第32話 死神と新学期
さぁ新学期です。四月って新鮮で良いよな。
学年が上がったので新しい教室だ。ウチの学校のクラスは繰り上げで変わりなしなのだ。
あっ、ちなみにオレは高3ね。
んで今教室にいます。ってか美香と三笠はまた同じクラスなんだよね。
「死神さ〜ん!始業式あるから体育館行こう!」
「望むところだよ美香ちゃん!」
望むんじゃねぇ。死神は美香と一緒に体育館へ向かった。何もなければ良いんだが・・・
オレはこういう始業式とかが嫌いだから校舎裏へ逃げることにした。
だって校長の話や生徒指導部の話がメチャメチャ長いんだもん。
で、いつものように校舎裏へ行くと似たような理由でサボったメンバーが既に五人くらいいた。
「よ〜里原。今年もしょっぱなからサボりか?」
「まぁな。どうもあの無駄に長い話はダメだ」
その後皆で近況報告をしていると、癖でジッポライターを開け閉めしていた奴がオレ達に話を持ちかけてきた。
オレは眠いからコンクリートの上に寝そべってやりとりを聞くことにした。
「なぁ聞いてくれよ。オレこの前スゲーの見たんだぜ?」
「なんだよスゲーのって?」
「《火がついた消防車》」
「スゲー!」
「やべー!」
いやアホだろそれ。
今度は別の奴が何かを思い出したみたいだ。
「あ。そういやぁオレも変なの見たぜ」
「お前も?」
「おぅ。この前迷子になって迷子センターに行ったんだけどよ。」
「ふむふむ。」
ふむふむ。
じゃねぇよ!既におかしいだろ!
「その時に見たのさ・・・アレを」
「ま、まさか!」
「《迷子になった職員》」
「スゲー!」
「やべー!」
「《そしてそれを慰める子供》」
「スゲー!」
「やべー!」
馬鹿ばっかりじゃねぇかチキショー!!
世の中どうなっていくんだろう?
と、その時体育館の方が騒がしいことに気付いた。
ま、まさか!!
急いでオレは体育館へ走る。あくまでこっそりと。
〈アハハハハ!〉
〈ワーハハハハハ!〉
体育館の中は笑いに包まれていた。
後ろから中を覗くと、壇上はえらいことになっていた。
ヅラを振り回す死神。
死神は見えない為、ヅラを探して頭から輝きを放ちながらオロオロする校長・・・って、校長もヅラだったのかよ!
『アハハハハハ!校長先生もヅラだった〜!』
あのアホ神ヤロー!!やりたい放題かよ!
皆からは当然見えない。だが突然前で話している校長の頭から髪が無くなったら誰でも笑うわな。
ヤバい。頭痛くなってきた・・・。
オレは何も見ていません。オレは何も見ていません。オレは何も見ていません。
よし暗示完了。
オレは猛ダッシュで校舎裏に戻ろうとした。
戻ろうと・・・した。
ぐえぇっ
「さぁ〜とぉ〜はぁ〜らぁ〜?」
物凄いパワーで後ろ襟を引っ張られる。
こ、このモンスターパワーは・・・!
「こ、高坂・・・先生・・・」
オレを引っ張っている華奢な腕の持ち主、白衣を着た女教師[高坂 早苗]。担当は保健である。
金色に染めた長い髪を後ろでまとめ、鋭い目をして片手を白衣のポケットに突っ込んでいるその姿は教員として問題だと思う。
「またサボってたな里原〜」
「ぐっ・・・」
な、なめやがって・・・
「オレの腹筋をなめ・・・」
「私の上腕二等筋をなめるな」
ぐえぇぇぇぇぇっ
う〜ん・・・無理。勝てねぇ。
観念したオレは体育館へは連れていかれず、保健室へ連れていかれた。
「あの。オレ今、校長先生の話を無性に聞きたくなっ・・・」
「あ?」
「なんでもありません」
オレこの先生やだー!
「で、オレはここで何をすれば?」
「お前はここで待ってろ。」
「えー!先生は!?」
「私は壇上で好き放題暴れ回っている小娘を捕まえてくる。」
・・・。
は?
「じゃあ頼むぞ」
バタン
行っちまったよヤンキー保健医。
オレは保健室のベッドに寝そべると、ウトウト寝てしまった。
が、少し経って深い眠りに入ろうとした瞬間、突然腹の上に重圧がかかった。
「げふっ!」
腹の上に乗っていたのは死神だった。
「いたたたた。あっ!準くんだ!」
死神を横にどかして死神を放り投げた女教師を見る。死神が見えたか。やはり変人なんだな早苗先生。
「おや、その黒ローブの娘は里原の所有物だったか。」
「死神でーす!」
自己紹介すんな!
その後、オレと死神は先生にこっぴどくお叱りを受けた。
早苗先生は叱っている間中ずっと死神をぬいぐるみのように抱き抱えていた。
「里原いいなぁコレ。私も家に欲しいよ!」
「私は靴ベラかっつぅの!」
・・・。
なに?今のツッコミ。
まぁ、とにかく気に入られたみたいだな死神よ・・・。
ってか早苗先生の意外な一面を見た気がする。
その後、死神と先生は二人で《まんが日本昔ばなし》の批評を始めた為、オレはベッドで寝ることにした。どーせ今日は始業式終わったら大掃除やって帰るだけだもんな。明日は早速テストがあるケドね。
「やっぱ《金の斧と銀の斧》じゃなくて、《金のエンゼルマークと銀のエンゼルマーク》の方が良くない?」
「それだ死神よ!」
《日本》昔ばなしだよな?
「じゃあいっそのこと、《あなたが落としたのは一粒ですか?二粒ですか?》にしたらどう?」
「正直者は《キャラメル味だから違います》って答えるんだよね先生!」
話題完全にチョ○ボールじゃねぇか!
「正直者には《金銀パールプレゼント♪》」
どんどん話題変わっていくぞ!いいのか!?
もう寝よう。寝ないとツッコミ死する。
「寝たら死ぬぞ準くん!」
バシ!
いてっ
「起きろ里原!!」
ビシビシ!!
痛い痛いっ
バシ!
ビシビシバシ!
ちょっ、やりすぎ・・・
バシバシバシバシ!スパン!ピシン!ゴッ!!
「誰だ最後に鈍器で殴った奴はァ!!」
オレじゃなきゃ死んでるぞ。
「フヒュースフュー♪誰だろうね。」
口笛吹けてませんよ死神さん♪
キーンコーンカーンコーン
お。チャイムか。
「アハハハハ!《金婚冠婚》だってさ!」
わけわかんねぇよ。
さて、大掃除が始まるなぁ。
「死神、掃除行くぞ」
「えー、もうちょっと先生と話してたいよぉ!」
ん、まあコイツは置いてっても問題ないか。
「じゃあ先生、死神を頼みまーす」
「おー、任せなさい」
てなわけで、オレは一人教室へ向かうことにした。廊下には始業式が終わって教室へ戻る生徒であふれかえっていた。我ながら絶妙な合流タイミングだ。
すると、後ろを歩く生徒の会話が耳に入ってきた。
「ねぇ、見た?校長の頭!」
「見た見た!教頭は気付いてたけどまさか校長もハゲだったなんてねぇ〜!超ウケたんだけど!」
・・・死神の暴走のせいだな。校長スマン。
「でもアレはありえないよねー。」
「うん、ないよね。」
「ハゲ頭に《ビバ!》って書くのはないよねー」
ブッ!
スマン・・・校長!!
教室に入ると美香と三笠が待っていた。
「あっ!微炭酸!!」
多分オレの事。
「宴会以来ですね里原くん。」
「よう三笠。」
三笠を見るとスキンヘッドが真っ赤になっていた。おそらく相当叩かれたんだな。油性ペンで書かれた字を一生懸命落とした跡もある。涙が出そうだよ三笠。
「聞いてよ微炭酸!死神さんが式の途中で保健の高坂先生にさらわれちゃったのよ!」
「あれは明らかに死神さんが悪いでしょうよ!」
「うるさいわね!」
スパパパァン!
うわ、三発かよ。大丈夫か三笠?
「これは来そうですね。」
どなたか精神科の先生いませんかー。
「死神なら保健室にいるぞ。」
「良かった〜!もし私の大事な死神さんに何かあったら《里原炎上》を行う覚悟だったわよ」
オレ!?何でオレ!?
「なんか《吉原炎上》みたいで良いですね」
「黙れ深紅ヘッド。」
四つんばいに崩れ落ちる三笠。ショックが大きかったか?
「・・・武士道!」
本気で危ないぞコイツ!
こうして大掃除を終え、帰りのホームルームも終わったのでオレは死神を迎えに行くことにした。
ガチャ
「おーい死神、帰るぞ〜っ?」
保健室の中ではソファに座ってテレビ鑑賞をする二人の姿があった。もちろん《まんが日本昔ばなし》である・・・。
「あっ!準くん!」
「おー里原か、ホームルームは終わったみたいだな。」
ずいぶん仲良くなったみたいだなこの二人。死神は先生の膝の上で鑑賞している。親子みたいだ。
見ているのは・・・
・・・。
何で桃太郎が鬼と提携結んで暴れてんだよ!
〈桃太郎は頭がいいワン〉
目を覚ませ犬!
〈早く人間になりたい〉
無理だサルよ。
〈あれ〜?私の羽は?〉
飛べないキジは終わりだ。
メチャクチャだ〜。早く帰ろ。頭がおかしくなる前に・・・。
「さて死神、お迎えが来たみたいだぞ」
「はーい!またね先生っ!」
「ああ。また遊びに来い。あと、サル・・・じゃなかった。里原!」
?
え、ちょっ、何だ今の間違い。サルって何!?
「あんまりサボったりすんなよ」
「は、はい」
保健室を出ようとする瞬間、テレビから桃太郎の声が聞こえてきた。
〈犬は所詮かませ犬か・・・〉
仲間を裏切るつもりだ!
オレは何も聞かなかったことにして保健室を出て帰った。
通学路ではアニメが気に入ったのか、死神が歌を歌っている。
「い〜い〜なぁ〜、い〜い〜なぁ〜♪」
あぁ、あれか。エンディングの曲だ。
「人間っていいなぁ!!!」
いや、怖い怖い。
お前が言うと生々しいからやめろ。
「午前中に帰れていい気分だねっ♪」
「そうだな」
「ねぇサル・・・じゃなかった。準くん!」
お前も何で間違えるんだよ!!サルに一体何があった!?
「今日のお昼なぁに?」
「うーん、魚が余ってたから魚で何か作ろうか。」
「やったぜー!」
お前は何作ってもやったぜー!って言うなぁ。まぁ作る側としては嬉しいんだが・・・。
さて皆様、半日学校へ行くだけでもこんなに疲れるんです。これからは丸一日だと考えると・・・ゾッとします。
「あっ、準くん見て見て!あんなところにお財布が落ちてる!!」
・・・。
オレのじゃん。
「ホントだぁ、財布が落ちてるよ死神さん!いつ抜き取ったの〜?」
「えっとねぇ、朝ご飯のとき・・・あ。」
「やっぱてめぇじゃねぇかぁぁぁぁ!!!!抜き取って落としてんじゃねぇよボケ神がコラァァァァァ!!!!」
「うぇぇぇん!ごめんなさぁい!」