第64話 死神の両親
〈ドスーン!ドスーーン!〉
〈ドスーン!ドスーーン!〉
・・・!
「・・・っ!」
「アハハハハ!」
〈ドスーン!ドスーン!ドスーン!ドスーン!〉
「チキショー!なんなんだよコイツはぁぁぁぁぁ!!」
「頑張れ準くん、逃げろ逃げろー!」
〈ドスーン!ドスーーン!〉
オレと死神は現在、死神の両親が住む《マーバス・ドミナント城》の中に居ます。
そして西洋の城を再現したような造りに感心する暇もなく、長ーい石畳の広ーい廊下を・・・
三人(?)で走ってます。
「キャー!追い付かれるよ準くん!」
「元はテメーのせいだろうがぁ!」
死神を脇に抱えて全力疾走するオレの後ろには
〈ドスーン!ドスーーン!〉
おっかなびっくり《石の大巨人》くんが追い掛けて来ているのさ。
少し時間は遡る。
――――――――
魚人船頭さんに島まで乗せてもらったオレと死神は、見上げると首が痛くなる程高くそびえ立つ城の城門をくぐり、中へ入った。
自然と開いて、オレ達を中へ入れた巨大な扉はすぐに閉まり、赤い絨毯の敷かれた廊下(つーかもうこれは既にホール並の広さだ)を進む。
『お前の両親は何処にいるんだ?こんなに広いと迷っちまうよ』
『うーん、多分私達が来る事を知ってるから玉座のあるホールじゃないかな?』
『そうか』
『さ、行こう行こ・・・』
ガコン
『ありゃ・・・』
・・・。
張り切りながら踏み出した死神の一歩は、一枚の石畳を踏んで沈んだ。ま、トラップってやつだね。
分かりやすい展開だよね。
ハハッ、映画みたいにいってたまるか。
大抵映画とかでは、トラップのスイッチを押してから馬鹿な主人公達が一定時間ボーッと固まり、気が付けばヘビーな大玉が転がってくるんだよね。
この一定時間の所為で主人公達はギリギリの展開に追い込まれるわけだ。
フッ、オレがセオリー通りに動くと思うなよ、この一般的概念めが!
・・・という思考を0.5秒で繰り広げたオレは、沈んだ足に驚いている死神を瞬速で脇に抱え、瞬足で奥へ走りだした。
さぁ来い大玉!余裕でぶっちぎってや・・・
ズッドーーーーーン!!
・・・。
ギャ・・・
ギャァァァァ!巨人が落ちてきたぁぁぁぁ!!
しかもオレ達の真上に仁王立ち。先手打った意味ねぇし!
鬼か作者!
セオリー無視か作者!
死ね!
・・・。
ヒューーー・・・
ん?
バガァン!!
『ぐはっ!』
て、天井から石が降ってきた!何で!?つーか普通なら死ぬぞ。
『ありゃ〜準くん、作者の悪口言っちゃ駄目だよ〜。ただでさえ物語とかに作者が登場するのはNGだと思ってるのに〜』
そ、そうですか。
とりあえずオレはゴーレムの股の間をくぐり抜け、再び全力疾走を開始した。脇に抱えた死神は手足をパタパタさせてはしゃいでいる。
『まさかテメー・・・毎年わざとトラップに引っ掛かって楽しんでんじゃねぇだろうな?』
『わはー!バレたー!』
ふざけんな!
『去年の閻魔さんも笑いながら私を抱えて逃げ切ったし、一昨年のデーモンさんは一瞬で粉々にしちゃったんだよっ。アヌビスさんの時は・・・怒られた記憶しかないや。ぐすん』
『オレを支部長と一緒にするんじゃねぇ!』
――――――――
で、今に到る。
相変わらず追い掛けてくるゴーレムから逃げながら、隠れられそうな場所を探している。
・・・見つからねぇから今もこうして廊下を疾走しているのだが。
「あっ!準くん見て見て〜扉だよ!」
確かに。目の前には大きな扉がある。だがこのくらいゴーレムは突き破るぞ?
「大丈夫!多分結界が張ってあるだろうから!」
よし、コイツがそう言うなら大丈夫だろう。
オレは死神を抱えたまま扉を蹴り開けて中に飛び込んだ。ゴーレムは・・・
扉の手前で立ち止まり、そのまま地面へ消えた。どうやら本当に結界は張られていたらしいな。
「ふー。やっぱギリギリかよ・・・」
その時だった。
――――――――
『ハハハハハ!おやおや、これはまた派手な登場だね』
!?
背後で声がしたので急いで立ち上がって振り替える。
巨大な、何もかもが巨大なこの城の中でも一際巨大なこのホール。ただ二つ、大きな椅子があるだけ。
玉座の間だ。
そんでもって二つの椅子には・・・。
・・・。
この人達が
死神の
「お父さん、お母さん!」
隣の死神が駆け出し、椅子から立ち上がった二人が迎え入れる。
『おーっ、ロシュケンプライメーダ!また一段とセクシーボディに成長したなぁ!』
『まぁロシュ!本当に大きくなったわ!』
死神を抱き上げた男性。死神の父親は背が高く、黒いローブに身を包み、更にそのローブの周りにはよくわからない文字が書かれた紫の細長い布が数本浮かんでいる。顔には死神の象徴、ドクロの仮面だ(怖さ最高級)。
そしてもう一人の女性。死神の母親は・・・
うわぁやっべぇ。超がつく美人だよオイ。仮面はつけておらず、肩まで伸びた金髪と青い目は死神とそっくりだ。
「あ!お父さん、お母さん、紹介するよ」
そう言いながら死神はボーッと固まっているオレの元へ来て腕を取った。
「準くんだよっ!」
正直に言おう。
オレが先程から身動きできないのは、死神の両親が放つオーラが強すぎるからだ。
というかあの父親から出ているオーラがさっきからオレに向かって
《貴様ウチの娘のストーカーかコラ》
的なメッセージを送り込んでいる。
それに気付いた死神が怒声をあげた。
「もう、お父さん!準くんは私のフィアンセだよ!」
オイ。
『な、何ぃぃぃ!?』
オイ。
「私の準くんは怒らせると怖いんだから!」
オイ。
『わわわわ、わかった』
オイオイ。
こ、こりゃあ閻魔さんの言ってた通り、とんでもねぇ親バカだ。
『さぁロシュ達の為に料理を作りましょ♪ロシュ、手伝ってね』
「はぁーい!」
『ギル、あなたはそちらの殿方とお話でもしていて頂戴』
――――――――
―――――
――
『いやぁ〜悪かったな!まさかロシュの婚約者とは』
「スゲー勢いで違います」
『あ、そうなのか?ハハハハ、だがロシュの面倒をみてくれている事には違いないな。ありがとう』
ワイングラスを持ったドクロの仮面が肩を揺らして笑っている。
手に持ったワイングラスから自然に中身がゆっくりと消えていく。
『うむ、美味い。さすがは年代物だ』
どういう芸当だ。
自己紹介を終えたオレは死神の父親こと
《ギルスカルヴァライザー・ヘルツェモナイーグルスペカタマラス六世》(やっぱ長ぇ)
に誘われ、そのギルさんの部屋に入って二人で話している。
ちなみに死神と、死神の母親こと
《ルイシェルメサイア》
(長いからファーストネームだけ。しかし家族全員の名前書くのに苦労しそうだ)
は、料理を作るべく調理場にいる筈だ。
良い機会だからお母さんに料理教えてもらえよ死神。
『しっかしウチの娘は可愛いだろー!ハハハハハ!』
さっきからこの父親、娘の自慢話しかしてねぇ。
『よし里原!我が娘を君にあげよう!』
「ぶはぁぁっ!」
口に含んだ飲み物が全部吹き出た。
「会ったばかりの男に容易く自分の娘渡さないでください!」
『ハハハハハ!』
すっげぇ気さくだよ伝説の死神。
『よっしゃ里原!』
「?」
『キャッチボールしようぜ!』
元気良いなオッサン。
「ボール無いじゃないですか」
『大丈夫!私が《怨念ボール》を作るから』
嫌だ嫌だ!
「えっと。なんか、折角の家族水入らずなのに邪魔してすみません」
『何言ってんだよ、あんなに楽しそうに会いにきたロシュは初めてだぜ』
「そうなんですか?」
『よっぽど君と来るのが楽しかったんだねぇ。父親である私が言うのだから間違いないよ』
うーん、オレなんかで良かったのかね?
するとギルさんは突然席を立った。
『おや。里原くん、昼食ができたみたいだよ』
「なんでわかるんですか?」
『《夫婦愛テレパシー》だ』
強い!強いよこの人!
―――――
食堂も広い。なんだか本当に貴族みたいな感じだ。
既に死神は円卓に着席しており、母親のルイさんが料理を並べていた。
『あらアナタ、ちょうど良かったわ。みんなでご飯にしましょう♪』
「お母さん!それ準くんだよ!」
『あら?ま、いいわ♪』
「良くないよ!」
し、死神がツッコミ担当!? まさかの奇跡だ!
オレはルイさんに腕を掴まれたまま死神の隣に座った。
向かい側にドクロ仮面ことギルさんが笑いながら座る。
『ハハハ、里原くん。私から娘も妻も両方奪おうというのかね。ナイス謀略!』
だからなんでそんなに楽観的なんだよ!
並べられた料理はどれも最高の品だった。これが死神家の味ってやつか。
『ウフフ、味付けはロシュがやったのよ♪』
「だってお母さん《強化魔法爆薬》入れようとするんだもん!」
『ちょっとしたお遊びよ〜♪』
いや死ぬよ。
『ハハハハ、ルイの料理はいつも凄いぞ。なにせこの伝説の死神、ギルスカルヴァライザーが死にかけた事もあるのだから!』
誇らしく語ってんじゃねぇよ! アンタが死にそうになるならもはや劇薬だ!
オレが料理に手を付けようとすると、死神に引っ張られた。
「どうした?」
「まずはお父さんに毒味させないと」
この娘最悪だ!
『さ、ギルも食べて食べて♪』
『うむ。頂きます』
そしてギルさんの目の前にある皿から料理が消えた。仮面が動いているから先程のワインみたいにテレポートさせて食べたのだろう。
つーかそこまでして仮面外さないのかギルさん。
『むぐむぐ。うん、おいしいよル・・・』
バガァァァァン!!
うわぁぁギルさんの顔から爆炎が出たぁぁぁぁ!!
「お母さん、何入れたの!?」
『《強化魔法爆薬》♪』
「だからなんでまた入れてんのよーーー!!」
『だって止められたらお母さんだってムキになっちゃうわよっ。プン!』
やる事が超怖い上に精神年齢が低すぎだ! そして仕草が可愛すぎなんだよルイさん!
そ、それよりギルさんは大丈夫か!?
『ケヘッ・・・もぐもぐ。ん、どうした里原くん?』
一度咳払いしただけで無傷でした。
調べた結果、強化魔法爆薬を混ぜてあるのはギルさんの料理だけらしい。(どういう夫婦愛だ)
『もぐもぐ。ん、ところで里原く・・・』
バガァァァァン!!
『報告で聞いたのだが、君とロシュで・・・』
バガァァァァン!!
『死神業者最強決定戦に優勝したん・・・』
バガァァァァン!!
「爆音で全然聞こえないですよギルさん!!」
いちいちドクロの仮面の内側で爆発をくらっていたギルさんは、仮面の内側から煙をもくもくと上げていた。
『あぁ、すまない』
つーか首から上が完全に煙に包まれている。
「アハハハハハ!」
『フフフフフフ!』
母と娘は爆笑してるし。なんじゃこの家族は。
『ロシュ達は《KING OF HELL》で優勝したんだって?』
「うん!」
『偉いぞ〜!さすがは我が娘だ。思い出すなぁルイよ』
『そうねギル、私達も優勝経験があるものね♪』
「えー!お父さん達も!?」
『うむ。今でこそ支部ごとに開催されているが、我々が現役の頃は本部で開催されていたんだよ』
『三回出場して優勝できたのは一回だけだけど♪』
「わかったー、メアとバンプの両親に持っていかれたんでしょ〜!」
『ハハハ、その通り。全く、あの夢魔と吸血鬼の両夫婦とは毎回互角の争いだったなぁ』
『そうそう。三組仲良く一回ずつね♪』
どうやら6人は相当仲が良いようだ。
『そうだ、メアやバンプは元気にしているかい?』
「うん!元気すぎて困っちゃうよ!」
お前が言うな。
客観的に死神一家の会話を見ているオレは、なんだか温かい気分になっていた。
・・・。
・・・。
うん、あったけぇ。
「どうしたの準くん?」
『どうかしましたか?里原くん♪』
『ハハハハ、里原くんの話も聞かせて欲しいな。報告ではあのケットシーと麒麟をも倒したと聞いたぞ』
『まぁ!あの子達を?凄いわ、閻魔くんが目を掛けるだけはあるわねぇ♪』
この両親はなかなかの変人だが、それ以上に激しい優しさを感じる。
ま、この二人あっての死神だったんだろうな。
―――――――
―――――
ふぅ。
さすがは水の都市。水面を通った風が冷たい。
死神一家は現在ダイニングフロアにいる。折角の一家団欒だ。いくら本人達が構わないと言ってはくれていても、いつまでも入っているのはオレ自身が承知しない。一年ぶりに会えたんだからな。野暮は嫌いなんだ。
というわけで現在オレは《マーバス・ドミナント城》の最上階、外に突き出た展望場から下を見下ろしています。
下は一面の海だ。果てしなく続く水面は澄み切っていて、水中で泳ぐ異形の魚達が見える。
吹き上がってくる風が凄い。
・・・。
ぅわっ!やべぇ。これじゃあ本当にファンタジーじゃん!
いかんいかん。何か面白い事言わねえと。
うーんと・・・。
んーと・・・。
えーと・・・。
・・・。
よし!
「《原 マキ》って名前さ、なんか《腹巻》みたいで可愛いよね〜」
・・・。
・・・。
・・・。
【準は精神に〈427P〉のダメージを負った】
ふ、ふふ・・・この里原準、人生最大の自爆。
〈ドーーン・・・〉
ん?
〈ドーーン、ドーーン〉
なんだこの音?ゴーレムか?
虎空を見つめて軽くヘコんでいたオレは下を見下ろした。
おわっ!
漁師さんもビックリな巨大タコが、城を攻撃していた。
次回へ続きますっ!