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死神といっしょ!  作者: 是音
82/116

第82話 秋の実りを探しに♪

 死神はパラパラと雑誌のページをめくっている。


 雑誌は普通にコンビニなんかでも売っているものだ。


 何に対してそんなに興味があるのかは知らないが、さっきから死神は熱心に見入っている。


「うーん。黒ローブと機関銃・・・」


 いきなり何言いだしてんのコイツ?


 オレはその隣でバンプの為に買った料理雑誌のページをパラパラとめくっていた。

 香草パン粉を使ったヘルシーイタリアンに挑戦するんだとさ。頑張り屋さんだ。


「むっ?」


 あるページで死神の手が止まり、目も一点に集中する。なにか気になる項目があったらしい。


「ま、まさか、アレが敵だったなんて・・・!」


 ?


 敵?


「そしてそれを退治するイベント・・・」


・・・?


「おそるべし《紅葉狩り》!」


 意味違ぇー!


「準くん、私達も紅葉狩りしよう!」


・・・。


「死神、紅葉狩りってのはな・・・」


―――――


―――


「えーー!紅葉を見るだけーー!?」


 紅葉狩りってのはそういうもんだ。


「だって、だって、ほら《狩り》って書いてあるじゃん!」


 うん、まぁ由来はよく知らないよ。


「仕方ないなぁ。じゃあ準くん、さっさと行くよ」


 は?


 死神はオレの手を取って立ち上がる。

 行くってどこへ?買い物はさっき行っただろ?


「どこ行くんだよ」


「紅葉狩りに決まってんでしょ!」


・・・散歩って事ね。


――――――――


―――――


―――




ガタンゴトン、ガタンゴトン


 散歩の筈だったよね・・・。


ガタンゴトン、ガタンゴトン


・・・。


 電車の中なんだよね。


「うっひゃー!見て見て準くん!山があるよー!」


 約二時間電車に揺られていても死神は窓の外を見てはしゃぎ続けている。


 外の景色は完全に街から離れて田舎である。


 オレはてっきりウチのマンションから歩いて行ける丘の上の公園でぶらぶらするだけだと思っていたのだが、雑誌を懸命にチェックしていた死神の考えはそうじゃなかった。


 雑誌に載せられていた《紅葉狩り》の項目。その中に書かれていた〈都会から離れてまったり〉という言葉を見つけた奴は、雑誌に紹介されたオススメの町へ行きたいと言い出したのだった。


 無論、家で一日まったりするつもりだったオレには衝撃的な提案である。

 自分では気付かなかったが無意識のうちにとんでもなく嫌そうな顔をしていたのだろう。死神がオレを見て泣きそうな顔をしたのでつい首を縦に振ってしまった。


・・・つくづく甘いなぁ、とか思ってしまう。なんでだろ。


 んで、二人で雑誌を調べた末に行く場所を決定したわけだが・・・。


 一番近い町でも電車を乗り継ぎ約二時間。


 とっくにオレが日頃見慣れた風景は消え去り、今はローカル線に揺られているわけである。


 こういうのって、もっと前もって計画立てるものなんだろうけど。思いつきで外へ飛び出そうとするコイツはある意味凄い。


 実際出て来ると、たまにはこういうのも良いかもな。なんて気分にもなる。


「見てー!川だよ川ー!」


 おー。小さい川だー。


「田んぼばっかりー!」


 見渡すかぎり一面の田んぼ。稲刈りを終えたそれはなんだか少し寂しいような気もする。でも時季が来れば緑で埋めつくされるのかと思えば風情を感じる。




 ん、そろそろ着くかな。


 窓に張り付いている黒ローブを引き剥がし、車両・乗客の少ない電車から降りた。


 駅はなんと無人だ。か、改札口が無ぇ・・・。


「着いたー!着いたよド田舎ー!」


 コラ。


 確かに古びた駅を出ても車は見られない。民家が立ち並び、道は舗装されていない。道の横はすぐに草むらでススキなんかが生えまくっている。


 自然公園でも見られない風景だ。


 しっかし、なんつーか。まだ午前なのだが、びっくりする程に空気が澄んでいて綺麗だよ。それは都会でも自然の多い街に住んでいるオレでもこの町の空気が綺麗だと感じる程。


「すーはーすーはー!」


 死神も空気の違いに気付いたらしく、両腕をパタパタさせて深呼吸している。


「さて死神、目的の地に着いたわけだが、どうするんだ?」


「あのね、私さっき電車の中で小川を見たの!」


 おー、オレも見た。


 というわけで、小川探しに出発。


「ほら準くん、しゅっぱーつ!」


 元気良いなぁ。


「ほら準くん、しゅっぱーつ!」


・・・。


「しゅ、しゅっぱーつ・・・」


「いえーい!」


 ったく、何がそんなに楽しいのかねぇ。


――――――――


―――――


 道端で拾った木の棒を片手に死神はご機嫌で道を進む。


「すっすめぇ〜♪すっすめぇ〜♪」


 枝を振り回して先頭を行く隊長さんの後ろを苦笑いでついていくオレ。


「我ら《海賊》探検隊〜♪」


 うーん、ツッコミどころ満載でお兄さん困っちゃうな〜。


「ほら準くんも!すっすめぇ〜♪」


 オレも歌うんですか隊長!?


「ほらほら、すっすめぇ〜♪ハイ!」


「すっすめぇ〜・・・」


「《道》という名の海を〜♪」


 意味わからん。


「み、《道》という名の海を〜・・・」


「面舵いっぱぁ〜い!」


「面舵いっぱぁ〜い・・・」


「殺意いっぱぁ〜い!」


 おい。


 静かで、さりげなくヒグラシやスズムシの鳴き声が聞こえる道を歌いながら行くオレ達。

 地元の人とは何度かすれ違ったから結構人は多い町なのだとわかる。


 まぁ彼等からしてみれば一人の高校生が歌いながら歩いているわけだから変な感じに見えるだろうと思っていたのだが、


『こんにちは』


 と笑顔で挨拶していく爺さんや、


『おや、ご機嫌ですな!』


 なんて言いながら走り去る郵便屋さんを見たときはマジで驚いた。


 というか誰もオレを怪しまないのだ。


 変な気持ちで進んで行くと、川のせせらぎが聞こえてきた。


 死神もアホな歌を止めて耳を澄ます。


「あー!川の音だよ!」


 そう言いながらふわふわと音のする方へ行く。


 更に進むと道が左右に分かれたT字路に突き当たった。

 その道に沿って川が流れているのだ。


 しかもそれはオレ達が電車の中から見た小川ではなくてもっと大きめな川で、その川沿いの道へ出てきたという事だ。


 川沿いの道はちゃんと舗装されていて、その道を行った先はなにやらだいぶ賑やかに見える。


 死神はそんなことお構いなしで既に土手を下っていた。


「お〜っ、魚が泳いでるよ〜」


 アホ神は空中からバシャバシャと魚を捕まえようと手を伸ばすが、そんなんで捕まるわけがねぇ。


 オレは土手の草むらに座ってひたすら頑張る黒ローブを見守る事にした。


 朝いきなり提案され、二時間も掛けてやってきたこの町。

 勿論こんな町があるなんて全然知らなかった。だが確かに雑誌に載るだけはある。観光名所として訪れる人も少なくないから、旅館や宿屋が多い。

 左に見える賑やかな地域はそういった場所が多いからだろう。


 どうやらオレ達が降りた駅は町外れの駅だったと理解した。きっと賑やかなあっちの方に普通の駅がある筈だ。


 右を見てみると、山へ入る道があり、説明が書かれた立て看板がいくつも見える。あの山も観光名所の一つだと雑誌に書いてあったから納得だ。


「おーい準くーん!」


 死神に呼ばれて顔を戻す。


「獲れたー!」


 奴は手に魚を一匹持っていた。


 ホントに獲りやがった・・・。


「あーん超気持ち悪いー!」


 捕まえておいて言うなよ。


「キャー!エスキモー!エスキモー!」


 エスキモー!?


「Sクラスの気持ち悪さって意味だよー!」


 わざわざ説明ありがとうございます。


 そうこうしている間に、魚はつるんと死神の手から滑り落ちて川へ飛び込んでしまった。


「にゃぁぁ!逃げられたー!助かったー!」


 悔しがるのか安心するのかどっちかにしろ。


 その後もバシャバシャと無駄に川を叩きまくっている。


「何やってんだお前?」


「川を倒すのよ!」


 一生やってろ。


「てーりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


バシャバシャバシャバシャ


・・・。


 一生やってろ。


「てーりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


バシャバシャバシャバシャ


・・・。


 一生・・・やってろ。


「てーりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


バシャバシャバシャバシャ


 やっべぇ、アイツ一生やるつもりだ!!


「し、死神、川は倒せないから止めろ」


「もうっ、早く止めてよー!」


 止めてくれるのを待っていたらしいです。



「なにやってんだよ、ローブ濡れてるぞ」


「ぬーっ」


 土手で死神のローブを拭いてやる。防水加工が施されているから簡単だ。


 と、上の方から声が聞こえてきた。


『なにしてはりますん?』


 !


 川沿いの道からオレ達、いやオレを見ているのは着物姿の女性だった。

 その人は器用に土手を降りてくる。

 死神も不思議そうにそれを見ていた。


「あんさんら、この辺りの人ではあらしまへんね?」


 何でこの人京都弁なんだ?イマイチ何言ってんのかわかんねぇ。


・・・。


 あんさんら?


 あなた達?


・・・。


 あぁ、嫌な予感。


「そっちの小こい子はえらい元気がよろしゅうおすなぁ」


 なんとなく言っている事はわかる。


 そして死神が見えてるって事も。


「お姉さんだぁれ?」


 死神が普通に聞く。


「うちはこの近くで宿を営んどります[水無月 翔子{みなづきしょうこ}]いいます」


――――――――


―――――


「はぇ〜、死神業者さんでいらはりますか〜」


 翔子さんはこの近くの旅館で女将をやっているらしい。見たところ二十代だぞ。

 聞く所によると今の時期は観光客が多く、旅館内は大忙しで買出しは彼女が行く事になったのだという。で、買い物ついでに気晴らしの散歩をしていたらオレ達を見つけたんだとさ。


「翔子さん、それ京都弁でしょ〜?」


「ええ。うちは京都出身さかい、どうも〈京ことば〉が抜けへんのどす」


 この女将さん、仕事が忙しい筈なのにオレ達に山を案内してくれると言う。


「ふふふ、さぼったろー思いまして」


 駄目女将キター!


「翔子さん面白いねー!」


「死神はんの方がある意味面白いどすえ♪」


 コラ。


 死神と翔子さんはすっかり仲が良くなってしまった。つまりこの女将さんも変人ってことか。

 死神が見える人物に出会ってもすぐに納得してしまうようになったオレもオレだが。


 最近思う。この世界には変人ばかりしか居ないのではないか?とか。それともオレと死神が変人遭遇体質だとでもいうのか?とか。


 そんな考えを巡らしながら歩いていると、すっかり紅葉した木々に囲まれた場所に来ていた。

 途中神社のような場所もあった。鳥居が奥へ奥へ続いているが、そこは通過して広場に出た。


・・・。


 ほぉ。


 おもわず溜息が漏れた。


「ここが観光名所の一つ、紅葉公園どす」


 紅葉公園の地面は秋色に染まっている。


 落ち葉の絨毯は、その上に足を置くとサクサクと気持ちの良い音を奏でる。


 死神もサクサクと広場を走り回り、降り注ぐ落ち葉を必死で追い掛け始めた。



 それを見ながらオレと翔子さんは近くのベンチに腰を下ろす。

 確かに秋の観光名所として雑誌に載るだけの事はある。沢山の木に囲まれ、風が木を揺らせば秋色の葉がゆったりと舞い落ちる。

 とても落ち着くのだ。


「里原はん」


 そんな気分でボーッとしていたオレは突然呼ばれてビクッとしてしまった。


「は、はい」


「あん娘はん、死神業者言いましたなぁ」


「はい」


「そうやないかと思いましたえ」


「は?」


 クスクスと笑う顔には上品な化粧が施されており、その細い目はなんだか以前似たようなものを見た事があるような気がする。


「ほんに懐かしおすなぁ」


 そう言いながら翔子さんは遠い目をして公園を駆け回る死神を見つめる。

 よくわからないが、とりあえず話を繋がないと。


「ここでは長いんですか?」


「三年くらいになりますえ」


「で、何が懐かしいんですか?」


 すると若い女将さんは、すっと死神の方を指差した。


「うちも昔、死神業者の友人がおりましたんどす」


・・・。


・・・。


 し、衝撃の発言ー!!

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