第28話 準と腰痛
ヴィィィィィィン!
「準くん、うるさいよぉ!!」
「仕方ないだろ!部屋掃除しないといけねぇんだから!」
オレは居間を掃除機で掃除していた。死神は掃除機を器用に避けながら本を読んでいる。
「ほらほら、次そっち行くぞ〜っ。」
「ぬ〜っ!」
死神はコロコロ転がって避ける。
そんなに夢中になる本って何だ?
「ん〜、やはりメロン帝国の兵隊が多勢で優勢ですなぁ。」
何の本だマジで!
ちょっと本のタイトルをチラ見してみる。
《ジャグラー三姉妹パート2・砂漠でオアシス探しに夢中なチャックは剣術を・・・》
長ぇ・・・。
タイトルで表紙が全部埋まってる。
「死神・・・その本は面白いのか?」
「うん!今ねぇ、丁度チャックがジャグラー三姉妹と合流して輸血を求めてるんだけど、闇の帝王が邪魔を・・・」
「わかったわかった。」
フレンドリーな名前の闇の帝王だなオイ。
「ちなみに闇の帝王の捨てゼリフはいつも《また遊ぼうぜ!》なんだよ♪」
そのまんまじゃねぇか。
それからも死神はコロコロ転がりながら本に熱中していたが、しばらくすると掃除機から逃げるのに飽きたのか、本を読みながら安全な場所に移動した。
・・・オレの肩の上に。
「なんでオレがお前を肩車しながら掃除機かけなきゃいけねぇんだよ!」
「いいでしょっ、ホラ準くんにも見せてあげるからっ!」
いらねぇ。
いらねぇのに、無理矢理本を顔の前に出されて前が見えねぇ。
仕方なく目を通してみる。
「んー?・・・《アソボーゼと三姉妹は共にチャックを討伐するべく城を出た。》」
・・・。
え?主人公の三姉妹と闇の帝王って仲間?
このノリだとチャックは敵なのか!?
「チャックのヤツ、敵のくせに輸血を求めるなんて図々しいよねっ!」
やっぱ敵でした。
「わかったから本をどけろ・・・って、ぅわ!ちょっ、危ない危ない!」
死神が突然部屋の中に入って来た蝶を捕まえようと暴れだした。
バ、バランスが・・・!
後ろに倒れるーー!
大きくのけぞったオレは足を後ろに下げて身体を支え、驚異の腹筋で死神を肩車したまま耐えた。
ふ、ふざけやがってぇ・・・!
「はっ!準くん!これはまさか今流行りの《イナバウアー》みたいな体制じゃない!?」
フィギュアスケートの経験は無い・・・!
「てめぇ浮けるのに何で肩に乗ったままなんだよ!」
「あっ、そっか。」
気付くのおせーよ。
死神はフワリと浮いて再び蝶を追いかけ始めた。
やれやれ。さて、掃除を・・・
グキッ
!!!
「ふぐぉ!」
痛でででで!こ、腰がぁ・・・!
「里原くん大丈夫〜?」
近くの国立病院に運ばれたオレ。診断結果は《ギックリ腰》でした。バカ神が・・・。
で、今病室に寝ている状態なのだが
「大丈夫だよ美香ちゃん!準くんフィギュアスケートの真似してただけだから!アハハハハ!」
「えーそうなの〜?里原くんって意外とお茶目なのねっ!」
死神と美香が部屋にいるおかげで落ち着いて寝られやしねぇ。
「で、何で美香がいるんだよ?」
「それはね、死神さんから『美香ちゃん!準くんの骨盤が粉砕しちゃったよ〜!』ってパニくった声で電話が掛かってきたからさっ♪そんで骨盤粉砕した里原くんの顔を一目見てやろうと思ったのよ!ホホホホホ!!!」
「帰れお前。」
何だよ骨盤粉砕って?
「ねぇ準くん、晩ご飯は〜?」
この状態で作れるわけがねぇだろうが。
「悪いな死神、今日中に帰れるように医師に頼んだが、晩飯はとても作れるような状態じゃないんだ。」
「えーっ!じゃあどうするの?」
「出前でもとるか。」
「やったぜー!」
「やったぜー!」
ちょっと待て。美香、お前も来るのか?
「準くん、私が出前とっておくね!」
「頼むわ死神。」
そして夜、部屋に帰ったオレをとんでもない出前が待っていた。
『おかえり里原くん、今日は私がご馳走するよ。お前達準備は良いな?』
『アイサー料理長!』
『アイサー料理長!』
そう。地獄食堂の料理長《獏さん》だ。二人のお手伝い餓鬼を引きつれてキッチンに立っている。
美香は笑顔で死神と居間で遊んでいる。オレも腰を支えながら居間に座った。
獏さんの料理はマジで美味い。
死神は珍しくグッドチョイスをしたようだな。
「ロシュの希望は《ゲテモノコース》だったね。」
・・・。
オレは無言で死神の頬を引っ張った。
「むぃぃ〜っ!え、何?何!?準くん、無言でほっぺ引っ張るのは軽く傷つくよ!?」
獏さん呼んでおいてゲテモノコース頼むとは、バカとしか言いようがない。
料理は獏さん達に任せて、しばらく居間でテレビを見ていたオレは、突然背後に邪気を感じて振り向いた。
そこには、オレの所へ走り込んでくる死神と美香がいた。何をするつもりだ?
「いくよ美香ちゃん!」
「OK、死神さん!」
二人の視線はオレの腰に向けられている。
まずい!狙いはここか!
『必殺・・・《私の妖艶な素肌に腰砕け》!!』
二人がスライディングしてくる。
意味わかんねぇ。マジで意味がわかんねぇよ。
と、とにかく回避行動を・・・ぃててて!ここにきて腰痛が!
「骨盤粉砕よ里原くん!」
「私もノリだよ準くん!」
お前等傷害罪で鉄檻に放り込んでやる。
くそ〜っ、やられる!!
『ほぇ〜いい匂いだなぁ〜たまんないなぁ〜。』
!?
何故かヴァンパイアが料理の匂いにつられてフラフラと部屋に入ってきていた。よし、丁度二人の前に来たっ!
「バンプ!邪魔よ!」
「誰?この子!」
死神と美香がスライディングしながら叫ぶ。
「んぁ?ロシュか。何やって・・・ぅわ、うわぁぁぁぁぁ!!」
ゴシャァ!
「ひぎゃぁぁぁぁ!」
その後の我が家の食卓は異様な光景だった。
腰をもっていかれた吸血鬼と男子高校生、頭に巨大なタンコブをつくって泣いている死神とクレイジー女子高生、苦笑いでそれを見る獏と餓鬼達。
「ぐすん、何でバンプはここにいるのよ?」
「いててて。あぁ、彩花さんがテレビ見ながらイナバウアーの真似したらギックリ腰になっちゃってさ。」
アホだ。アホだよあの女子大生。つーかオレと同じような展開じゃねぇか!
「そんで晩ご飯どうしようか考えてたら、隣からいい匂いがしたもんだからフラフラと来ちゃったわけ!腰粉砕されるとは思ってなかったケドねっ。アハハハハ!」
笑い事じゃねぇだろ。
「じゃあ里原くん、我々はこれで帰るとするよ。お大事にね。」
「お大事にー。」
「お大事にー。」
「獏さん、餓鬼さん達もありがとうございました。助かりましたよ。」
「バイバイ獏さーん!」
そして獏さん達は地獄へ帰り、晩飯を終えた美香とヴァンパイアもそれぞれ帰っていった。
飯食いに来ただけじゃんアイツら。
一息ついたオレと死神は居間で寝そべっていた。
「ふ〜、この食後のまったりタイムがたまらんですなぁ。」
「まぁな。たまにはゆっくりするのも悪くないよな。」
その時、突然死神が起き上がった。
「あっ!今テレビで《アニメ版ジャグラー三姉妹》がやってるから見よう見よう!」
アニメ化してたのかよ!
動けないから仕方なく死神と一緒に見てみる。
アソボーゼ:『チャックめ、覚悟しろ!この闇の帝王とジャグラー三姉妹が来たからには逃がしはせんぞ!』
ジャグラー長女:『オイ早く金出せっつってんでしょ!』
次女:『死にてぇのかてめぇよぉ!!』
三女:『目玉をホルマリン漬けにしてやりますわよ、ホホホ。』
チャック:『ひぇぇ、出します出します!痛いことしないでぇ!』
・・・。
いや、おかしいおかしい。主人公最悪じゃん。しかも三女が一番怖ぇよ。
その後ギックリ腰が回復したオレはレンタルショップに《ジャグラー三姉妹》を貸りに行かされました。