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死神といっしょ!  作者: 是音
95/116

第95話 死神の童話

 年末ってのは本当に忙しい。

 その中でオレが一番苦労するのが年賀状である。


 友人とかにはメール送ったりするだけで構わないのだが、オレには他にも送る相手が居る。


 親父の会社関係者だったり、オレの生活を影でサポートしてくれる人達、などなど・・・。


 つーわけで、コタツの上には大量の年賀はがきが積まれていて、オレはせっせと書いているわけだ。


「すぴー」


 目の前にはペンを持ったまま突っ伏して爆睡する死神。

 オレが年賀状を書いているのを見て自分も書くと言いだしたのだが、デーモンさん、ヴァルキュリアさん、アヌビスさん宛まで書き終え、閻魔さんへ書こうとする寸前でスリープギブアップしたのだった。

 つーかその人達宛に書いたのはオレで、死神はメッセージを書くだけだった筈だが・・・。


「ZZZ・・・ホイッスル!・・・むにゃむにゃ」


・・・。


 丁度良い機会なので、コイツの寝言を研究してみようと思う。


「ZZZ・・・審判!審判今のオフサイドでしょ!」


・・・サッカー観戦の夢を見てんのか?


「ZZZ・・・ヘイ、パス!パスパス!スルーパス!」


 プレイヤーの方でした。

 わかってきたぞ。今日の奴の夢はサッカープレイヤーになっている夢だ。

 少年かよ。

 次は多分《ボールは友達》とか言うんだぜ。


「ZZZ・・・どえりゃあ可愛いがね♪ウフフ」


 まさかの名古屋弁でオレの予想がすべて崩れました。



 ほんの少し研究した結果、奴の夢は場面転換が激しいという事がわかり、だんだんと素直に受け入れられるようになっているオレ自身がピンチだという事がわかりました。


 ハガキが涙で濡れそうなので、うさを晴らすために死神のほっぺを軽くつねってやる。

 おとな気ないというツッコミは無し!


にょーーん


「ZZZ・・・ぬーん、ほっぺがマシュマロに・・・」


 そりゃ素敵なメルヘンだなおい。


・・・ん?


 気付かなかったが、爆睡するメルヘン少女の手元に一冊のノートがある。

 あぁ。最近アイツが書いてた自作の童話だ。完成したら見てくれと何度も言われてたのだが、できあがったのだろうか?


 ノートをオレの手元に寄せる。

 童話か。アイツ日本昔ばなしが好きだもんな。


 表紙をめくってみる。


 ふむ、どれどれ。


パラ


・・・。


DEATHデス太郎】


・・・。


パタン


 オレはゆっくりと表紙を閉じて、大きく、そしてゆっくりとため息を吐いた。


「超怖ぇ・・・」


 見るのが怖い。すんげぇ怖くておもわずノート閉じちまった。

 けれど、これを後々見せられるって事だろ。なら今のうちに免疫(?)を作って備えておくべきか。


 オレは恐る恐る再びノートを開いた。


――――――――

――――――――


《DEATH太郎》


 昔むかしの事でした。

 霧のたちこむ森の奥深くに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。

 二人はとっても仲が良く、今日もおじいさんは村へ人狩りに、おばあさんは(三途の)川へ選択を迫りに行きます。


(怖ぇよ!)


『ひっひっひ、おぬし達、アタシが美人かそれともグラマラスか、選びなさい』


 おばあさんが(三途の)川で死者達に意地悪な選択を迫っていると、川の上流から大きな桃が、どんぶらこ、でろでろで〜ん、と流れてくるではありませんか。


(なんで三途の川に桃が流れてくるんだよ!)


 本当は太股ふとももにしようとしましたがやめました。


(気味悪っ!)


 やっぱり流れてくるのは桃です。


『おや、これは珍しい。とりあえず持って帰ろうかね』


 おばあさんは大きな桃を抱えて家に帰りました。

 おじいさんは大驚きです。しかし慌てる事無く、セオリー通りにちゃんと大きな桃を割りました。おじいちゃん偉い!


(おい)


 さぁ、桃は真っ二つ!何かが入っていると期待していたおじいさんとおばあさんは中を覗き込みます。


 しかし中には何も入っていませんでした。


(ダメじゃん)


 スタッフのミスにおじいさんとおばあさんは大激怒。


(おい)


 怒りが収まらぬまま、二人はその勢いでサイボーグを造りました。なんと二人は科学者だったのです。


(いきなりハイテク!)


 予想以上の出来具合に《プロフェッサー爺》達は大満足です。


(名前が変わった!)


『ふぇっふぇっふぇっ!まさに最高傑作じゃ!』


『お爺さんや、この子の名前はどうしましょうか?』


『候補は二つある!』


『あら、そうですの?』


『《DEATH太郎》、もしくは《里原準》じゃ!』


(まんまオレじゃねぇか!)


『どちらにしましょうかお爺さん?』


『うーむ、やはり里原・・・』


『私は《DEATH太郎》がよろしいのではと・・・』


『うむ。婆さんがそう言うのならそっちにしよう』


(おばあちゃんナイス!!)


 こうしてデス太郎と名付けられたサイボーグは完成しました。

 最強の身体と最低の性格を身につけて。


(余計なものが身についてる!)


『さぁ起動せよデス太郎・・・ぐふっ!』

『ぎゃふっ!』


 最低な性格をしたデス太郎は、起動と同時に生みの親である二人の科学者を倒してしまい、近くにあった薬棚から《精神安定剤ジアゼパム》を大量に調達して家、もとい研究所を飛び出しました。


 さぁ、鬼退治へ出発です!


(すげぇ旅立ちだ・・・)


(ツッコミきれない)


 さて、無事に出発をしたデス太郎。ここで最新鋭の技術を投入した超越サイボーグの彼の仕様をご紹介します。


 当然、戦闘時の目標補足用FCSには生体反応センサー、暗視モードが備わっており、補足距離も十分。


 そして見所はジェネティック・サイバーシステム採用の装甲!


 武装は全て収納されていてその能力は未知数!

 さらにさらに・・・


(なんか凄い説明が始まったので割愛します)


(昔ばなし・・・だよな?)


・・・というわけでデス太郎に死角は無い事がわかって頂けたと思います。


 えーと、ここまで来たら次の展開はもちろんアレです!


(完璧にベースは桃太郎だからな。次の展開で登場するのは・・・)


 そう、《狂犬》です。


『グルァァァァァァ!!お、おい、そ、そそそこの坊主・・・』


(マジで狂犬キター!)


『そ、そそその《精神安定剤ジアゼパム》をくれ!』


 狂犬はデス太郎に懇願しました。

 しかし性格が最低なデス太郎はある条件を叩きつけます。


『ケッ、じゃあその代わりにてめぇは名前を《不乱犬フランケン》に変えな』


『か、かかか、変えます変えます!』


『俺様の捨て駒になると誓え!』


『ち、ちちち、誓います誓います!』


 こうして狂乱する犬と誓約を交わしたデス太郎は、狂犬こと《不乱犬》に精神安定剤をあげました。

 やさしいねデス太郎!


(・・・)


 不乱犬はだんだんと落ち着きを取り戻していきました。


『我が主人。鬼を討伐する際は是非ともこの不乱犬を捨て駒にして下さいませワン』


(犬のキャラが・・・!)


 意外に紳士的な性格だった犬をしもべにしたデス太郎は次にお猿さんに出会いました。


(次はサルか)


 サルはなにやらパニックを起こしながらデス太郎達に近づいてきます。


『ウッキーーーーー!! Who am I!?(私は誰!?)』


 記憶喪失のサルは外国のお猿さんでした。


(すごい設定!)


 やさしいデス太郎はサルを助けてあげることにしました。


『Hey you!!(おい、君!)』


『!?』


 デス太郎は英語で話し掛け、パニック状態のサルに精神安定剤を手渡しながら語り掛けます。


『You actually are my faithful servant.(実は君は俺様の忠実なしもべなのだよ)』


『ウキ!?』


『OK?』


『OKウキ』


(サルとまさかの英会話!?)


『That's right. You are understanding monky.(よろしい。君は物分かりの良いサルだ) but...(しかし・・・)』


『ウキ?』


 デス太郎はサルを睨み付けます。その目からは今にも殺人ビームが出そうな勢いです。


『次からは日本語で喋れ。我がしもべ!』


『申し訳ございませんウキ!』


 デス太郎は最初からサルが日本語も話せることを見抜いていました。


(最初からそう言え!)


『よし、サル。貴様は今より《光秀みつひで》と名乗れ!』


(立派な名前貰いやがった!つーか秀吉ひでよしじゃなくてそっちか!)


 さて、サルこと光秀もしもべに加えたデス太郎一行は旅を続けます。


 そんな中、一番後ろを歩いていた不乱犬はこんなことを考えていました。


『ワゥ・・・(光秀が登場した所為で私の個性が一気に薄れてしまったワン。このままでは私がデス太郎様に見離されてしまう)』


 不乱犬はなんとかして光秀を始末しなければ、と思いました。


 ほぼ同時刻、光秀はこんなことを考えていました。


『ウキキ・・・(記憶喪失なんてウソウソ〜♪ 最後にデス太郎を暗殺して僕が歴史に名を残すのさ。計画どおりあの犬より個性を出す事には成功したし、あらかじめ邪魔になりそうなキジも始末したし♪)』


 そう。サルが最初に英語を話していたのは《アメリカンドリームを掴むウキ!》という意気込みのあらわれだったのです。


 ほぼ同時刻、デス太郎はこんなことを考えていました。


『・・・。(あ、そういえば《センター問い合わせ》のセンターって何処なんだ?)』


 三人の息はピッタリです!


(ぐちゃぐちゃだ!)


 一方まだデス太郎達がのんびり歩いている頃、デス太郎達の行く先にはある物体が転がっていました。

 光秀に始末された筈のキジです。


 キジはふらふらになりながらもなんとかデス太郎に危険を伝えるべく立ち上がったのです!

 あと多分キジの泣き声は《ケーン!》だったと思うので、そう設定しておきます。


『ケ、ケーン・・・(あのサルは危険だ。いや、それより彼らが向かっている鬼ヶ島の方がもっと恐ろしい。なんとかして引き止めなければ・・・!)』


 キジが待っていると、デス太郎一行がやって来ました。

 キジを見た光秀は〈チッ〉と舌打ちをしました。

 もちろん音波収集機能に優れたデス太郎はそれを聞いていましたが、今はキジの方に気が向いています。


『なんだてめぇは。キジか?』


『はい。デス太郎さん、これは忠告です!鬼ヶ島へは行ってはいけません!』


 上から目線のキジの口調にデス太郎はイラッとしました。

 それを察知したしもべの不乱犬と光秀は戦闘態勢に入りますが、デス太郎は制止しました。


『うっせーよ。生地きじ


 デス太郎は所詮貴様などは布レベルだと言わんばかりの高圧的な姿勢です。

 しかしキジは引き下がりません!


『なりません!もし行くというのならこの私を倒してから行きなさい!』


 というわけで、生意気なキジを全力でボッコボコにしたデス太郎一行は旅を再開しました。


(ぅおい!)


 さあ、いつの間にか目的地として定められていた鬼ヶ島へ到着です!

 デス太郎はエネルギーをチャージし、しもべ二匹も戦いに備えます。


 しかし、彼らが来たとき、鬼ヶ島はすでに制圧されていました。


(?)


 数々の鬼共の屍が積み上げられ、その頂上にはなんと、あの有名な《桃太郎》が立っていました。


(まさかの出演!)


 桃太郎は邪悪な魂を持ったデス太郎を見下ろしながら言いました。


『やぁ、遅かったねベェイビィ〜♪』


 桃太郎は、桃が実はバラ科の植物なのだと知ってからは調子に乗ってキザったらしい性格になっていました。


(うざっ!)


 二匹のしもべを従えたデス太郎は、現《最高の英雄》という名を欲しいがままにしている桃太郎を睨み上げて、どう攻め込むべきか戦略を考えました。


『・・・。(桃を割ったら桃太郎が出てきたんだよな? じゃあ桃太郎を割ったら桃太郎太郎が出てくるのか?)』


 さぁ、英雄を決める戦いの始まりです!


――――――――

――――――――


・・・。


 どうやらまだ書きかけで、ここまでのようだ。

 子供には見せられない童話だ・・・。


「うーん、寝ちゃったよー」


 死神が目を擦りながら頭を上げる。

 ハガキの上に顔を乗せてたから変な跡がついていた。


「ん〜・・・あっ!準くん読んじゃったの!?」


 オレが書きかけのノートを手元で開いているのを見た死神は、顔に付いた跡を気にしながら声を上げた。


「これ書きかけだったんだな」


「うん!どうだった!?」


「パクリは駄目だろ」


「えーっ!」


「明らかに桃太郎ベースじゃねぇか」


「参考にしただけだよー」


・・・。


「死神、パクるのと参考にするのとは全然違うんだぞ」


「そうなのー?」


「気持ちの点でもな」


 死神は首を傾げる。

 ったく、コイツは・・・。


「あのな、これは自論だがパクるってのは引用とも違って、自分の限界を認めるって事なんだぜ?」


「ふむふむ。じゃあ参考は?」


「参考は自分の力をより伸ばすという気持ちを持つ事だ」


「うー?なるほどー」


「ちなみに三笠も、【理論のねじ曲げでどう解釈するかは人それぞれですが、くれぐれも己の器の小ささを曝け出さないように】とか言ってた」


「今度三笠くんの頭に《浮世絵》を描いてやるわ!」


 余計なこと言ってごめんよ三笠。逃げろよ三笠。


「さて死神、お前は自分の限界を認めるのか?」


「そんなわけないぜー!」


 両手を高々と上げた死神。さっそくペンを手に持って新しい話を書き始めた。


・・・。


 あ、いや、それよりも年賀状を書くんじゃなかったのか?


「でも準くん、面白い自論を持ってるねー」


「好きな言葉は《コロンブスの卵》だ。よろしく」


「《フロンガスの釜戸》?」


 違ぇよ。オゾン層に悪いよ。


「何でも最初にやった人はすげぇって意味だよ」


「ふーん。私もそう思うよー」


 本当に聞いているのかいないのか、死神は驚くほどの速筆で今度こそオリジナルの童話を書いている。

 こいつの速筆っぷりは夏の絵日記の時にわかっていたが、やっぱり速ぇ。


 さてと、オレもまだまだ年賀状を書かないとな。


・・・。


「な、なぁ死神」


「ふぇ? なぁに?」


「その・・・。デス太郎は結局どうなったんだ?」


「アハハハハ!なぁに準くん、気になるのーー!?」


 なんかこう、じわじわと気になってくるんだよ。

 不乱犬と光秀の裏でのやりとりとか。


「ふふーん、教えてあげない♪」


 この野郎♪

皆様の御愛読・応援のおかげで当作品ももうすぐ100話を突破いたします! 今回も感謝企画のお話を予定しておりますが、企画話は100話ではなく、連載開始から一周年となる『一月九日』の更新を予定しております。

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