場合じゃないのに』

「佐久間さんったら、耳を真っ赤にしちゃって♪」


 確かに。冬音さんの耳は真っ赤だ。


「お、お前達が私の耳を擦りまくるからだー!」


 二人の仕業らしい。

 つーか、誰もが怖れる超人武闘派不良集団の、それらすべてを圧倒的パワーでまとめるリーダーが・・・。

 今やバンプみたいなポジションに位置していた。


 あっ、そうそう。


 実はオレが回想している途中にこんな事もあったのです。


――――――――

――――――――


冬音:『やーめーれーーー!』


彩花:『耳よ!白狐ちゃん、耳を狙いなさい!』


白狐:『承知!』


〈ゴシゴシゴシゴシ〉


冬:『熱っ。あっ、ちょっとマジで熱い!おい、マジで熱いぞ!』


〈ゴシゴシゴシゴシ〉


彩:『ふふふっ、暖まる?ねぇ佐久間さん、暖まる?ねぇ、どう佐久間さん?どう?どうなの? 《青天の霹靂へきれき》は別にサワヤカな意味じゃないのよ?知ってた?ねぇ佐久間さん?』


白:『(か、関係ない・・・!)』


〈ゴシゴシゴシゴシ〉


冬:『し、知ってるよそんな事!』


彩:『・・・』


冬:『?』


彩:『・・・佐久間さん・・・知ってたの・・・』


白:『(あ、佐久間さん失言)』


彩:『どうせ私は霹靂の意味を知らなくって《サワヤカで良い天気》みたいな意味だと思ってましたよーだ!』


冬:『そんな、別に冷やかしてるわけじゃ・・・!』


彩:『火を起こしてやる!耳の摩擦で火を起こしてやるわぁぁぁぁぁ!』


〈シュゴシュゴシュゴシュゴ!!〉


冬:『ギャァァァァァ!熱ぃぃぃぃぃ!!』


白:『(・・・人類最恐だ)』


【と、三人が暴れていたその時だった。 突如として回想にふける里原を含めた四人を巨大な黒い影が覆った】


???:『ウォォォォォォォ!!』


【雪山名物の《雪男》が現れた(HP5600)】


雪男:『ウォォォォォ!!遭難イベントには付き物な雪男だぞぉぉぉぉ!!』


【雪男は遭難者に襲い掛かった】


冬:『うん、邪魔』

彩:『うん、邪魔』

白:『うん、邪魔』


〈ベキョァァ!!〉


【襲った相手が悪かった】


雪男:『ぶはぁ・・・』


【雪男は泣きながら去って行った】


〈ゴシゴシゴシゴシ〉


冬:『うわぁぁぁ準助けてくれ!』


――――――――

――――――――


 声や音は聞こえてたから多分こんな感じだろう。

 まぁ彼女達には些細な出来事だな。


 遭難といっても白狐さんが居れば体温低下の心配はないし、今のように危険にさらされたとしても、もっと危険な人達が居るから大丈夫だろう。


 背後で服を引っ張る冬音さんは置いておいて、オレは白狐さんに聞いてみた。


「白狐さん、いつまでこの状態なんです?」


『うーん、閻魔が気付いたら一発で見つけてもらえるでしょうね』


「どういう事です?」


 と、オレが訊ねた瞬間、どこからか地響きが聞こえてきた。

 彩花さんも、後ろで小さくなっていた真っ赤な耳の冬音さんも首を傾げる。


「あら?」


「なんの音だ?」


 白狐さんだけは落ち着いた様子でスタスタと歩いてオレ達から距離を置いた。


「どうしたんですか?」


『私には近づかないほうが良いわよ』


 と妙な事を言いながら狐面の姉さんはクナイを地面に、自分の周りを囲むように五ヶ所突き刺した。


 オレや彩花さん、冬音さんはそれを黙って見守る。


『地結結界法・・・金剛獗こんごうけつ!』


 瞬間、白狐さんを囲むように防御結界が張られた。

 なにしてんだろ?


 地響きはどんどん大きくなる。


「お、おい須藤。これってヤバいんじゃないか?」

「大丈夫よ♪白狐ちゃんはわかってるみたいだし」


「・・・ん?なんだろ」


 遠くの方に赤い光がぼんやりと見え・・・


〈ズガァァァァァァァァァァァン!!〉


「・・・なっ!」

「・・・えっ!」

「・・・あら♪」


 光が遠くに見えたと思った時には赤い光の柱は白狐さんに直撃していた。


・・・。


うわぁぁ巨大ビームキターーーー!!!


 木々を薙ぎ倒し、軽く地面をえぐった謎のビームは白狐さんの結界に止められて消えた。


「おい白狐!」

「大丈夫なの白狐ちゃん?」


 急いで駆け寄ると、結界の中に居た着物姿はピンピンしていた。


『ふぅ。遅いわよ』


 ?


 オレ達が首を傾げていると、ビームがやって来た先から声が聞こえてきた。


『フハハハハ、まったく。迷うなって言っただろうが』


 現れたのは白髪に角が生えた着物姿だった。


「閻魔さん!?」

「うお!今のビームは閻魔が放ったのか!」

「無茶するわね♪」


『閻魔、あなたもう少し出力を抑えなさいよ』


 閻魔さんは笑いながら手を振った。


『悪い悪い。結構遠くまで行っちまったと思ったが、意外に近かったな』


「つーか今のビームはなんですか?」


 オレの質問には白狐さんが答えてくれた。


『あれは閻魔の魔力追尾波動よ。私の魔力を感知して飛んできたのね』


 き、危険な遭難者探索方法だ・・・。


『フハハハハ!名付けて《ストーカーびーむ》だ! ちなみに本気を出せば山にトンネルが一本できあがるぜ!』


 《ストーカーびーむ》怖えぇ。


――――――――


―――――


―――


 こうしてあっさりと保護されたオレ達は、既に死神達が到着しているペンションに着いた。


 個別に分けられた部屋に入ると、やはり死神がゴロゴロ転がっている。


「あーっ!遅いぞ準くん!」


「ちょっと道に迷っちまってな」


「アハハハハ!準くん達、遭難したのーー!?・・・まぁ私達もだけど」


 お前らもかよ!


「参っちゃったよー。みんなでオコジョ追い掛けてたらいつの間にか迷っててさ」


 似たような話だ。


「美香ちゃんと由良ちゃんが速い速い」


 最初に突っ走ったのはその二人らしい。


 ん、待てよ?


 じゃあ先導していた閻魔さんは一人でペンションに到着して、そこで初めて気が付いたって事か?


「夜叉さんったら、ボーッとしてるから三笠くんと一緒に《ストーカーびーむ》の直撃を受けたんだよ!アハハハハ!」


 しっかりしろアジア三強!

 つーか三笠ぁぁぁぁ!


「そいじゃあ早く皆で雪合戦しに行こうぜー!」


 コロコロ転がりながら両腕を上げた死神はパッと起き上がり、部屋から飛び出そうとした。


「こらこら。着替えてからだ」


「はぁい」


「あと手袋もな」


「はぁい」


「それからお前が頭に乗せているメアちゃんのニット帽は返してこい」


「はぁい」


 雪合戦・・・。

 ヘルメットはどこだっけ?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《ちょっとおまけ♪》


※【鎧袖一触がいしゅういっしょく


 ほんのわずかな力で相手を打ち負かすこと。相手との実力差がよほどないと使いにくい熟語。


【用例1】

 三人の恐いお姉さんは、雪山では無敵とされる雪男すらも鎧袖一触で撃沈してしまった。


【用例2】

 俺様の存在という超現象の前では、遭難なんて些細な現象は鎧袖一触だ。


【用例3】

 私のグラマラスボディなら他の女性を鎧袖一触する事は間違いないぜー!

次回へ続きます♪ (作者的にも冬音さん達の遭難は予想外だったり。笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ