第12話 死神と準と地獄旅館
前回の続きです!
オレ達は《事務室》と書かれた部屋の中に立っていた。
『カブキ様からお伺いしております。一日雑用係頑張ってくださいね。』
オレ達に指示を出しているのは仲居課担当の餓鬼だ。餓鬼っていうくらいだから雑な格好で小さい奴かと思ったら、顔は包帯で見えないが背は高く黒いスーツを着こなした《できる男》そのままだった。
「おい死神、お前いっつも餓鬼の分際で!とか言ってるけどかなりできそうな人じゃねぇか。」
「私が言ってるのは《八大地獄の餓鬼》のことなの!」
「何だよ八大地獄の餓鬼って?」
「ここには八つの地獄温泉があって、そこの温泉長の八人のこと。あいつらだれかれ構わず噂や秘密を喋るから嫌いなの!」
『おっほん!』
オレ達の会話は餓鬼の咳払いで止まった。
『で、今回あなた方に仲居を担当して頂くのは第七ー9区画のお客様方です。』
お客様って・・・。
「あの、第七ー9区画のお客様方は何人くらいなんでしょうか?」
『百人程度ですから少ないほうです。では、着替えが済んだらすぐに第七ー9区画へ急いでください。最近人手が足りなくて困ってるんです。では私はこれで失礼します。』
「わかりました。」
「りょうかーい!」
そして数分後
「オイコラ!何で女ものしかないんだよ!!!」
「似合ってますよ準く〜ん♪ぷふっ」
「お前今笑っただろ!ぷふって笑っただろ!!」
「笑ってないぷふ。よく似合ってるぷふよ。可愛いぷふ〜っ。ぷふぷふ。」
「ぷふぷふうるせぇ!」
最悪だ。和風の仲居服は袴の色がピンクで可愛い系のデザインだ。これを顔面包帯女が着ているなんて気味が悪いったらないぜ。てかオレはもっと気味が悪いじゃねぇか!
隣ではローブを脱いでオレと同じ女ものの仲居服を着た死神が笑っていた。死神の面影は一切無い。
「全く、もともと私こんな格好する身分じゃないんだよね〜。」
その割に楽しそうだが?
「じゃあ行きましょ〜♪今日はよくワープゲートを使いますね〜。」
「待て待て、男ものの服を・・・」
「しゅっぱーつ!」
「あぁぁぁぁぁ・・・」
オレ達が担当になった七ー9区画は広い食堂だった。たくさんの仲居さんが料理を客に運び、料理人達が忙しそうに働いている。その中でぼーっと立っているオレ達を見た仲居さんが叫ぶ。
「アンタ達ボサッとつっ立って何やってんのよ!この忙しい時に!」
ミイラ仲居に怒られた。忙しい中にただつっ立ってる奴見たらそりゃ怒るわな。ここはうまく切り抜けないと。
「えっと、オレ達は今日一日・・・」
「雇われた雑用係だ!飯よこせ!」
誰かバカな死神につける毒薬ください。
「ふざけんじゃないわよ!この状況で冗談聞いてる暇なんてないのよ!わかったらさっさと仕事につきなさい!」
ほら余計に怒らせちまったじゃねぇか。
「うるっせぇよミイラババア!冗談じゃなくて本当に腹が減ったから言ってんじゃねえか!顔の包帯剥ぎ取ってその皺だらけフェイスを大公開させてやろうか!?どっちにしてもミイラだミイラ!」
反抗してるよこの雑用係!しかもすっげぇガラ悪いし。
「な、なんですって〜!あなた雑用係でしょう!小さいガキが生意気言うんじゃないわよ!!」
「誰が未発育で魅力に欠けた中途半端娘だコラァ!!」
んなこと言ってねえ。
『おっ、その声はロシュケンプライメーダ・ヘルツェモナイーグルスペカタマラス七世ちゃんだね?』
突然厨房から声がした。中から出てきたのは料理人の服を着た・・・象?アリクイ?
「獏{ばく}さん!何でここにいるの?」
『君たちの食堂係からこっちに転勤になったのさ。』
獏?あぁ、あれか。たしかエスパーポケモンで催眠術使う・・・
「準くんわかりづらいよそれは。わかるのきっと読者の三割程度だよ。」
そうか?じゃあ三笠っぽく・・・
獏とはウマ目バク科の哺乳類の総称。中南米のアメリカバク、ヤマバク、ベアードバクの三種と東南アジアのマレーバクの一属四種がいる。体長1.5メートル、体はずんぐりし・・・
「準くん、リアルな獏じゃないよ。」
そう、オレの目の前に出てきたそいつは人の悪夢を食うと伝えられ、中国で想像上の動物とされている獏なのだ。本当に多国籍だな。
「獏さんご飯食べさせて〜!」
「はっはっは、久しぶりに顔を見せてくれたからね、ご馳走するよ。」
「やったー!」
「ち、ちょっと料理長!その子は雑用係なんですよ!?態度悪いし反抗するし・・・」
ミイラ仲居が抗議する。当然だ。このやりとりでは完璧に死神が悪い。つーか理不尽すぎだろ。
怒る仲居を獏さんがなだめて仕事に戻らせた。
「そちらの方もいかがですかな?」
「ん、オレ?」
「そうだよ!準くんも食べようよっ、獏さんの料理超美味しいんだよっ。」
そうだな、飯食いながら一日過ごすって手もあるな。
オレは厨房のなかへ入ってまかないをご馳走してもらった。料理長なだけあってまかないもメチャメチャうまい。死神はすでに五杯目に突入していた。
「おいしー!いっつも準くんの駄作料理食べてたから嬉しいなぁ!」
「そうか、お前だけこれからずっとカップ麺な。」
「駄作料理でも個性溢れる味で癖になっちゃう♪」
「あー食費が浮いて助かるわ〜。獏さんオレもおかわり!」
「あいよっ。」
「嘘だよ冗談だよぉ!ずっとカップ麺はイヤだぁぁ!!」
そんなこんなで漠さんのまかないをご馳走してもらって満足したオレ達は獏さんに一つのおつかいを頼まれた。
「・・・枕?」
「そう、枕。最近無くしちゃってなぁ、この地獄の中は何でも手に入るから買ってきてくれないか?」
「いいけど、オレ地獄の中で迷いそうなんだけど・・・。」
「準くん!私がいるから大丈夫だよ!」
だから余計に心配なんだよ。
で、枕を探しに食堂を出たオレ達は(そもそも何で枕なんだよ)通路に出た。料理を運ぶ仲居さん達が何人も行き来している。
それらを避けながらオレは死神の案内で《地獄街》を目指した。
途中死神のワガママで《マスター春巻》とかいう料理店へ入ったり、短距離ワープしたり、五階や七階へ昇ったり降りたり・・・それからかなり長い時間歩いて
「準くんここどこ〜?」
「知るか!お前の方が地獄に詳しいんだろ!」
「だって私こんな所まで来たことないもーん」
迷子になりました。
辺りを見回すとなんだかイチャイチャしている魂のカップルが多い。あ、魂って言っても人の形した光なんだよ。なんとなく男女の区別もつくし。
「あ!獏さんに貰ったマップがあるよ!」
「それ早く出せバカヤロー。」
とりあえず獏さんに貰ったマップを開く。
どうやら地獄全体は丸い円の形をしていて、オレ達が入ってきたでっかい入場門が南に位置しているみたいだ。で、漠さんの食堂は北東の位置にあり、買い物したりできる《地獄街》はちょうど円の中心に位置しているようだな。なるほど、これは広い。んで、今オレ達がいる場所は〜・・・。
「おい死神〜何か目印になるものないか〜?」
「うーん、《ラブラブハート2006》とか《恋の発熱40度》とか《ピンク男爵》とか書いてある看板がいっぱいあるよ〜。」
ホテル街じゃん。
「なんで地獄にホテル街があんだよ!!」
「あはははは!なんでだろーね?」
マップでホテル街の位置は・・・
ん〜、南西の端?
「なんで地獄街通り越して正反対の位置にいるんだよ!!」
「準くんさっきから誰にツッコミ入れてんの〜?あっはははは・・・むぎゅっ!」
オレは死神のほっぺをつねった。
「だ・れ・の・案内でこんな遠くまで来ちゃったのかねぇ?」
「ふゃ、ふゃらひれふ〜(わ、私です〜)」
「どうやったらこんなに見事に目的地を迂回して来られるんだろうなぁ?」
「ほぇんらはい、ふゃらひふぉーこーほんひらんれふ〜。(ごめんなさい、私方向音痴なんです〜)」
とりあえず方向を変えて地獄街へ向かわなければ。オレはマップに目を落とした。
「えっと、この先にあるのは・・・」
「早く行こうよ準くん〜!」
「『八大地獄温泉』か。」
地獄編はさらに続きます☆