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死神といっしょ!  作者: 是音
84/116

第84話 死神と準と隠し事

※時刻【16:20】


「あらまぁ里原くん、元気?」


「ウチでお茶でもして行かない?」


 部屋へ上るマンションのエレベーターの中、住人の奥さま集団と一緒に乗ってしまったオレは困り果てていた。


 死神が部屋で爆睡している間に買い物へ出かけていたのだが、帰ってきた時マンションの前で立ち話をしていた奥様四人組に捕まってしまったのだ。


 このマンションに住んでいるだけはあって、身なりも仕草も上品だが・・・。


 エレベーターの中が超うるせぇ。


 二十代から四十代まで世代がバラバラなのに、よく話が合うもんだ。


 ちなみにオレが中学生の頃は悪い噂ばっかが立っていたらしいのだが、どういうわけか高校に入ってから最近はしょっちゅう話し掛けられるようになった。


 以前はよく食事会とかいうやつに呼ばれて連れていかされたが、最近は死神が居るのでお断わりしている。ぶっちゃけこの人達に教えてもらった料理も結構あったりするよ。

 美香に言うとからかわれるから内緒だ。


「ちょっと美味しい豆が手に入ったのよ」


「里原くんはブルーマウンテンだったかしら?」


「えー、来られないの?最近里原くんそっけないわぁ」


「じゃあ豆だけでも分けてあげるわ」


 次々と手渡されるコーヒー豆。


「す、すんません。こんなに頂いて!」


 両手が塞がっちまったよー。


「いいのいいの!」


「も〜、怖い子かと思ったら全然イイ子なんですもの!」


「そのギャップが母性本能をくすぐるのよね〜!」


「また気が向いたら食事会へいらっしゃいな」


・・・。


 早口かつ四人同時に喋りやがるからオレは聞き取れていなかったりする。


 仕方ないので各階でエレベーターから降りていく奥様方に適当にお礼と返事をしておいた。


・・・。


 いつも四人同時に喋ってんのか?


・・・。


 おそるべし専業主婦!


――――――――


―――――


※時刻【16:30】


「ただいまー」


 部屋に入ってキッチンへ向かう。死神はまだ寝てんのか?


「おかえりーー!」


 あれ、起きてんのか?


 居間で寝っ転がっている黒ローブに目を向ける。


「あ、間違えた!おかわりー!・・・むにゃ」


 寝てたーー!


 寝言うるせーー!


 アホ神に対して半ばあきれ気味の苦笑いを浮かべながら買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。


「とりゃーー!・・・むにゃむにゃ」


・・・。


 晩飯は何にしようかなぁ。


・・・。


 あっ、しまった!調味料買い忘れた。また買いに行って来なきゃな。


「どうだー!参ったかー!・・・むにゃ」


 アイツ寝ててもうるせぇよ。


 きっと夢の中で弱いものイジリでもしてんだぜ。


「参ったか準くんめー!・・・むにゃ」


「起きろてめぇぇぇぇぇ!!」


――――――――


―――――


※時刻【16:45】


「惜しい〜っ!あとちょっとで・・・」


「あとちょっとで?何だ?」


「にゃ、にゃんでもないです」


 あー、そうだ。さっきコーヒー豆貰ったんだった。


「死神ー、晩飯終えたらコーヒー飲むか?」


「飲むー!」


「あいよ」


「《あの》マグカップで飲むー!」


 ?


 マグカップ?


 おーっ、思い出した。以前買い物中に死神が発見して欲しがったから買ったマグカップだな。

 真っ黒でドクロの絵が描かれた気味の悪いやつだが、死神曰く《同類の雰囲気を感じる》らしい。


 とんでもなく値が張ったことだけは覚えている。


「わかった。とりあえずオレはもう一回買い物行ってくるから留守番よろしくな」


「はーい!」


――――――――


―――――


※時刻【17:30】


 いやー、参った参った。近くのコンビニでは売り切れだったから調味料買うために遠出しちまったよ。


 再び部屋に戻ると、どうやら死神はオレの部屋で漫画を読んでいるのだろう、居間にはいなかった。


 いつものように晩飯の支度を始める。


 すると死神がキッチンへやってきた。


「待った準くん!」


「どうした?」


「さっき彩花さんから電話があって、『バンプが夕飯作りすぎちゃったから一緒に食べましょ♪』だってさ!」


 ふむ。まぁこういう事はよくある。オレもバンプも、同居人が大食いなのでよく分量を間違えてしまうのだ。


「そうか。じゃあ今夜はバンプにご馳走になろうかな」


「そうしようそうしよう!じゃあ私先に彩花さんの部屋行ってるね!」


「あいよ」


 オレは出した材料を冷蔵庫に入れる。


 あ、死神の奴が帰ってきたらコーヒー飲むよな。

 今のうちにマグカップを洗っておくか。


 オレは食器棚に向かい、その中にある一際悪趣味なマグカップを見つけた。


 ったく、これがなんであんな値段なのかねぇ。


 オレはマグカップの取っ手を握り、取り出した。


ガン


 あ。しまった。


 強くぶつけてしまったが大丈夫だろう。というオレの判断は一瞬にして切り替わった。


 取っ手が、外れてしまったのだ。


 手に握っているのは取っ手だけ。


 本体は・・・


 落下中。


 やややや、やべぇ!


 全身の筋肉が驚異の反射反応を起こし、落下するマグカップをキャッチするべく身を屈める。

 このキャッチしようとする体制はまるでテレビで見た《百人一首》のプロが札を取る時のようだ。


 百人一首の時と同じように素早くマグカップを取れば良いのだ!


 よっしゃぁぁぁ!


・・・。


・・・。


・・・。


 オレ百人一首やったことねぇよーーー!!


ガッチャーーーン!!


 救えませんでした。


 死神お気に入りのマグカップは見事真っ二つに割れてしまい、オレの顔は真っ青。

 《高いから大事に使え》と自分で言っておきながら三つのパーツに分解してしまうとは・・・。


 あ、明日ばれないうちに同じ物を買っておこう。

 幸い今夜は彩花さん宅で食事だし。不幸中の幸いってやつだ。


 大事なマグカップを割ったなんて死神に知られたらどんな事態になるか想像しただけで鳥肌が立つよ。


 てなわけで、オレはいそいそと割れたカップを片付け、コーヒー類を連想させないようにコーヒー豆を隠そうとした。


 その時だった。


『さっとはらく〜ん♪彩花お姉さんが呼びに来てあげたわよ〜♪』


・・・。


「あ」


『あら』


 必死で彩花さんを口止めしたのだった。


――――――――


―――――


【時間は少し遡り】


※時刻【17:00】


・・・。


・・・。


 どーしよ。


 私の手にはマグカップの取っ手だけが握られてるの。

 準くんがコーヒー作ってくれるって言うから、マグカップを洗っておこうって思ったの。


 でも食器棚から出す時にガンッてぶつけちゃって、マグカップの取っ手を壊しちゃった・・・。


 結構高かったから準くんに《大事に使えよ》って言われてたのに。


あわわわわわ!どーしよーどーしよー!


 よ、よし、まずは接着剤でくっつけなきゃ!


 準くんは買い物に出ているから時間はあるぜ!不幸中の幸いってやつだねっ。


・・・。


・・・。


 よし、くっついた!あとは食器棚に戻して・・・と。

 うーん、でもきっとすぐに剥がれちゃう。明日同じ物を夜叉さんに買ってもらおう!事情を話せばわかってくれるわよ!


 あとは〜、今日を乗り切らなきゃいけないわね。


 てなわけで電話電話!


プルルルルル、プルルルルル


ガチャ


『須藤でぇぇぇぇぇぇす!!』


「あ、彩花さん?」


『あら死神ちゃん♪どうしたの?』


「実は――――――てゆう事情なの」


『なるほどー、なら今夜はうちでご飯にした方が良いわね♪バンプにも言っておくからいつでもいらっしゃいな〜』


「ありがとう彩花さぁん!」


 た、助かったよー。


 もし準くんにマグカップ割っちゃったことがばれたら・・・。


・・・。


 た、助かったよー!


 あっ、そろそろ準くんが帰ってくる!動揺しちゃいけないから準くんの部屋で漫画読んでよっと。


――――――――


―――――




※時刻【17:45】


 彩花さん宅へやってきたオレと死神は居間に座った。バンプの抵抗があったのか、ピンクだらけだった部屋は若干落ち着いた感じになっている。


「さぁご飯にしましょうね♪」


「ホントに助か・・・ゲフン!呼んでくれてありがとー彩花さ〜ん!」


 既に彩花さん宅に来ていた死神はクッションを抱えてテレビで映画を観ながらオレ達を迎えた。バンプはキッチンから料理を運んでくる。


「いらっしゃい!たくさん作らされ・・・ゲフン!たくさん作りすぎちゃったんだよー」




 バンプは手際良く皿をテーブルに置いていくのだが、置いた瞬間に皿から食物が消えるのですぐ片付けるハメになっていた。


「もぐもぐ。死神ちゃん」


「むぐむぐ。なぁに彩花さん?」


「《マグ》・・・」


 !!


 まずい!


「むゃ!!(まずいわ!)」


「おー!バンプ腕を上げたなぁ!超美味いぞ!」

「ホントホント!バンプのくせに生意気!」


 慌てて話を逸らすオレ。


「あらあら♪《マグネシウムリボン》欲しくない?って言おうとしたんだけど」


 この女子大生厄介!


 どうしても《マグカップ》が頭に浮かんできてしまう。


・・・。


 はっ!


 これはよくある『《マグ》と聞いただけで動揺してしまう』という展開だ!


 どうせこの後も《マグ・・・ロ》とか《マグ・・・ニチュード》とか言ってオレを動揺させようって魂胆だな?そうなんだな作者め!


 ハハハハハ、引っ掛かるかっつーの!


「あ。バンプ、《マグカップ》取って頂戴♪」


「ギャァァァァ!」

「みぎゃぁぁぁ!」


 ふ、普通に言いやがったこの悪魔ーー!


 慌てて死神を見ると、何故か奴まで飛び上がっている。顔面蒼白だ。


「あ」


「あ」


 しかも死神と目が合ってしまった。

 どうする?かなり怪しいぞオレ。動揺しまくりだぞオレ。


「バンプ気を付けなさいよ。落として《マグカップがパリーン》なーんて事になったら大変よ♪」


「ギャァァァァ!」

「みぎゃぁぁぁ!」


 この人に口止めは無理だったか!?

 こ、これはもう隠し通す自信がない。オレは恨みがましい目で彩花さんを見た。


「あ、彩花さん・・・」

「あ、彩花さぁん」


「ふふふっ、正直に〈ごめんなさい〉しちゃいなさいな♪」



・・・。


 仕方ないよな。


「あ、あのさ死神」

「あ、あのね準くん」


「あのマグカップ壊しちまったんだ」

「あのマグカップ壊しちゃったの」


・・・。


「へ!?」

「はぇ!?」


――――――――


―――――


―――


・・・。


 なぁるほどね。結局はオレと死神の二人で壊しちまってたわけか。


 真相が解明されたオレ達は、彩花さんとバンプに食事のお礼を言って部屋に戻ってきていた。


「ありゃー、見事に真っ二つだねぇ」


「危ないから触っちゃ駄目だぞ」


 居間のテーブルの上には三つに割れたマグカップの残骸。

 駄目だと言っているのにそれを死神がカチャカチャとつっついている。


「あぅ!痛ーーい!」


 案の定、指先を軽く切ってしまった。


 アホ神の指に絆創膏を貼ってやると、オレは残骸を新聞紙で包み始める。


「まったく。壊したのなら正直に言えよな」


「準くんだってー!」


「む。それもそうか」


「アハハハハ!」


 テーブルに置かれた二つの普通のコーヒーカップには奥様方に貰った豆で煎れたコーヒーが注がれている。


 死神は砂糖とミルクを入れないと飲めないらしい。


「明日買い物行こうぜー!」


「マグカップを買いにか?」


「うんうん!お揃いの買おう、お揃いの!」


「はいはい」


 次の日、オレ達は再びあのマグカップを買った店に訪れるのだが、そこであの悪趣味なドクロのマグカップが世界に百しか存在しない代物だったと聞いて仰天することになる。


 もしかしたら死神は価値のわかる目を持っているのかもしれないな。


「大変だ準くん!地獄通販で《パケラミャーノの長靴》が安いよ!一名様限りだよ!買いだよー!」


・・・こいつの価値観わかんねぇよ。

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