第49話 変な会社のウワサ
いつものように朝飯を作り終えたオレは洗濯物等の仕事も終え、居間に座ってテレビを見ていた。
番組は勿論バンプお薦めの料理番組である。
「ふわぁ・・・おはよ〜準くん」
死神が目を擦りながら居間へやってきた。眠そうだなオイ。
「おはよ。朝飯用意してあるから食うぞ」
「へーい」
オレは立ってキッチンのテーブルへ向かう。
パジャマ姿の死神は
「すぴー」
・・・居間に寝転んで寝息をたてていた。
「こらこら。こんな所で寝るな」
「ぬ〜」
なんとか死神を起こしてテーブルまで連れていく。
死神は眠そうな顔をしながら
一分で朝飯を完食した。
そしてそのままテーブルの上で寝ようとする。
「お前昨日普通に寝たんだろ?何で今日はそんなに眠そうなんだ」
「ん〜、変な夢みたから度々起きちゃったの」
・・・オレの部屋まで来て暴れなかったのは奇跡だな。
「で、変な夢とは?」
「・・・思い出しただけで寒気がするよぉ」
「そんなに恐い夢だったのか?」
「《入れ歯に延々と追い掛けられる》夢・・・」
超恐ぇ・・・。
「逃げ切ったのか?」
何故かこんなことを聞くオレ。
「・・・お尻噛まれた。ぐすん」
「ハハハ、そりゃ災難だったなっ」
「もう!笑い事じゃないよぅ!」
死神は頬を膨らまして怒る。
そんな話をしているうちに目が覚めてきたのか、死神はローブに着替え、いつも通り居間で雑誌を開いたりしていた。
オレは朝食の後片付けをした後、死神の隣に座って一休みする。
「おっ、見て見て準くん!」
死神に言われて雑誌を覗く。どうやらそれは地獄から定期的に発行される雑誌らしく、《殺伐》より遥かにマシな雑誌である。
「何を見ろって?」
「これこれっ」
死神が指差す記事の写真には何やら見慣れない巨大な建造物が写っている。地獄旅館・・・ではなさそうだな。
かなり遠くから全体像を写しているのだが、撮影者が下手だからかボヤけて建物が見づらい。沢山の煙突が伸びているのはわかる。
「《魔工場》でまた新作かぁ・・・さすが!」
死神はわけのわからんことを言っている。
オレは記事の一部を読んでみた。
ん〜、なになに?
『《魔導会社マジック・コーポレーション》は先日、魔工場で開発していた《魔列車》の完成を発表。魔工場の技術は以前から定評があり、天国地獄の各支部も今回の魔列車の完成を大いに賞賛している模様。この魔列車の開通により、効率的な魂の分配が可能となり・・・』
・・・?
なんだこれ。
「おい死神、オレにはサッパリわかんねぇぞ?なんだ魔導会社って」
「魔工場で作られたいろんなモノを主に天国と地獄を相手に商売してる会社なの!ゲルさんの店に置いてある物も魔導社製が多いよっ!」
ほぉ〜。そんな会社が存在していたとは。
「あとね、魔剣ドミニオンと聖剣エクスカリバーも魔工場で生まれたんだよ〜っ」
そいつぁビックリだ。
が
まぁ、オレには関係ねぇな。
死神も飽きたのか、オレにまたどっか連れていけとゴネだした。
腰にぶらさがる死神をどうしたものかと考えていると
オレの携帯の着メロが鳴った。
「もしもし?死神だよぉ!」
・・・。
「あーっ、久ぶりー!元気してた!?うん、うん・・・それはまたハイカラな靴下だねぇ。アハハハハ」
そう。死神はオレの携帯を共有化させてしまい、そのせいでオレの携帯にはたまにわけのわからんヤツから電話が掛かってくる。それはどうやら死神の友人らしく、声色が毎回違うので全部別人だと思う。
オレが出ても当たり前のように
『ロシュいる?』
とか言われるし。つーかオレの携帯番号が人間にあらざる連中に出回っているのは結構怖くないか?
「え〜!魔列車見に行ったの〜!?いいないいな〜!どうだった?うん、うん・・・」
死神は会話に夢中なのでオレは死神の読んでいた《月刊トリック・オア・トリート》という雑誌をパラパラとめくってみる。
ん?
おっ。
この前の死神業者最強決定戦の記事だ。死神はまだ見ていなかったようだ。
すげぇ、オレと死神が写ってるよ。これはマジですごいんじゃね?
なになに?
『今年度の死神業者最強決定戦《KING OF HELL》の優勝は初登場の《里原・死神ペア》が掴んだ。
今大会は例年より遥かにレベルが高く、他支部の支部長が飛び入り参加し、支部長同士が激戦を繰り広げる等の貴重な場面も見られた。
また、《里原・死神ペア》はエリート餓鬼をことごとく撃破し、大会主催側が放った刺客《麒麟・猫ペア》をも撃退した。この戦闘映像のある光景にどうやら魔導会社スタッフは興味を示した模様。
さらには、これもまた初出場ペアがエリート餓鬼最多撃破記録を塗り替えるなど、全体的に内容の濃い大会だったといえよう。
さらに大会終了後、本誌記者の独占インタビューには優勝ペアの一人、死神こと《ロシュケンプライメーダ・ヘルツェモナイーグルスペカタマラス七世》さんが応対してくれた』
・・・?
独占インタビュー?初耳だ。
―――――――
記者:【では死神さん、今回優勝の決め手となったのは何だと思いますか?】
死神:【愛!】
記:【なるほど。では里原くんとのコンビネーションはバッチリだったと?】
死:【うーん、《パルメザンチーズ》ってなんか格好よくない?《パルメザン》ってトコとか!あっ、今度メアに《パルメ斬!》って攻撃かまそっと】
記:【なるほど。今一番声に出して言いたい事はありますか?】
死:【お腹すいたよー】
記:【なるほど。では読者の皆様に何か一言お願いします】
死:【あ、準くーん!お腹減ったよー】
里原:【ん?おー。じゃあ獏さんの地獄食堂行くか】
――――――
・・・。
記者完全に無視じゃん!
なんかこんな会話したような気もするが、まさかアイツがインタビューを受けていたとは思わなかった。
電話を終えた死神が再び隣に座った。
「ねー準くん、私も魔列車見たかったよー」
「あぁ、その友達は行ったんだっけ?」
「うん。でもね、魔列車発表会見に魔導社の社長は欠席だったんだってさ」
何でそんな重要イベントに社長が欠席するんだ?
「なんでも魔導社の社長って気紛れな人らしいよ」
ふぅん。
社長ねぇ・・・。ま、自由気ままな社長もいるよな。
「んぁ、そうだ!」
そう言いながらローブの中をゴソゴソあさる死神。
オレが首を傾げていると死神はなにやら箱を取り出した。
「それは?」
「大会の優勝記念に魔導社が景品を送ってきたの!忘れてたー」
そんなもん初めて知ったぞ。
死神は長さ30センチ程度の長方形の箱をテーブルの上に置いた。
紫の怪しい箱。
もう見た目からして絶対あけない方が良いと思うんだよね。
パカ
ま、あけちゃう馬鹿が隣にいるんだけどね。
「人形だぁ〜!」
死神は中に入っていた人形を取り出した。
木でできた人形はただ人の形をしているだけで目も鼻もなく、至ってシンプルなマネキンみたいだ。
が
魔導社とやらが送ってきたその人形は・・・
動いた。
『開けるの遅ぇっつーの!』
死神の手の中でジタバタする人形は喋りやがった。
以前の腹話術人形とは違う。トリック無しだ。
「うわぁ動いたよ準くん!」
死神は人形をテーブルに置く。
・・・。
ついにこんなモンまで出てきやがったか。
死神は興味津々で人形と対面している。
「ねぇねぇ、名前は?」
『ねぇねぇ、名前は?』
「私が聞いてるんでしょっ!」
『私が聞いてるんでしょっ!』
「真似しないでよぉ!」
『真似しないでよぉ!』
「・・・む〜」
『・・・む〜』
「・・・」
『・・・』
「死神はグラマラスだねぇ」
『死んでも言えないねぇ』
バキッ!ゴッ!ドガッ!
『ぐはぁ!』
なんだこの面白パペットは。
『なにすんだよ!オレは魔導社の新作だぞ!?』
「知ったこっちゃないわよ!この無礼人形!」
大鎌を出した死神は今にも真っ二つにしそうな勢いだ。
『ま、待て待て!オレは結構高いんだぞ?そりゃあもう、お前みたいな貧相BODYには到底手の届かな・・・』
「また言いやがったなコノヤロー!!!!」
ドガガガガ!バキッ!ガスガスッガスッガスッ!もい〜ん♪ボカン!
・・・。
新品の人形が既にボロボロだ。
『ぐ・・・ふぅ』
死神はかなりご立腹だ。どうやら貧相とか言われるのだけは許せないらしい。
頭からプンプンと煙を出しながら人形を掴み、部屋を出た。
『何?何!?どこへ連れていく!?』
スタスタと死神が向かったのは隣の《須藤 彩花》宅だ。
鍵は掛かっていないらしく、死神は玄関を勢い良く開けた。
「こんな景品いらなーい!」
そう言うと死神は人形を彩花さんの部屋のなかに放り投げた。
『何ぃ〜!?』
そして死神はドアを閉めた。
彩花宅に単独で放り込まれる。それは彼女を知る者にとって絶対に避けたい行動である。
「もぅ!行こっ、準くん!」
死神に手を引っ張られ、自室に戻る。
このマンションの防音設備は完璧なのだが・・・
『――――――ぅぁぁああああ!な、何だお前!?ちょっ・・・ギャァァァァァァァァ―――――』
・・・。
ぞっ。
次の日の朝、オレ達は人形の頭部を外の《ゴミ捨て場》で目撃することとなる。