第78話 最強変人 VS 白衣の悪魔
バキボキ
ベキバキ
・・・。
これは高坂先生が全身の間接を鳴らす音。
みしみし
みしぃっ
・・・。
これは冬音さんがコーナーポストを握る音。
『初めましてね、佐久間冬音さん』
『うん。そうだね、準の学校のセンセーだろ?いつもお世話になってます』
『おや、里原の知り合いかい』
『彼女よ』
コラ。
「ちょっと―――姉さん!」
「―――ですー!」
死神とナイトメアがなにやら冬音さんに向かってすんげぇ叫んでるみたいだが聞こえねぇ。
『まぁお祭騒ぎに便乗ってことで』
『そうだな。ここはド派手に・・・』
『暴れよう』×2
【のあぁぁぁ!開始のゴングを待たずに始めちまってるー!】
――――――――
さぁ、人類を超越してしまっているかもしれない二人の変人の戦いが始まった。
二人はリング中央で手を組み合う。
ミシミシミシィ!
力のぶつかり合いで既にリングが軋む音を出している。
『―――――』
『フン、――――』
押し合いながら二人が何か呟き合っている。
『――申請中》、《東京特許許可局、許可申請中》・・・三回言ったぞ先生よぉ』
『やるじゃないの佐久間さん』
『フン、なら《僕ボブ》って五回言えるかい先生?』
は、早口言葉の応酬してるーー!!
『簡単よ。僕ボブ僕ボブ僕ボブぼぶぼ・・・』
『・・・』
『・・・』
『・・・ふっ』
『戦う保健教師ナメんなよぉぉぉぉ!!』
高坂先生がキレたー!
『治療担当が戦闘に参加すんじゃねぇぇぇぇ!!』
何故か悪冬音もキレたー!
そっか。あの二人、すげぇ乱暴な変人っていう共通点があった。そんな二人が出会ってしまったのはなかなか危険な事なのではないか?
「すごい連打の応酬ね♪」
ナイトメアを肩車した彩花さんが笑いながら話し掛けてくる。
ちなみにオレもバンプを肩車していて、しかも激しく動くからバランスがとりづらい。
「・・・大会のこと教えたの彩花さんでしょ」
「・・・えへ♪」
間違いないよね。
「佐久間さんたら、大会の説明したら《じゃあ一般の部で勝てば準か、それより強い奴と戦えるんだな!?》って張り切っちゃって」
あの人らしいな。
と、ここで場内の歓声が一際大きくなった。
「バンプ、どうしたんだ?」
「準くん見てなかったんですか!? 冬音さんが実況係を武器にしたんですよ!」
ぅおい、かきピー!
【実況係の鍵崎くん負傷の為、実況は文化祭実行委員会が引き継ぎます】
退場早っ!
リング上ではコメディを無視していそうな攻撃が繰り広げられている。
『天下無双ってのはなぁ、二人居ちゃいけねぇのさぁぁぁぁ!!』
悪冬音さんはジャンプして前から高坂先生の頭を両太ももで挟み込み、そのまま凄い速さでバック転。
高坂先生はリングに叩きつけられた。
プロレス技でいうところの《フランケンシュタイナー》ってやつだ。
それをスーツで決める悪冬音さんは凄い。
完全に熱狂的な観客と化している死神と美香。
「いぇー!冬音姉さぁぁぁん!」
「高坂先生ー!Bボタン!Bボタン!」
Bボタン!?
高坂先生がフラフラと立ち上がる。
『ふふん、今の攻撃でアタシのHPは残り《50000》だね』
ラスボス並に多っ!
『フン、私のHPはまだまだ《50001》も残ってるぞ』
五十歩百歩とはまさにこのこと!
「早苗ちゃぁぁぁん、《タメ攻撃》だよー!」
「佐久間さんもー!」
んな格闘ゲームみたいな技があってたまるか!
『タメ攻撃!』
『タメ攻撃!』
もう止まんねえよこの人達!
ちなみにタメ攻撃とは、格闘ゲームによくある《力を蓄めた強力な一撃》の事である(死神談)。
先に動きだしたのは高坂先生だ。
『タメ攻撃《千本注射》!!』
白衣の内側には大量の注射器が並んでおり、先生はそれを掴むと無数に冬音さんの方へ放った。
・・・。
おぉぉぉい危ねぇだろ保健教師ーーー!
【ここで先手を打ったのは高坂先生! ちなみに中身の液体は薄めた麻酔薬ですのでご安心くださーい】
針!危ないのは針だろバカヤロー!
無数の襲い来る注射器を前にした冬音さんは・・・
『《ラディカル・グッドスピード》!!』
常人離れした速さですべて回避してしまった。
すげぇ。
ん?
でも今のってたしか最強猫の・・・。
「気付きましたか準くんっ」
ナイトメアが彩花さんの上から言う。
「あれって猫の技だろ?何で冬音さんが?」
「《死神業者最強決定戦》の時ですー・・・」
―――――
ナイトメアの話はこうだ。
あの地獄での大会中、オレと死神に敗れた《冬音・ナイトメア》ペアはその後、激戦区と化していた〈地獄街〉で暴れていたらしい。
エリート餓鬼や他の死神業者を蹴散らしていたところ、なんと吹き抜けとなっている地獄街の上から《猫・麒麟》ペアが落ちてきたのだそうな。
するとその二匹は突然
〈ニボシ!〉〈ニボシ!〉
とか叫びながら周囲の敵を圧倒的な速さと雷撃で蹴散らし始めたので、必然的に《冬音・ナイトメア》ペア VS 《猫・麒麟》ペアの戦いが始まった。
で、戦闘の天才〈悪冬音〉は、戦いの中で便利だと思った最強猫の移動技をコピーしてしまったのだという。
―――――
オレの知らない所でも意外な戦いがあったみたいだな。
ハイスピードで高坂先生を翻弄している冬音さんは、やはりコピーなのでオリジナルの最強猫より幾分か遅い。
それでもオレには見切れないのだが。
「キャー三笠くん!」
「大丈夫ですかー!」
美香と渡瀬が叫んでいる。
見ると、三笠の頭には三本の注射器がぶっ刺さっていた。
「これは新しいコーディネートで・・・すね・・・」
パタ
三笠ぁぁぁぁぁ!
周りを見回すと、高坂先生の流れ弾に当たった生徒達がパタパタと倒れている。
麻酔強いじゃねぇか!
隣の彩花さんとナイトメアはひらひらと避けているし、死神には物理・魔法攻撃を遮断するローブがあるから大丈夫だ。
美香は無論問題ない。
バンプも・・・。
「ふにゃ〜」
バンプは駄目でした。
「彩花さん、バンプを外へ出しますから死神やメアちゃんの事おねがいします。渡瀬は美香が居るから大丈夫でしょう」
「あら、バンプやられちゃったの!? ごめんね里原くん、お願いします」
オレは肩の上でフラフラする吸血鬼を支え、グラサンスキンヘッドを抱えて体育館の外へ出た。
よく見ると三笠の頭やバンプの額にくっついている注射器の先端は吸盤になっている。
体育館の外へ運びだされた生徒は意外にも少人数で、他の生徒達はちゃっかり避けていたのだ。
なんなんだこの学校。
冬音さんと高坂先生の戦いが気になって仕方ないが、このままバンプを体育館の外に寝かせたままにしておくと一般人に踏み潰されるかもしれん。
うーん。
・・・。
はっ。
そうじゃんそうじゃん、三笠の腹の上に寝かせとけばいいんじゃん!
・・・。
・・・。
よし、OK。
気絶した三笠とバンプを校舎裏に放置し、オレはそそくさと体育館へ戻った。
―――――
『だらぁぁぁ!《剛扇》!』
『おりゃぁぁ!《鉄扇》!』
冬音さんの廻し蹴りと先生の廻し蹴りがぶつかり合い、
ガキィィィィィン!
まさかの金属音が体育館内に響く。
『ギ・・・互角!?』
『ぬ・・・拮抗!?』
同時に吹き飛ぶ二人。
おいおい、ジャンルが変わってきてるよー。
それに死神と美香も気付いたらしく、無意味なアピールをし出した。
「コメディー!コメディー!」
「コメディー!コメディー!」
なんだその掛け声。
【コメディー!コメディー!】
ノリがいいな実況。
《コメディー!コメディー!》
ノリがいいな生徒共。
『ふ、ふふ、やるねぇやるねぇ高坂センセー・・・』
『た、戦う保健教師を・・・舐めんなよぉ・・・』
冬音さんも高坂先生ももはやズタボロ。
二人共ニヤニヤと口を三日月型に開き、邪悪な笑みを浮かべていた。
『フハハ、佐久間さん、私のHPは残り120だ』
減ったなぁ。ギリギリじゃん。
『フン、私はまだまだ122も残っているぞ』
だからあんま変わんないよ冬音さん。
しかし50000以上あったとと思われる二人のHPがそこまで減ったか。
フラフラだし、そろそろ決着かな。
【さぁさぁ残りHPもギリギリになり、フィナーレを飾るこの大会もいよいよ大詰めです!】
「がんばれー!」
「がーんばぁれー!」
盛り上がりも最高潮。
頑張れ冬音さん!
高坂先生に日頃の恨みを・・・
「晴らしてくれ!なーんて考えちゃダメだよ準くん」
死神に釘を刺されてしまった。
ナイトメアは心配そうに応援している。
「冬音さぁぁぁん!頑張れですー!」
生徒達はもっぱら高坂先生を応援している。
《先生ー!》
《白衣の悪魔ファイトー!》
あれ?彩花さんが居ない。
「あ、須藤さんならバンプくんの様子を見に出ていきましたよ」
「そうか、ありがとう渡瀬」
いよいよ最後の攻撃を繰り出すべくリング上の両者が身構えた。
『いやぁ、今回はとても楽しかったよ佐久間さん』
『天下無双を目指す私にとってみれば、先生は通過点にすぎないのさ』
『言ってくれるねぇ』
『ま、楽しかったけど』
『・・・』
『・・・』
『《剛拳》!!』
『《鉄拳》!!』
【両者同時に炸裂ー!!最後はシンプルだが強烈な一撃ーー! 先に倒れたのは・・・】
――――――――
―――――
―――
先に倒れたのは高坂先生だった。
「いってー」
大会用の医務室ではオレとナイトメアと渡瀬が冬音さんの治療にあたっていた。
死神と美香は別の医務室で高坂先生を治療中。
彩花さんはバンプと三笠を保護中。
「無理しすぎです冬音さん!」
「心配かけて悪かったなメア」
「メアちゃんの言う通りです。つーかあんなに打撃戦を繰り広げたのに・・・頑丈すぎですよ冬音さん」
大会終了後の冬音さんは割とピンピンしていた。
「わははは、いやーあんな強敵が準の学校に居たとは。世界はまだまだ広いねぇ。おっ、渡瀬サンキュ」
「はい、終わりです」
渡瀬は包帯を巻いた冬音さんの腕をポンと叩いた。
すると室内に死神と美香、そして彩花さんとバンプと三笠が入ってきた。
「準くん!早苗ちゃんが保健室使ってみんなで打ち上げやっても良いってさ!」
そう。この文化祭は屋台等の材料が尽きるまで教員監視の下、遅くまでのーんびりと続くのだ。
皆がぞろぞろと保健室へ向かう中、オレは一応冬音さんに肩を貸していた。
「お疲れさまでした冬音さん」
「まったくだ。準達の様子を見に来るだけのつもりだったのに、あんな楽しいイベントがあるんだもんなぁ」
「ははは、おかげで生徒や教員、死神達も大満足してましたよ」
「おいおい準、そんな余裕見せていて良いのか?」
「へ?」
「《悪冬音、最強計画》の障害となるリストにはお前も入ってるんだぜ?」
・・・。
・・・。
「嘘ですよね?」
「さぁ、どうだかなー。その前に地獄を制覇しなきゃなぁ」
本気だよこの人。
「なぁ準、私と・・・」
「はい?」
「・・・やっぱりなんでもない! さ、早く行こう。進め進めー!」
「はいはい」
オレと冬音さんは保健室へ向かって歩きだした。
―――――
正直文化祭はかなり楽しかった。
死神ラジオはなんと、《審査員特別賞》を貰ってしまった。
クラスの演劇は《演劇部門・銀賞》だった。撮影したビデオを三笠が貰っていからこれから見るぜー。
打ち上げは勿論《日本昔ばなし》の鑑賞からスタートしましたとさ。
懐かしい文化祭を思い出し、思わず長くなってしまいました(汗) とても書きたかった対決まで書けて大満足ですっ(笑) 是音でした♪