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死神といっしょ!  作者: 是音
61/116

第61話 死神と聖騎士

・・・おいおい。


 こ、これは一体何事か・・・。


 買い物袋を片手に持ち、道の真ん中に一人立ち尽くすオレ。


 目の前には道の真ん中でぶっ倒れた鎧。


・・・。


 ヴァルキュリアさんだった。


「ちょっ、何でヴァルキュリアさんがここに?」


『・・・』


 気を失っている。こんな暑い中を鎧姿で歩いてりゃぶっ倒れるのも当然だと思うぞ。

 いや、そもそも何でこっちの世界にいるの?


『・・・』



「んなこと言ってる場合じゃねぇな、ヤバいぞ」


 とりあえず運ぶか。


 よいっしょ・・・鎧、重っ!つーか熱っ!


 熱吸収してめっちゃ熱い!


――――――――


――――


 ぜぇぜぇ・・・。


 なんとか聖騎士を部屋まで運んだオレは、冷房をフル稼働させ、ヴァルキュリアさんから鎧を外した。

 といってもオレは鎧の着脱の仕方なんかサッパリで、冑{かぶと}と手甲、それに足だけは自由することはでき、外せなかった箇所の鎧は氷で冷やしまくる。


 人間にしてみればかなり危険な状態だと思うのだが、この人はヴァルキュリアさんだ。すぐに目を覚ました。


『・・・!』


「大丈夫ですかヴァルキュリアさん?」


 聖騎士もとい西洋美人は無言ながらもかなり混乱しているらしく、部屋中をキョロキョロ見回す。


『・・・現在地の確認不可』




「普通に《ここはどこ?》って言って下さい」


 やっとオレに気付いたヴァルキュリアさんは顔をこちらに向けた。


『・・・! 知人発見!』


「・・・水分補給してください」


 オレは先程買ってきたスポーツドリンクを渡し、受け取ったヴァルキュリアさんは一気に飲み干した。


『・・・! 体内吸収速度、良!』


 何に驚いてんだ。


『あ・・・。里原くん、お久しぶり』


「お久しぶりです」

 ヴァルキュリアさんは他の鎧も外し(鎧外したらただの外人姉さんじゃん)、身軽になったところで居間に座り直した。

 背が高いが華奢で小顔、金色の髪は腰まで伸びている。こんな人が閻魔さんと互角とは・・・。


「ところでヴァルキュリアさんは・・・」


『ヴァル』


「へ?」


『ヴァルでいい』


「はぁ。ヴァルさんは何で道でぶっ倒れていたんですか?」


『ぅ・・・っ!不覚』


 勝手に落ち込み始めた!聞かないほうが良いか?


『・・・あ。ロシュは?』


「あー、アイツはオレの部屋で寝てます。二度寝ってやつです。ちなみに隣の彩花さんも今日は実家に戻っていて、バンプも無理矢理連れていかされたみたいです」


『そう。なら私と里原くんの二人だけね』


「いや、別の部屋に死神がいますけど」


『睡眠中の兵士は戦力外』


 戦神キターーー!!


「ま、まぁそうなりますか。それよりオレとしては何故ヴァルさんがここに居るのかが謎なんですが・・・」


〈アハハハハ!合コンから逃げて来たのよね〜!〉


!!


 鎧の立て掛けてある場所から声が聞こえた。

 聖剣エクスカリバーだ。どうやら今まで寝ていたらしく、たった今起きたらしい。

 主人がぶっ倒れていたというのに・・・。


〈あのね里原くん、ヴァルったらいつも気丈に振る舞ってはいるけどぉ、実は人見知りするタイプなのよぉ!聖剣困っちゃう♪アハハハハ!〉


『・・・余計なお世話』


 意外。そういう風には見えないな。そしてテンション高ぇなこの聖剣。さすがはドミニオンと同じ魔導社製。


〈で、閻魔に誘われて合コン行ったんだけどぉ、一瞬で逃げ出しちゃったのよねっ!・・・ん、あれ?でも里原くんは大丈夫っぽいわねぇ。どういうことかしら〜〉


『・・・不明』




 ヴァルさんは細い眉を寄せながら首を傾げた。


 ん?


 あれ?


・・・。


 おぉっ!


「ヴァルさんって呼び方だと何か《バルサン》みたいに聞こえま・・・ぐはっ!」


 支部長パワーで殴られた・・・。痛い。


 つーか即座に打撃を入れたということは日本の殺虫製品を知っているということか?


 まぁいいや。


「あー、すんません。それより何でヴァルさんはこんな暑い中で鎧着て歩いてんですか?」


『・・・コスプレ』


・・・。


!!?


『・・・嘘』


・・・。


〈オイ!ウソカヨー!アハハハハハ!!〉


「・・・」


『・・・』


「・・・」


『・・・エヘ』


「無理しないで下さい」


 良いぞ。何か良いぞこの人。

 おっと、そろそろ腹を空かせた死神が起きてくるから支度しないとな。


「ヴァルさん、昼飯食べていくでしょう?」


『・・・あ、えと』


〈食べる食べるー!ね、ヴァル?〉


『うん、お願い』


「ははっ、了解」


 キッチンへ入り、ヴァルさんには日本食を食べさせてみようとか考えながら料理していると、案の定死神が起きてきた。


「う〜ん、おはよう準くん・・・。あれ!?ヴァルさんだ!エクスカリバーも!」


 さすがに死神もヨーロッパ支部長の登場に驚き、一発で目が覚めたらしい。


『・・・ロシュ。起床』


〈・・・ロシュ。キショッ!アハハハハハ!〉


 一瞬にして死神は聖剣に飛び掛かっていた。


「相変わらず毒吐き散らしやがってこのクソ聖剣!!」


〈なによアンタだって相変わらずの貧相バディじゃない!見なさい私のシャープなラインを!〉


「《ゲッソリ華奢ーン》の間違いじゃない?」


〈言ったなー!!〉


ボカスカボカスカ!!


・・・。


 うわぁ、こいつらすっげぇ仲が悪い・・・。


「死神!ケンカは駄目だぞ」


『エクスカリバー!やめなさい』


「はぁい」

〈はぁい〉


 一度しょんぼりとした二人(一人と一本)だったが、次の瞬間には仲良くなっていた。


〈あっ、そうだロシュ!ゲルさんに聞いたわよ。ブラッド・デスサイズ手に入れたんでしょ!?〉


「そうだよー」


〈見せて見せてー!〉


「いいよー。ホラ」


〈う、うわっ、すっごい魔力!同じ武器として放っておけないレベルね。ドミニオンもよくこんなの見て放置しておけるわよね〜〉


 聖剣はフワフワと死神の出した大鎌の周囲を迂回しては感嘆の声をあげている。


〈こりゃあ私達とは造りが根本的に違うわ。魔導社製じゃないわね。《魔刀鍛冶》の作品かしら?こんな一品を造らせたなんて、さすがナハトマンティルといったところねぇ〉


 そ、そんなにすげぇのかよ。100万で買った甲斐もあるな。


〈100万!?里原くん今100万で買ったとか言った!?〉


 あ、声に出てたか。


「ええ、まぁ」


〈ゲルさんも商売下手になったものよね。この大鎌はね、長い年月を経ておっそろしい程の魔力量を溜め込んじゃってるの。値段なんかつけらんないのよ〉


 うわー、スゲーもん買っちゃったけどオレには全然関係ねぇー。


「へぇ〜、どうでもよさげな説明ありがとー♪」


〈どういたしまして、スタイル貧乏神♪〉


「私は死神だっつってんでしょーー!!」


〈スタイル貧乏神=死神で決まりじゃー!!〉


ボカスカボカスカ!!


 仲が良いのか悪いのか全然わかんねぇよ。


『あ、里原くん。お鍋が・・・』


 おっと。

 今日は家庭の味、肉じゃがだぜー。


「やったー!《ニック・ジャガー》だー!」


 人名みたいに言うな。


「はい、どうぞ」


 居間のテーブルに肉じゃが、味噌汁等を並べた。


 あっ。


「ところで聖剣はどうやって食べ・・・」


〈おいしーー!〉


・・・。


 顔の上半分を白い仮面で覆った見知らぬ少女が飯をパクついていた。


「誰だあんた」


〈アハハハハ!名付けて、エクスカリバー人型バージョンよ!!〉


 さらっと凄ぇ能力発動させてんじゃねぇよ。


『・・・美味!』


 どうやら聖剣も聖騎士も和食を気に入ってくれたらしい。

というかこの二人も食欲旺盛だ。オレの周りは食いしん坊キャラばっかりだという事に今更気付いた。


『そういえばロシュ』


「?」


 口いっぱいに食物を含んだ死神が首を傾げてヴァルさんを見る。


『もうすぐ《あの日》』


「むぐっ、ほーいえあほーあっはえ!{そういえばそうだったね!}」


 あの日?


『閻魔、今年は里原くん達にお願いすると言っていた』


「何の事です?」


『じきに理解可能』


「はぁ・・・」


 意味がわからん。

 まぁじきにわかるのなら気にすることでもねぇか。


 ヴァルさんと聖剣(人型)は腹が膨れたのかコロンと横になった。ヴァルさんは既に寝息をたてはじめている。


・・・。


・・・そうか。


 この人、冷たい外見や口調と違って行動がお茶目なんだ。


 戦神&聖剣は凄まじい程のくつろぎようだった。ヴァルさんが寝言を呟く。


『ん・・・戦士の休息』


 もっと格好良く休息して下さい。


 やらなければ良いのに、死神が寝転んだエクスカリバーの横腹をくすぐる。


〈にゃぁぁ!!〉


「アッハハハハ!猫みたい!」


〈な、何すんのよ!〉


「食後の運動だにゃぁぁ!なんつってー」


〈こ、このぉ・・・スタイル、頭脳、精神、すべてにおいて貧乏神めぇぇぇぇ!!〉


「それじゃ完璧に貧乏神でしょうがぁぁぁ!!」


ボカスカボカスカ!


ボカスカボカスカ!!


 壊れる壊れる。家が壊れてしまうよー。


 二人をどうやって止めようかと考えていると、眠っていたヴァルさんが目を覚ました。


『・・・騒音。公害』


 うわ、機嫌悪っ!


『・・・騒音。公害』


 放置してあった鎧が凄い速さでヴァルさんに向かって飛び上がり、装着されていく。


 死神とエクスカリバーは殺気を感じたらしく、戦闘の手を止め、真っ青になって冷や汗を流していた。


「わわわわわ・・・」


〈し、しまった。ロシュの所為でヴァルを起こしちゃった・・・〉


 どうやら寝ているヴァルキュリアさんを無理矢理起こすのはタブーらしい。戦士の休息を邪魔してはいけないのだ。


障害排除クライム・ハザード!!』


 う、うわぁぁぁぁ!!


「うひゃぁぁぁぁ!!」


〈け、結界!〉


バッガァァァァァァァァァン!!!!!


 過去最大級の威力を誇る衝撃波を放ったヴァルキュリアさんは容赦がなく、エクスカリバーが最大パワーで張った結界のおかげでギリギリ部屋の崩壊を免れた。

 結界は粉々に砕け散り、死神もオレもエクスカリバーもぶっ倒れたがな・・・。


―――――――


 その後、我に返ったヴァルキュリアさんが謝罪の言葉を連呼するのをなだめながら、オレ達四人は部屋の片付けをした。

 ヴァルさんは支部長であり、忙しい身なので少しお茶を飲んだ後聖剣エクスカリバーを連れてヨーロッパ支部へ帰っていった。そんな身だというのに、わざわざ時間を割いて合コンへ行く暇を作ってあげていたらしい。


・・・頑張れよ閻魔さん。


 で、比較的静かになった居間ではまだオレと死神がお茶を飲んでいた。


「準くん、コーヒーおかわりー!あとお茶菓子も!」


「はいはい」


 まぁ、コイツ一人だけでも十分騒がしいんだけどね。


「みぎゃぁぁぁぁぁ!!準くん!これ砂糖じゃなくて塩だよー!!低クラス!低クラスのボケかましちゃ駄目だっちゃー!ソルトソルトー!」


 キッチンの後片付けを担当したのは確かエクスカリバーだったな。


・・・。


 さすが。

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