第90話 死神達とコタツ
「いただきまーす!」
「いただきまーす!」
「いただきまーす!」
今夜はナイトメアとバンプが来ています。というか預けられた感じ。
今夜は有名なワインが解禁されるとかで、冬音さんと彩花さんは二人で解禁パーティーへ出掛けてしまったのだ。
で、その二人が居ない今夜はオレがナイトメアとバンプを預かる事になったわけ。
預かるとは言ってもナイトメアは死神とケンカする以外はしっかりしてるし、バンプのおかげで夕飯の支度も楽だったわけで、わりとこっちが助かったりしている。
「ちょっとロシュ!今私の食べたでしょ!」
「ひふえいは!ひょうほはおほほ!(失礼な!証拠はどこよ!)」
「テメー実は相当な馬鹿だろーー!」
「ふぁんあふぉー!(なんだとー!)」
ボカスカボカスカ!
ボカスカボカスカ!
「ロ、ロシュもメアもやめなよ!食事中・・・ぶはっ!」
「こらロシュ!バンプが・・・」
「アハハハハ!《銀髪ケチャップ》と呼んでやるわバンプ!」
「なんだとー!」
ボカスカボカスカ!
ボカスカボカスカ!
ボカスカボカスカ!
・・・。
に、賑やか・・・。
散々暴れ散らした三人のおかげで食卓はどえらい有様になってしまったのだが、まぁいいか。
食事という名の戦争が終わり、食器を洗っていたオレは居間に座ったナイトメアバンプが何かを興味津々に見ている事に気付いた。
「なんですかこのテーブルー?」
「布団がくっついてる!」
「ふふん、それは《炬燵》っていうのよメア、バンプ」
「コタツー!?」
「あーっ!中があったかい!」
「コタツは冬の常識よ常識!」
てめーも初めて見たとき『なんじゃこりゃー!』って叫んでただろうが死神。 まぁオレは寒がりだから早めに出していたのだが、近いうちに佐久間宅、須藤宅でも見られるようになると思うぞ。
「ぬくぬく〜」
「ぬくぬくです〜」
「ぬくぬくだ〜」
三人が電気コタツの中でぬくぬくしている中にオレも加わる。
「あっ!誰かの足とぶつかったよ!?」
死神は懸命に中で足をもぞもぞさせている。誰の足か当てるのがちょっぴり楽しかったりするよな。
「うーん、だれの足だろー?」
ペキ♪
「ギャァァァ!指関節を攻撃すんじゃないわよ!」
ナイトメアの足だったらしい。
「くらえバンプ、《コタツ内四の字固め》♪」
「ぎゃああああ!」
死神が高度な技を繰り出した。しかもコタツ内でどのような攻防が繰り広げられているのかはわからず、胸元まで中に入り込んだ二人がひたすらリアクションを顔に出すのが面白ぇ・・・。
例えば、今四の字固めをかけられて苦しそうなバンプを、コロンと転がしてやると・・・。
「みぎゃぁぁぁ!《逆四の字》!」
反対側でコロンとうつ伏せになった死神が苦しみだす。
ちなみにナイトメアとオレは安全圏でコーヒー飲みながら観戦。
呆れ顔で攻防を見ていたナイトメアが突然何かを思い出したらしく、こっちを向いた。
「そういえば準くん、私とんでもない噂を聞いたんです!」
「とんでもない噂?」
「なんと、ラビットさんの他にも《ジョーカー一族》が存在するらしいです!」
出たーー!
「う、うん。オレもジョーカーさん本人から聞いたことがあるから多分事実だ」
「やっぱりですかー」
確かオレが聞いたのは魔書館の館長がジョーカーさんの従兄弟だという話だけだったが、考えてみれば他にも居たっておかしくはないのだ。
「それがとんでもない噂なのか?確かにとんでもない話だが・・・」
「とんでもないのはここからです!」
ほう?
気付けば死神とバンプも争いを止めてこちらに耳を傾けている。
コホンと咳払いしたナイトメアは人差し指を立てて話しはじめた。
・・・。
あ、今日のほっぺペイントは星と雫かぁ。
――――――――
――――――――
ラビット・ジョーカーさんは地獄にも天国にも関わりのある魔導会社の社長としてとても有名です。
そして魔賓図書館の館長がジョーカー一族の人間であることも有名なんです。
(有名だったのか)
(でもみんな名前しか知られてないんだよっ)
(僕も本当にウサギ頭だとは思わなかったもん)
(ははっ)
他にもあらゆる大機関の重役にはジョーカー一族の名前が数多く挙げられています。
(すげぇな)
中でもラビットさんに次いで有名なのが《ジャッカル・ジョーカー》という人物なんです。
(私も名前だけなら知ってるー!)
(僕もー!)
(・・・やはりジャッカル頭なのだろうか?)
彼だけは本当に名前だけが有名で、一体どんな組織に所属しているか全くの謎だったです。
(で、最近聞いたとんでもない噂ってのが・・・)
その通りです準くん!
(《メアのウエスト》の噂!)
(しょーもない噂じゃん)
ぶっ飛ばすわよロシュ、バンプ。
そうじゃなくって、噂ではなんとジャッカルの統括する組織は・・・。
(まさか秘密結社とかなのか?)
(わくわく)
(わくわく)
・・・。
《愛と白兵戦と温泉巡りでは誰にも負けないと主張する大部隊》・・・だそうです。
(痛い組織キターー!!)
(アハハハハハハ!!)
(ア、アバウトなのに痛々しい事だけはすごく伝わってくるーーー!!)
―――――――
―――――――
・・・。
すげぇ。
ジョーカー一族すげぇ。
そんな奇抜な主張を掲げる組織なのに、それを統べる人物が有名人物だって事を誰も知らないんだとさ。
いや、多分ラビットなジョーカーさんは知っているだろう。
死神とバンプは腹を抱えて笑っている。
「AHAHAHAHAHA!《温泉巡り》って何ーー!?」
「HAHAHAHAHAHA!ま、負けても別に悔しくねぇーー!」
「アハハハハ!お腹痛いー!」
「僕もー!」
絶対に関わりたくないね。ジョーカー一族の凄さはよくわかったから。
『ホホホ♪ジャッカルのお話ですか』
『あんにゃろーは行方不明ですよ〜』
!!
「あっ!ビジョーさんとシャドーさん!」
「噂をすれば!です!」
「ジョーカーさんだ!」
うん、本当にいつの間にかウサギ頭と影女が当たり前のように座っていた。
急に現れるのはやめろ。すんげぇビックリするから。
『ホホホホホ♪日本の《KOTA・2》とやらを体験しに来ました』
普通に言えよ。
『ほほー、これは暖かいですなー』
既にシャドーは真っ黒な身体をリラックスさせている。
「ちょうど良かったですラビットさん!ジャッカル・ジョーカーについて教えてほしいです!」
頼むナイトメアだったが、ジョーカーさんはお茶を出したオレに会釈した後、困ったような仕草をした。
『それが・・・ジャッカルについては私もよく存じ上げていないのです。シャドーが申し上げました通り現在は行方不明となっておりますし』
「そうですかぁ・・・」
残念そうな顔をするナイトメアの頭をポンポン叩きながら、オレはコタツの上にお茶菓子を置いた。
「まぁ、謎にしておいた方がなんだか格好いいんじゃねぇか?メアちゃん」
「それもそうですね!」
明るくそう言うとダークピエロはお菓子争奪戦に加わった。
三人に加え、シャドーが入った事で戦いはヒートアップしている。
ジョーカーさんはそれを笑いながら観戦し、紅茶を飲んでいる。ウサギの頭でどうやって飲んでいるのかというと、あの死神の父親さんと同じテレポートを使っているのだ。
「ジョーカーさん、着ぐるみでコタツに入ったら暑くないですか?」
『そ、そそそそそんな事はございませんよ』
ベタな動揺だなおい。
「みんなでジョーカー一族の話をしてたんですよ」
『ホホ、そうですか。しかし一族とは申しましても我々は互いの事をよく知っているわけではないのですよ』
「そうなんですか?」
『かといって無関係でもないです。困ったときは助け合ったりします。ほら、以前魔獣の件でも・・・』
あぁ、ナイトメアと二人で地獄へ行ったときのやつか。魔獣管理をしているジョーカー一族の一人に魔獣を預けようとする途中で起こった事故だったっけ。
賑やかな夜は遅くまで続き、ジョーカーさんは仕事があるので帰ったのだが、シャドーは遊び疲れたのか死神達三人とコタツの中で眠ったまま朝を迎えたのだった。秘書失格じゃん。
あ、ちなみにコタツの中で寝ると風邪をひくらしいから気を付けよう。
そして朝方パーティを終えてそのままオレの部屋へやってきた冬音さんと彩花さんは典型的な酔っ払いと化していた。
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―――――
―――朝6時
インターホンの連打をくらって寝呆けながら冬音さんと彩花さんを中へ入れたオレは、激しく後悔した。
酔っ払い共はまだ眠っている連中に絡みだしたのだ。
「んぁ!影女が寝てるぞ須藤!」
「カゲノビール♪カゲノビール♪」
『ふゃぁぁぁ!里原様、これは何事ですか〜!?あぁぁぁぁ身体が伸びてしまいます〜!!』
「ぁあん!?死神達も寝てんのか!」
「コラ!起きなさい♪」
ビシッ!ビシビシッ!
「痛ーい!」
「痛いですー!」
「痛いよー!」
おとなしく寝てんだから絡むんじゃねぇよ。
「準、土産のワインだ!今日解禁だったやつ!」
オレ飲めねぇよ!
「さぁ、二次会よ〜♪」
「おーー!」
朝っぱらからそのテンションには付いていけねぇよ。
「眠いよ準くん〜」
「冬音さん酔っ払いです〜」
「酔った彩花さんは最悪だよ〜」
『社長、助けてください〜』
な、なんでオレの部屋で二次会なんだよ・・・。
「一番、須藤彩花♪《ズラ・リジェクト》歌いまーす!」
「いいぞ須藤ー!」
ひたすら盛り上がる二人に対してオレとシャドー、死神、ナイトメア、バンプはコタツの中で眠い目を擦りながらリズムに合わせて手を叩くばかりだった。
皆様、いつも《死神といっしょ!》を御愛読頂き有難うございますっ。 作者の是音でございます。 年末年始にかけて私生活が確実に現状より凄まじく忙しくなってしまう予定ですので、もしかしたら私が一年前から自分自身に定めておりました《一週間以内更新》が守れなくなる場合があるかもしれません。 全力で執筆時間を切り開けるよう今から行動を開始しております。 しかし、もしそうなった場合は申し訳ございませんが、『まったり待ってやるぜー! by死神』的な気持ちでお待ちくださいませ♪ では、どうぞ今後も宜しくお願い致します。




