第86話 死神とハロウィン
騒げ騒げよ盛大に♪
年に一度の大祭り♪
さぁさぁ歩くよどこまでも♪
集めろ集めろ甘いモノ♪
お菓子でいっぱい皿の中♪
お菓子のおかげで出会いがいっぱい!運命繋がる貴重な一日!
さぁさぁ歩くよどこまでも♪
合い言葉だけは忘れるな♪
口を揃えてさぁ叫ぼう♪
お菓子が欲しいぞ『trick or treat!!』
愉快、爽快、大喝采♪
おっと駄目だぜ気をつけな♪
僕の頭を食べてはいけない♪
さぁさぁみんな僕に続きな♪
僕の名前は《ジャック・O・ランタン》〜♪
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「おーい渡瀬、焼けたからラッピング頼むよ」
「はーい」
今日はハロウィンパーティーです。
本来ハロウィンはケルト人の収穫感謝祭がキリスト教に取り入れられたものだとか三笠が言っていたが、よくわかんねぇ。
とりあえず一般的なハロウィンは10月31日の夜、かぼちゃをくりぬいた中に蝋燭を立てた提灯(なんて言うんだっけ?)を作り、様々な仮想をした子供達が
『トリック・オア・トリート{お菓子をくれないとイタズラするぞ}』
と唱えて近所の家を一軒ずつ訪ねるのだ。
今夜は地獄でそのパーティーが行われるらしく、死神は既にナイトメアとバンプと一緒に地獄へ行ってしまった。
地獄でハロウィンパーティーなんて、リアルだなオイ。
で、オレは地獄へ持っていく為に今キッチンで大量のクッキーを焼いていた。
「三笠くん!リボンリボン〜!」
「美香さんはすぐ頭に巻き出すから駄目ですよ」
美香と三笠と渡瀬にも手伝ってもらい、オレの部屋の居間にはラッピングを施された大量のお菓子が用意されている。
「里原くん、私地獄なんて初めて行きますよ〜」
あぁ、そういえば渡瀬は死神業者の三人を知ってはいても地獄の事はほとんど知らないんだったな。
「三笠くんと美香さんは行ったことあるんですか?」
「実はあるのよー!」
「ええ。30話記念の宴会の時に呼んで頂いたことがあります」
「とっても良い所よー」
美香と三笠の説明を渡瀬は、ほー、とか言いながら熱心に聞いている。
・・・。
あの大将の性格を目の当たりにしたら何と言うかな。
地獄旅館の客やそこで働く人達からお菓子を貰うべく、大勢の子供達が並んでパレードをするのだという。
なので死神達三人だけで行かせるのは少し心配だったのだが、夜叉さん曰く《至上最高の引率係》とやらが居るから絶対安全なんだとか。
そしてオレも閻魔さんに呼ばれ、皆にお菓子を配る為にこうしてせっせとクッキーを焼いている。
美香、三笠、渡瀬の手伝いもあってなんとか間に合いそうだ。
「あわわわわ。お菓子で居間がいっぱいになるなんて、信じられません!」
渡瀬の言うとおり、居間は包装されたお菓子の小袋で埋め尽くされ、美香と三笠はその中に埋もれていた。
「んもぅ、邪魔ねぇ!全部私達だけで食べちゃいましょうよ三笠くん!」
「ノルマは一人百袋ですね」
ふざけんなお前ら。
「でも里原くん、こんなにいっぱいのお菓子をどうやって運ぶんですか?」
「ん?あぁ。それなら心配ないぞ」
オレは天井に開いた黒い穴を見ながら言った。
中から現れたのは夜叉さんと白狐さんだ。
『お待たせしました里原殿』
『あらあら、さすがねぇ。こんなに作るなんて』
ストンと床に着地した二人は周囲の小袋を見回している。
「おや、夜叉さんではないですか」
「おぉ!三笠殿、お久しぶりですな!」
「どうでしたか《アレ》は?」
「それが三笠殿の言う通り、合コンで使ったら大当たりで・・・」
スパァァァァン!
バキィィィィッ!
美香が三笠の頭を叩き、白狐さんが夜叉さんをぶん殴る。二人のタイミングはピッタリだ。
「うちの《グラサンスキンヘッド》がご迷惑をおかけしてます」
「うちの《女好き般若面》がご迷惑をおかけしてます」
美香と白狐さんが同時に頭を下げた。
三笠と夜叉さんもちょくちょく交流があるらしく、日本文学とかの話が主なのでオレは全然知らない。
「ほぇ〜、鬼さんと狐さんですよ〜」
隣に立った渡瀬が般若面と狐面の着物姿をした二人に見入っている。
「おぉ。貴方が渡瀬殿ですな?某、夜叉と申します。以後お見知りおきを」
「ロシュ達から聞いてるわ。私は白狐よ、宜しくね」
「あ、はい」
白狐さんはクスリと笑った後、今度は溜息を吐く。
「本当はあと二人ほど紹介しなきゃいけない馬鹿がいるのだけど・・・」
カブキさんと閻魔さんの事か。
「とりあえずこの大量のお菓子を運びますか」
夜叉さんがクッキーの入った小袋を片手に持って肩をすくめた。
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地獄旅館で行われるハロウィンパーティーは、説明したようにパレードの様に旅館内を進んでお菓子を集めていく。
この都市のように巨大な中を一晩で歩ききるなど無理なので、居住区や宿泊区、地獄街を中心とした場所等にみんな集まるのだ。
さて、ではオレ達はどこでパレードを待つのかというと、
オレと渡瀬は《エリート餓鬼》を五人程お手伝いに付けてもらい、地獄街の五階に位置する雑貨屋で待つ事になった。
そう。ゲルさんのお店である。
美香と三笠は、夜叉さんと白狐さんと共に六階の社員区画に居るはずだ。
カオスディメンジョンは相変わらずド派手なパステルカラーで彩られている。
「こんにちはゲルさん、死神がいつもお世話になってます」
この店の主人、《ゲル》さんは、その名の通りドロドロなゲル状の身体を持った一つ目である。
死神ご用達のこの雑貨屋はなんでも揃っていて、アイツが用いる道具等は大抵ここで購入した物だ。
奴の愛鎌をとんでもない高額で買わされたのもココ・・・。
ゲルさんは触手を伸ばしてきてオレと握手した。
やっべぇ、このプニプニや癖になりそうだ。
次にゲルさんは渡瀬の方にその大きな目を向けた。
「あぁゲルさん、こっちは渡瀬です」
店内の商品を興味津々で見ていた渡瀬は慌てて店主の方を向いた。
「あ、渡瀬由良っていいます」
渡瀬はプニプニ触手と握手した。
「わぁっプニプニです!」
挨拶も程々に、オレ達は店内に空けてもらったスペースに大量のお菓子を置いていく。
お手伝いのエリート餓鬼達はやはりというかさすがというか、ビックリするくらいの速さで仕事をこなしている。
『ゲル様、お久しぶりです』
『なかなか繁盛しているようで』
し、仕事をこなしながら店主と話してやがる。
『渡瀬様、更にスペースを空けて頂きましたのでこちらにも』
「は、はい!」
『里原様、そちらの箱も宜しいですか?』
「あ、あぁ」
エリート餓鬼はお菓子の詰められた箱を抱えて素早く行動する。
・・・。
エリート餓鬼五人のコンビネーションは凄まじく、オレと渡瀬とゲルさんは店外に出てそれを見守るばかりだった。
「す、凄いですねあの包帯を巻いた方達!」
「なにせ《エリート》だからな」
ゲルさんも腕を組むように触手を目の前で組み、五人の仕事ぶりを巨大な一つ目で見つめていた。
多分〈うちにも一人欲しい〉とか考えているのかもしれない。
「それにしても五階なのに高いですね〜」
とっとっと、と渡瀬は吹き抜けに駆け寄り、下を見下ろして感嘆の声を上げた。
「一階一階の天井がすごく高いからなココは」
オレも下を見下ろす。
円形の吹き抜けはとても広い。五階の反対側がとても遠くに見える程だ。それに沿って螺旋状に大階段が一本、ぐるぐると一階から六階まで各階を繋ぐように伸びている。パレードはここを通りながら各階を回るはずだ。
《死神業者最強決定戦》でここは激戦区だったんだよなぁ。
大階段を少し昇っては落とされる死神業者達をモニターで見た記憶がある。
それほどに広い場所なのだ。地獄街と称すだけはあってここだけで一つの都市機能が成り立つ。
「旅館って言うからどんな所だろうと思っていたけど、地獄街だけでこの大きさなら地獄はまるで一つの国ですねっ」
「ははっ、国かぁ。ワープで移動できるから実感が無いよなぁ」
ちなみに地獄街はいつもと雰囲気が全然違う。
ハロウィンな雰囲気なのだ。
装飾は全てカボチャやらコウモリやらのモンスターが飾り付けられ、今や地獄旅館全域に流れている音楽も気味が悪いくせに妙にアップテンポな明るい曲だ。
「オレンジや黒で怪しい雰囲気だけど、なんだかわくわくしますねー!」
「ここの連中はお祭り事が大好きらしいからな」
さぁて、ハロウィンのパレードはもうすぐスタートか。
アイツは今頃どこに居るかな?
『里原様、今死神様の事を考えてましたね?』
いつのまにか後ろに五人のエリート餓鬼が並んでいた。
「ち、違ぇよ!」
『ははは』
『解り易いですなぁ』
「おい渡瀬、何かフォローしろよ!」
「ふふふっ」
ゲルさんも肩を叩くんじゃねぇ!
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―――
うひゃ〜、毎年たくさん人が集まるけど今年は更に凄いよー。
「ちょっとロシュ!何よそれ!」
メアが私の手元を指差す。
「何って、袋だよ?」
「でかすぎでしょソレは!」
「そうかなぁ?」
「人が一人くらい軽く入るわよソレ!」
ふふん、メアだって大きな袋を持ってるくせに〜。
「私よりもバンプの方が凄いんだから!」
私とメアの目線の先には・・・
布がいた。
「アハハハハ!バ、バンプが袋に埋もれてるー!」
「ち、ちょっとバンプ!大丈夫なの!?」
二人で布を引き剥がすと、中からバンプが出てきたの。
「う〜ん・・・彩花さんに『貰えるものは貰えるだけ貰いなさい♪』って言われて渡されたんだ」
さ、さすがね彩花さん。
「冬音さんもさすがにそこまでは言わなかったわよ」
私達は今、地獄旅館の入り口。つまり《地獄門》前に居るの。
もうすっごい数の人で、準くん達の世界ではモンスターの格好をするらしいんだけど、私達の周りに居るのは本物のモンスターだったり!アハハハハ!
【HEY!調子はどうだいeveryone!】
あ!カキぴーの声だ!
【さぁさぁ年に一度のお菓子食べ放題!《ハロウィンパーティー》の夜がやってきたよー!】
「おぉぉ菓子ぃぃぃぃぃ!!」
「落ち着きなさいよロシュ!」
「無理だよメア、ロシュはもうお菓子の事しか頭にないよ!」
お菓子食べ放題だよ!?食べ放題!
〈〜放題〉って最高じゃない!?
《パ○放題》とか!
・・・。
・・・。
今日ツッコミいねぇー!
【いやぁ今年は多くの人が集まったね!この〈GAKI・P〉もビックリだぜシュガーレス! 無理もない、何故なら今年は《彼》がこのアジア支部にやってくるのだから!】
カキぴーがそう言った瞬間、地獄門の周囲が騒めきだしたよっ。
私だって楽しみだったもん!
年に一度、ハロウィンパーティーにしか姿を現さない、魔導社ですらデータを入手できない謎の人物。
でもってハロウィンパーティーの主人公っ!
【さぁお待ちかね!皆の引率を担当するのはこの人だぁぁぁぁ!幻の人物ぅぅぅぅ《ジャック・O・ランタン》の登場だぜぇぇぇぇぇ!】
暗い地獄門前。その中心の位置でスポットライトが一点に絞られたよっ!
その位置に突如現れたのは黒いマントを纏った人影!
見られるなんて夢みたい!
「見てよロシュ!メア!」
「ほ、本物なの!?」
バンプとメアと一緒に浮き上がって人影を見ようと頑張る。
見えたっ!カボチャの頭。
くりぬかれた目と口から穏やかな光が漏れてる。
そして彼は大きな声で言った。
『やぁみんな!僕の名前は《ジャック・O・ランタン》! 今夜は愉快な、爽快な夜にしようじゃないか!合い言葉は覚えているかなー!?』
その場に居る全員が声を揃えて答える。もちろん私も!
『《トリック・オア・トリート!!!》』
『いいねぇいいねぇ、元気がいいねぇ!そんな君達が僕は大好きさっ!』
ジャックはもうこの場に居る全員の心を掴んじゃったの!素敵じゃない!?
「うわぁ、ジャックだぁ。本物だぁ!」
「ロシュ、バンプ、後で握手してもらいましょうよっ」
『よーし、それじゃあ出発だ! お菓子という素敵なキッカケで、皆の物語が繋がる。ハロウィンとはなんて素敵な夜だろう!』
ジャックだけが浮き上がり、皆は着地する。ハロウィンでは歩くのがルールだからねっ。
『・・・ふふ、今年は素敵な出会いがありそうだね』
ん?
ジャックが何かを呟いていたみたいだけど、誰にも聞こえなかったみたい。
ま、いいや。とにかく出発だぜー!
「準くんのクッキー楽しみですー!」
「なぁにメア?準くんのクッキーが欲しいなら私が売ってあげるのに」
「夢を打ち壊すんじゃねぇ馬鹿ロシュ!」
「け、ケンカはダメだよ二人とも〜」
準くん達、どこに居るかなぁ〜♪
次回へ続きます♪