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死神といっしょ!  作者: 是音
81/116

第81話 Base Ball!

「声出して行こうぜー!」


『おー!』×8


・・・。


 現在オレは、地獄アジア支部八階の闘技場に居ます。

 ただしその馬鹿でかい空間も今は色々と改造されている。


 芝生敷き詰めたり


 ベース置いたり


 白線引いたり


 客席等を置いたり。


 でもって何故かオレを始めとするメンバー達はユニフォームを着せられている。


――――――――


―――――


 話は一時間前にさかのぼる。


 朝飯を食べ終えたオレと死神は、居間でまったりしていた。

 なにせ今日は《体育の日》である。


「ねぇ準くん。体育の日って事は、みんな運動するの?」


「うーん。別に体育の日だから運動しなくちゃいけないわけじゃないが、なんとなく体育の日って言われると動きたくなるよな」


 とか言いながらオレ達はごろごろしていたりする。


「運動かぁ。いきなり言われても何やったら良いかわかんないよねぇ」


 死神がそうぼやいた時だった。


『そんなお前等に朗報だぜ〜』


 !


 黒いゲートから顔を出したのは白くて長い髪の毛の持ち主。閻魔さんだ。

 というか閻魔さんの香りは個人的に好きだから一発でわかる。相変わらず悪戯っぽく笑うその顔は端正だ。


「あっ!閻魔さんだーっ!」

「閻魔さん、どうしたんですか?」


 地獄の大将が居間に座ったのでオレはお茶を出そうとしたが、話はすぐ済むと言って止められた。


『実はな、ちょっと頼み事があるんだ』


 閻魔さんは、はしゃぐ死神の相手をしながらオレに神妙な顔で言ってきた。


 これはただ事ではないぞ。


「頼み事ですか。なんでしょう?」


『《野球》しようぜ』


 まさかの提案キター!


 聞くところによると、そもそも閻魔さんとジョーカーさんが仕事の打ち合せで話しているうちに

〈人間界の野球とはどういったものか〉

 という話題になり、

〈じゃあいっちょ地獄と魔導社で勝負すっか〉

 といったノリで決まったのが今回の発端らしい。


 ジョーカーさん率いる魔導社のチームは野球用にカスタマイズしたパペットを揃えれば良いのだが、問題は誰も野球のルールを知らなかった事だ。


 というわけで閻魔さんとアジア三強で調べてみたところ、野球は九人必要だということを初めて知ったらしい。

 巻き込まれたアジア三強も閻魔さんと一緒に仕方なく短期間でルールを覚えたのだが、残り五人以上をエリート餓鬼で埋めてしまうと完全に初心者チームと化してしまい、野球パペットを揃えた相手チームには勝てないであろうという話になり、人間界から助っ人(つまりオレ達)を引き入れる事にしたのだという。


 で、とりあえず白羽の矢が立ったオレと死神は、彩花さん、ヴァンパイア、冬音さん、ナイトメアも道連れにしたのだ。


 ここだけの話、全員野球経験0です。


――――――――


―――――


 そして今に至る。


 設備、装備だけは万全で、オレ達にはすでに黒と赤のユニフォームを用意されていた。閻魔さん曰く〈地獄カラー〉らしい。


 しかも今回ばかりは皆ユニフォーム姿なのだ。


 閻魔さんとカブキさんはいつも着ている衣裳より軽くなったユニフォームに大満足。ノリノリでキャッチボールをしている。


 夜叉さんと白狐さんのユニフォーム姿もかなり貴重だと思う。

 しかも二人はまんざらでもない様子で、


『たまにはこういう格好も悪くないわね』


『ですな』


 自分達の胸元に入れられた

《BYAKKO》

《YASHA》

 のロゴを見下ろしていた。


 仮面にユニフォームは相当怪しいのだが。


 無論死神業者三人と冬音さん、彩花さんも大はしゃぎ。


「わはははは!ユニフォームだぁ」


「佐久間さん似合うわねぇ♪」


 ご機嫌な冬音さんと彩花さんだったが、なにやら死神業者三人の様子が変だ。


「なんで僕のロゴが《BANPO》なんだよーーー!」


 《バンポ》!?


「アハハハハハ!バンポー!」


「バンポーですー!」


 約一名のロゴにミスがあった模様。


 ちなみに爆笑している死神とナイトメアのロゴも


《SHINIGAMU》


《NIGHT MERON》


になっているのは言ってやるべきなのか、どうしようか。

 《シニガム》と《ナイトメロン》・・・。



 よし、黙っておこう。


 そして相手、ジョーカーさん率いる魔導社チームのユニフォームは社長のスーツカラーに合わせたのか白と紫だ。

 ジョーカーさんとシャドー以外の残り八人は全て野球用にカスタマイズしたパペットである。


 審判も魔導社提供の審判パペット。


 よーし、いっちょ頑張るかねぇ。


 地獄チームは円陣を組む。

 大将は勿論この人。


『フハハハハ!よし、この閻魔が率いるからには絶対負けねーぞ!』


『おぉぉぉ!』×9


『声出せー!』


『おぉぉぉ!』×9


『やるぞコラァァァ!』


『おぉぉぉ!』×9


『勝つぞコラァァァ!』


『おぉぉぉ!』×9


『閻魔様ラァァァブ!』


『おぉぉぉ!』×9


『・・・』×9


『・・・?』×9


『!』×9


『ざけんなてめぇコノヤロー!!』×9


ボカッ!ズドドドド!バキ!ゲシ!ぱい〜ん♪ベキベキッグシャァ!


『ぎゃぁぁぁ!試合前に死ぬー!俺様は大将だぞー!』


――――――――


―――――


 ドタバタしながらも試合開始。


 攻撃は我ら地獄チームだ。


【一番バッター:シニガム】


「よっしゃー!やるよー!」


 シニガム・・・じゃなくて死神はバッターボックスに立った。


 何も持たずに。


「バット忘れんなよ死神」


「ありゃー」


 死神にバットを渡す。


 ベンチでは地獄チームの応援が凄い。


『シーニーガム!シーニーガム!』×8


 皆ロゴミスに気付いてました。


「シニガムってなんじゃぁぁぁ!」


 本人以外は。


 さて、ピッチャーパペットが振りかぶる。


 死神も振りかぶる。


 ピッチャーがボールを投げた。


 死神も大きく振った。


 大鎌を。


・・・。


 バットは!?


【ストラーイク!】


 当然の結果だ。

 ボールは真っ二つに割れていたが。


『うぉぉい!違ぇよシニガムー!』×9


 ベンチからのツッコミの嵐を受けた死神は慌ててバットに持ちかえた。本当に間違えていたらしい。


 しかし・・・。


ブンッ


【ストラーイク!】


ブンッ


【ストラーイク!バッターアウト!】


 やはりバットにボールが当たらず1アウト。


「悔しーーい!」


 バットをぶんぶん振り回しながら死神が戻ってくる。

 いや危ない危ない。


【二番バッター:ナイトメロン】


 ナイトメロン・・・じゃなくてナイトメアがバッターボックスに立つ。


『打てーメロン!』


『出塁だーメロン!』


 皆ロゴミスに気付いてました。


「メロンってなんじゃぁぁぁ!」


 本人以外は。


 ヘルメットを被り直すメアちゃん。

 そして意外にも彼女は・・・


カキーン!


 初めてなのに野球が上手かった。

 打球はサードを抜けてなんと二塁打。となる筈だったが、死神業者三人は足が遅いのでメアちゃんはトテトテと走って一塁でストップ。


 でもすげぇぞメアちゃん。


『やったなメロン!』

『いいぞメロン!』


「メロンってなんじゃぁぁぁ!」


【三番バッター:冬音】


ブォン!


ブォン!


 一体どこまで飛ばす気なのかこの人は。


『冬音さんファイトー!』

『頑張れ佐久間ー!』

『冬音さーん!』

『冬りん♪』

『冬音殿頑張ってくださいー』


「どさくさに紛れて《冬りん》つった奴誰だコラァァァァ!!」


 彩花さんです。


ブォン!


ブォン!


 ピッチャーが振りかぶる。


 冬音さんが構える。


 ピッチャーがボールを投げた。


「しゃぁぁぁらぁぁぁ!!」


ベガァン!


 聞いた事の無い音を出して打った打球は伸びる伸びる。

 ライトのジョーカーさんの上を通り過ぎ、確実にホームランだ。


 ナイトメアも余裕で二塁へトコトコ走りだす。


『ダメだメア!戻れ!』


 突然隣の閻魔さんが立ち上がった。


 そう。


 オレ達は慣れすぎて気に掛けることを忘れていた。


 あの人の名前と風貌を。


 あの人は《ラビット・ジョーカー》だ。


 その跳躍力を初めて会った時にオレは見ていた。


『ホホホホホ♪』


 案の定ジョーカーさんは少しだけしゃがみ、


バァン!


 信じられない高さまでジャンプした。


「なにぃぃぃぃ!」

「ウサギさん凄いですー!」


 冬音さんとナイトメアが驚いている間にジョーカーさんはボールをグローブでキャッチ。これで2アウト。

 さらには既に一塁から駆け出してしまったナイトメアが戻る前にジョーカーさんが一塁ベースへ送球。


 3アウト。チェンジとなった。


「なんだあのウサギ頭は!?とんでもない跳躍力だな!」


『フハハハハ、惜しかったな佐久間。ラビットは運動神経も抜群なんだよ』


――――――――


―――――


 さぁ守備だ。


 今回の試合、浮遊は禁止となっているので守備配置は

ファースト:バンプ


セカンド:死神


サード:メア


 となっており、ピッチャーは閻魔さん。キャッチャーは夜叉さん。後は適当である。


 レフトでケラケラ笑いながら楽しんでいるカブキさんをライトの白狐さんが注意したり、それに対してカブキさんが挑発的な返事をすると、もはや外野は修羅場。

 センターに居るオレをショートの冬音さんが爆笑している。


 ちなみに彩花さんはベンチでティータイム(おい)。


「よーし締まっていこーう!」


 オレがグローブで手をパスパス叩く。


『フハハハハ、心配すんな!俺様の魔球を打てる奴はいねぇよ!』


 まさかとは思っていたが、やはりあったのか魔球。閻魔さんが投げるのだから有り得るのかもしれん。


 相手の一番バッターはパペットだ。


 つーか、社長と秘書はまったり彩花さんとティータイムに突入してやがるから、全部パペット任せという事だろう。


 閻魔さんが振りかぶる。


 なんかこうなると全然地獄の大将には見えねぇなぁ。


『魔球・・・』


 おぉ、邪悪っぽいオーラが見える・・・。


『《どすこいキャノン》!!』


 ネーミングだせぇー!


 しかし名前とは別に、その放たれた球は、


シュゴォォォォォ!!


 とんでもない速さでバッターボックスに立ったパペットを粉砕した。


・・・。


 うぉぉい!デッドボールじゃねぇか!


【予備パペット、一塁へ】


『え、閻魔殿!』


『悪い、ミスった』


 相手がパペット軍団で良かったよ。


 ちなみに閻魔さんの魔球どすこいキャノンは一応消える魔球らしい。


 が、パペット達はセンサーでボールを感知しているのであまり効果は無い。


 それに気付く頃には1アウト、一塁二塁という状況になっていた。無失点なのがせめてもの救いだ。


「閻魔さんのアホー!」

「アホですー!」

「アホアホだー!」


 死神、メア、バンプから散々な言われ方をしている当の地獄の大将は、


『うっせぇ!わざとだ!』


 とかわけのわからない事を言っており、反省の色は0だった。


『こうなったら第二の魔球いくか』


 すげぇ嫌な予感・・・。


 四番バッターが立つ。

 気合い入れないと点を持っていかれるぞ。


 閻魔さんが振りかぶる。


魔球ハーレム・ハネムーン


 全然意味わかんないよね。


 しかも《どすこいキャノン》と変わんないし。


カキーン!


 打たれたし。


 打球はレフトのカブキさんがキャッチし、三塁へ投げる。


 ここでカブキさんがまさかの行動に出た。


 ボールは三塁の死神へ投げ、同時に三塁へ走るランナーには自分のグローブをぶつけやがったのだ。


 とんでもない芸当だと思う。


 しかも本人は、


『アッハハハハ、グローブも飛んでいっちゃった』


 と、まるで知らんぷり。まぁ疑われることはないだろう。

 だってカブキさん、グローブをはめた手でボールを投げたのだから。


 疑われない代わりに、ライトの白狐さんの方からグローブが飛んできてカブキさんの頭に直撃していたがな。


 死神はなんとか送球をキャッチして2アウト、一塁二塁。


 その後は冬音さんの横へ跳躍するスーパープレーのおかげで3アウト、チェンジとなった。


――――――――


―――――


 二回表、我ら地獄チームの攻撃。


【白狐、ヒット】

【彩花、ヒット】

【死神、三振で1アウト】


 で1アウト一塁二塁で四番バッターは閻魔さんだ。


 意外にも閻魔さんは地味にバントの構えをしている。確実に塁を進めようという事か。


 バントとは、バットを振らず軽くボールに当てて転がす打ち方だ。


 相手守備陣も前へ出て警戒する。


 だが、閻魔さんはやはり閻魔さんだった。


 ピッチャーが振りかぶった瞬間、バントの構えを解いたのだ。


カキーン!


 打球は一、二塁間を抜けて長打となった。


 これは《バスター》っていう擬装バントで、打者がバントすると見せかけて強振するというものである。


 無論、ド初心者の閻魔さんはこんな事は知らない。ただ、バントしようとして〈地味だからやめた〉的な考えだったのだろう。


『おやおや。シャドー!』


『了解〜』


 魔導社社長秘書は影となって移動し、なんとかボールをキャッチした。

 そして華奢な身体からは想像もつかない程の腕力でホームに送球するも、ランナーはあの白狐さんである。とっくにホームベースを踏んでいた。


 地獄チームに一点追加だな。


「やったー!白狐さぁん!」


 白狐さんと死神達が手を取り合ってはしゃいでいる。


『ホホホホホ♪ピッチャー交替です』


 どうやら本気を出したらしいジョーカーさんがマウンドに立った。


『っしゃあ!これからが本番だぜ!フハハハハ!!』


『おーう!』×8


・・・あぁ、間違いなく筋肉痛になるよね。


「準くん早くー!」


『打順は里原殿の番ですぞー』


「あ、はいはーい」


 死神と夜叉さんに言われてオレはベンチから出ていったのだった。


――――――――


―――――


―――


 い、痛てててて。


「足が痛いよー!」


 丸一日走り回ったオレと死神は、帰ってきた途端に居間に布団を敷いて寝っころがった。

 まさか延長戦になるとは思わなかったし、何よりシャドーの守備範囲が広すぎるのだ。

 でも最後は勝てたから大満足だな。


 ちなみに死神は最初こそ全然バットにボールを当てられなかったものの、試合中にちょくちょくオレと練習していたので最後の方ではちゃんと打てるようになっていた。


 ジョーカーさんも死神の時は手加減してくれていたみたいだし。基本的に楽しんでやっていた感じだったな。


「ギャー!身体痛ーい!」


 で、まぁ案の定オレ達は筋肉痛に襲われている。


「でも体育の日も悪くないよねっ」


「だな」


「お腹空いたー!」


「はいよ」


 痛む身体を起こしながらキッチンへ向かう。何にすっかなぁ。


「準くん、今度また野球部に遊びにいこうぜー!」


 よせ。最近野球部では幽霊が出るともっぱらの噂なんだぞ。

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