第75話 死神と文化祭!
さぁ今日は我が学校の一大イベントの一つ、文化祭(学園祭)です。
全学年総勢30クラスによる出し物が二日間に渡り催されるのだ。
みんな夏休み前から計画を立て、夏休み中もほぼ毎日学校に通い、準備をしてきた。
オレも舞台制作をし、死神も手伝ってくれて、なんとか当日に間に合ったのだった。
「それでは皆さん、劇の方頑張ってください」
で、現在朝の教室。
学級委員長である三笠がクラス全員にそう言い、皆は準備を始めるべく移動を開始した。なにせオレ達のクラスの劇は一番最初だからな。
役者達は化粧や衣裳で飾るために専用の教室へ。
小道具係は劇中の照明、舞台の配置移動等の仕事があるので体育館へ打ち合せに。
オレや三笠や美香がつとめた大道具係も、今日まで必死に作り上げた舞台を設置しに体育館へ行く。
本番中にやる事のない大道具は自由行動なのだが、今日のオレは色々と雇われ仕事がある。
あんまりのんびりできないのだ。自分のクラスの劇が生で見られないのは残念だが、後でDVDで見させてもらうよ。
さて、体育館での舞台設置も無事終えたオレは死神の待つ保健室へ向かった。
あ、ちなみに以前高坂先生に大量に貰った木刀の一部は時代劇をやる他のクラスに流したりした。
メチャメチャ困っていたらしく物凄い感謝されたが、実はオレも感謝したりして。
廊下を歩くと至る所に宣伝用のポスターが貼ってある。
・・・。
本学校の名物の一つ《宣伝ポスター貼り合戦》。
学校中に自分のクラスの催し物を紹介するポスターを貼るのだが、いちいち場所を振り分けるのも面倒だと判断した過去の生徒会が、〈よし、じゃあもう力勝負ってことで〉という一言で始まったこの行事。
文化祭本番に向けてのテンションアップ(?)にもなるこの学校の名物行事になっていた。
だが
あれはあまりにエグすぎた。
昨日のポスター貼り合戦は過去に例を見ないほど壮絶を極めた。
思い出すだけで背筋が寒くなる。
――――――――
――――昨日
スタートの合図を待つクラスメイト全員が教室の中で飛び出す準備をしている。
ポスターを抱える奴。ガムテープを抱える奴。ヘルメットを被る奴。遺書を書く奴。
そして
こういう時にだけ前線に出される我ら不良。
他のクラスはかなり殺気に満ち溢れ、自分の教室の中から他クラスを威嚇する連中もいる。
『オルァァァァァ! 7組ファイトォォォォォ!!』
『うっせぇ黙れバカヤロォオ!! 5組ブッ飛ばせぇぇぇぇ!!』
『3組、一枚も貼らせるんじゃないわよーーー!!』
『いえーーーい!』
『おぉぉぉぉ!』
元気良いなぁ。
ウチのクラスも負けていない。先頭に立たされたオレと死神の隣で美香が声を上げる。
「先頭の死神ちゃ・・・ゲフン! 里原くんが敵をボッコボコにするから遠慮なく突っ走るのよーー!」
無茶言うな。
『里原ゴーゴー!』
『里原殉職!』
待てコラ。
「ピンチだと思ったら三笠くんを盾に使っていいわよー!」
無茶言うな。
『三笠ゴーゴー!』
『三笠殉職!』
待てコラ。
文化祭初体験の死神は周囲の空気に圧倒され、目を左右にキョロキョロさせて落ち着きが無く、ワクワクしながら今か今かと待ち構えている。なんとなく戦闘狂の目だ。
「ワクワク、ワクワク!」
「・・・おい死神」
「なぁに?」
「大鎌は駄目だろ」
死人を出す気か。
「なんだか《死神業者最強決定戦》みたいな雰囲気だねっ!」
「おう、似たようなもんだ」
「似たようなものなの!?」
「ああ。この学校の生徒はそこらの餓鬼よりタチ悪ぃからな」
これはまぎれも無い事実だったりする。
「えーー!人間界怖っ!」
死神が言うな。
ピンポンパンポーーーーーン
お、もうスタートの時間か。
《皆様、文化祭実行委員会です。準備はよろしいでしょうか?》
『おぉぉぉぉおおお!!』
《なるべく怪我の無いように、明日の文化祭に支障が出ないように・・・》
『・・・』
《存分に殺り合えぇぇぇぇぇぇ!!!》
『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
滅茶苦茶だこの実行委員!
隣の死神も美香も〈おーー!〉とか叫びながら盛り上がっている。
《ではポスター貼り・・・》
しん、と一瞬校舎内が静まり返り、
《開始して下さい!》
次の瞬間学校中が揺れた。30クラスが一斉に走りだしたのだから校舎も揺れるだろう。
オレも死神と共に先頭をきって駆け出した。
広い廊下は既に地獄絵図である。
・柔道部の男子に打撃で勝利する女生徒。
・ワイヤートラップを蜘蛛の巣のように張る文芸部の生徒。
・恐怖の金属バット殺人鬼の野球部も今日は敵同士。
・一人敵集団内に特攻し、中心で超高音・大音量エレキギターの広範囲攻撃をするバンドメンバー。
・バレーのボールシューターを持ち出して砲台にするバレー部員。
・敵のポスターを破る裏工作部隊。
・そして最前線で驚異的な戦闘力を見せまくる《サボりヤンキーズ》。
「こ、この学校おかしいにゃぁぁぁ!」
死神までもが認めるクレイジー学校だ。
まぁ文化祭だし、皆日頃のストレスを大爆発させているのさ。これだけ暴れても毎年重傷者が一人も出ないのは神がかり的なものを感じる。
根底では皆他人を思いやっているという事か?
我がクラスの為に道を切り開きながらそんなことを考えていると、ついに的を絞られた。
『来たぞ8組の《里原準》と《七崎美香》だぁぁぁ!』
『2組手ェ貸せぇ!』
『そして財布を奪えぇぇ!』
前言撤回!こいつら最悪だぁぁぁ!
「死神!」
「あいあい!」
「オレが許す!蹴散らせ!」
「いいの!?」
「構わん!財布を奪われたら晩飯抜きになっちまう!」
晩飯のかかった死神は本気になった。
「魔力全開ぃぃぃ! 必殺・・・《名古屋の手羽先は溶けますからぁぁぁぁ》!!」
本気すぎてついに地域名物出たーー!!
ボカァァァァァン!
吹き飛ぶ不良仲間達。
『ギャァァァァ!』
『何ぃぃぃぃ!?』
すまん!
ちなみに、吹き飛んだ生徒のポケットから財布を抜き取ろうとする美香を止める為に、相当な時間をロスしました。
三年区画を大方蹴散らしたオレ達。下級生ゾーンはさすがに大人気ないので軽く駆け抜けた。
後方ではウチのクラスメイト達がテープ係とポスター貼り係で絶妙なコンビネーションを見せていた。
さすが我がクラス!
「いやー楽勝ね死神ちゃん!」
「そうだね美香ちゃん!」
勝ち誇ったように高笑いで廊下を駆け抜け、高笑いで生徒を撃破する二人。周囲を見回せば一年、ニ年、三年入り乱れている。というかクラスのコンビネーションすげぇ。
どすん
いてっ。
「おい美香、死神、急に止まるなよ」
いきなり立ち止まった二人の顔は前を見たまま引きつり、オレの声は届いていない。
『ふふふ〜、なかなかやってくれてるね君タチ』
目の前に立ちはだかったのは白衣のポケットに両手を突っ込んだ金髪の女性。
『いんや〜、教師も一応出し物があるんでな』
手や首の関節をバキバキ鳴らしながら、保健教師[高坂早苗]先生がニヤリと笑っていた。
「さ、早苗ちゃん」
「うひゃ〜高坂先生かぁ。厄介!」
リアクションを取りながらも身構える死神と美香。
いくら高坂先生でもこの三人でかかれば・・・
『じゃあ・・・殺ろうかい♪』
うん、絶対無理。
「いくぜーー!おりゃぁぁぁ!」
「ホラ里原君も!」
・・・オレも遺書書いておけば良かった。
「オラァァァァァ!」
『戦う保健教師ナメんなぁぁぁ!』
――――――――
―――――
・・・。
あれは死んでたね。
実行委員会による〈タイムアップ〉の合図が無かったら間違いなくオレ達は今日病室に居たよ。
そんな事を考えていたら保健室に着いていた。
「おーい死神ー」
保健室の中では・・・
『どひーーーっ!』
走り回りながら死神が泣いていた。
死神を追い掛けているのは、ゾンビの特殊メイクをした高坂先生。
「ゲヘヘヘヘヘ〜」
「嫌ぁー!」
死神がゾンビに追い掛けられるってどうなの?
保健室の中に入ったオレを発見した死神は全速力でオレの背後に隠れた。
「ゲヘヘヘヘヘ〜、ちょっとからかってみたのよ〜」
誰がやったのか高坂先生の特殊メイクはめっちゃ怖い。
「職員の出し物は《おばけ屋敷》ですか」
「そうそう。で、予行練習に死神を脅かしたらあまりにもリアクションが可愛かったからな」
制服の裾を握った黒ローブがガクガク震えている。そういえばコイツ死神のくせにおばけ屋敷が駄目なんだった。
「あ、里原達は演劇だったな」
「はい。けどオレが演劇に参加するのは準備までです。他にオレ達は出し物があるんですよ」
「他に?」
ここでやっと元気を取り戻した死神が勢い良く手を挙げた。
「ズバリ、文化祭特別企画! 《死神ラジオ》だぜー!」
次回へ続きます♪