表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神といっしょ!  作者: 是音
66/116

第66話 死神と夏祭り

「楽しみだねー由良ちゃん!」


「楽しみですねー」


 暗くなり始めた頃、オレと死神と渡瀬はマンションから結構離れた場所にある川へ向かって歩いていた。


 そう、今夜は街のお祭りである。


 川の両端にある広い道路には毎年沢山の屋台が立ち並び、川原では花火が打ち上げられる。

 というわけでオレ達三人は現在移動中なのだ。


 今日の死神は白い生地にハイビスカス柄の浴衣を着ている。夏休み当初に買ってやったものである。うちわを片手にスキップしている。


 渡瀬はというと、落ち着いた色合いの生地に優しいタッチで描かれた金魚柄だ。小柄なのに大人びて見える。


「夏祭りがあって何で春祭りがないの?」


 幼稚園児が聞きそうな質問である。しかも答えが浮かばない。


 というわけで面倒なので・・・


「死神、春祭りってのはな、自分一人頭の中でポカポカ狂い踊る事なんだ」


 ウソをついてみた。


「へぇ〜!そうなんだぁ、日本人っておかしな事するんだねぇ」


「そうだな」


 ちなみにギョッとした顔でオレを見た渡瀬には《ファンタズマ現役時代並の眼力》をぶつけて黙らせておいた。


「どひっ!」


 と珍しい声を出していたが。


 周りには同じように祭りへ向かう街の人達が歩いている。

 彩花さんとバンプを呼びに行った時は既に部屋に居なかった。先に行ったのだろうか。


 おっ。


 だんだん人が密集してきて、遠くでは屋台の明かりが見え始めた。


―――――――


「うわぁすごーい!明るーい」


「死神ちゃん、はぐれちゃ駄目だよっ」


 とか言いつつ渡瀬はオレと死神から離れていく。


「おい渡瀬、お前がはぐれそうだぞ」


「そうだよ由良ちゃん」


 オレと死神に手を引かれた渡瀬は照れ笑いした。


「ありゃ。す、すみません」



 川沿いの通りは活気に溢れていた。しかしよくもまぁこんなに人が集まるもんだ。祭りパワーはすげぇよな。

 道の両側には間をあけずにズラリと屋台が並んでいる。

 死神はオレと渡瀬の腕を引っ張ってお面売場へ駆けていった。


「最近の死神業者はこういう仮面をつけないと!」


 ほう、最近の死神業者ってのはちびっ子に好かれるようなダセェ存在を目指しているのか。

 死神はアクションヒーローやらヒロインやらあとよくわからんキャラクターやらのお面を真顔で見ている。


「由良ちゃん、お面買おうぜ!」

「あ、はいはい」


 死神は渡瀬と一緒にお面を選ぶ。


 どうやら決まったらしい。


「私はねー《誘惑魔女フェロモン・ボンバイェイ》のお面!」


 待て。

 ちびっ子が見るにはまだ早い怪人だろ。


「そんで由良ちゃんはねー《マッチュ・ポリテッチュ君》のお面ね!」


 誰だそのムカつく名前の野郎はぁぁぁぁ!


「由良ちゃん、付けて付けて〜!」


「あ、はいはい」


「お、おい渡瀬」


『ん? やだなぁ僕は《マッチュ・ポリテッチュ》だよシュヴェルビヤァーン』


 渡瀬ぇぇぇぇぇ!


 お面を被った渡瀬は《マッチュ・ポリテッチュ君》とやらになりきってしまった。

 死神は頭の横にお面を被って飛び跳ねている。どうやらいたく気に入ったらしい。


「よっしゃ!今度は向こう行ってみようぜ由良ちゃ・・・《マッチュ・ポリテッチュ君》!」


『了解シュヴェルビヤァーン』


 なんだその語尾は!


 この後もずっとシュヴェルビヤァーンなんて語尾をつけて話されたらさすがにウザいので、オレはさりげなく渡瀬のお面を横にずらしたのだった。


 つーかこんなテレビキャラがよくお面化されたな・・・。


――――――――


 こんなに密集した人込みの中ではさすがに動きづらいしはぐれたら面倒なので、死神を肩車し、渡瀬もオレの裾を掴んでいた。


 賑やかな中を進んでいくと突然とある屋台から呼び止められた。


『あっ! 里原さん!』


 チョコバナナの屋台でこちらに手を振る頭にバンダナを巻いた男。こいつは知っている顔だ。


 屋台の前まで行くと、そいつの他に別の屋台でも知った顔が焼そばを焼いたりたこ焼きを焼いたりと忙しそうに働いていた。全員ファンタズマの連中だ。


『お久しぶりです!元気そうで!』


「まぁな。それよりお前等、何でこんなに働いてんだ?」


 オレがそう言うと、バンダナの男どころか周りで働いている連中までもが涙目になってオレの方を向いた。


『そ、それが・・・』


『半ば無理矢理というか・・・』


『逆らったら殺されそうというか・・・』


・・・?


 あぁ、わかった。


「また冬音さんの命令だな?」


『いや、姐さんの命令・・・。まぁそういう事なんですけど・・・その、ちょっと違うというか・・・なんつーか』


 どうにも言いにくそうである。


 ふと死神と渡瀬を見ると、二人はチョコバナナを見つめたまま指を唇に当てていた。


「あー、おいケンジ」


『は、はい!』


「チョコバナナ二本、頼むわ」


『ま、毎度あり!』


 ケンジというバンダナの男はチラリと渡瀬とオレを交互に見ると、すぐにビニール袋に入ったチョコバナナを渡瀬に二つ手渡した。


『あ、お代は結構で・・・』


「まさかオメー、オレに貸しを作らせるような真似すんじゃねぇだろうな?」


『すすす、すんません!』


 オレはケンジに代金を渡し、

「皆によろしくな」

 そう言ってその場を去った。


 渡瀬が上を見上げて死神にチョコバナナを渡し、二人は満面の笑みでそれを口に入れた。

 柔らかく光る提灯が連なっているのを死神が興味深そうに見ている。


「ねぇ準くん、今の人誰?」


「ん? あぁ、昔の知り合いだよ」


 と、ここで渡瀬の足が止まった。オレの袖をくいくいと引っ張る。


「どうした渡瀬?」

「どうしたの由良ちゃん?」


 渡瀬は横を指差す。


「あの、あれって」


 その先には金魚すくいの屋台があり、


 冬音さんとナイトメアが働いていた。


「ふ、冬音さん!?」


「メアまで! 何やってんの!?」


 冬音さんはオレ達に気付いたらしく、ナイトメアと一緒に手を振った。


「よう準、死神、渡瀬!金魚すくいやってけ!」


 三人で屋台へ近づく。死神は水槽で泳ぐ金魚に興味津々だ。


「おっ、死神やるか?」


「やるー!」


 それに敵対心を燃やしたナイトメアも名乗りを上げた。

 ナイトメアは紫色の生地に星の柄がちりばめられた浴衣を着ている。頭のニット帽も健在。今日の頬のペイントは小さな金魚と花火の絵だ。可愛いなオイ。


「私もやるですー!」

「コラメア、お前は店番だろ」

「えー!やりたいですー!」

「・・・ふむ、まぁいいか減るもんじゃないし」


 渡瀬が死神とナイトメアの金魚すくいでの死闘を見守る中、オレと冬音さんは屋台の外へ出て話していた。


「ファンタズマのメンツを駆り出して一体どうしたんです?」


「ん、いやぁ、その・・・」


 冬音さんはバツの悪そうに頬に人差し指を当てた。


 冬音さんも浴衣姿で、黒い生地に百合の花の絵柄が二輪描かれていた。

 前髪で隠れていない方の目がキョロキョロと落ち着きなく動いている。


「その、久しぶりに連中に会えて・・・良かったか?」


「はい、元気そうでホッとしましたよ」


「そうか!良かった良かった!」


 意味がよくわからんが、まぁいいか。



「あわわわわ、ふ、二人共!」


〈ボリボリ〉

〈バリバリ〉


 渡瀬の声を聞いたオレと冬音さんはそちらに視線を向けた。


・・・。


〈バリボリバリボリ〉

「むふっ、どうよメア!」


〈ボリバリボリバリ〉

「もふっ、負けないんだから!」


・・・。


 金魚すくい用のコーンで大食い競争をしていた。


「な・・・っ」


 さすがの冬音さんも目を見開いたまま驚いている。そりゃあコーン食われたら商売が・・・


「なんて美味そうに食べやがるんだコノヤロー!」


 そっちか!


 死神とナイトメアと冬音さんがコーンを食べ尽くす前にオレと渡瀬で必死に止め、結果として死神を二人で屋台から引きずっていく形になった。


――――――――


「ぬーん、準くん由良ちゃん、ごめんなさーい放してくださーい」


 二人でズルズル引きずっていた死神をここでようやく解放した。


「でもすごいよね〜!あんなコーン、水に浸けたら一発でふにゃふにゃになっちゃうのに金魚すくえる人がいるんだもんねー」


「ん? 結局死神とメアちゃんは一匹もすくえなかったのか?」


 オレが渡瀬に向かってそう聞くと、渡瀬は苦笑いで頷いた。


 だからコーンの大食い競争に発展したのか。


「由良ちゃん、金魚すくいとは!?」


『水の浸食、コーン皿の崩壊カタストロフ、これをいかに防ぐかである!』


 よくわからんが《素早くすくい上げろ》って事で良いのか?


 ふと周りを見渡すと、妙に子供や、子供連れの親が多いことに気が付いた。この辺に人気の屋台でもあんのか?


「多分アレですよ里原くん!」


 渡瀬が指を差す先には、リスやらサルやらイヌやら、様々な着ぐるみ姿の連中が屋台で働いていた。

 これか、子供が多い理由は。


 肩車した死神がオレの頭をポンポン叩く。


「準くん、あの着ぐるみ達から魔力を感じるよ」


 オレも一度は言ってみたいセリフだね。


「魔力?」


「うん!行ってみよう!」


 オレ達三人は水風船の屋台で働いているリスの所へ行った。


「すんませーん、水風船二つ下さい」


『・・・!』


 オレ達を見たリスの着ぐるみがビクッと反応した。

 おーおー、わかりやすいリアクションだ。死神も面白がっている。


「アハハハハ!水風船二つ下さぁい!」


『さ、ささささ里原様、死神様・・・!』


 あたふたしながらも、着ぐるみは上品に一礼した。


 ?


 誰だ?


 そのリスはオレと死神の前でチラリと着ぐるみの頭を持ち上げた。


・・・。


・・・!


「エリート・・・餓鬼!?」


 そう。チラリと見えた着ぐるみの中には頭部を包帯で巻かれた奴がいた。しかも首元を見たらスーツ。つまり普通の餓鬼ではなく《エリート》餓鬼がこんな祭りで屋台を切り盛りしているのだ。

 てっきりまたファンタズマの連中だと思っていたオレは激しく驚いた。

 死神はなんとなく気付いていたらしい。


「あの、里原くん。エリート餓鬼って何です?」


 そうか、渡瀬は地獄の事を知らないんだったな。


「いや、ちょっとした知り合いだよ」


 死神はリスの頭をパシパシ叩いている。


「餓鬼ちゃん可愛い〜!」


『こ、困ります死神様・・・!』


「まさか餓鬼さん、ここら一帯で屋台を切り盛りしている着ぐるみは全員・・・」


『はい。地獄アジア支部《上級任務派遣課》所属、エリート餓鬼でございます。今回はのべ20人が出動しております』


「ににに、20人!? エリート餓鬼が!?」


『はい』


「誰の指示だ? って、こんな権限持ってんのは閻魔さんくらいか」


『いえ・・・』


 言いながらエリート餓鬼は一際大きな屋台を指差した。


『・・・《彼女》です』


――――――――


―――――




 デビル女子大生《須藤彩花》はおそらく一番大きいと思われる射的の屋台で商売をしていた。


 で、彼女に捕まってしまったオレと死神と渡瀬は、その屋台の中で倒れた商品の並べ直しや管理をやらされている。


「あらあら♪まさか三人が現れるなんて!ねぇバンプ♪」


「た、助かりました」


 どうやら彩花さんに手伝わされていたヴァンパイアは相当こき使われていたらしく、ヘトヘトになっていた。


 彩花さんがハイテンションで大きな射的屋を切り盛りする中、オレ達四人は椅子に座ってかき氷を食べていた。

 死神と渡瀬は彩花さんの働きっぷりに目を輝かせている。


「バンプ、エリート餓鬼達を呼んだのは彩花さんだな?」


 バンプが頷く。


「はい。ついでに言えば冬音さんの・・・佐久間財閥の私設部隊ファンタズマを駆り出させたのも彩花さんです」


 うわぁ黒幕キター!


「どうやってファンタズマを動かしたんだ?」


「えーと確か・・・」


―――――


彩:『フフフフッ、佐久間さん。ファンタズマをお借りしたいの♪』


冬:『おいおい須藤、私でもそう簡単には動かせないぞ』


彩:『確かファンタズマって里原くんが昔居たのよね?』


冬:『そうだが?』


彩:『お仲間とはしばらく会っていないんじゃない?』


冬:『ふむ。そういえば・・・』


彩:『なら祭りで屋台をやってれば絶対会えるでしょう?里原くんも喜ぶんじゃないかしら♪』


冬:『な、なるほど』


彩:『そしたらもう里原くんは粋な計らいをしてくれた佐久間さんにゾッコンLOVE!』


バンプ:(古っ!)


冬:『その話乗ったぁぁぁぁぁ!!』


――――――


「・・・という具合です」


・・・。


 最凶悪魔の舌は最強変人をも動かしたか。


「何でこんなに人手を確保してまで?」


「《金儲け》だそうです」


 単純!


 彩花さんがバンプを呼ぶ。


「バンプ来なさーい!」


「あ、はーい!」


 自分の元へ来た吸血鬼に彩花さんが耳打ちする。


(バンプ、あのお客さん射的の腕が良いわ)


(僕の出番ですね)


(ええそうよ。あなた見えないんだから《的を支えていなさい》)


 そりゃイカサマだろ悪魔ぁぁぁぁ!!


 結果、そのお客は当然一つも商品を落とせず、更にはムキになって財布を空にして帰っていった。


 悪徳極まりない。


 オレは思わず彩花さんに尋ねていた。


「彩花さん、そんなに稼いでどうするつもりなんですか?」


「幼稚園よ♪」


「・・・え?」


「ウチの大学内にある幼稚園ね、最近財政難らしいのよ。知り合いにそこでアルバイトしてる子がいてね、そんなの聞いちゃったら居ても立っても居られないじゃない」


・・・。


 なるほどね。

 まぁこの人はこういう人なんだよ。


「売り上げの半分は貰うけどね♪」


 やっぱ悪魔でした。


 いつの間にかリンゴ飴を買って舐めている死神と渡瀬(さりげなくこの二人、祭りを堪能しまくっている)。

 彩花さんは腕時計を見た。


「あら、そろそろ花火が上がるわね。死神ちゃん達、お手伝いはもういいから見ていらっしゃいな♪バンプも行ってきて良いわよ♪」


――――――――


〈ポン!ポンポン!〉


〈ドーーーン!〉


 てなわけで現在オレ、バンプ、死神、渡瀬は川の土手に座って花火を見ています。


「うわー綺麗だぁー」


「ほぇー、凄ーい」


「今年は一段と豪華ですね〜」


 死神業者二人と渡瀬は目を見開いて花火に驚いている。


 あ。


「おい死神、ホラあれ言わないと」


「そうだよロシュ!」


「あっ、そうだったね」


 読者の皆様、死神が何かを言いたいらしいので聞いてやってください。


―――――


『読者の皆様、えっと、うーんと・・・しょ、しょ・・・』


(暑中見舞いだ)


『あっ!《しょちゅーおみまい》申し上げますっ!暑いけど頑張って家でゴロゴロしましょう!』


(メチャクチャだこいつ)


 というわけでまだまだ暑い日が続きますが、ここでオレが夏バテ解消レシピを・・・


 何!? もう今回終わるの!?


「準くん、つまんないってさ♪」


「ドンマイだね準くん!」


「ふふっ、ドンマイです♪」


・・・。


 フッ、抵抗してみせるさ!


 夏バテ解消の為にはスタミナを付けなければいけないわけで、ここで用意しておく食材は・・・

この度、なんと永遠ザキ様のご好意によってこの作品のイラストを書いて頂きました! 交流サイト《小説家になろう秘密基地》の新・イラストコーナーにて公開されております。お礼の文は感想コーナーに載せさせて頂きました。 皆様のイメージを見させて頂くのも良いなぁ♪と思ったり(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ