第60話 みんなでバカンス! 二日目♪
さぁ、バカンス二日目です。今日も朝から皆で海に出ています。
ヴィィィィィィィン!!
「いぇーーー!」
「準くんもっと早くー!」
オレと三笠は水上バイクで走っている。
オレは特殊小型船舶免許を持っていたが、まさか三笠も持っていたとは知らなかった。今朝水上バイクを発見したときに発覚したわけだ。
で、今皆が乗る二本のバナナボートをそれぞれ引いて走っているのである。
オレの引っ張るバナナボートには、前から順に
〈バンプ・メアちゃん・死神〉
が捕まっている。
そして三笠の引っ張るバナナボートには、前から順に
〈美香・彩花さん・渡瀬・冬音さん〉
が捕まっている。
「じゃあ行きますか里原くん」
三笠の合図で、平行に走っていたオレ達は左右に別れた。
ヴィィィィィィィン!!
「うひゃー!」
「落ちちゃいますー!」
「ロデオ、ロデオー!」
オレの後ろでは死神業者三人が必死でバナナボートにしがみついている。
「準くんもっと早くですー!」
ナイトメアが片手を挙げてオレに言う。
「あいよ。ちゃんと両手で掴まってないと落ちるぞー」
「はーい!」
「メア、落ちて落ちて〜♪」
「テメーが落ちなさいよロシュ!」
オレはスピードを上げる。
スピードが上がると、ボートが波の上を激しくバウンドする。
「バンプ、落ちて落ちて〜♪」
「えー!僕ー!?」
「だからテメーが落ちなさいっつーのバカロシュ!」
ちょっとイタズラでアクセルバーを握り、ハンドルを切った。
予想以上に凄まじい勢いでターンしたので、間違いなく三人共吹っ飛ぶと思った。
「ギャー!」
「アハハハ!メア、バンプ、一番先に落ちた人は《自然界の没落者》って呼ぶからねー!!」
「僕、絶対落ちたくないー!!」
「私もー!!」
三人は超必死でこのターンを耐えた。
・・・頑張れよ。
ふと前を見ると、三笠がこちらへ向かってきていた。アイコンタクトを交わして擦れ違う形で突っ込む。
ヴィィィィィィィン!!
「じゅ、準くんぶつかりますー!」
バンプが慌てふためく。
・・・。
さぁ、これから起こる奇跡の現象はオレと三笠のスロー視点でお送りしよう。
―――――――
まずは三笠とオレのバイクが擦れ違う。
その瞬間、オレはありえないモノを見た。
・・・。
三笠に引っ張られているバナナボートの一番後ろに座った冬音さんが、邪悪な笑みと共に、前に座る渡瀬の横腹をくすぐったのだ。
「ひゃっ!」
反射的に渡瀬は前に座る彩花さんのお腹を掴んだ。
「あらあら」
何かを悟った彩花さんは前に座る美香の横腹をくすぐった。
「うひゃぁっ!」
一瞬で四人全員が手を放していた。
―――――――
―――――――
まずは僕と里原くんのバイクが擦れ違う。
その瞬間、僕はありえないモノを見ました。
・・・。
里原くんに引っ張られているバナナボートの一番後ろに座った死神さんが、邪悪な笑みと共に、前に座るメアちゃんの横腹をくすぐったのです。
「ひゃっ!?」
反射的にメアちゃんは前に座るバンプくんのお腹を掴みました。
「えっ!?うわぁぁ!」
一瞬で三人全員が手を放していました。
―――――――
その結果、後ろを振り返ったオレと三笠が見たのは、誰も乗っていないバナナボートと、その後ろで・・・
繋がったまま一瞬だけ宙に浮かんだ7人の姿だった。
ば、馬鹿な。
バッシャーーーーン!!
「うわーー!」
「キャーー!」
「アッハハハ!」
当然一斉に落下した。
「うひゃー!助けて準くんー!」
しまった、死神は泳げないんだった。
まぁ、安全ベスト着用だから浮いてられるし。バンプかメアちゃんに助けてもら・・・
「わぷ、助けて準くんー!」
「助けてですー!」
うわー死神業者全員カナヅチかよー。
「私《モテモテの実》を食べたから泳げないんだよ準くん!」
おいコラ死神。
「何!?」
三笠のバナナボートまで泳いでいた冬音さんが突然溺れ出した。
「うわー!そういえば私も《モテモテの実》を食べたんだー、準助けてー!」
あんた今優雅に泳いでただろ!
「アハハハ!三笠くん、私も《モテモテの実》食べちゃったのー!」
「嘘八百もイイトコですね美香さ・・・」
スパァァァン!ドボォォーーン!!
三笠が落ちたー!
「準くん僕もですー!」
「私もですー!」
「わ、私もー」
おい渡瀬ぇぇ!
「フフフッ、バンプ助けてー♪」
「僕も溺れてますよ彩花さん!!」
・・・。
アホな自称能力者(※)達を救助したオレと三笠はビーチへ戻った。
【※某人気海賊漫画ネタ。悪魔の実を食べると能力を得る代わりにカナヅチになるという。(ちなみに《モテモテの実》なんてものはありません)】
―――――――
海辺へ戻ったオレ達はその場で昼飯にすることにした。
砂浜でバーベキューである。
バンプ、メアちゃん、死神は大はしゃぎだ。
「BBQだぁ!」
「BBQです!」
「BBQだぜー!」
冬音さん、彩花さん、美香、三笠は屋敷まで食材を取りに行っているので残ったオレと渡瀬、死神業者三人とで準備をする。
「テーブル設置完了です里原くんっ」
「おう、ご苦労さま」
オレも練炭を入れて火を起こした。あとは食材を待つだけだ。
死神とメアちゃんと渡瀬は既にテーブルについていた。
「ねぇ由良ちゃん。メアったら、この間やっと自分は他人より歯が一本多いって事に気付いたんだよ〜」
「何さらっと大胆なウソついてんの!?」
「えー、そうなのメアちゃん?」
「違います由良ちゃん!そう言うロシュだって、死神のくせに実は雷が怖いんですよ〜っ」
「にゃ、にゃぜ知ってるの?」
「事実かよー!!」
「さぁ由良ちゃんここで一言!」
『嘘は見えない仮面の最先端である』
意味わかんねぇ。
あれ?バンプの姿が見えないな。
・・・お、いたいた。砂浜に線を引いている。
「おーいバンプ、何やってんだ?」
「あっ、準くんだ!彩花さんに『午後からビーチバレーするからネットの周囲にライン引いておいて頂戴♪』って言われてたんですよ〜」
「そかそか」
オレとバンプは二人でラインを引き、引き終わる頃には冬音さん達が戻ってきていた。
「準、バンプ、ライン引きサンキュな!」
「さ、食べましょ」
冬音さんと彩花さん、美香と渡瀬が焼いてくれるので、オレと三笠は向かい合って座った。
死神とナイトメアは両手の指の間に串をはさみ、計6本の串焼きを持っていた。
冬音さんと彩花さんも焼きながらパクパク摘んでいる。
「こらロシュ!私の串返しなさいよ!」
「ベグベグクァーサー♪ベグベグクァーサー♪」
何語!?
砂浜を走り回るナイトメアと死神は放っておき、オレと三笠とバンプは渡瀬が運んできた皿を受け取った。
「どうぞ〜」
「サンキュ渡瀬」
皿には串焼きやソーセージ等の肉類、野菜類が大量に乗っていたのだが・・・
串焼きの上半分が無くなっている。
「あれ?僕のもです準くん」
「おや、僕のもですね」
オレ達は焼いている冬音さん達を見てみた。
・・・。
「もぐもぐ。ほい渡瀬、焼けたぞー」
「むぐむぐ。渡瀬ちゃん、焼けたわよ〜♪」
「もぐむぐ。由良ちゃん、焼けたよ〜♪」
「・・・あ、あの」
・・・。
渡瀬に渡す前に、クレイジー三人娘が串焼きの上半分を食べていた。
タチ悪すぎたろ!
――――――――
腹も膨れ、まったりとビーチパラソルの下で談話したオレ達は、午後のビーチバレーをすることになった。
チーム分けは
【死神・ヴァンパイア・ナイトメア】
【冬音・彩花・美香】
となった。三笠は審判だ。
オレと渡瀬はというと
「頭痛いですー」
「ん、んめぇ」
かき氷食べながら観戦だ。しかしこの対決は興味深いな。
審判の三笠がホイッスルを鳴らす。
――――――――
【死神業者三人衆】
VS
【クレイジー三人娘】
《FIGHT》!
――――――――
まずは冬音さんのサーブだ。
「いくぞオラァ!」
ドンッ、という音と共にボールは凄まじい勢いで死神達のコートへ突っ込む。
「いくよメア!」
「いいわよ」
『必殺・・・《バンプガード》!!』
突然引き寄せられたバンプは二人の盾となり・・・
ばこーん!
「ギャーー!」
うわー!バンプが吹き飛んだ!(救助係渡瀬出動)
しかしボールをレシーブする事には成功し、ナイトメアがトスを上げた。
死神がスパイクの姿勢に入る。
死神達は浮けるのでバレーでは有利なのかもしれない。
「させるかぁ死神よ!いくぞ須藤!」
「フフッ、了解♪」
『必殺・・・《絶対防御ブロック》!』
信じられない跳躍力で飛び上がった冬音さんと彩花さんは死神のスパイクを阻む。
だが絶対防御ブロックも死神の言葉で崩れ去った・・・らしい。
「あれぇ?冬音姉さん、彩花さんも」
「?」
「?」
ジャンプしながら二人が首を傾げる。
『私が〈ピ――〉して〈ピ―――〉なら〈ピ――――〉だよね。まさに二人共だよ!ウフフ♪』
ん?何て言った?よく聞こえなかったが。
だがブロックをした冬音さんと彩花さんには効果があったらしい。
「いいいいい、嫌だぁーーー!!」
「フ、フフフフッ・・・怖い子・・・!」
顔面蒼白になった二人はブロックを崩し、そのまま落下した。
何を言った!?あの二人が顔面蒼白になるんだぞ!?どんな発言をしたぁぁぁ!!
「スキありぃ!」
死神は隙を突いてスパイクをたたき込んだ。
美香がレシーブするかと思いきや、奴も顔面蒼白で固まっていた。
さらには同じチームのナイトメア、審判の三笠までが恐怖で固まっている。
「し、死神!テメーそれ言うのは禁止だろー!」
「ウフフ・・・怖い子ねぇ死神ちゃんは♪」
「ロシュのバカぁ!」
「し、審判的にも今の発言は禁止しますよ!」
「えーーーー!?」
全会一致で決まったらしい。
さて、意外にタフなバンプが再びコートに入り、試合再開。
バンプがサーブを放ち、彩花さんがレシーブ。冬音さんがトスを上げ、
「よっしゃ、行け七崎!」
美香がスパイクをぶちこむ。
『《バンプガード》!』
「ギャーー!」
・・・えと、バンプがレシーブ(?)してメアちゃんがトスを上げる。
再び絶対防御ブロックがスパイク姿勢の死神を阻む。
が、バレーボールだと思ったそれはナイトメアが作り出した黒い球体だった。
「何ぃ!?」
「フフッ、してやられたわね」
少し遅れたタイミングで本物のボールが浮いてくる。浮遊できる死神とナイトメアならではのフェイントだった。
美香の驚異的な反応でも追い付くことができず、死神業者チームに一点追加。
その後はバンプも警戒しはじめたのでバンプガードは封印され、なかなかいい勝負が続いた。
凄まじいボールの打ち合いを見ながら隣に座った渡瀬が笑う。
「ふふっ、佐久間さんや須藤さんまでムキになってる」
「つーかあの場にいる全員が負けず嫌いだからな」
「里原くんもでしょ?」
「ん、まぁな」
渡瀬は軽く笑った。
と、ここで美香の放った強烈スパイクが審判のスキンヘッドに直撃(多分わざと)したので救護係渡瀬が出動した。
さらにバウンドしたボールが遠くに着水し、沖に流されていく。
予備のボールを審判(意識朦朧)に渡し、オレは水上バイクで取りにいく。
「おーい渡瀬ー、後ろ頼むわ」
「あ、はい」
タンデム(二人乗り)タイプなので、渡瀬に後ろに乗ってもらい、ボールを拾ってもらう。オレの手首とバイクはテザーコードってやつで繋がっていて、これが抜けるとエンジンが停止してしまうのだ。
ヴィィィィィィィン!!
「わぁ、すごい!バナナボートとは違った楽しさです!」
普段見られないようなはしゃぎようだ。
こんな渡瀬の顔が見られるのもレジャーならではだな。
「うっし、ボールが見えた。頼むぞ」
渡瀬は上手にボールをすくい上げた。サドルの蓋を開け、ボールをケースの中に入れる。
と、ここでオレは海を見渡した。
・・・。
おっ。
おぉっ!
この時間はいい波が来るんだなぁ!
「よし渡瀬、ちょっと付き合ってもらうぞ」
「へ? ・・・うわぁ!」
ヴィィィィィィィン!
スピードを上げ、よさげな波に接近。
「よっしゃー、掴まってろ!」
「な、なんでそんなに元気いっぱいなんですか里原くん!?」
波を使ってジャンプする。一人乗りだったらアクロバットができる高さだ。
「うひゃーーー!」
「ホラ渡瀬、ここで一言!」
『波の音、波の形。それはさながらピアノが奏でる《ハノン{波音}》のようである』
お〜、なんかすげぇ。
「楽しい〜!」
めっちゃ楽しんでるよ渡瀬。
「ほら里原くん、また波が来ますよっ!」
「はいはい」
だんだんと渡瀬の方が楽しみ始め、しばらく海の上を走り続けた。
砂浜に戻ると、ビーチバレーのコートには寝転んだ七人の姿があった。審判もヘトヘトらしい。
渡瀬は疲労度の激しいバンプの元へ行った。
「お、おい三笠大丈夫か!?」
「あ、あぁ、里原くんお帰りなさい」
「試合結果はどうなったんだ?」
「佐久間さん達がギリギリ勝利しました・・・ぐふぅ」
三笠は力尽きた。
しかしまぁ、浮遊できる死神業者を相手に勝利したのか。さすがクレイジー三人娘。
「準くん準くん!」
気が付けば死神がオレのベストの裾を引っ張っていた。
「どうした?」
「負けちゃったよー」
「ははは!頑張った頑張った。そうだ、ところで死神」
「なぁに?」
「お前、海に来たんなら泳げるようになんねぇと」
というわけでオレ達は海に入り、死神業者三人が泳げるように指導を開始したのだった。
「メア!気合いで泳ぐのよ!海を自分より格下だと思え!」
「はい冬音さん!」
なんだその教え方は・・・。
「バンプ、私が教えてあげてるんだから《5分》でプロスイマーレベルまで上達なさい!」
「えーーーー!?」
ス、スパルタだ。
美香と三笠と渡瀬はというと、砂浜で椅子に座り、ジュースを飲みながら海を満喫している。
死神は予想以上に上達が早い。オレが手を引きながらだが、普通に前へ進めるようになっていた。
「おーっ、すげぇすげぇ!やるなぁ死神!」
「へへへー!」
―――――――
――――
夕方になり屋敷へ戻ろうとする頃には、驚くべきことに死神達はなんとか泳げるようになってしまっていた。
今回一番の成果かもしれない。
―――――
で、夕飯を終え、個室に戻った現在。
「ふっ、泳ぎを会得した私はもはや《魚人ケタマハーグ》に負けることすらないわ!」
誰だっけそいつ?
「つーかお前等上達早すぎだろ」
「バンプなんか死に物狂いだったもんね!」
そう。バンプは死に物狂いだった。というか死にそうだったので途中からオレが交替した。
「うーん、まだ遊び足りない〜。帰るのが勿体ない〜」
「まだ遊び足りねぇの!?」
「そうだ!明日の朝砂浜で貝殻拾っていこうぜぇ!記念記念!」
―――――
次の日の朝、オレ達は帰りぎわに砂浜へ立ち寄り、みんなで貝殻を拾った。
その際バンプがなんとダイヤの指輪を発見!で、その時のオレとバンプの会話。
『じ、準くんどうしましょう!?』
『よしバンプ、彩花さんには見せるなよ』
『どうしてですか?』
『白狐さんやヴァルキュリアさんあたりに叱られた時に便利だぜ?』
『?』
とまぁ少し邪悪な知識を教えてみたり。
これでオレ達の二泊三日のバカンスは終わったのだが、夏休みはまだまだ続く。次はどこへ連れていかれるのやら。
「よし準!次は宇宙行くぞ宇宙!」
「やったぜー!じゃあ今度は宇宙遊泳教えてね準くん!」
当分泳ぎは結構です・・・。