第47話 死神とお布団
今日はとても良い天気だ。風はカーテンが少し揺れる程度の微風。差し込む日差しは強めで、ベランダから下を見ると日傘をさしている人がちらほら。ぽっかぽかとはこういう日を言うんだな。もうすぐ夏だなって感じるよ。
オレは干していた布団を取り込み、居間で畳んでいた。
ドドドドド
・・・来たぞ。
ドドドドド
・・・日常の破壊者め。
ドドドドド
「ダーーイブ!!」
ばふっ
「わはー!あったかぁい!」
畳んだ布団が総崩れだバカヤロー。
そんな事は気にもしないで死神は布団の海を泳いでいる。
・・・また畳むのめんどくせぇ。
というわけでオレも
ばふっ
「あったかいでしょ準くん!」
「おー」
これはたまらん。寝てしまいそうだ。
これは他から見れば変な光景だと思うよ。
居間には崩れた布団の山。その上でうつ伏せになる高校生。その横でバタ足する黒ローブ(そろそろ暑いだろ)。
でもまぁ・・・すっげぇ気分良い。
ピンポーン
フロントからか。・・・動きたくない。
ピンポーン
「準くん、誰か来たみたいだよ?」
「ん〜、ほっとけ。この状況で動くのは無理だ」
「私も無理〜」
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
・・・。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
うっせぇ。
ピンポーンピンポーン卓球ピンポーンピンポーン
待て。なんかつまらんモンを聞いた気がする。
ピンポーンピンポーンピンクパンサーピンクパンサーピンクパンサー
「何がピンクパンサーだコラァァァァ!!」
「アッハハハハ!インターホン最高!」
死神が細工したであろうインターホンに負けたオレは仕方なく起き上がると、フロントへ繋がるモニターの受話器を取った。
ガチャ
『こんにちはです準くん』
あれ?ナイトメアだ。この子は礼儀正しいから連続でチャイムを押すなんて荒行はしないはず・・・
『そして私だ!ハハハハハ!!』
冬音さんかよ。
そういえばナイトメアは冬音さんトコに居たんだっけ。
ここで通さないとこの二人なら防弾ガラスもぶち破って入ってきそうなのでとりあえず中へ入れる。
ピンポーン
で、再びドアのインターホン。
「準くん!遊びましょう!」
「準!遊ぼうぜ!」
・・・何歳だお前ら。
死神は二人に気付く様子もなく布団で泳いでいる。
それを見た冬音さんとナイトメアは・・・
「むっ、おい死神!なんだそれは!」
「なんかよさげですー!」
ドドドドド
ばふっ
「あ〜っ!ダメだよ冬音姉さん、メアも!」
布団へダイブした冬音さんとナイトメアも死神を挟んでバタ足をし、死神は自分のテリトリーが狭まるのを防ぐために抵抗している。
ハッキリ言って全然意味がわからん。
玄関から呆れた顔で三人のやりとりを見ていると、急に後ろの扉が開いた。
ガチャ
「こんにちわ里原くん」
「こんにちは準くん」
彩花さんとヴァンパイアだ。
「なんか楽しそうな雰囲気を感じ取ったのよ♪」
何者ですかアナタは。
そして予想どおり・・・
「あら!?死神ちゃんいいわね!いくわよバンプ!」
「了解!準くんお邪魔しまぁす」
ドドドドド
ばふっ
やっぱダイブしたか。大人気だなウチの布団。
「うわぁ〜ん!彩花さんとバンプまで〜!」
何枚もの布団の上で冬音さんはまったり寝始めてるし、ナイトメアはバタ足。彩花さんとヴァンパイアは二人でゴロゴロしている。
なんだコレ。
死神はその真ん中で一生懸命テリトリーを確保しようと頑張っていたが・・・
ごろん
「あぅ・・・」
ついに死神だけ布団の外へ出されてしまった。段々と隅に追いやられ、コロンと外へ出たときは思わず笑っちまった。
「うっ・・・ぐすっ」
死神はテテテと歩いて来てオレの裾を引っ張り、無言の訴えをした。
「泣くな泣くな」
オレは後で畳む為に干してあったもう一枚の布団を取り込み、居間に敷いた。
「・・・ほらよ」
「やったぜー!」
ばふっ
再び別の布団で泳ぎ始める死神。
それとは別の布団では、眠りを妨げられた冬音さんが新しい人格《レスラー冬音》に変貌してバンプにプロレス技をかけており、ナイトメアと彩花さんもタッグマッチと言いながらバンプを攻撃していた。
3対1でタッグマッチなわけねぇじゃん。
「痛いよ〜!」
バンプは彩花さんにチョークスリーパーを掛けられ、ナイトメアには腕ひしぎ十字。拷問だろ。
トドメは《レスラー冬音》。
『くらえバンプ!《23の字固め》!!』
「ぅえ・・・!?片足だけで『2』ですか!?ギャァァァァ!!やめてぇぇぇぇ!!」
バンプーーーー!!
吸血鬼が複雑骨折になりかねないと判断したオレはストップに入る。
「レ、レフェリー!助かりました!」
つ、疲れる・・・。
オレはバタ足に夢中の死神の隣に寝そべる。
乱入者四人はまだ暴れていた。
――――
そんな事をしているうちに、気付けば皆布団の上で熟睡してしまっていた。日差しが入って気持ちが良いからな今日は。
一人だけ起きたオレは、そろそろ夕飯の支度でも始めようとキッチンへ立った。どうせこの人達も食っていくだろう。
「んぁ、準くん僕も手伝います〜」
「おー、頼むよ」
目を擦りながらやってきたのはヴァンパイアだ。六人分も作らなきゃいけねぇから助かるよ。
というわけで、布団の上で未だ爆睡している四人を背に、オレ達は料理を始めたのだった。
・・・。
つーか
布団がぐちゃぐちゃじゃねぇかチキショー。
バンプと二人でキッチンに立っていると、彩花さんの寝言が聞こえてきた。
「ムニャ・・・バンプ〜、《カリフォルニアコンドル》買ってきて〜・・・ムニャ」
「ひぇっ」
バンプが硬直する。
ちなみに《カリフォルニアコンドル》は希少動物だよ彩花さん。
――――
夕方になり、晩飯の匂いで目が覚めた四人は
「晩ご飯だぁー!」
「その前に布団を畳めよ〜」
晩飯の為なのか、四人はいそいそと布団を畳んだ。
今日は鍋だ。皆よく食ったよ。だってオレほとんど食ってねぇもん。ぐすん。
「ふ〜、さて、帰るかメア」
「はーい。準くんお邪魔しましたぁ!」
「あいよー」
「バイバーイ!」
冬音さんとナイトメアは仲良く帰っていった。あの二人は意外に良いコンビなのかもな。
「じゃあバンプ、私達も・・・」
「うんっ」
「帰って晩ご飯にしましょ」
「今食べたじゃんか彩花さん!!」
こうして彩花さんとバンプも帰っていった。
ところで皆一体何をしにきたんだ?ま、考えるだけ無駄か。
「準くん晩ご飯は〜?」
お前もかよ!
明日もう一回布団干さなきゃな。
オレは畳まれた布団の山に目を向けた。
・・・。
・・・。
「なんでわざわざ三角形に畳んでんだよ!!」
「アハハハハ!彩花さんのイタズラだよっ!」
お茶目すぎだろあの人!
「あっ、そうそう」
死神がポンと手を叩く。
「今回ね、あまりにも布団布団って書いてたから、作者が『フトンってなんだっけ?』って、文字を見て錯覚を起こしちゃったんだって!」
・・・まぁ、たまにある。いつも何気なく使っている字をよ〜く見ていると、『あれ?こんな字あったっけ?』って思うことあるもんな。
「でね、冬音姉さんに聞いてみたら、
『死神、それは《ゲシュタルト崩壊》というんだ』
だってさ!」
なんでそんなこと知ってるんだよあの人。
「・・・ん、あれ?《死神》ってなんだっけ?」
お前だ!!




