第14話 死神と準と地獄街
ワル餓鬼共に世間の厳しさを教えてやったオレ達はその後無事に地獄街へ着いた。一階から七階までたくさんの店が並んだホールは吹き抜けになっていて巨大な《地獄街》と書かれた看板が垂れ下がっている。
「やっとついたー!」
「なにもかもが規格外なんだな、ここは。」
地獄街は魂達でごったがえしていた。
ん・・・?よく考えたらこいつらみんな死んだんだから買い物とかしても意味無くないか?
「ま、転生まで期間が長いからねっ」
そういうことか。まぁとっとと獏さんの枕を買って帰るか。
「ところで枕ってどこに売ってるんだ?」
「ここはよく来るから私知ってるよ!こっちだよ〜付いてきて!」
オレは死神に連れられて五階にある雑貨屋の前に立った。青、赤、黄、緑などののパステルカラーで彩られたその店は見ているだけで目がチカチカする。それにしてもすごい店名だ。
「ゲルさ〜ん、こんにちは〜!」
死神が店の前で叫ぶと奥からうねうねと青色の物体が出てきた。ドロドロの塊には大きな目玉が一つくっついてる。ナルホド、ゲルだわ。そいつは触手を伸ばして死神と握手?をした。
「あ、こっちは準くんっていうの!」
ゲルさんは目玉をこっちに向けると触手を伸ばしてきた。握手なのだろう、オレはその触手を握った。あ、プニプニで気持ちいい。
「ゲルさん、今日は獏さん用の枕を探しにきたの。何かいいのある?」
死神がそう言うとゲルさんは店の奥に触手を伸ばしてゴソゴソと探し、大きな枕を持ってきた。うん、ベストサイズだ。
「ありがとー!ゲルさんのお店は何でも揃うから大好き!」
死神はゲルさんにお金を渡した。するとゲルさんは死神の袴をクイクイッと引っ張った。多分〈ちょっと待って〉の意味だろう。死神が首を傾げて待っているとゲルさんは店の奥から大きな黒い鎌を持ってきた。すごく深い黒色で刄の部分だけが赤く、吸い込まれそうなオーラを放っている。それを見た死神は驚きの声をあげた。
「あーー!!それは死神シルビア・ナハトマンティルが愛用したと言われている首切り鎌じゃん!!すごーいゲルさん、どこで手に入れたの!?」
ゲルさんは〈フフン〉と人間が両手を腰に当てるみたいに触手を腰?に当てた。
「へぇ、ヨーロッパの古城に封印されてたのかぁ〜。いいなぁ、ブラッド・デスサイズなんて超レアアイテムじゃん。
え?売ってくれるの!?嬉し〜い!!」
ゲルさんは電卓を叩いてオレ達に見せた。
ん?ゼロの数がひいふうみい・・・六つ・・・?六つ!!?ひゃ、百万単位!?そんな馬鹿な!!
「準くん買ってぇ〜!」
「さすがに百万は高いぞ。」
「準くん金持ちなのにぃ?」
「オレが金持ちなんじゃなくってオレの親が金持ちなんだよ。」
「嘘おっしゃい大株主さん☆調べはついてるんだからね♪他にもイロイロと」
・・・コ、コイツ、どこまでオレのことを知っている?
チャリーン
【準は《ブラッド・デスサイズ》を1,000,000円で購入した。】
【他に何か御用ですか?
1、買う
2、売る
3、やめる←】
【毎度ありがとうございました】
「やったぁ!ありがと準くん♪」
「おう・・・。」
あまりの大出費でおもわずRPGモードに突入しちまったじゃねぇか。
何かオレこいつに貢がされてない?大丈夫?ん?まだまだイケるだろうって?イヤイヤ、結構ヤバいよ?
カオスディメンジョンを出たオレ達は今度は迷わないように獏さんの食堂へ戻った。
「おぉありがとうロシュ、里原さん、お使いご苦労さま。」
枕を受け取った獏さんは満足気だ。
さて、そろそろ一日雑用係も終わりかな?
獏さんに挨拶した後、業務用ワープゲートでオレ達は事務室へ行った。
そこには
『ヤッホーお帰り死神ちゃ〜ん!はじめまして里原く〜ん!』
事務室のソファに座るカブキさんがいた。
「カ、カブキさん!?何で?仕事は?」
『早めに終わったから事務室のモニターで君たちの雑用ぶりを拝見させてもらってたのさ!』
そりゃまずいね、温泉部屋での暴走劇をバッチリ目撃されてたってワケだ。
「じゃあ私たちやっぱり・・・」
『うん合格だよ』
「へ?」
死神がおもわず間抜けな声を出す。
『といっても君達がやったのはお使いと風呂掃除だけだけどね。アハハハハ』
「い、いや、だってオレ達温泉部屋で餓鬼達をボコボコにしちゃったし。」
『あぁ、アレ!?凄いよ君の戦闘力!おもわずモニターに釘づけになっちゃった!アハハハハ』
笑ってるよこの化粧男・・・。
「でも温泉部屋メチャクチャにしちゃったし、餓鬼達も動けなくしちゃったから不合格なんじゃあ・・・。」
するとカブキさんは真剣な表情になり、背もたれにもたれかかった。
『ふむ、一部始終をちゃんと見てたよ。あれは完全に餓鬼達に過失があった。温泉長という立場でありながら情けない・・・。君達には嫌な思いをさせてすまなかったな。』
「ホントよ!あんな奴らクビにしちゃえばいいのに!」
『まぁそう言うなって。今回の件で彼らも懲りただろう。あれでも仕事はできる連中だからな。お?ところで死神ちゃん、それは新しい鎌かい?すごい魔力の量だね!』
「へへへ、わかるぅ?準くんに買ってもらったんだぁ♪」
鎌を誉められた死神はご機嫌になった。
死神をなだめるとカブキさんはオレの方へ向いた。
『里原くんもわざわざ雑用をさせてすまなかったね、君の戦闘力ならオレにも勝てたかもしれないよ。』
「いやいや、そんなことは・・・。」
以前ナイトメアの夢の中で逃げた時にかなわないと悟りましたから。マジで。
『じゃあこれにて課題終了とする!二人ともお疲れさまっ。』
「やったー!終わったー!」
『今度からはちゃんと期日までに課題を受けにくるように!』
「はぁい・・・。」
『それから、夜叉が認めたとはいえ今地獄はかなり忙しいんだから、早く帰って来なよ。』
「はぁい・・・。(やだよーん)」
そう言うとカブキさんは席を立った。
プルルルル、プルルルル
『ん?白狐か。』
『はいもしもしカブ・・・』
《おいコラカブキー!!私の着物に落書きしたのアンタでしょー!!!早く戻って来い馬鹿ー!!》
ブツッ、ツーツーツー
あ、バレたんだあの事。
カブキさんは慌ててその場から消えた。
オレ達はセンスの悪い仲居服を脱いで着替えた。こんなもん二度と着るか。
「じゃあ帰ろうぜぇ!」
「そうだな。」
死神はワープゲートを開き、オレ達は元の世界に帰った。
帰ったのだが・・・
「何で学校なんだよ!」
「あはは、間違えちゃったぁ」
死神のミスで学校に飛ばされてしまった。空は真っ暗で星が輝いている。
仕方なく歩いて家まで帰ることにした。
「準くん今日は大変だったね〜。」
死神がオレの頭上でフワフワと浮く。
「全くだ!いきなり雑用係やれとか言われるし、地獄はでっかい旅館だし、変な袴はかされるし、餓鬼には絡まれるし、なぜか百万円の大出費だし・・・!」
「まぁまぁ、そう怒りなさんなって!アハハハハ・ハハ・・ん、アレ?なんか眠くなってきたぁ・・・」
「眠くなってきたって・・・家はまだ先だぞ。」
そう言い終えるか終えないかのうちに背中に負荷がかかる。
ん・・・何?この突然の《O-N-B-U》姿勢は?
「おい、今寝ると朝まで起きられねぇぞ。」
寝息をたてる死神。
駄目だ。完全に爆睡してるわコイツ。顔に落書きでもしてやろうかしら?つーか明日の朝飯はよく食いそうだな。
・・・ま、晩飯抜かす程こいつも疲れたんだろう。クラムチャウダーはまた明日だな。
では死神が寝てしまいましたので、今日はこの辺で失礼します。