第5話 死神VS詐欺師
今日の死神は何か変だ。
いつになく真剣な表情(不気味な仮面でわからんが雰囲気で)。耳にはイヤホン。ラジカセに繋がっている。手には新聞と赤ペン。
「お……おっおっおっおっ! よし来い! あー来るな! 粘れ粘れぇぇぇ!!」
ん、何が? ってかドクロの仮面で気張るな気持ち悪い。
「うっわ! マジでぇ!? ハーツ○ライでディー○インパクトかよ!! 私ディープイ○パクトでハー○クライに賭けてたのにぃ!!」
競馬でした。
「あ〜あ、また有馬記念は外国人騎手にもってかれちゃったなぁ……」
うん、死神さん有馬はとっくに終わったよね? それに去年も賭けてたの?
「飽きた!」
あ、カセットテープでしたか。
プルルルルル、プルルルルル
ガチャ
「はいもしもし死神」
お前がとるなよ!
『あぁ、オレオレ。わかる?』
オレオレ詐欺かよ!
「あ、もしかしてツェッペリーナさん?」
誰だよ!
『違うんだ』
あれ?
『オレはツェッペリーナの友人。それよりアイツ事故ったらしいぞ!』
やっぱオレオレ詐欺じゃねぇか! っつーかツェッペリーナに対応できるってすげぇなおい!
「え!? でもツェッペリーナは自動車免許持ってないよ?」
ほら失敗だ詐欺師。
『ヨットで船舶とぶつかったらしい』
一発の賭けに出やがったコイツ!!
「なら納得」
ツェッペリーナ船舶免許持ってたよ!!
『で、なんか慰謝料請求されたらしくってさぁ、今から言う口座番号に振込ん……』
ガチャ
「飽きた!」
えー、遊んでやがったこいつ。
プルルルルル、プルルルルル
ガチャ
「はいもしもし死神」
またとりやがった!
『あのさぁ、慰謝料を……』
「あ! アラナワンマーさん!?」
名前変えた!
『違うんだ』
あれ?
『オレはアラナワンマーの友人。それよりアイツ事故ったらしいぞ!』
こいつすげぇ! 臨機応変だ!!
「え!? でもアラナワンマーは自動車免許持ってないよ? 航空機免許は持ってるけど」
これは心理作戦だ! 相手が航空関係の事故を言ったら完璧詐欺師だ!
『爆発事故を起こしたらしい』
「なら納得。本当はアラナワンマーは爆発物取り扱い免許しか持っていないもの。」
心理戦に勝ちやがった! 詐欺師マジ怖え〜!
「で、どこに振込めばいいの斎藤○○さん?」
『ああ、それは……って、え?』
ん?
「だから、どこに振込めばいいの?
〈ピー!〉県〈バキュン!〉市〈ズドーン!!〉町〈ズドドド〉番地在住、妻子持ちの38歳、斎藤○○さん? ちなみに昨日の晩は会社の同僚のY田M子さんと……」
ブツッ……ツーツーツー。
……し、死神怖えぇ〜!!!!
あっ、よく考えたらコイツこうやってオレのコト見つけたのか。軽く笑い事じゃないけどね。
「全く、最近の詐欺師は軟弱でいかんな!!」
多分トップクラスの詐欺師でしたよ彼。
「準くん、暇だから外行こうよ!」
「駄目」
「え〜何で〜!? 監禁だーっ! 牢獄だーっ!」
貴様が勝手に我が牢獄にチェックインして来たんだろうが。
「お前色々やらかすから」
「えー、何もしないよぉ〜」
「ったく、しょうがないなぁ……」
「貴様何故私が紅しょうがアレルギーだとわかった!! さては貴様八大地獄の……」
「早く行くぞ」
「はぁい♪」
そうかそうか、紅しょうがアレルギーか。
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―――
というわけで、死神の希望でデパートに連れてこられたオレ。新年ということもあってこりゃあ賑やかだ。
「あ! 見て〜、準くんがいる!」
お〜こりゃ見事な獅子舞だ。ぶっ殺すぞ。
「で、何でデパートなんだ?」
「私新しいローブが欲しいな〜」
やはりそういうことか。ま、金ならある。買ってやらんこともないが……。
「そうだな〜、アルミホイルを大量に口に詰めて100回噛んだら買ってや……冗談だ冗談だ! 本当にやるな!」
仮面を外して涙を流しながらアルミホイルを噛む死神ってのは結構面白かった。止めながらも一枚写メを撮っておいた。
そんなに欲しいか、ローブ。なんかちょっと可愛かったので買ってあげた。
最近オレのヤンキーというキャラが薄れているような気がするんだが……。
紙袋を抱えてウキウキな死神だが、他から見れば紙袋が浮いて見えてるんだろうなぁ。ま、細かいことは気にしない。
「気は済んだか?」
「あとはねー、鉄鍋と魔法の杖とニ○バス2006! あと教科書も探さないと!」
魔法学校へ入学ですか。
「あ、あとヨーグルト……」
「腹減ったから帰ろ」
帰り道を歩く(浮く)オレ達の後ろで嫌な声がした。
「あ、里原くん! 死神さんも!」
ほら出た、七崎美香。
「あら死神さん、新しいローブ? いいわね〜っ」
「うん、これから鎖とか対魔法加工とか守備力プラス5とか施して死神っぽくするの♪」
あ、あのローブはそんな特殊効果が備わっていたのか!
「それでお前はこんな所で何してるんだ?」
「あ、そうなの! 丁度今から里原くんの家に行って《痴漢》って書いた紙ポストに入れようと思ってたの〜!」
「帰れお前」
ケラケラ笑ってんじゃねぇよ死神。
「っていうのは、まぁ今回だけは特別に冗談ってことにしといてぇ、本当は二人と温泉に行きたくって誘いにきたの〜! ねっ、今度の連休三人で行かない?」
半分は冗談じゃなかったらしい。
ってか、え? 温泉?
またまたぁ、そんなハプニングの匂いがプンプンするお誘いになんて乗れないってぇの!
「あぁ、悪いがその日は」
「行きまーす!」
楽しい楽しい温泉の予定が決まりました。
「あ、料金は全部里原くん持ちね」
楽しい楽しい温泉の予定が決まりました。
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―――
「楽しみだねー、温泉だってさ! しかも料金が準くん持ちなら超豪華温泉が期待できそうだよね!」
「企画者は美香だからな。豪華かどうかは怪しいところだ……って何だお前?」
目の前には頭にタオルを被せ、全身からほこほこ湯気をたたせて立っているTシャツとハーフパンツの少女がいた。
「え? 私死神だけど?」
んなことはわかってる。でも今のお前は完璧に普通の人間だろ!!
「ローブは? 仮面は? 大鎌は?」
「やだなぁ、死神だってお風呂の時までそんな格好しないって! アハハハハ」
「じゃあそのままの格好で生活しろ。その姿なら人に見られても死神ってバレないだろ」
「ん〜、無理」
だそうです。
五分後には気味の悪いドクロの仮面つけて出て来た。
最近疑問に思う。最近地獄からやって来たばかりなのに何でコイツはこんなに最近の情勢に詳しいんだろう?
携帯使いこなすし、美味いお菓子知ってるし、競馬にハマるし。
……コイツまさか流行とか最新の話題に敏感なんじゃないのか?
ちょっと試しに
「セクシー死神さ〜ん」
「な〜に〜?」
「最近雑誌で『仮面は絶対流行らない』って載ってたよ」
「………」
「………」
「………マジ?」
五分後、我が家のごみ箱の中には13種類のドクロの仮面が放り込まれていた。
「アハハハハハ!」
居間では素顔を出した死神がテレビを見て笑っていた。死神の誇りなんて微塵も無いらしい。ついでにローブもやめさせようと同じ手を使ってみたが、本人曰く
「機能美」
なんだとさ。
「準くん私天津飯が食べた〜い!」
「あいよ〜」
オレは冷蔵庫から魚と紅しょうがを取り出した。