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死神といっしょ!  作者: 是音
83/116

第83話 神社の友人♪

 紅葉が敷き詰められた公園。


 死神は相変わらず落ち葉集めに夢中になって園内を奔走していたが、翔子さんの話を聞こうとこちらへやってきて、あろうことかオレの膝の上に着席しやがった。

 そして翔子さんはゆったりとした口調で語り始める。


「あれはうちがこの町へ引っ越して来る前、まだまだ小こかった頃の事どす・・・」


――――――――


―――――


―――


(オレは京都弁の《どすえ》ばっかりだとさすがに聞きづらいので死神に若干の翻訳を頼んだ)


 あれはまだうちが外の事をなーんも知らんかったようなお子様だった頃。つまり京都に住んどった頃ですな。

 実家の旅館は山奥にありまして、しかも老舗でうちは女将の跡取り娘。やから小学校に入るまでうちには友達ゆうのがおりませんでした。

 毎日だだっ広い庭で一人遊んでいたり、お客さんに遊んでもろたりしてましたんよ。


 子供ゆうんはよく秘密基地なんかを見つけますやろ?


(見つけるー!)


(お前は見つけ過ぎだ)


 ふふふ、うちにも一つだけありましたえ。


 それは実家よりもっと山奥にあった神社ですわ。


 あんまりにも山奥やさかい、だーれも来いひん。うちはそれを見つけてからというもの毎日通うようになりました。


(神社って、恐くなかったんですか?不気味ですよ)


 他に遊び場を知らんかったさかい。


(なるほど)


(ふーん)


 ある日うちは探険中に神社の近くに洞穴を見つけました。


 そんなん発見したらもうワクワクですやろ?


(ワクワクー!)


(・・・)


 うちもワクワクしながら着物の裾を捲り上げて中へ入ってみましたえ。


(図太い少女だ・・・)


 せやけど、つーまらん事にすぐ行き止まりになっていましたんや。


 見ればそこには何やらおーきな石が祭ってありましてな、興味本位でちょいと触ったろー思いましたんです。


(明らかに触っちゃダメな雰囲気だろ!)


 嫌やわぁ里原はん。結局は触りまへんでしたえ。

 うちが触ろうとしたら止められたんです。


『コラコラ、駄目よ触っちゃあ』


 って。


 振り返ってみるとそこには着物姿の綺麗な綺麗な女の方がはんなりと立っとりました。


 奇妙なことに狐のお面なんかを付けはって。


(!?)


(狐のお面ー?)


 ええ。

 話してみるとその方は死神はんと同じ死神業者をしてはると言っとりました。


(まさか)


(うーん・・・)


(どうした死神)


(うぅーん・・・ねぇ翔子さん)


 はい?


(その狐さん、大人だった?)


 はいな。大人のべっぴんさんでしたえ。


(そっかぁ)


(?)


 それからうちが神社へ遊びに行く度、その狐さんは居はりました。


『うちは翔子いいますえ。お姉さんはなんていいますのん?』


『私?私は《咲狐{さっこ}》というのよお嬢ちゃん』


(!!)


(やっぱり白狐さんじゃなかったね)


(どういうこった?)


(だって歳が合わないじゃん)


(そうか)


(ちなみに夜叉さんが昔《〈芥川〉に出てくる鬼のモデルは自分だ》って言ってたけど、実は夜叉さんの先祖なんだよっ)


(ほー)


 なんでも咲狐はんは仕事中にはぐれた同僚を探して此処まで来はったらしいですわ。


『翔子ちゃん、この辺で鬼が出たとかいう噂ないかしら?』


『昔話ではあったけど今はありまへんえ〜』


『そう・・・。まったく《鬼叉{きしゃ}》の奴、どこへ行ったのかしら』


 なんでもその同僚はん、女ったらしだったそうですわ。


(間違いなく夜叉さんの家系だよね)


 なんでもその一族は代々決まって女探しの為に京都へ出向くらしいですな。


(まさか日本に伝わる歴代の鬼ってのは・・・)


(アハハハハ!女たぶらかしに来た夜叉さん一族だったんだねー!)


(神話ぶち壊しじゃねぇか!)




 ほいでその鬼さんは一応京の街に居てはることは確かやゆうことで、咲狐はんはしばらくここに留まることになりましたんよ。


 うちはえらい喜びましたえ。

 それからゆうもの、神社へ行っては咲狐はんに地獄の話をぎょーさん聞きましたわ。


『はぇ〜、咲狐はんには娘が居てはるんやなぁ』


『真面目すぎる子なのよ。誰に似たのかしらね』


『ふふ、そら咲狐はんやわぁ♪』


『あら、そう思う?』


 地獄は聞くところによりますとヨーロッパにあるそうですな?


(あぁ、まだ死神達の両親がヨーロッパ本部で働いていた頃だったんだな)


(魔導高炉の暴走事故は私が生まれたばっかりの頃だったからねっ)


 はぇ〜、ほなら今の地獄は分裂してしまいましたのん?


(アジア方面を仕切っているのはとんでもない大将ですけど)


 地獄も色々あったんですなぁ。


 楽しかったえ、咲狐はんとお喋りをする毎日は♪

 せやけどお別れせなあかん時とゆうもんは嫌でもやって来るもんです・・・。


 うちが咲狐はんに出会うて一週間が経った日やろか。

 神社へ行ってみると着物をボロボロにした咲狐はんが居てはったんよ。

 狐のお面も壊れてしまって、素顔は思った通りのべっぴんさんでしたえ。


『あら翔子ちゃん』


『咲狐はん、そんなボロボロになってどうしはったん?』


『〈こいつ〉を連れ戻すのに苦労したのよ』


 見ると咲狐はんの後ろにはさらにボロボロになった着物姿の男性が転がってはりました。

 その人が《鬼叉》いう人で、咲狐はんが探してはった人ですな。


 般若のお面が恐ぁてなぁ、当時のうちは大層驚いたことを覚えとります。


『まったく、こいつの性格が息子に移らないことを願うばかりよ』


『ふふふ♪』


(見事に移ったけどな)


(アハハハハ)


 目的の人物が見つかったゆう事は、咲狐はんがここへ居る理由が無くなってもうたとゆう事ですわ。


 覚悟はしとったけど、お別れゆうのが寂しいものやとあの時に初めて知りましたえ。


『さて、お別れね翔子ちゃん』


『あっ、待って咲狐はん』


 鬼叉はんを担ぎ上げて去ろうとする咲狐はんに、うちは狐のお面を二つ手渡しましたんよ。


『咲狐はん、お面割れてもうたから丁度ええわぁ。もう一つは娘はんにあげてーな』


 狐の死神業者さんは快く受け取ってくれましたえ。


『有難うね、《小さなお友達はん》♪』


 肩に乗せた人を一発叩きながらそう言うと、うちの初めての友達は消えてしまいはったんです。


――――――――


―――――


―――


「ふふふ、ずっと昔の、ちょいと不思議なお話どすえ♪」


 話し終えた翔子さんは懐かしそうに笑っていた。


 まぁ、そいつらの娘と息子も似たような事ばっかりしているのだが。


 ちなみに死神は膝の上でうつらうつらとしている。睡眠モードに突入しそうだなオイ。


「なぁ里原はん、この公園に来る途中に神社がありましたやろ?」


 あー、見た見た。


「長々と鳥居が続いていましたね」


「はいな。うちはこの町へ来てあれを見付けた時から毎日通っていますえ♪」


「毎日!?」


「あれ以来見ぃひんようになりましたけど、あの人狐だけに神社が好きみたいですさかい、いつか会ったろー思いましてな」


 白狐さんになら簡単に会える事を教えてやろうかな?


「せやけどほんまは会う気0なんどす♪」


 どっちだよ。


「思い出は思い出。何度も会えてしもたら不思議さが減ってしまいますやろ。せやから、ほんまは神社へは昔を懐かしみに行っているだけなのかもしれんわぁ♪」


 会わない事で、会えない事で思い出の大切さが増すってことか。


・・・。


・・・。


 !!


 なに感慨深い雰囲気を作っちまってんだオレは!!


「死神!なんかコメディーっぽい事言え!」


「すぴー・・・大事な思い出・・・ムニャムニャ」


 何で今日に限ってまともな寝言なんだよ!


「ふふふ、《コメディーっぽい事言え》とはムチャな振りどすえ、里原はん♪」


 た、確かに。


「さて、そろそろお昼時どすえ。死神はんは寝てしもたみたいやし、よろしかったらうちの旅館に寄って行っておくれやす」


 おー、有り難い。


「でも良いんですか?忙しいんでしょう?」


「気にせんでええどす♪」


 というわけでお言葉に甘えて翔子さんの旅館に招待されたわけだが。


・・・。


 寝起きの死神の食欲は凄まじかった。



 それに当たり前のように次々と料理を運んでくる翔子さんも凄かったが。


 翔子さんが女将を務めている旅館は京都の実家の支店みたいな感じで、今更ながら昔冬音さんが


『《水無月旅館》は日本有数のブランドだ』


 とか言っていた事を思い出した。

 案内された旅館がこの町で一番大きな旅館なのだから納得だ。

 部屋も豪勢で、部屋の中に露天風呂がある。いつか泊まりたいもんだ。

 つーか運ばれて来る料理が翔子さんのご厚意で全部タダってのが最高だよね。


「もぐもぐ、タダより高いものは無いよ準くん!」


 やかましい。通常客の倍は食っている貴様が言うな。


「死神はんは元気がよろしおすなぁ、きっと将来はナイスバディどすえ♪」


 おいおい。


 どうやら翔子さんは派遣女将というものらしく、全国の水無月旅館を転々としているのだそうだ。


 しばらくくつろがせてもらった後、オレと死神は帰ることにした。


 旅館を出るときは翔子さんが直々に見送ってくれた。


「またね翔子さぁん!」


「色々と有難うございました」


「またおこしやす♪」


 こうして不思議な巡り合わせによって出会った、ちょっと変わった女将さんと別れたのだった。


――――――――


ガタンゴトン、ガタンゴトン


「いやー、楽しかったよ紅葉狩り!」


「凄いはしゃぎ様だったもんなお前」


 地元電車の中、窓の外ではもう日が落ちはじめている。

 これからまた二時間揺られて帰るのかよー。帰ったらすぐに晩飯の支度だなぁ。


「咲狐さんって白狐さんのお母さんだよねっ」


「みたいだな。まさかこんな土地であんな話が聞けるとはなぁ」


「私もびっくりー!」


 本当に不思議な巡り合わせだ。


 さてさて、翔子さんの仮面をつけた咲狐さんの娘は何をしていることやら。多分、相変わらずかな・・・。


――――――――


―――――


―――


「くしゅん!」


「おや白狐殿、風邪ですかな?」


「アッハハハハ、瞬時に仮面外すところがさすがだよな!」


 むー。風邪じゃないみたいだけど。

 地獄旅館六階、死神業者事務所の中で私は外した狐の仮面を撫でながら首を傾げる。


「カブキ殿、なんですかそれは?」


 カブキは一枚の紅葉を手に持って見つめている。


「いやぁ、ガキ共が紅葉集めたんで俺にも分けてやるってくれたんだけどさ」


「ははは、カブキ殿は子供達に人気がありますからな」


「落ち葉なんか貰ってもどうしようもねぇのに」


 そう言いながら指先でくるくると紅葉を回すカブキの顔は満足そう。素直じゃないわね。


・・・ふむ。


 そういえばもう秋ねぇ。このお面を母様から頂いたのもこのくらいの時季じゃなかったかしら。


 《とっても大切な人に貰ったのだから大事になさいよ》って言われたのを覚えているわ。

 母様の友人か。どんな人だろう。


 きっと立派なご老人ね。間違いないわ。


 仕事上どうしてもボロボロになってしまうけれど、不思議なくらい丈夫なのよねぇ、この仮面。


ビーーーー!


 !


「白狐殿、カブキ殿、仕事ですぞ」


「治安課からだぞ」


 まさか・・・。


『こちら治安課。閻魔様、ドミニオン様が仕事を放棄。現在ヨーロッパ支部へのワープゲートへ移動中です』


・・・。


 あの馬鹿ぁ!!

いつもの街から離れて過去の事に触れてみた今回のお話。特別に〈水無月翔子〉という人物を出しました。また登場するのかな?笑 是音でした♪

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