第96話 雪の《DUST FIELD》
「もぐもぐ・・・死神ちゃん。雪も降ってきたし、ここは何かやりたいところよね♪」
「もぐもぐ・・・そうだね美香ちゃん。ん〜、由良ちゃんはどう思う?」
「もぐもぐ・・・そうですね〜。雪といえば雪合戦ですね〜。三笠くんはどうですか?」
「もぐもぐ・・・いいですね。間違いなく雪玉の中に何かを仕込むのは目に見えていますが。ね、里原くん」
「もぐもぐ・・・安心しろ。ヘルメットは大量に買ってある」
下校途中、通学路にある広場に集まってオレ達五人はのんびりと雪について話し合っていた。
広場には屋根の付いた場所があり、そのテーブルを囲んでいる状態。
ちなみに皆で口に運んでいるのはピザで、これは学校から食べながら持ってきたものだ。
・・・昼飯に美香が学校からデリバリーで頼みやがったから。ピザ配達のバイトのお兄さんが学校の屋上に現れた時は衝撃を受けた。
で、バカみたいに大量注文した所為でこうして冷めたピザを食べ歩きながら広場までやって来たわけ。
「むぐ・・・でも雪合戦をする場所なんてあったっけ?」
美香が三笠の頭に乗せた箱からミックスピザを取り出しながら言う。
「むぐ・・・広い場所なら此処や公園みたいにいくらでもありますけど、大抵雪かきされちゃいますよね〜」
渡瀬がオレの頭に乗せた箱からシーフードピザを取り出しながら言う。
「むぐ・・・それなら心配ないぜ美香ちゃん、由良ちゃん!」
死神が自分の頭に乗せた箱からビッグピザを取り出しながら言った。
「どういう事?死神ちゃん」
「場所に心当たりがあるんですか?」
オレが渡したハンカチで口を拭きながら明るい顔をする死神を、美香と渡瀬がキラキラした目で見た。
三笠とオレは頑張って頭の上に乗せられた箱のバランスをとりながら聞いている。
「あのね、異世界なら《ダスト・フィールド》っていう、有名な土地があるんだよ!」
「ダスト・フィールド?」
「直訳するとゴミ広場ですよ?」
確かに。直訳ではあまり良い印象は無いな。しかし三笠は何かを理解したのか頷いて、
「なるほど。死神さん、そこは冬では有名な土地なんですね?」
と、妙な事を言った。
「そうだよー!変な名前なんだけど、それとは全く逆で雪が積もったらとっても綺麗な場所なの!」
「もしかして、この前死神ちゃんが言ってた《魔列車》ってやつに乗っていくの!?」
「うん!そこは山になってて、冬は観光で人が賑わうんだよー!」
「きっと今の時季は凄い数なんでしょうね〜」
そう言う渡瀬に対し、死神は〈ちっちっちっ〉と指を振った。
「えへへ〜、実はね。閻魔さんが『最近バンプやメア達と遊べなくてちょいと寂しいなぁ。よし!俺様が《ダスト・フィールド》を貸し切ってやるぜーーー!』って言って丸一日貸し切ってくれたの!」
地獄の総大将スゲーー!!
「キャー!本当に!?」
「閻魔さんって、ハロウィンの時に大暴れしていたあのお茶目なお兄さんですよね?」
「さすがはアジア支部長、閻魔さんといったところですね」
つーか溺愛しすぎだよ育ての親・・・。
「じゃあ冬音姉さんや彩花さんも呼んで、早速閻魔さんに連絡だぜーー!」
『おーーっ!』×3
ははっ、楽しそうだな高校生。
――――――――
―――――
―――
そんな会話が発端となり、次の日オレ達は魔列車の中に居た。
ラウンジ車両の中はもはや軽い修学旅行状態。
『フハハハハ!《ツーペア》だ!』
「ワハハハハ!甘いよ閻魔、《スリーオブアカインド》!」
「オレの勝ちですよ冬音さん。《フルハウス》!」
「ウフフフフ♪残念ね里原くん、《ストレートフラッシュ》♪」
『ギャーーー!』
「ギャーーー!」
「ギャーーー!」
やっべぇ、この人ポーカー強ぇよ・・・。
オレと閻魔さん、冬音さん、彩花さんはテーブルを囲んでトランプをしていたのだが、ほとんど勝てていない。掛け金を彩花さんが回収し、悪魔女子大生はどんどんオレ達や地獄の総大将から金を搾り取っていた。
オレ絶対勝ったと思ったのに。
改めて配られた手札を見ながら、少し視線を他の面々に移す。
夜叉さんと三笠の二人はオレには全然理解のできない話題で盛り上がっているので置いといて・・・。
残りの死神業者三人と七崎美香、渡瀬由良は何をしているかっていうと・・・。
白狐さんにいろんな仮面を付けて遊んでいた。
「アハハハハ、これじゃあ《白チュパカブラ》さんだぜー!」
『イヤァァァァァ!!』
五人が作った未確認生物の仮面を付けられた白狐さんは鏡を見て崩れ落ちた。
・・・頑張れ白狐さん!
「じゃあ次は私とロシュとバンプが作った《ウニ》の仮面付けてくださいー!」
『うぎゃぁぁぁ!!』
白狐さんは《白ウニさん》になった。針が危なすぎだ・・・。
「アハハ、じゃあその次は私と由良ちゃんが作った《三笠くん》そっくりな仮面付けてー!」
美香と渡瀬が無茶をしようとしている!
『・・・もう好きにして』
白狐さーーーーん!
予想外の被害を被っている白狐さんが《白三笠さん》になるのだけは見てはいけないと思い、慌てて目をそらした。
後から五人の悲鳴や大爆笑が聞こえてきたが。
「AHAHAHAHAHAHA!!」
「美香ちゃんやりすぎですーーー!」
「う、うわぁぁぁ!白狐さんのキャラが崩れるじゃないかぁぁぁ!」
「アハハハハ!似合う、似合うわよ《白三笠さん》!」
「・・・。(や、やりすぎちゃいました)」
きっと相当な事態になっているのだろうが、オレは恐くて見ることができなかった。
テーブルに顔を戻すと、閻魔さんと冬音さんは物凄く真剣な表情で手札を睨み、彩花さんはニコニコとそんな二人を見守っている。
『うーむ。ちょっと今回は俺様の手札、引きが悪かったかなぁ。(フハハハハ、絶対勝てる)』
「いんやぁ、私も確実に負けそうよ。こんな手札じゃあね。(ワハハハハ、私の前にひれ伏すが良い)」
「あらあら♪」
うーん、オレは・・・ちょっと自信がある手札だ。
『なーんちゃってな!オラァ俺様は《ストレート》だ!』
「なーんちゃってな!ウリャァ私も《ストレート》!」
「あらあら♪私はダウンするわね♪」
『なにぃ!?』
「なにぃ!?」
彩花さんは少しの賭けチップだったので簡単にこのターンを降りた。
『フハハ、良い判断だな須藤!』
「わはは、ほら早く準も見せなさいよ!」
・・・。
「えっと・・・《ロイヤルストレートフラッシュ》・・・です」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
オレも久々に出したなコレ。
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―――――
―――
[えー。次は《ダスト・フィールド》駅。ダスト・フィールド駅]
魔列車のスピードが落ち、亜空間の中に居たために真っ暗闇だった窓の外がワープゲートを出たのか突然明るくなった。
白狐さんで遊んでいた五人はすぐに窓に張りつき、死神業者三人はおもわず声をもらした。
「うわぁ・・・」
「凄い。雪がしんしんと降ってます」
「光が反射して眩しい!」
バンプの言う通り、横から光が魔列車の中まで差し込み、ラウンジを更に明るくしていた。
はしゃぎまくっていた美香と渡瀬も急に静かになって窓の外を眺めている。
「わ、わ、広ーい!もみの木がいっぱい見えるよ」
「一面雪景色ですねっ。真っ白です!」
感動する五人だったが、それどころじゃない人が約二名程居た。
『俺様も・・・真っ白だ・・・』
「財布の中が・・・寒いの・・・」
所持金を彩花さんに搾り取られた閻魔さんと冬音さんが少し上手い事を言いつつヘコんでいた。
調子に乗って賭けまくるからだよ。
それとは反対に彩花さんは大満足で、その明るい表情は雪をも溶かしてしまいそうだ。
「ふふふっ、お札のおかげでぬくぬくよ♪」
ちなみにこの発言は例えではなく、実際に防寒できるほどの札束を彩花さんは持っていた。
地獄の総大将と佐久間冬音から金を巻き上げたのだからそうなるだろう。
冬音さんは佐久間財閥令嬢という肩書きが大嫌いで、自分で稼いでいるのだが・・・。財布スッカラカンになって無事に冬を越せるのだろうか。
これから被害を受けるであろうナイトメアは何も知らずに屈託の無い笑顔で窓に張りついていた。
それがまた凄ぇ母性本能(?)をくすぐられる姿だったので、いざという時は面倒をみてやろうとか思ったり。
ギャンブルは程々にしとけよな閻魔さん、冬音さん。
ん、あれ?
夜叉さんと三笠は・・・あ、居た居た。
二人は何やらテーブルの上に紙を広げて凄まじい勢いでペンを走らせている。
グラフやら計算式やらが大量に書かれているぞ。
『ふむ。三笠殿、これはとんでもない結果が出ましたな』
「ええ。・・・数学的に考えると某猫型ロボットは宇宙を滅ぼす事ができますね」
何の話だよ!!
聞くところによると、話題は某猫型ロボットが使う秘密道具の一つで、液体を物体に垂らすと短時間でその物体の数が倍に増えるという道具の件らしい。
で、主人公達はどら焼きにその物質を垂らして増やそうと考えたものの、増えすぎて始末に困り、結局たくさんのどら焼きをロケットで宇宙へ飛ばしたのだという。
『しかし宇宙へ飛ばしたからといって安心してはいけなかったのですな』
「はい。おそらく短期間でどら焼きの惑星が完成し、さらには宇宙を埋め尽くすでしょう」
どら焼きの惑星!?
『もしくは宇宙を埋め尽くす前に自らが生み出す質量に耐え切れなくなって・・・』
「《どら焼きのブラックホール》ができあがる」
数学スゲーーー!
『で、結局我々は』
「何を言いたいのかというと・・・」
なぜか般若面とグラサンスキンヘッドの二人は遠くから傍観していたオレの方を向いた。
『こういう夢をブチ壊すような事を言ってはいけないということです!』×2
だったら話すんじゃねぇよ!!
何でオレの方を向きながら言ったのかは全くの謎のままだったが、魔列車が《ダスト・フィールド》に到着したので全員は荷物を持って駅に降り立った。
雪が降りしきるダスト・フィールドは、一言で言うと雪山。
山とはいっても特に傾斜があるわけでもなく、目の前には広大な雪原が広がり、所々に重々しく雪を積んだもみの木が立ち並んでいる。遠くにはゲレンデまで見える。
まさに冬といえばココ!というくらいの土地なのだが、ここを貸し切った閻魔さんはすげぇ。
その大将は先頭に立ってみんなを引率する。
『よーし、ここから少し上へ行けばペンションがあるからな。夜叉はチビ共と七崎、三笠、渡瀬を。白狐は里原、佐久間、須藤を頼む』
『承知』
『わかったわ』
『着いたら防寒着に着替えれば良いが寒かったら早めに言えよ、俺様が熱制御魔法かけてやっから』
確かに、ぶっちゃけメチャクチャ寒い。みんなもはしゃぐ姿が多少ぎこちない。死神達の衣裳でもここまでの寒さには耐えられないだろうな。厚着しておけばよかった。
『あとロシュとメアとバンプはむやみに雪を口に入れんなよ。腹壊すぞ』
『はぁーい!』×3
どうやら前科があるらしい。
『まぁ少しの距離だが、お前らはぐれんじゃねぇぞ〜』
『はぁーい!』×9
さ、さすが総大将。なんともない顔で九人をまとめてテキパキ指示を出しやがる。しかも反射的に、無意識なくらいの思考速度だ。
そして夜叉さんの引率の下、死神達は大はしゃぎで前を進み、それに続いてオレ達も白狐さんと軽い世間話をしながら進むのだった。
「メア、バンプ、見てよあっちの雪ふかふかだよー!」
「ほんとですー!」
「ダイブしようダイブ!」
『ちゃんと付いてきなさい!』
「ふぎゃ!」
「ふぎゃ!」
「ふぎゃ!」