第68話 準とナイトメア・2 前編
【夜叉 現在地《地獄門前》】
某は現在、多くのエリート餓鬼を従えて白狐殿、カブキ殿と共に地獄門の前に並んでおります。
「まったく、厄介な〈モン〉が来るわねぇ」
白狐殿は先程から溜息を吐いてばかり。
「アッハハハハ!いいじゃんか白狐、滅多に見られないぜ!?」
カブキ殿は楽天的ですな。
今この場で笑顔を見せているのはカブキ殿くらいです。といっても皆仮面や包帯で表情を伺うことは難しいですが。
後ろを見るとエリート餓鬼達は皆、手袋を特殊な加工を施したものに取り替え、ズラリと我々三人の後ろに並んでいる。
そして
「・・・来たわね」
白狐殿が言うので某も前に向き直ると、魔列車が到着していた。
ここからが上級任務。
『・・・!』
『や、夜叉様!』
『魔列車の様子が・・・!』
おかしい。
そう餓鬼の一人が言おうとしたところで目の前の魔列車の車両が一つ爆発した。
「な、何事なの!?」
「アッハハハハ!異常事態だ!」
爆煙の中からは魔導会社直属の戦闘用パペットが次々と破壊された状態で放り投げられている。
こ、これは・・・。
「白狐殿、カブキ殿!右舷、左舷へ展開!」
「了解よ」
「任せときなっ!」
「エリート餓鬼達!」
『ハッ!』
「四班に別れて下さい!一班ごとにそれぞれ我々三人の護衛にあたって頂く!残った一班は地獄旅館に非難勧告、閻魔殿を至急合コンから呼び戻すように!」
『了解!』
我々は魔列車へ向けて疾走を開始した。
しかし困ったものですな。魔列車の車体には高度な魔力を練り込んであるはず。しかも魔導会社直属の戦闘用パペットまで蹴散らすとは、なかなか噂以上の・・・
「おい夜叉!危ねぇ!」
!!
――――――――
―――――
―――
今日のオレは部屋に一人だ。
朝から死神は昔の友人に会いに行くとかで出掛けてしまっているからだ。
フハハ、のんびりできるぜ。
ピンポーン
・・・。
今日はのんびり・・・。
ピンポーン
・・・。
はい。今出ます。
オレはモニターを覗きながら受話器を取った。
『えへへ、こんにちはです準くんっ』
ナイトメアだった。
部屋にやってきたナイトメアはどうやら一人のようだ。
「冬音さんはどうした?」
「今日は私一人なんですー」
居間に座ったナイトメアはそう言いながらキョロキョロと見回す。
「準くんこそ、ロシュは?」
「今日はオレだけなんだー」
「そうですかー、じゃあ・・・」
すくっ、とナイトメアは立ち上がり、オレの腕を掴んだ。
メアちゃんの背後には・・・ワープゲート?
「今日一日お買い物に付き合ってくださーい」
「か、買い物!?」
「はい!・・・駄目ですか?」
しゅんとするダークピエロに軽く慌てるオレ。
「いやいや、暇だからいいぜー」
「やったですー!」
――――――――
というわけで、連れてこられました地獄旅館。
しかも今回はナイトメアと二人だけだ。なんでも今の格好に飽きてきたからたまには違う服を着てみたいのだそうだ。
・・・女の子らしい考えだ。
ウチのアホ黒ローブにも聞かせてやりてぇよ。
で、現在《地獄街》四階。衣類やら仮面やらのショップがたくさん並んでいる。どうやら地獄街四階はこういった物を揃えるための場所らしい。普通に人間界より揃えが良いぞ。
「準くん、私お洋服見てきますねー」
「おー。服くらいならオレが金出してやるよ」
「ホントですかー!?」
ナイトメアは足早に一つのショップの中に入っていった。
オレは吹き抜けになっているホールの手摺りにもたれかかり、上を見上げた。天井が見えるが、実はあの一階下には透明な床が一枚ある。
七階《無の間》。オレと死神が大会で《猫・麒麟ペア》と死闘を繰り広げた場所だ。ちなみにこの地獄旅館、一階ごとの天井の位置が異様に高い。
つまり七階とか言ってもオレ達の世界では大体十四階かそれ以上の高さはあるということだ。オレの今居る四階だって、下を見下ろすと魂や仲居、餓鬼達がかなり小さく見える。
・・・七階から《ニボシLOVE!》とか言いながら落下していった猫と麒麟は恐ろしいな。
そして躊躇なく床を爆破しやがったウチのアホ神とゲルさんも恐ろしいな。
そんなことを考えていると・・・
「準くん見て下さーい!」
「あいよー」
ナイトメアに呼ばれたオレは試着室の前に立った。
「えへへーどうですか?」
・・・。
に、似合う・・・。
――――――――
【ナイトメア試着劇場(解説:かきピー)】
―――――
OK!読者のeveryone!久しぶりだなシュガーレス!
さぁ今回は地獄が誇るキュートな夢魔娘ナイトメアのコーディネートを紹介するぜぇ!
解説は作者の軽いお気に入りと化したこの《GAKI・P》がお送りするぜヨロシクシュガーレス!
(どっから出て来た?)
(あっ、大会の解説者さんだー)
―――――
《FIRST SNAP・おしゃれにほんわかナイトメア》
さぁまずは流行のレギンス(スパッツのような物)をバルーンワンピに合わせたスタイルだ。
(うん、優しい色合いだ)
スウェット素材で着やすそうなグレーのワンピに白のコットンタンクを重ね着した涼しげなコーディネート!さらに黒のレギンスをプラスしておしゃれさんだぁぁぁぁらぁぁぁ!
【かきピー:暴走開始により中断】
―――――
《SECOND SNAP・わんぱく娘ナイトメア》
さぁ次は元気いっぱい、スポーティーなコーディネートだぜ!
黒のポロシャツ、ブラウンのショートパンツの組み合わせがセクシーだぁぁ!大きな赤いベルトが効いてるぜぇぇぇ!
(メアちゃん、そういう格好も似合うね)
(て、照れますー)
ヒュー!やっべ、惚れちまいそうだなシュガーレス!ハハハハハ!
【かきピー:準とメアに殴られて中断】
―――――――
《THIRD SNAP・爽やか優雅娘ナイトメア》
さ、さぁ次は落ち着いた爽やかさ抜群の夏スタイル!
(おぉっ)
アイテムは白いワンピース、ブラウンのストローハット、ブルー系のジーンズ、ターコイズブルーのバッグやアクセサリー等の小物だ!
甘さに適度な辛さがプラスされて、爽やかながらパンチのあるコーディネートだ!
【かきピー:意外にまともな解説だったので退場】
(えー!)
えー!?何故何故!?ちょっと待ちなよシュガーレス!作者待ってよシュガーレス!
あぁぁぁ・・・
――――――
――――――
・・・。
な、なにしに来たんだアイツ?
しかしナイトメアの私服を初めて見たのだが、なかなかどうして・・・センスが良い。
死神に服を選ばせてもやはり上手いコーディネートをするのだろうか?
服を買い終えたオレ達は、
「次はどこ行く?」
「次はですねー・・・」
――――――――
その後も服の他にゲルさんの雑貨屋や魔導関係の店を覗いたりし、オレとナイトメアは例の廊下に位置するオープンカフェで向かい合って座っていた。
「ありがとうございますー!楽しいですー!」
満面の笑みでコーヒーカップを口に運ぶナイトメア。
良かった良かった。
「また一緒に買い物して下さいねっ!」
「おー。オレで良けりゃな」
夢魔娘はへへへっ、と笑った。
ドドドドドド・・・
ん?
ドドドドドド・・・
何の音だ?
オレはナイトメアの更に向こう側、ナイトメアは後ろを振り向いた。
ドドドドドド・・・
『お待ちくださいドミニオン様!』
・・・。
魔剣ドミニオンがエリート餓鬼の集団に追い掛けられていた。
ふわふわ浮いて逃げる魔剣を必死で追っているエリート餓鬼達は広い廊下の壁や天井を駆け抜け、他の客や仲居達に
『失礼!』
『申し訳ない!』
とか言いながらこちらへ向かってくる。
「おいおい」
「ドミニオンさんですー」
ここで魔剣もオープンカフェのオレ達に気付いたらしく、テーブルの下に滑り込んだ。
〈しーっ!ちょっとかくまってくれ!〉
エリート餓鬼の嵐がオープンカフェにまでやって来た。テーブルの間を縦横無尽に駆け抜ける。
たまにお客さんのサンドイッチを弾き飛ばしてしまう餓鬼もいたが、素早くキャッチして包帯をまくった自分の口に放り込むと
『もぐもぐ・・・失礼致しました。これでもっと豪華なお食事を』
と、金を渡して走り去っていった。
近くで立ち止まったエリート餓鬼達が会話している。
『しかし捕まえるのは困難でしょうね』
『そうですね。なにせ今日はほとんどが《あちら》の任務に駆り出されましたから』
『最近は我々の出動が多いですな』
『おや、それは先日の《悪魔の様なお嬢様》のことですかな?』
『ははは、まさか着ぐるみを着せられるとは思っていませんでしたが』
『なかなか楽しかったですけどね。・・・おっと、そろそろ行きましょう』
エリート餓鬼の嵐が過ぎ去ったのを確認した魔剣はひょっこりテーブルの下から出て来る。
〈いやー、参った参った〉
相変わらずのんきな剣だ。
「何で追い掛けられていたんです?」
〈合コン行く途中で見つかっちまってな。閻魔には置いてかれちまったし。ハハハハハ!〉
「ただのアホです」
ダークピエロが適切なツッコミを入れた。
〈今日は追い掛ける人数が少なくて助かったぜ〉
いつもはもっと多いのかよ。
「そういえばさっきの餓鬼達がそんなような事言ってましたね」
〈オレが格好いいってか?〉
「死ねです。帰れです」
ダークピエロが冷酷なツッコミを入れた。
なんだか心なしか顔がムスッとしているような・・・。
〈お?そういえばお前等デートか?ヒューヒュー!〉
「ツッコむ気にもならねーです」
〈何を〜っ!〉
騒がしくなってきたオープンカフェだったが、突然大きな音に掻き消された。
『ビーーー!ビーーー!ビーーー!ビーーー!』
?
今度は何事だ?
言い争っていた魔剣とナイトメアも固まってスピーカーに顔を向けた。
「ドミニオンさん、これって・・・」
〈あぁ。緊急非難警報だ〉
なんかヤバそうな響きだな。
「なんだ?それは」
「えと、地獄旅館のお客様達に危害の及ぶ事件が起きた時、幹部の判断で発令されるです」
〈で、お客様は全員宿泊部屋に戻されて区画ごとにエリート餓鬼の護衛がつく。宿泊部屋・その他の店等は閻魔自らが作り上げた特製の魔結界が張られているからな、実質閻魔より魔力の高い奴でないと破れねぇ。つまり誰にも破れねぇってこった〉
なるほど。地獄の安全はそうやって保たれているのか。
気付けば周りには慌てて自分の部屋や店へと戻る客や餓鬼達がおり、遠くで一人のエリート餓鬼が誘導していた。
・・・。
これはなかなか大事なんじゃねぇか?とオレはオープンカフェに誰も居なくなった時に初めて気付いた。
「うーん、緊急非難警報だなんて・・・一体何があったのかな?」
〈・・・まさか〉
ドミニオンは思うところがあるようだ。
「ドミニオンさん、心当たりが?」
〈あぁ。まさかとは思うが・・・オレを奪い合う女達の暴動・・・〉
「死ねです。帰れです」
「死ね。帰れ」
軽く落ち込む魔剣。
再びスピーカーから、今度は声が聞こえてきた。
『医療班に連絡!夜叉様が負傷!至急地獄門前へ!』
・・・何?夜叉さんが?
ナイトメアもさすがに慌てている。
「ちょっとドミニオンさん、夜叉さんが負傷する任務って・・・」
ここでナイトメアの言葉は断ち切られた。
何故なら、突然廊下の壁が爆発したからである。
オレもナイトメアも、そしてドミニオンもすぐに席を立って身構えた。
〈チッ、夜叉達め。しくじったか〉
煙が晴れると・・・
そこには巨大な影が・・・
・・・。
「は、はわわわわ!わ、私初めて見るです!あれって・・・」
〈おぅ。炎魔獣だな・・・。どうやら搬送中に逃げ出したようだ〉
次回へ続きます。