第36話 死神と遊園地
「準くーーーーん!!」
何だよ。
「どっか連れてってー!」
「・・・何で?」
「だってゴールデンウィークだよっ!」
そう。今はゴールデンウィーク真っ只中。行楽ラッシュで汗を流しながら笑顔で歩く人達を思い描き、駅へ近づくことだけは避けようとか思っているオレ。
「せっかくの連休じゃ〜ん」
お前は毎日が休日みたいなもんだろ。
毎日忙しく働いている人や、日々に疲れを感じている人達が奇跡的に長く繋がったこの連休を家族と楽しんだり、ゆっくりしたりする。だからこそ一週間が黄金のように見える。だからゴールデンウィークなのだ。
だから毎日を休日のようにお気楽に過ごしているお前はゴールデンどころかランクダウンしてブロンズウィーク程度にしか感じられないわけで、せいぜい一体何の日が重なったのか頑張って覚えてみる事しか楽しみは・・・
「連れてけーー!!」
・・・一蹴された。
連れて行かないとオレのゴールデンウィークは公害級の騒音を聞きながら精神を蝕まれそうだ。
「どこ行きたい?」
オレの言葉を聞いた死神はパッと明るい顔になる。
「連れてってくれるの!?」
連れて行かねぇと暴れるだろうが。
「やったぜー!どこ行こうかな〜?」
そう言うと雑誌を開いて行く場所を探しはじめた。
「・・・《殺伐》は閉じろ死神」
夢中になってページをめくる死神の邪魔をしないようにオレはキッチンへ立って遅めの朝食を作りはじめた。連休ってどうしてもこうなっちゃうよね。
どうやら行く場所は死神が独断で決めるらしい。
「デートデート♪」
―――
で、次の日オレと死神は長々と電車に乗り、行き着いた場所が
「遊園地とは・・・」
ゴールデンウィーク効果で大盛況のアミューズメントパーク。
地元CMで見たことのある、何の動物がモチーフなのかわからないくらい謎なキャラクターの看板が入場門でオレ達を待っていた。
こんなネズミだかモグラだかニワトリだかわかんねぇキャラクターに笑顔で手を振られてもイラッとするだけだ。死神は笑顔で看板に手を振り返していたが。
しかしコイツにしては珍しくマシなチョイスをしたものだ。
・・・。
とか思うのもこれが最後になるかもな。
「じゃ、入ろう準くん」
死神に手を引っ張られて入り口から中へ入る。死神は見えないからもちろん無賃だ。
やれやれ、きっと周りからは〈あの青年ゴールデンウィークなのに一人で遊園地なんかに来てるよ、寂し〜〉とか思われてるんだろうなぁ・・・。
「準くん早く早く!」
死神はウキウキでパンフレットに目を落としている。まずは近くのジェットコースターへ行くらしい。
「私ジェットコースターって初めて乗るよぉ!」
凄まじく長い時間列に並んでいたというのに、死神はご機嫌でジェットコースターへ乗り込んだ。
この後オレはコイツの弱点を新たに発見することとなった。
「ジェットってなんかカッコイイね!なんかこう・・・《ジェーーーット!バヒューン!》みたいな♪」
全然意味わかんねぇよ。
死神は最初ワクワクしていたが、発進した瞬間態度が一変した。
ガチャガチャと最初の坂を登っていくなかで恐怖を感じたのだろうな。
「準くん・・・」
隣で声を震わせる金髪少女。
「何だ?」
「降ろしてください」
何を突然。
「・・・今更無理だ」
「お願いします・・・」
ガタンゴトン
「ほらもう頂上だぞ〜」
「ホントにお願いします準くん・・・こ、このままだと私、いろんな意味でヤバいことになりそうな気がするのです」
何だそりゃ。
「助けて〜助けて〜!」
死神がすげぇ力でオレの袖を引っ張る。コラ伸びる伸びる。
ガタンゴトン
「お、お願いだから・・・今なら私の熱い抱擁を大プレゼントするから降ろし・・・ぎょえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
熱い抱擁を押しつけられる前に下り坂へ入った。助かったぜ。ナイスだジェットコースター。
「みぃぎゃぁぁぁぁ!ご近所さぁぁぁぁぁん!!」
意味がわからん。
「降ろせぇぇぇぇ!降ろさぬなら支柱も鉄骨も全て叩っ斬るぞぉぉぉ!」
いや恐い恐い。
その後、終始暴言や脅迫めいた発言や、およそ公表することのできない単語を喚き散らして到着した。
死神は立てない(浮けない)らしく、やはりオレがおぶって外へ出た。近くのベンチに座った死神は凄まじい動揺を見せている。
「はゎゎゎゎ、怖かったぁ・・・」
すごい怯え様だ。《ジェーーット!バヒューン!》を期待していたんじゃなかったのか?
「危なかったぁ、もうちょっとで・・・。あぁ、危なかったぁ〜・・・」
すごいな。これは使えそうだ。とか邪悪な考えを巡らすオレ。
コイツの新たな弱点を発見したオレは日頃のウップンを晴らすべく・・・
「死神、今度はアレ乗ろうぜ!」
「ふぇ?」
死神をバンジージャンプに乗せた。
「降ろしてぇ〜!降ろしてぇ〜!!」
「ジタバタすんなよ」
死神とオレは宙吊りになった状態で揺れている。死神はオレの胸元でひたすら暴れていた。
〈発射10秒前でーす〉
「助けて〜!これから晩ご飯は腹八分目に抑えるから〜!」
「本当か?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・やっぱ無理かも。エヘ♪」
〈発射〉
シュゴォォォォォ!!!
「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇ!!!マッスィィィィンムーブメェェェェント!!!!」
リアクションすげぇ・・・。
死神は延々と《マシーンムーブメント{機械運動}》とかいうわけのわからん悲鳴を上げ続けていた。
―――
で、再びベンチの上。
「遊園地トテモコワイヨ」
死神は一層ぐったりした様子で軽く在日中国人風な口調になっている。
ちょっとイジワルしちゃったな。
「ゴメンゴメン死神。絶叫系はやめて観覧車乗ろう!な?」
「う、うん」
オレは死神の手を引っ張って歩きだした。
しかしこの遊園地は広いなぁ、遊園地って広いもんなのか?まぁ、よくわからんが所々で花火を打ち上げたりパレードをやったりしているから割と大規模な部類に入るテーマパークなんだろう。遠くではヒーローショーなんかもやっている。
・・・死神には見せないでおこう。アイツなら飛び入りで正義の味方の正体を剥ぎ取ってしまいかねない。さらに悪役の怪獣から急にオッサンが出てきたら無垢な子供に一生もののトラウマを植え付けることになるだろう。
でも、なんかいい雰囲気だ。
・・・。
はっ!
なんかオレいい歳して楽しんでないか!?
観覧車に乗った死神は目を輝かせながら窓に張りついていた。高い位置は大丈夫らしいな。
「すっごいねぇ〜!まだまだ高くなるよぉ〜!」
こうしていれば普通の女の子だよな。いや普通どころか・・・
?
何考えてんだオレ?ま、いいや。
「あっ、見て見て準くん!マスコットキャラクターが歩いてるよ!」
おーホントだ。下の方で小さくなった謎のマスコットキャラクターが子供たちに風船を配っている。
「私も《百瀬・ラ・カーメラ・ド・ウル・ボルケーノ》に風船もらいたーい!」
名前まで意味不明かよ!
死神はオレの向かい側に座り、足をぱたつかせている。
「いいなぁ、私こういうの好きだなぁ〜」
それには同感だ。
「観覧車っていいなぁ」
とか思わず口に出してみる。
「なぁに準くん、さも初めて乗ったかのような事言って〜」
「ん、初めてだぞ?」
「へ?」
間抜けな声を出すな。
オレだって遊園地に来るのは初めてだ。別に驚くことでもねぇだろ。
死神は満面の笑みをオレに向ける。
「じゃあ今日来て良かったねっ!」
「そうだな」
やっぱ来て良かったかもな。
―――
「あーっ、もう一周しちゃったよぅ!」
色々話しているうちにあっという間に地上へ戻ってきてしまった。死神は物足りなそうに降りる。あの調子だと飽きるまで何周させられるかわかんないな。
それでも満足はしたらしく、鼻歌を奏でながらパンフレットを開いている。
「次はおばけ屋敷に挑戦しよう準くん!」
おばけ屋敷?
お前が行っても仲間がいっぱいいるだけで怖くもなんともないだろ。もし本物の死神が作り物のおばけに驚くようなことがあれば、死神業者の信頼問題に発展するような気が・・・。
とか考えていると死神がパッと顔を上げた。
「あっ、そうだ!後で風船貰わなきゃ!」
オレは嫌だぞ。《百瀬・ラ・カーメラ・ド・ウル・ボルケーノ》なんてふざけた名前の合成獣に風船を貰いに行くなんて。
・・・。
何だ《百瀬{ももせ}》って!?
「何やってんの準くん!早く早くっ!」
「あ、はいはい」
この後、ダメな死神はおばけ屋敷の中でベソをかいた。
「ぐすっ、今度は・・・負けないんだから・・・ぅえっ」
お前よりも遥かに死神らしい死神が出てきたもんな。あんなに怖い同職がいたらお前退社してるだろ。
―――
おばけ屋敷の中
『あっ、見て〜準くん!変な鏡が・・・』
〈ヴォォォォォォ!!〉
『ひっ、死神だぁ!』
『いやお前もだろ!』
〈首よこせぇぇ・・・〉
『ごめんなさい。助けて下さい』
『同職に謝んな!』
―――
てな具合で、まぁようするに完敗だったわけだ。
出てもまだベソをかく死神の機嫌を取るためにオレが子供の列に入って《百瀬》の元へ足を運んだのは言うまでもない。
ちなみにその時、着ぐるみに
『やぁ僕、風船は何色がいいかなぁ?』
と聞かれたときはさすがにムカついたから
「僕ね、白色の風船に貴様の鮮血を塗りたくって赤にして持ち帰りたぁい♪」
って言ったら持ってた風船全部くれて走り去っていった。
死神は大量の風船に大変ご満悦でございました。
「次はメリーゴーランドを全力で逆走しよう!」
バカだろそれ。
さて、まだまだオレは死神に連れ回されそうなので今日はこの辺で。まぁ、良いゴールデンウィークを過ごせたのかな?今回は死神に感謝しよう。
「じ、準くん・・・メリーゴーランドの馬って目つき悪いよ・・・」
た、確かに。




