第53話 死神と七夕
「ふぃ〜暑い暑い」
今日は七夕です。
前回夜叉さん達に貰った笹をベランダに飾ったオレと死神は、昼間渡瀬と一緒に買い出しに来ていた。
オレと渡瀬は暑がりながらうちわをぱたぱたとあおいで街を歩いている。
一番この時期辛そうだと思っていた死神は、意外にも平然としている。
「死神、お前黒ローブのくせに暑くないのか?」
「あ、それは私も思いました」
「へへへ〜、実はねっ」
死神はオレと渡瀬の手を掴み、何故か自分のローブの袖の中に入れた。
・・・。
あっ。
「あっ」
すげー涼しい!
「ひんやりしてます!」
「へへっ、機能美だよ〜♪」
羨ましすぎる機能だぞこのローブ!!
オレと渡瀬は暑さをしのぐために死神を挟んで歩き、袖の中に片腕を突っ込んでいた。三人手を繋いでいるような、三人の腕自体が繋がっているような。
うん、変な光景だろうなコレも。
さてさて、今日買うのは主に食材だ。みんなよく食うだろうからな。
「私スイカ食べたい!スイカ買おうぜ準くん!」
「あぃよ。渡瀬は?何か食いたいもんあるか?」
「うーん・・・、あっ!そうめんが食べたいです!」
「おー、いいねぇ!」
「いいねぇ由良ちゃん!」
そいじゃあ買い出し行こうかね。
―――――――
両手に大きなビニール袋を下げながら買い出しを終えたオレ達三人は部屋に戻った。
死神と渡瀬は早速折り紙を折ったり風鈴を飾ったりし始め、オレは晩飯の支度に取り掛かる。
ピンポーン
お。
ドアのインターホンだから多分・・・
「こんにちは里原くん、死神ちゃん。あら、渡瀬ちゃんも先に来てたのねっ」
「準くんがそろそろ夕飯の支度し始めるかな、と思って手伝いに来ました」
彩花さんとヴァンパイアだ。
「あっ!ヤッホー彩花ちゃん、バンプ!」
「こんにちは須藤さん、吸血鬼くん」
彩花さんも二人と一緒に折り紙を折り始めた。
居間のテーブルには折り紙を切ったり貼ったりして作った、輪を鎖のように繋げたものや折り鶴を繋げたもの、そして何故か手裏剣なんかも置いてある。
色とりどりとはまさにこの事だな。
オレとバンプはというと、そうめんを茹でたり野菜切ったり、スイカ冷やすの忘れて慌てたり、冷蔵庫を行き来したりと、割と大忙しだ。
「準くんアレ作りましょう!」
「アレ?」
「《ピーマンの焼きマリネ》です!」
「おー。バンプ、先週の料理番組見たな?」
「準くんも見ましたね!?」
「まぁな。冷蔵庫の中にベルピーマンあるから三色5個ずつ取ってきてくれ」
「了解です!」
とまぁ一般の男子が到底しそうにないこういう話をオレとバンプはちょくちょくする。
バンプは計15個ものピーマンを頑張って運んでいる。今日はなかなか大人数だからな。
スコーン!!
「あ痛っ!!」
バンプが後頭部を押さえている。足元には・・・
紙手裏剣。
・・・。
スコーン!!
痛っ!!
「ニンニンよバンプ!」
「ニンニンだよ準くん!」
コノヤロー。
「さぁ由良ちゃん、ここでセリフ!!」
『フフ、忍のビートでシノビート(16ビートくらい)』
いや全然意味わからん。
「やったなぁ彩花さん、ロシュ、由良ちゃん!」
バンプはブラッドニードルで応戦し、オレは料理をしながら包丁で手裏剣を弾いていた。
それから居間とキッチンの間は手裏剣や赤い針が飛び交う戦場と化してしまったのだった。
――――――
「おぃおぃ。何事だこりゃあ」
「何やってんのよロシュ、バンプ」
「大騒ぎだったみたいね、三笠くん」
「ははは、そうみたいです美香さん」
冬音さん、ナイトメア、美香、三笠が部屋にやってきた時には料理を作り終えてはいたものの、部屋中に紙手裏剣が散らばり、みんな床に寝そべっていた。
さぁ、まずは掃除だ。
―――――――
「しっかし、でかい笹だなぁ準」
「オレもビックリでしたよ」
冬音さんはベランダの外に飾った笹を見ながら言う。
外も暗くなった頃、みんなではじめた掃除も終わり、夕食も食べ終えたので全員がテーブルを囲んでいた。皆の目の前には短冊。
そう。みんなで短冊に願い事を・・・
「みんなで短冊に呪文を書こう!」
オカルト思想キター!!
「これだけの人数で呪いをかければ〈織姫〉や〈彦星〉の一人や二人・・・」
コラ。
「違うぞ死神、願い事を書くんだ」
「えぇ!そうなの!?」
本気で知らなかったらしい。ナイトメアとヴァンパイアも驚いた顔をしている。
「冬音さん、本当!?」
「あぁ、本当だぞメア。だから短冊に《織姫と彦星に呪いがかかりますように》って書けば良いんだ」
余計なこと言うなよ冬音さん。
「へぇ、じゃあ僕なんて書こうかなぁ」
「《僕はいいから彩花さんに百回願いを叶えてあげて下さい》って書きなさいバンプ!」
「えぇ!?」
極悪だこの女子大生!
さて、美香と三笠は?
「三笠くん、なんて書いたの?」
「僕はですね、《早く毛が生えますように(特に頭部)》です」
三笠ぁぁぁぁ!!
実は悩んでいたりしたのか!?それともネタなのか!?
「えーと、それで美香さんは?」
「私は《三笠くんの毛が生え・・・》」
おっ?
「おぉ!僕の為に!?」
「《・・・生えたらすぐに抜けますように》よ」
「ガァァァァン!」
三笠の願いが叶ってもテメーの願いで無効化じゃねぇかバカヤロー。
「ねぇねぇ、由良ちゃんは何て書いたの?」
死神は渡瀬の短冊を覗き込む。
「あ、私は《声優になりたい》です」
うんうん。頑張れよ渡瀬、お前はまともで良かったよ。きっと叶うさ。
「じゃあその気持ちをドイツ語っぽく!」
『グーテンターク、ドルシュボワーネセイユーナルーツォモリー』
こんな渡瀬イヤだぁぁぁ!!
ってかそれドイツ語っぽいか!?適当にも程があるだろうが!
・・・。
さ、さぁて、読者の皆様もそろそろ不安に思われているでしょう。
問題の三人です。
まずは特攻隊長、彩花さんの短冊を覗く。
「あら、なぁに里原くん。私の短冊?ほら」
《黙って私の配下となれ》
・・・。
願いじゃなくて命令じゃねぇか!まさか織姫と彦星までパシるつもりじゃないだろうな!?
・・・有り得る。
「お。準、私の願い事知りたいか?ん?ん?」
「えぇ、まぁ。なんか言いたそうですね冬音さん。で、何を願ったんです?」
「フフフ、無論《世界平和、家内安全、頭上注意の看板に注意》だ」
絶対ウソだ。最後のはサッパリ意味わからんが絶対ウソだ。
オレはさりげなく冬音さんの短冊を覗いてみた。
・・・。
《最強の力。天下無双の力。その力で強引に準を私の操り人形に・・・。そして暴力と秩序無き、否、私が秩序となる世界を!!フハハハハ》
・・・。
ビリビリッ
「な、なにをするんだ準!やめろ!」
「ちゃんと世界平和とか家内安全って書きなさい!!」
「わわ、準が〈お母さんモード〉だ」
「いいですね冬音さん!!」
「・・・わ、わかった」
まったく。なんだよ秩序とか。
「な、なぁ準。せめて最強の腹話術を・・・」
「ダメです」
「・・・はい」
冬音さんはいそいそと新しい短冊に書き直し始めた。
さぁラスト。
奴です。
「うーん、うーん」
あれ?死神はまだ考えているみたいだ。
「死神、まだ悩んでたのか?」
「うーん、円周率が〈3〉とはねぇ・・・まさかの一桁だよねぇ」
た、短冊関係ねぇ・・・。
だが、確かに円周率が〈3〉になったってのはありえないと思う。学力低下が危惧される今の学生。簡略化もいいトコだ。ヤバいんじゃないか未来の日本。・・・って、コレも関係ない話だな。
そんな話をオレとしながら死神は新しい短冊に
《小学生が習う円周率が〈3.14159〉になりますように》
という無茶苦茶な願い事を書きやがった。
そしてそれを短冊の山の上に置く。
・・・。
?
短冊の山?
《ヨーグルト焼いて食べたいよー》
《プリン食べたいよー》
《あんみつ食べたいよー》
《準くん食べたいよー》
《ケーキ食べたいよー》
《ドーナツ食べたいよー》
etc...
・・・まさか、コレ全部死神の願い?
「うーん、うーん、あとは〜《グラマラスなボディ欲しいよー》だねっ」
「・・・おい死神」
「なぁに?」
「一つにしなさい」
「えぇー!?何で!?」
「そんなに多く願ったら相手も困るだろ?それに願い事ってのは一つだからこそ叶った時に嬉しいし、意味があるんだ」
とオレらしくないコトを言ってみたり。
「そっかぁ。準くん良いこと言うねっ。さすが私の準くん!」
いつオレがお前の所有物になった?
死神は激しく悩みながら短冊の山を選りすぐっている。
オレがベランダに出ると、皆は短冊を笹に飾っていた。
「ダメだよメア!僕が一番上に飾るんだよ!」
「早いもの勝ちよバンプ!冬音さん右右!」
「あぃあぃ」
バンプは彩花さんに、メアちゃんは冬音さんに肩車をしてもらい、笹のてっぺんの場所取り争いをしていた。
既に飾り終えた美香、三笠、渡瀬は星を眺めながら三人で話している。
「涼しい風ですねぇ渡瀬さん」
「はい。風鈴の音がとても気持ち良いです」
「あ、ねぇねぇ三笠くん。私前々から聞きたいことがあったんだけど」
「なんでしょう美香さん?」
「三笠くんのフルネームってなんなの?」
「それは私も気になってました。是非知りたいです」
おー。オレも知りたかった。
「え?僕のフルネームですか?僕のフルネームは、[三笠 万座右衞門{まんざえもん}]ですよ」
スッパァァァァン!
「これからもヨロシク!《三笠》くん!」
「ヨロシクです!《三笠》くん!」
うん、よろしく・・・《三笠》。
「準くん、選んだから肩車してぇ〜!!」
「おー」
部屋の中から呼ばれたオレは、戻って死神を肩車した。
「で、結局何を選んだんだ?」
「秘密〜っ」
そうですか。
笹に短冊を取り付けた(バンプ、メアちゃんの隣。つまり頂上)死神は皆と混ざって星を眺めていた。
あ。スイカ切らなきゃな。オレは一人キッチンで冷えたスイカを切ることにした。
あれだけの人数がオレ以外全員ベランダに出て騒いでいるのだ。近所迷惑にならなきゃいいが。
「準くんスイカまだぁ〜?」
「早くしろよ準〜!」
「はいは〜い、バンプ〜運ぶの手伝ってくれ〜」
「はーい」
それから皆でスイカを食べ、談話をして過ごした。
――――――
深夜。
遅くまで騒ぎまくった(三笠万座右衞門の頭を真っ赤に染め上げたり、死神とナイトメアが喧嘩したり、冬音さんと渡瀬が早口言葉交流をしたり)ことで疲れたのか、連中はぐっすり眠ってしまった。
今夜はなんと九人で居間に寝るという新記録です。
で、オレは一人でベランダの椅子に座ってます。
現在時刻は3時。七月八日になっちまったけどな。
なんとなくオレは笹に目を向けた。最終的に皆がなんて書いたのかは少し気になる。
が、それを見るのはそれこそ不粋ってもんだ。
「うーん、準くん何してるの〜?」
目を擦りながらベランダにやってきたのは死神だ。オレの腹を枕にしていたからな。寝心地が悪かったんだろ。
「七夕の日終わっちゃったけど綺麗な星だねぇ」
「おー」
死神はぴょんとオレの隣に座り、星空を指差す。
「あれなぁに!?」
「〈天の川〉だな」
「へぇ〜、おいしそう」
「ははは、言うと思った」
そう言いながらオレは席を立った。が、死神が裾を引っ張る。
「準くんは短冊飾らないの?」
・・・気付かれたか。実はベランダに出たのもさりげなく飾ろうと思ったからなんだけど。
「ねぇねぇ」
「オレは特に願い事とかねぇからな」
「ウソだー!金の亡者ー!」
「うるせー!ウソじゃねぇよ!」
死神はじーっと視線をオレに向ける。
「そっかぁ。私一回起きて目が覚めちゃったからまだ座っていようぜっ」
「はいはい」
やれやれ、夜は長そうだ。どうせ死神は途中で寝ちまうだろうから、短冊はそれから飾ろう。
オレはポケットに手を入れて短冊を握った。
《オレはこのままで良いよ》
・・・。
・・・願い事じゃねぇな。
まったく、らしくない日だよ。
「ところで準くん」
「ん?」
「織姫と彦星って何?異星人?」
そこから説明すんの!?