第23話 死神と冬音お姉さん
今日は珍しくスムーズに昼飯の支度ができている。いっつも邪魔をする死神はというと・・・
なにやら居間で本を取り出して熱心に見ているようだ。なんかブツブツ呟いてるし。
ま、おとなしくしているからよし。
「はやくちことばー!!」
うわっ、びっくりした。何だ突然?
「準くん私の早口言葉聞きたいー?」
「別にー。」
「準くん私の早口言葉聞きたいー?」
・・・。
「別にー。」
「準くん私の早口言葉・・・」
「わかったわかった、聞く聞く。」
超うぜえ。
何でいきなり早口言葉とか言いだすの?
あー、あの本の影響か。タイトルに〈チョー!早口言葉〉って書いてある。なんだチョー!って?
「じゃあいくよ〜、コホン!《隣の客はよく火器使う客だ》!」
うん、止めてあげようね。火事になって自分の家に燃え移ったらやだもんね。
「全然早口言葉になってねぇじゃん。」
「えー!?じゃあどういうのが早口言葉なの!?」
「例えば、《赤巻紙、青巻紙、黄巻紙》みたいな感じだな。」
「おー、凄ーい!!」
こんなんで驚くな。つーか今まで早口言葉の本読んでたじゃん。
それから再び死神はブツブツと呟きながら早口言葉の研究を始めた。
「生麦と生米は敵対関係ね・・・ブツブツ」
超不安。
昼飯ができたのでテーブルに皿を置くと、死神は本を放り出してすっ飛んできた。
「早口言葉の研究は終わったのか?」
「う〜ん、まだまだですな。」
まだ続くのか・・・。
「あっ、またできたんだよ〜♪聞きたい〜?」
また来たよ。
「別にー。」
「あっ、またできたんだよ〜♪聞きたい?」
・・・逃げる術無し。
「聞かせて頂きます。」
「じゃあ聞きたまえ!!私の不屈の名作を!」
そこまで言うなら、まぁ・・・自信があるってことか。
「《赤パジャマ青パジャマ黄ばんじゃった》!」
ふざけんなコノヤロー。
プルルルル、プルルルル・・・
お、電話だ。
「ハイハイ今出ますよぉ〜、誰かしら誰かしら♪」
「お前は取らんでよろしい。」
〈はいもしもし死神〉なんて言われたら詐欺師の時みたいに回避できねぇ。
オレは電話機へ向かおうとする死神を引き止めて受話器を取った。
「はい里原です。」
『おっ準!わかる?』
「あ・・・。」
この声は冬音さんのものだ。
本名[佐久間 冬音]。オレの姉さんみたいな人だ。この人には昔からお世話になったりお世話したりしている。
読者の皆様には説明しておこう。冬音さんは武闘派不良集団のリーダーなんだ。
・・・それからこの人は規格外に《変人》です!オレの中での関わりたくないランキングとかを飛び越してるんです!しかもこの人の最大の秘密は・・・
『準聞いてるの?』
「え?あ、聞いてますよ。何の用ですか?オレもうファンタズマは・・・」
『今から遊びに行くね〜。』
は!?
「い、今から?」
『イエス、じゃあまた後で〜』
ブツッ、ツーツーツー・・・
まずい。
まずいまずいまずい!冬音さんがウチに来る!死神がいる我が家に来る!
おそらく、いや間違いなく冬音さんは死神のことが見えるだろう。これまでの経験上、死神が見えるのは変人ばかりなんだ。
・・・?
じゃあオレは?
変人?
イヤァァァァァ!!!
仲間入りしてるの!?変人軍団にオレ入ってるの!?そんな馬鹿なぁ!
「ねぇ準くん、電話誰だったの?」
はっ、そうだ。今は冬音さんだ。
「死神、今日はバンプと遊ばないのか?」
「バンプのヤツ、昨日五分置きに鼻血出してたから今日は彩花さんが秘薬飲ませるんだってさ!」
今日は隣の部屋には近づかないほうが良いな。
・・・仕方ない。
30分後
ピンポーン
フロントのインターホンが鳴ったのでオレはモニターで冬音さんを確認してマンション内に入れた。そして少し後にドアのインターホンが鳴った。
ガチャ
「里原準!勝負だ!」
「いらっしゃい冬音さん。」
玄関の開く音を聞いて部屋の奥から死神がトテトテやって来た。そしてオレの隣に立って冬音さんを見上げた。
冬音さんは女性にしては背が高い。髪型は襟足の長めなショートカット、斜めに流した前髪で片目が隠れている。身体は細いのでモデルのような体型だ。ファンタズマの連中からはカッコイイお姉さんとして慕われている。
「準くんこの人誰〜?」
死神と冬音さんは目を合わせた。
「おー準、何だこの可愛いのは?」
やっぱ見えたか。
冬音さんは笑顔で死神の頭を撫でた。
「死神です〜。」
「そうか、ちり紙か。よろしくな。」
「死神です〜。」
「そうか、ハニカミか。よろしくな。」
「死神です〜。」
「そうか、ミルクプロテインか。よろしくな。」
・・・こんなやりとりがあと20回続いた。
「死神です〜。」
「そうか、大雨洪水警報か。よろしくな。」
「死神です〜。」
「そうか、死神か。よろしくな。」
24回目にしてやっと自己紹介が終わった。今のところ変人としては互角だ・・・。
やっぱり意気投合した二人は居間で話していた。
そしてやっぱりオレはお茶と菓子出し係だ。
「冬音さんって、準くんのことよく知ってるの?」
「そりゃあもう。コイツがおむつしてた頃から知ってるよ。」
アナタとオレが出会ったのは中学生の時だ。
「あれ?死神さんその黒ローブって《パペット13》じゃない?」
「わかる!?準くんは何も知らずに買ってくれたんだけど!」
どういう会話だよ・・・。つーかそのローブってデパートで買ったんじゃん。
「あの、冬音さん。今日は一体何の用ですか?ついこの間会いに行ったばっかりなんですけど。」
「気分。」
ん〜、一言返事。
「冬音さん私ね、早口言葉研究してるの!」
「ほう。奇遇だな、私もだ。」
えーーー!冬音さんも研究してた!
で、死神と冬音さんの早口言葉?発表会が始まった。オレはついていけねぇからただ聞くばっかりだ。
本人達は早口言葉と言ってはいるがハッキリ言って全然わけがわからんです。
「《マタニティドレスとバスガス爆発》!」
マタニティドレス?
「やるな死神よ。では私も《カエルぴょこぴょこ36ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ175ぴょこぴょこ》!」
多いな。
「凄い冬音さん!負けないぞ〜、《東京特許許可ビル》!」
局をビルに変えたら言いやすくなっちゃったよ!
すっげぇ。なんか知らんがコイツらすっげぇ。
それから二人の発表会は延々と続き、晩飯の時間になってしまった。
「冬音さん、晩飯ウチで食べていきますよね?」
「ありがと〜、準♪」
そうなると思って早めに晩飯の支度をして良かった。冬音さんも死神と同じくらい食いしん坊なのだ。
「冬音姉さんトランプ弱〜い!」
「む〜、花札なら得意なんだが・・・」
いつの間にか死神は冬音さんのことを冬音姉さんと呼ぶようになっている。
ちなみに先程の発表会は冬音さんの圧勝だった。
だが冬音さんはまだ変人としての真の顔を見せてはいない。
「おー準!オムライスかい!?」
「おー準くん!オムライスかい!?」
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま!」
記録9秒。早ぇ・・・。
これも予測済み。次に鍋を出して非常識な胃袋を持つ二人を打破した。
「ふぅ〜食べたなぁ死神よ。」
「ふぅ〜食べたねぇ冬音姉さん。」
片付けるこっちの身にもなっておくれよ。
「冬音姉さん、今日一緒に寝ようね!」
「ん?おぅ、いいよ。」
!?
泊まって行くの〜!?
「私も次話までまたいでみたいからね。」
どういう理由だよ冬音さん。
てなわけで冬音さんは次回も登場するらしいです。
「冬音姉さん、明日地獄行こうよ〜!」
「いいよ〜。」
軽っ!
「おい死神、お前地獄行くと連れ戻されちまうんじゃねぇの?」
「手は打ってあるのだよワトソンくん。」
「そうですか、気を付けて行ってらっしゃい。」
最近寝てないからな。冬音さんが死神の面倒を見てくれるならゆっくりできるぜ。
「準も行くに決まってるでしょ。」
「行くに決まってるでしょ!」
助けてください。