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死神といっしょ!  作者: 是音
80/116

第80話 死神とイタズラ同盟

『アッハハハハ!悪いね里原』


 居間に座って大爆笑する派手な化粧と衣裳の男。


 今日はカブキさんがウチに来てます。


 なんでも白狐さんの上等な着物に誤って(わざと)コーヒーをこぼしてしまい、地獄旅館全域に《カブキぶっとばし指令》とやらを発動させられたらしく、こっちに逃げてきたのだそうな。

 白狐さんの泣きそうな顔が目に浮かぶよ・・・。



『どうもすみません里原様〜』


 居間に正座する真っ黒な女性のシルエット。


 今日は魔導社社長秘書のシャドーもウチに来てます。


 なんでも魔工場で作成中の製品にイタズラをし、魔工場へ視察に来たジョーカーさんのウサギ頭を焦がす事件を起こしてしまい、魔導社全域に《シャドーぶっとばしなさい指令》を発動させられたらしく、こっちに逃げてきたのだそうな。

 焦げたウサギ頭に落ち込むジョーカーさんの姿が目に浮かぶよ・・・。


『シャドー、お前も大変だなぁ』


『カブキ様こそ』


『しかしこれが・・・』


『イタズラの醍醐味ですな〜』


 状況を楽しんでんじゃねぇよ。

 イタズラキャラ同士、この二人は気が合うらしい。メチャメチャ厄介な二人なんだけどね。


 でもって、我が家の誇るイタズラッ子死神はというと・・・


「んふふ〜♪」


 カブキさんとシャドーの間に座って満面の笑顔で二人の話を聞いていた。

 同じイタズラ好きであるカブキさんとシャドーが一同に会したのがとても嬉しいのだろう。


 でもって三人はイタズラ武勇伝を披露しはじめていた。


『へぇ〜、ロシュはカツラを剥がすプロだなぁ、アッハハハハ!』


『おまけに頭にラクガキとはなかなかハイレベルですな〜』


 確かにハイレベルだけれども・・・。

 おかげで校長と教頭が音楽デビューという新しいスタートを切ろうとしちまってるんだぞ。


「シャドーさんは本当に失敗したと思ったイタズラあるの?」


『私ですか?そ〜ですね〜、パペットの関節に差す潤滑油を全て《香水》に取り替えた事ですかね〜』


 やめれ。


『もう会社中のパペットから凄まじい香水の匂いがしてぶっ倒れそうだったわ〜』


『アッハハハハ!!そりゃ災難だ!』


「アハハハハ!」


 ご苦労様ですジョーカーさん。


「カブキさんは〜?」


『うーん、俺はいっつも失敗だからなぁ』


 駄目じゃん。


『そうだなぁ。しいて言うなら、白狐が集めている香水を全て《潤滑油》に取り替えた事かなぁ〜』


 やめれ。


『白狐が香水つけたら油まみれで・・・。マジ切れした白狐とエリート餓鬼総勢150人に追い掛けられたなぁ』


『せっかく大量の《油》と《香水》を交換したのに両方失敗だったんですな〜』


 イタズラ同時進行!?

 どうやらこの二人は隠れたイタズラ仲間であるらしい。


「アハハハハ!カブキさんどうなったの〜?」


『うん、捕まってから一週間の記憶が無いのさ』


 凄まじいリンチだったのだろう。イタズラも命懸けだな。


 頭から怒りの煙をプンプン出して仁王立ちしている白狐さんと、頭から敗北の煙をプスプス出して倒れているカブキさんの姿が目に浮かぶよ。


ピンポーン


 んぁ、玄関のインターホンだ。


「はーい」


『こんにちは準くーん』


 ヴァンパイアの声だ。遊びに来たんだろう。


「今行くよー」


 イタズラ話に華を咲かせる三人を残してオレは玄関へ向かった。


 その瞬間


ボカーーーン!!


『うわぁぁぁぁぁ!』


 なにぃ!?


 慌てて外へ出るとプスプス煙を出してバンプが倒れていた。


「バンプーーー!!」


『び、びっくりしたぁ』


 無事らしいバンプを連れて中へ入ると、居間ではイタズラ好きな三人が満足そうにしていた。


『いやぁ大成功だったね』


『本当は実験だったですけど〜』


「丁度バンプが来てくれたから良かったよ♪」


 良くねぇよ。三人の仕業かよ。


『俺が地雷魔法陣を入り口に仕掛けて』


『私が里原様が魔法陣に近づいたら起爆するようにしまして〜』


「そんで私が爆発が周囲に知られないように簡易結界を張ったの!」


 よ、用意周到・・・。


「ひどいよみんな!」


 当然のようにバンプか怒る。




『アッハハハハ!我らこそ屈指のイタズラ好き!』


『止められない♪止まりもしない♪』


「《イタズラ同盟》ここに結成だぜー!」


 厄介な組織できちゃったー!


 バンプはもはや怒る事もできずにオレの腕をつかんだまま、このアホ組織にビビッている。


 カブキさん、シャドー、そして死神。


 あ、なんか目眩が・・・。


「じゅ、準くん、こんな組織を野放しにしたら・・・」


「うむ、ナイス危機感だバンプ。こいつらを放っておいたら三人だけで大組織を一つ潰しかねん」


「だ、大組織!?」


「例えば・・・魔導社とか」


「えーー!あり得る!」


 バンプがちらりと黒い魔導社の社長秘書の方に目を向けると、


『毒、神経毒、毒、毒、毒毒毒毒・・・うふ♪』


 ヤバイヤバイ。この影女ヤバいよー。

 耳まで裂けてるんじゃないかってくらいに真っ黒な顔には三日月型の赤い亀裂がニヤリと入っていた。


『アッハハハハ、シャドーやる気満々だなぁ!』


「〈毒を食わば皿まで〉ってやつだね!ジョーカーさんの着ぐるみを《薬局の前に居そうな奴》に変えちゃおう」


 やめれ。


 真っ白で毛ツヤの良いウサギの着ぐるみ。多分ジョーカーさんはあの着ぐるみを何着か持っているだろうが、イタズラ同盟ならすべてに落書き・着色を施して使用不能にしてしまうだろう。


 我が家の居間を陣取ったイタズラ同盟は、青ざめた顔で仕方なく料理をするオレと手伝ってくれるバンプをよそに、何やらイタズラ計画の打ち合せを始めてしまっている。


 野菜を刻むオレの隣でジャガイモを洗っているバンプが心配そうな顔をしてオレを見上げた。


「準くん、止めなくて良いの?ロシュ達が暴走を始めちゃうよ?」


「む、無理だろ。死神だけならまだしも、一緒に居るのはアジア三強の一人と魔導社社長秘書だぜ?」


「・・・無理だよね」


「・・・だな」


 料理ができあがると、オレ達二人は居間のテーブルへ運んでいく。


 するとイタズラ同盟は慌ててテーブルの上に広げてあった地図をどかした。


・・・?


 地図?


 というか見取り図?


・・・。


 ま、魔導社の見取り図!?


「お昼ご飯だー!」


『おー、これが白狐の言っていた里原の料理かぁ』


『社長に自慢してやります〜』


 三人は凄まじい速さで食事を終えると、急に立ち上がった。

 衣裳がド派手なカブキさんが急に立ち上がると迫力がある。


『さぁて、腹も膨れたことだし・・・』


『さっそくイタズラ同盟、行動開始ですな〜』


 !?


「てなわけで、準くん、バンプ、行ってきまぁす!!」


 待てこら。


 おい。


 行く気満々でピコピコ手を振るな。


『そいじゃあ里原、ご馳走さん!』


『里原様、死神ちゃんをお借りします〜』


「《シャドーぶっ飛ばしなさい》命令が出てる魔導社に忍び込むなんて、スリル有り過ぎー!」


 なにやらワイワイと楽しそうにイタズラ同盟の三人はワープゲートの中へ入っていってしまった。


 部屋の居間に取り残されたオレとバンプ。


「ホントに行っちゃったよロシュ達・・・」


「おう」


「どうするの準くん?」


「うーん」


 オレは考える。


 連中のイタズラレベルは相当高い。


 カブキさんは毎日のように白狐さんから逃げ回っているから、色々な面でかなり研ぎ澄まされている。何より逃げ足とイタズラ中の戦闘力はずば抜けているという噂だ。


 シャドーは魔導社内部の構造・秘密等を熟知している筈。つまり、どんなイタズラでどのようなダメージ・被害が出るか把握できているわけだ。さらにあの影女、影の特性を活かして隠密機動でイタズラを仕掛けるのが得意らしい。


 そして究極の強運と悪知恵の持ち主、死神。アイツはたしか先程自分のローブをシャドーにいじってもらい、《ステルス加工〜!(使用期限三回)》とか言っていた。


 何より怖いのはあの三人の経験値。そして鍛えぬかれたイタズラ発想力だ。


 以前白狐さんとジョーカーさんに聞いた話で、

《地獄アジア支部全体の時計がおかしくなった時、魔導社に確認したら魔導社の時計も同じ時刻で問題は無いと判断した》

 という事があったらしい。

 聞いてみるとただの勘違いの事件に思えるのだが、これが大問題だった。

《地獄も魔導社の時計も、全て実際の時刻より三時間もズレていたのだ》。


 無論やったのはカブキさんとシャドーである。



「・・・よし」


 オレは顔を上げる。


「どうするの準くん」


「皿を洗おう」


 現実逃避を選択した。


――――――――


―――――




 後片付けを終えたオレとバンプはさすがに心配になってきたので、魔導社へ電話をしてみる事にした。


プルルル・・・ガチャ


『はい、いつもお世話になっております《魔導会社マジック・コーポレーション》でございます』


 ワンコールですぐに応答したのは受け付けのパペットだ。


「あの、ジョーカーさんをお願いします。里原と言えばわかります」


『申し訳ありません、社長は只今取り込んでおられまして。また時間を置いて・・・

〈――ビー、ビー、ビー〉』


 ん?向こうで警報らしき音が紛れている。


『・・・ですので、また時間を置いておかけ直し・・・

{〈ビー、ビー、ビー〉社内警報、侵入者アリ。警備パペット至急第四区画へ移動。現在《夜叉様・白狐様・社長》移動中}

・・・またおかけ直し下さいませ』


ブツッ


ツーツーツー


・・・。


 間違いなくイタズラ同盟が見つかった警報だよね。


「どうしたの準くん?」


「心配なさそうだぞバンプ」


 吸血鬼は首を傾げている。


「あっ!そうだ僕、彩花さんから伝言預かって来たんだった」


「伝言?」


「うん。『里原くん、また作りすぎちゃったからお裾分けしてあげるわよ?』だって」


・・・。


「今度は何を造ったんだ?」


「・・・」


「・・・?」


「《闇ピザ》」


 闇ピザ!?


「う、うん。なんだか、その・・・《黒い》よ」


 ぞっ。


「ううん、あれはただの黒じゃないよ。もっとなんか、《世の中の忌み嫌われる黒色》の代表みたいな」


「何故そんなものを作らせたんだぁぁぁぁ!!」


 オレは少年吸血鬼の肩を激しく揺さ振った。

 そんなものをお裾分けされたら死者が出るぞ。


「ごごご、ごめんなさい!でも作らせないと『引きちぎるわよ♪』って言われたから・・・」


 ぞっ。


 オレはバンプから手を放した。


 お裾分け。


 はて、お裾分け?


・・・。


・・・。


 !!


「な、なぁ、バンプ」


「?」


「ウチにお裾分けするってことはな」


「うん」


「作りすぎちまったからなんだよな?」


「そうだよ」


「スパルタの彩花さんでも《お前が食べきれないと判断する程》作りすぎたって事だな?」


「・・・っ!」


「・・・」


 その瞬間、我が家の玄関がガチャリと開いた。


 青ざめたバンプがゆっくり後ろを振り向く。


『バンプ〜♪』


 扉の隙間から入ってきたのは、邪悪なおっとり笑いを浮かべた女子大生。


 その手が、恐怖で硬直したバンプのレザージャケットを掴んだ。


 掴んで、引っ張る。


 ここで我に返ったバンプがオレにしがみついた。


「嫌だぁぁぁぁぁ!」


『こらバンプ♪おとなしくなさい♪』


 多分第三者から見たら凄い光景だ。


 バンプの足を引っ張る彩花さん。

 バンプにしがみつかれ、どうしたら良いのかわからず踏み留まるオレ。

 オレと彩花さんの間に空中で橋渡しみたいな状態になっている涙目の吸血鬼。


 なんだこれ。


 しかも、


 こんな時に限って・・・


 後ろでワープゲートなんかが現われやがる。


「わーん!助けて準くーん!」


 中から飛び出してきたのは案の定死神だった。


 帰ってくるの早っ!


 更に死神を追ってワープゲートから出てきたのは、


『待ちなさいロシュ!』


『死神殿、お仕置きですぞ!』


『ホホホホ♪まぁまぁお二人とも』


 出てきたのは、白狐さん、夜叉さん、ジョーカーさんだった。

 ちなみにジョーカーさんの後ろに控えている戦闘型パペット二体の肩には・・・


 気絶したカブキさんとシャドーが乗っていた。


 早くも壊滅かよイタズラ同盟!!


 前からしがみつくバンプに対し、死神はオレの背中にしがみついた。


『こらロシュ!』

『観念しなさい死神殿!』


 白狐さんと夜叉さんが死神をオレから引き剥がしにかかる。


「やだー!やだー!助けて準くん!!」


 ぐあぁぁぁぁぁぁ、身体が、身体が、骨が軋む音が聞こえる。


『バンプ!美味しいわよ〜♪』


 バンプを引っ張る彩花さん。


「嫌だぁぁぁぁぁ!」


 しがみつくバンプ。


『ご・・・めんなさいね、里原く・・・ん!』


『少々・・・死神殿を・・・お借りします・・・ぞ!』


 アジア三強パワーで死神を引っ張る白狐さんと夜叉さん。


「やだぁー!」


 耐える死神。

 ちなみにこいつはオレの横腹を掴んでおり、横腹が弱点のオレにとってはかなり危険な状況である。


『ホホホホ♪賑やかですね』


 凄惨な光景を見守るジョーカーさんと戦闘型パペット。

 その肩の上で気絶するイタズラの敗北者二人。


・・・。


・・・!


 ギャァァァァァァ!骨が折れるー!


 ぅえ!?


 今回これで終わるの!?


 待て!待て待て!


 この入り乱れた状況だけはなんとかしてくれよ!


・・・。


 え、放置!?


 まさかの放置!?


『バンプ〜♪』

「ひぃぃぃぃ!」

『ロシュいい加減にしなさい!』

『往生際が悪いですぞ!』

「わーん!」

『ホホホホ♪』


 うぉぉぉぉぉい!!

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