第26話 地獄の仕組み
「ぶらーん」
・・・もはや癖になってしまったのだろう、死神はオレがキッチンへ立つ度に腰へぶらさがってくるようになった。
意図は不明だ。
それにしても鼻がムズムズする・・・ん〜
「ハーックション!!」
「やだなぁ準くん、これで何回目〜?料理してるんだから気を付けてねっ」
「む〜・・・ちゃんと横を向いてるから大丈夫だ。しかし、なんでこんなに苦しいんだ?なんか涙もメチャメチャ出るし・・・っくしゅん!」
どうなってるんだ?オレはそこまで花粉症がヒドイわけじゃないんだが。
「そうだ準くん!私すっごいモノ拾って来たんだよ〜っ」
ゴソゴソ
「ジャジャ〜ンこれが幻の《精霊の木の枝》だ!」
・・・。
「大体予想はしていたけどそれは杉の木じゃないかぁ死神さん♪」
「え〜っそうなの〜?なんだ杉の木かぁ。実は知ってたケドね、ウフフ♪」
「ハハハハハ♪見てみたいなぁ」
「ウフフフフ♪何を?」
「死神が死ぬところ。」
「捨ててきまぁす!」
スギ花粉が腰から出てたわけだから苦しいはずだわ。アホ死神め。
「ただいま準くん!」
「おかえり。花粉の付いたローブ洗うから洗濯機に入れとけよ。ついでに風呂入ってこい。お前自身が花粉みたいだからな。」
「へーい。」
あ、アイツローブ以外は着るものパジャマしかないじゃん!どーするかね?
オレはコンロの火を止めて着るものを探しに行った。とりあえずパジャマ着せとくか。
風呂場からは上機嫌ソングが聞こえる。
「ランランラーン♪バーモントカレーはアメリカ北東部バーモント州に由来〜♪ランランラーン♪」
どうでもいい説明をありがとうございます。
「死神〜、とりあえずパジャマ置いておくぞ。」
「やだもうお嬢さんだなんて♪」
聞いちゃいねぇ。
『準くんこんにちは〜!』
廊下を歩いて居間へ行くといつの間にかナイトメアが座っていた。
「メアちゃん、見張りがついてるんじゃないの?」
「今頃悪夢で苦しんでると思います〜♪」
見張り無駄じゃん。
「メアちゃん飯まだでしょ?今作ってるから食べて行きなよ。」
「ありがとうございます〜!」
しばらくするとパジャマを着た死神が居間へやってきた。もはや死神には見えない。
「あれ!?メアじゃん!どうしたの?」
「聞いたわよ!バンプまで仕事サボってるんですって!?」
「なぁに〜、知ってたの〜?」
「あったりまえでしょ!おかげでヨーロッパ支部も大忙しよ!仕事がこっちにまで回ってきてるんだからね!」
こりゃ大変だな。そろそろ地獄もヤバいんじゃないか?
「そんな中でメアちゃんまでサボったらまずいんじゃない?」
「これで夜叉さん達も私の扱いを変えるはずです!」
「メア・・・あんたってスカートの色と同じように腹の中も真っ黒ね。」
「あんたに言われたくないわよロシュ!」
また喧嘩だ。
「しかし地獄にも支部があるんだな。」
「はい。私達が所属する地獄アジア支部の他にもヨーロッパ支部、アメリカ支部、アフリカ支部と、多くの支部が存在します。」
ナルホド。でも、どっちかというとお前達はアメリカやヨーロッパの支部なんじゃないか?
「アフリカ支部の連中ってホントに愛想ないよね〜。」
「だって支部長がアヌビスさんだもん。仕方ないわよ。」
「でもホルスお姉さんだけはアフリカ派遣の時優しかったなー・・・。」
「ってゆぅか雑用のミイラ達の動きがサイコーに面白かったんだけど!」
「あっ、それって《死者舞》ってやつでしょ!つーか完璧に動きが《獅子舞》だっつぅの!アッハハハハ!」
なんかすっげぇマイナーな話をしてる。
「支部長なんて地位があるのか。」
「そういえば準くんは地獄についてあまり知らないんだよね。」
別に知りたいとは思っていなかったが。
「支部長とはその名の通りそれぞれの地獄の長ともいえる重役です。ちなみに
《アフリカのアヌビス》、《アジアの閻魔》、《アメリカのデーモン》、《ヨーロッパのヴァルキュリア》が現在その役職に就いています。」
お〜っ、有名人(?)のオンパレードだな。
ん?あれ?
「なぁ、メアちゃん。《ヴァルキュリア》ってどちらかというと天国の方じゃないの?」
「ヴァルキュリアさんは、最近の地獄の人出不足を見かねた天国側が派遣した人です。」
ほー。あっちの世界でも色々あるんだねぇ。ま、オレには関係ないけどね。
「おい、それより準くん!ご飯は?ご・は・ん!」
「ちょっと待ってろ《湯上がり美人》。」
「はぁい♪」
馬鹿丸出しだ。
地獄に支部があるんだとさ。そういえば夜叉さんが『ヨーロッパ担当のヴァンパイア』とか言ってたっけ。まぁいくら巨大なあの地獄旅館でもさすがに世界中の魂は収容できないだろうからな。
「準くん美味しいです〜!」
「ありがとメアちゃん。」
「準くん馬鹿らしいです〜!」
「黙って食え死神。」
いよいよ地獄って奴の全容が見え始めたな。入り込みすぎないようにしないと、また厄介なことに巻き込まれそうな気がする。注意せねば・・・。
「こらロシュ!アンタ私の分食べたでしょ!」
「もふ・・・ひょ、ひょんらほほふぁいほんへ〜っ!(そ、そんなことないもんね〜っ!)」
「明らかにハムスターみたいなほっぺになってるじゃない!」
唐揚げを奪われたナイトメアが死神の頬を引っ張った。
「むいぃ〜っ・・・ひょほへふ〜っ(こぼれる〜っ)」
テーブル上で繰り広げられる食物争奪戦を苦笑いで見ながらオレは昼食を食べていた。
「あ、準くんコップ取って〜!」
「あいよ。」
ヒョイ♪
ん?あれ?唐揚げが一個無くなってる。
気のせいか?
「あ、私も取ってください準くん!」
「あいよ。」
ヒョヒョイ♪
・・・二個無くなった。
「準くん牛乳取って下さい!」
「あいよ。」
と、冷蔵庫に向かいながらチラリと後ろを振り替えってみる。
「もぐもぐ。」
「もぐもぐ。」
あれ?普通に食べてるなぁ。
「あっ!準くんゴキブリ!!」
え・・・。
何!!ゴキブリだと!?イヤァァァどこどこ!?
ヒョイ♪ヒョイ♪ヒョヒョヒョイ♪
「どこだゴキブリは!!そして殺虫剤はどこだオラァァァーー!!!」
「うっそーん♪むしろ準くんがゴキブリ?みたいな♪」
ブチ殺してぇコイツ。
「ほら牛乳だチキショー!」
「ありがとーっ!」
さて、気を取り直し・・・。
・・・。
「何でオレの唐揚げが残り一個なんだコラァァァ!!イリュージョン!?これは唐揚げイリュージョンなのか!?あぁん!?」
「うゅんひゅん、ほひふひふぁふぁへ!(準くん、落ち着きたまえ!)」
「ほーれふよ、うゅんひゅん!(そーですよ、準くん!)」
・・・ムカ。
「ならてめぇらのその風船ホッぺは何だコラァ〜!!!」
これでもか!ってくらいにほっぺを引っ張る。
「うにょ〜!!ほえんらは〜い(ごめんなさ〜い)!」
「ほえぇ〜!!ほぼれはふ〜(こぼれます〜)!」
こいつらの食欲は無限大だ。ぐすん。