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死神といっしょ!  作者: 是音
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第39話 声優サンクチュアリ

前回の死神曰く《伏線》により、今日は美香も含めて学校の隣にある教会へ行くことになりました。


教会は学校の敷地内にあり、たまに学校で行事なんかをしたりするのだがオレは三年間で少ししか入ったことがない。

記憶にあるのは巨大なパイプオルガンとだだっ広い講堂。一年の頃溜り場にしていたこともあったが、その時はシスターなんかいなかった。まぁあらゆる行事をサボり続けているから学校の情勢なんかわかるはずない。


というわけで、死神を教会へぶちこみたい衝動と、シスターとやらを一度見ておきたい衝動に駆られて強制連行にもすんなり同意した。

死神は元気いっぱいだが、そもそも死神が自ら教会へ入れるのかという疑問が浮かぶ。ちょっとワクワクだ。


「シスターぶっ倒す!」


戦う気かよ!!


「ブラッド・デスサイズだけじゃ装備的に不安ね。よし、ここはとっておきの・・・」


と言いながらローブをごそごそあさりだした。


「《悪魔の卵ぉ〜》!!」


わぁすごいよロシュえもん!なぁにそれ?


じゃねぇよ!!名前から既に使い方や能力が丸分かりだろ!!


「ふふふ〜、これを使えば伝説の悪魔デビルハムスターが生まれ、この世を闇に・・・」


「返して来い」


「えぇ!?」


「返して来い。ゲルさんのお店に」



「何で何で!?ちゃんと私が面倒みるから!お世話するから!いいでしょ!?」


・・・。


「いけません!!返してらっしゃい!!返してくるまで教会へは連れて行きませんよ!!」


「うっ、ぐすっ・・・」


「泣いてもダメです!」


「うぇぇぇぇん!!お母さんの馬鹿!わからずや!チェス駒ぁぁぁぁ!!」


「チェス駒!?っつーかお母さん言うな!」


死神は泣き喚きながら黒いゲートの中に消えた。訴えのなかには心の痛むものもあったが、何でもかんでも敵に回すのはいけない。オレの親心だ。

親心とか普通に言っちまったよ・・・。


ま、ちゃんとゲルさんに卵返してくるんだぞ。


・・・。



・・・。


はっ!!


《ハムスター》って哺乳類じゃねぇか!!


しかしまぁ、高校入るまでオレは宗教とかとは無縁だったし、入った後もいろんな行事に積極的に参加する事も無かった。式なんかは体育館で行われるが、文化祭やらなんとかパーティー(聖夜祭とか)みたいなのなんかは全部教会を使って行われている。

なのにめんどくさくてサボりまくっていたオレには当然、教会なんてあったなぁくらいしか記憶に残らねぇし、その教会だって二年前溜まり場にしていたのは講堂の隅だった。

・・・よくよく考えると高校生らしい事全然してなくないか?オレ。部活にも所属してねぇし。

・・・うーむ。



しばらくすると死神が帰ってきた。機嫌は良いみたいだ。


「地獄で貰ったなにか・・・プライスレス!」


とか言いながらオレに両手いっぱいの飴玉を見せる。

ゲルさんに貰ったんだな。ありがとうゲルさん。


「さぁ行こうぜ準くん!美香ちゃんが待ってるよ!」


飴を口の中でコロコロさせながら死神は叫んだ。


その直後、飴が死神の喉につまった為、慌ててオレが背中を叩くことになった。


―――


・・・休日に学校へ来ると意外にテンションが下がることがわかった。


校門前ではクレイジー女が手を振っている。


「死神ちゃーん!あっ、あと《シルベスタギムネバ茶》おはよー!」


今日の呼び名すげぇ・・・。

死神は美香に手を振り返す。


「おはよー美香ちゃん!不思議ちゃんシスター楽しみだね!」




「・・・ん?」


テメー昨日自分で言ったこと忘れてんじゃねぇよ!


「あぁ!不思議ちゃんね!うんうん、そんなこと言ったような気がする!そっかそっか、昨日の私もなかなかキレのある嘘を・・・ゲフン!さぁ行こう!不思議ちゃんシスターに会いに!!」


美香は一日経つと自分がついた嘘を忘れるらしい。


割と広い敷地の学校なので、校門をくぐってから少し歩いて教会へ向かう。

ウチの学校は変に凝った造りをしていて、中庭を四辺で囲むように本校舎が並び、隣に旧校舎(新学期の時みたいにサボる時は大抵ここの裏)、さらに隣に体育館・教会という感じで並んでいるのだ。

と、我が学び舎の構造を説明してみたり。


つまりだ・・・。


教会の隣に位置する体育館で以前死神は校長のヅラを剥ぎ取り、閻魔と猫はドタバタと闘い、おまけにオレと死神は不法侵入までしてしまったのだ。罰当たり極まりない。ごめんなさいです。


「教会なんてあったんだねぇ」


と死神。

確かに見えにくい位置にあるから気付かずにいたのはわかるが・・・


死神が教会見たらそんなリアクションしないだろ。


もっとなんか

〈ぐわぁ!近付けない!〉とか

〈おのれこしゃくな建造物を・・・!〉

とか言わないのかよ。


「んぁ?誰が?」


なんでもないです。


教会の扉を勢い良く開けた死神(近づいただけでは何も変化無し)が発した第一声は


「たのもぉーう!」


という道場破りの決まり文句だった。美香が後に続く。


「ステンドグラスは貰ったわぁぁぁぁ!!」


ふざけんな。


中は記憶どおりの広い講堂だった。

最初の印象からして死神は平気で動き回っているだろうと思った。



ベシャ


「あうち」


突然浮いていた死神が落下したのだ。


「ありゃ?浮けないや」


まぁ仕方ないかくらいのリアクションで死神は起き上がり、普通にテテテと歩きだした。たまに一番前に掲げられた十字架を見上げて


「よっ」


とか軽い挨拶してるし。影響はあるみたいだが・・・小さすぎる。


でも死神が浮けなくなるなんて、やっぱ場所が場所なんだなぁ。

今度死神業者の誰かに襲われるようなことがあったらとりあえずここに逃げよう。


って、そういえばオレ《神様信じない派》とか言ってても実際目の前に死神がいるわけだし・・・。んー、まぁコイツはそんなに神々しいものじゃないか。うん。


「シスター出てこいコラー!!」

「出てこいコラー!!」


おいコラお前等。


美香はともかく死神の声は届くのか?


「声くらいは気合いでなんとかなるよ!」


アバウトな回答だ。


『は、はい?どちら様?』


お、誰か出てきた。何故か休日なのにセーラー服を着ている。

って、完璧同世代の女じゃん・・・。

背は少し小さめ、ぱっちりした目に小顔。ショートカットがよく似合っている。・・・うわ!この解説はまさか新キャラなのか!?


「こんにちは[由良{ゆら}]ちゃん!遊びにきちゃった!!」


と手を振る美香。

ゆら?なんだ美香の知り合いか。


「こ、こんにちは美香さん・・・。里原くんも」


!!


オレを知ってるぞ!?


「あ、そっか。私隣のクラスの[渡瀬 由良]です。」


へぇ・・・。こんな子いたような気もしてきた。


「由良ちゃんとはテニス部で同じなの!」


ナルホドね。


「あの、一応同じマンションに住んでるんですけど・・・」


うんそれは知らなかったね。

見たところかなりおとなしい子のようだ。


「現れたなシスターめぇぇ・・・ふぎゃ」


まったく空気を読んでいない死神が大鎌を振り上げる。が、この教会の中だと力が弱まるのかフラフラと大鎌の重さに負けて倒れた。


馬鹿だなぁ。この人は多分普通だから見えてないぞ?


「でも何で休日なのにセーラー服なんだ?」


「あ、私はこの教会でアルバイトしてるんです。掃除とか、色々なものの管理とか・・・」



ほー。じゃあ別にシスターなわけじゃないんだ。教会で働いているのは全部シスターだと思い込む美香が悪いな。

・・・オレも思い込んでたけど。


死神はパンパンとホコリを払った。


「いたた、なぁんだ。バイトシスターならダメじゃん」


「ご、ごめんなさい」


!?


「私死神でーす!」


「あ、由良です。よろしく」


見えたーーー!!


予想に反して死神が見えてしまった渡瀬は不思議そうな顔をした。


「ん・・・ぅえ?死神!?・・・あ、でも可愛い」


抵抗なしかよ!

とりあえずオレ達は講堂にズラリと並んだ椅子の一つに腰掛ける。ちなみにクリスマスパーティーなんかの時にはこれは全部片付けられる。

講堂の中はステンドグラスの割合が多いおかげで結構明るい。死神はついさっきまで戦うつもりでいたことを忘れて小柄な渡瀬{わたせ}にくっついている。


「おい、その・・・渡瀬は何で教会でバイトなんかしてんだ?」


死神に髪の毛をわしゃわしゃされながら渡瀬はもじもじとしていた。仕草が全然変人じゃねぇ。


あっ!


思い出した。以前サボり集団の中で《渡瀬由良ファンクラブ》みたいなモンが存在すると聞いたことがあるような気がする。


礼儀正しいし、おとなしい。見た目もなかなか・・・。ファンクラブができるのも当然か。


「あの、わ、私、将来声優さんになりたくて・・・そ、その為の資金を・・・。親に迷惑かけたくないし・・・」


「そういうことだよ里原くん!!」


お前が偉そうに言うな美香。

しかし、将来の為の資金集めとは・・・。夢に向かって突き進むのは良い事だ。偉い偉い。


「準くんオッサンみたいだよ?」


やかましい。

死神は何やら声優という職業に興味を持ったみたいだ。


「由良ちゃん、声優さんになるんだぁ」


「う、うん」


「すごいねぇ!」


「ありがと」


「私もやるー!!」


何でその答えに行き着くんだよ。


「じゃあねぇ、私は

《イジメられっ子を野球に誘いにきた歌のヘタな大柄イジメっ子》

の役やるから」


まさかジャ○アンじゃねぇだろうな?


「じ、じゃあ私は

《眼鏡を掛けて、困ったときはすぐに家に駆け込み、四次元空間を両手でこねくり回す猫型未来機械人形の名前を何度も叫ぶイジメられっ子》の役を・・・」


わ、渡瀬?


「じゃあアタシは猫型機械人形やるねっ」

――――――



死神:【おうおうユラ太!オレ様がわざわざ野球やろうって誘いにきてやったんだぞ!早くしやがれ!!】


(ちょっとは似せようとしろよ。)


渡瀬:【嫌だぃ嫌だぁい!助けてよミカえもーん♪もんもーん♪】


(わ、渡瀬ーーー!?)


美香:【ふん、ヤツなど所詮肉の塊・・・】


(ミカえもんキャラがおかしいぞ!?)


死:【オイコラ早くしやがれユラ太ぁぁぁぁ!】


渡:【うわぁ〜ん!ミカえもん、早くアイツ殺してぇ〜!!グサァ!ってさ♪】


(駄目だ渡瀬戻って来い!お前は第一印象からしてそんなキャラじゃないはずだ!)


美:【任せるでし!】


(テメーもなんだその語尾は!!)



美:【(ゴソゴソ)・・・ジャーン!モルヒネ・・・ぐはぁ!!!】


(今のはオレが頭を叩いたからです。)


死:【オレ様も負けてられねぇぜ!!】


(何に!?)


死:【変・・・身!】


(すんなバカヤロー。)


美:【なっ、貴様は・・・】


死:【そう!・・・オレ様の名はルパ〜ンさぁんせ・・・ぐはぁ!!!】


(今のもオレが頭を叩いたからです。もうやりたい放題でメチャクチャになりつつあります。)


渡:【二人共、僕の為に争うのはやめてよん!よんよん♪】


(ユラ太が《殺して》って言ったんじゃ・・・?

つーか最後のいちいちムカつくぞ渡瀬。)


美:【おめぇの出る幕じゃねぇべ!】


死:【んだんだ!】


(初期設定は!?)


渡:【オラも戦うだ!】


(渡瀬もキャラ変えたー!)


(いつの間にか設定が《野武士に立ち向かう農民》になってしまった・・・。)



(・・・。)


(なんかもう・・・泣いてもいいですか?)


―――――


三人は気の済むまでわけのわからんやりとりをし合い、オレはいちいち何を言ってるのか聞いていると疲れるので長椅子に寝転んで耳を傾ける程度でいた。

ちなみに渡瀬の声に集中して聞いてみたところ、死神達に付き合っているためにアホなセリフしか言っていないが、コロコロといくつも変化するキャラクターに対応しているのには少し感心した。子供から老人、猫の鳴き声までできるからだ。


こりゃ本当に声優になるかもな。役に入りすぎる所がたまにキズだが。






「アハハハハ!由良ちゃん面白いねぇ!でも上手だったよ、特に《シンバル》の物真似が」


効果音じゃねぇか!


その後、渡瀬はバイトの終わる時間になったので今日のところはこれで帰ることになった。


美香とは校門前で別れ、オレと死神は意外にも同じマンションに住んでいた渡瀬と一緒に帰ることにした。


・・・結局シスターはいないし、教会へ入った死神もさほど影響はなかった。

つまりオレが期待していた事は全てハズレだったわけだなチキショー。


「ねぇ由良ちゃん!」


「は、はい?」


「声優といえばアレでしょ!」


「え?」


死神は口が顔の半分を占めるほどの満面の笑みを見せた。


「早口ことばーー!」


出たーー!


「早口言葉・・・ですか?」


「そう!」


渡瀬は声優モードの時以外は常人であるらしく、嫌な予感がしたのかオレに向かって助けを求める視線を向けて来た。


でも早口言葉くらい渡瀬ならいけるんじゃないか?


「じゃあいくよ〜」


「は、はい」


「《庭には2羽ニワトリがニヤケ面》!!はい!」


こわっ・・・。


「は、はい・・・

《庭には丹羽さんがニヤリとニヤケ面》!!」


完全に変質者だ。


「うん、いいね!」


どこらへんが合格ラインだ!?


「じゃあ次!いくよ〜」


「は、はい!」


「《坊主がビョウブに上手に坊主の絵を買わせた》!!」


ビョウブって人かよ!


「え?あっ・・・え〜と《坊主がなんか上手だ》!!」


うわーアバウト!


「合格!!」


基準は何だ!?


「だが声優への道は甘くないぞ由良ぁぁぁ!!」


「ひぇぇっ!」


死神は浮いた状態で渡瀬の首に手を回して抱きついている。

渡瀬はただあたふたするばかりだ。


「あ、あの・・・里原くん?」


「何だ?」


「わ、私って今回だけ登場のキャラ・・・だよね?」


・・・。


あんだけイイ動きすれば作者のお気に入りになっただろうな。


「そんなわけないでしょ由良ちゃぁぁぁぁん!!」


「ひぃえぇぇぇぇ!!」


良かったなバンプ、いじられキャラがまた一人増えたぞ。

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