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死神といっしょ!  作者: 是音
111/116

第111話 お疲れ準くん♪

【in 魔導社社長室】


 今回の事件で魔導社の負った被害はとんでもない規模だ。

 メインストリート三本、一番塔は再建しないといけない。

 パペット軍団の再編成もある。

 戦闘が終わってもラビットなジョーカーさんにはたくさん仕事が残っていた。


 まぁ、それは置いといて。


「すぴー」

「すぴー」

「すぴー」

「すぴー」

「すぴー」


 オレとラビットさん以外の侵入メンバーは全員寝てたり。

 あろうことかボロボロになった社長室の床に布団を敷いて。


 疲れただろうから仕方ないのだけれど、じゃあオレも寝かせろよって感じだ。


「ハイ、終わりましたよ」


『有難うございます里原様ー!』


 オレはラビットさんの後ろで糸を歯で切り、針をテーブルのこのテーブルもボロボロに置いた。

 取れてしまったウサギの片耳を縫い合わせていたのだ。


 ため息を吐きながらラビットさんとソファに腰掛ける。

 と、ここでオレはある事に気が付いた。


「ラビットさんがここへ来たのもビックリですけど、シャドーはどうしたんですか?」


 そう。常にウサギ社長と一緒に居る筈の社長秘書。影女のシャドーを見ていないのだ。

 ラビットさんはピン、と指を立てる。


『ああ、シャドーには別の件で動いてもらっていたのですよ。ちゃんと魔導社に来ていましたよ』


「別の件?」


 ウサギ頭がええ、と頷く。


『刃狼隊、という集団が居ましたよね?』


 ああ、敵の主力兵士か。


『あれはパラダイス・ロストの一部隊にすぎないのですが。刃狼隊や、他の部隊が魔導社の中に居ては里原様達がお困りになるでしょうと思いまして……』


「まさか一人で相手を!?」


『ホホホ、とんでもない!』


 だろうね。ビックリしたー。


『二人でです♪』


 変わんねぇ!


「も、もう一人は?」


『ホホホ。里原様もよく知っている方です♪』


 ………?


 誰?


『まあ、〈猫の手も借りたい〉状況でしたから』


 ………。


 あ。


 わかった。《最速》の奴だ。

 だから魔導社の敷地内に居る狼男が少なかったのか。

 アイツなら一匹で撹乱できるよなー。


「で、その二人は?」


『シャドーは私設部隊と共に本社へ補給・補充の要請に向かいました。もう一方は……ホホ、またぶらりと行ってしまわれたのでしょう』


 ふむ。

 オレ達が無謀の代名詞とも言える進攻をできたのは、やっぱりバックアップに回っていた人が居たからなんだな。


 オレは腕を組んで頷き、隣に座ったラビットさんと二人で、床で毛布にくるまって爆睡する五人をなんともなしに見ていた。

 その時。


「……んー」


 死神がむくりと起き上がった。


「……んー」


 半分寝ている状態でキョロキョロと首を振る。


「……んー」


 オレとラビットさんの姿を見つけた死神は、毛布をずりずりと引きずりながらこちらへ歩いてくる。


「……んー」


 無言のまま、とぼとぼとこちらへやって来る死神を目で追う。


「……んー」


 死神はソファに腰掛けるオレとラビットさんの太ももの上に横になった。


 ……なんなのコレ?


『ホホホ♪』

「寝呆けてるだけかよ」


 オレとラビットさんの足を敷布団にするという、なんとも意味不明な死神の行動に苦笑していると、ふいにラビットさんが指をパチンと鳴らした。


 社長室の天井からスクリーンモニターが下りてくる。


『さて、彼等の方の報告も聞きましょうか♪』


 ?


 次の瞬間、パッとスクリーンモニターに映像が映し出された。

 映っているのは……。


《フハハハハ! ようラビット! そっちはケリがついたみたいだな!》


 閻魔さんだった。


『ええ、なんとか♪』


《おっ、里原もご苦労だったな!》


 閻魔さんはオレを見て笑い、社長室の床で寝息を立てる連中を見てまた笑った。


『まさか貴方まで動くとは思いませんでしたよ。完全に規則違反ではないのですか?』


《俺様がルールだ!》


 典型的な俺様発言だ……。


《おっと、それより報告だったな。おい夜叉、こっち来い!》


 横に向かってそう言いながらモニターに映っていた閻魔さんは枠の外に消え、入れ代わりに映ったのは……。


 何故か呼ばれた夜叉さんではなく、白狐さんだった。


《ごめんなさいねラビット。夜叉とカブキは……ちょっと……》


 なんか言いづらそうだ。


《酔っ払ってて……って、閻魔も飲むんじゃないわよ!》


 どんな遠征してんだアンタらは!!


 一度白狐さんがモニターから消え、バシッとモニター外で何かを叩く音がした後に再び現れる。

 気を取り直すように咳払いした白狐さんは話し始めた。


《今回の事件、パラダイス・ロストを雇った者が居るという事は間違いないから私達で調べてきたのだけれど。私達でも黒幕が誰かは〈わからなかった〉わ》


『私もジャッカルから聞き出すのには失敗しました』


《そうなの……。実行部隊長のジャッカル・ジョーカーが貴方を目的として依頼を受けたのは事実のようね》


『ええ。しかし……』


《そう、ジャッカル個人の目的は事件の動機とはならない》


 まぁ、そうだろうな。

 結局パラダイス・ロストは雇われ部隊だ。

 雇った奴にとっちゃあジョーカー一族の事情なんか知るわけがない。


《何故、魔導社を狙ったのか。その動機すら掴めなかったわ……。お役に立てなくてごめんなさい》


 残念そうに言う白狐さんに対してラビットさんは全然構わないです、とお礼をまじえて言った後、腕を組んだ。


『しかしそうなると厄介ですよ。魔導社が本当の目的ではないかもしれないという可能性が出てきますから』


 本当の目的は魔導社じゃないって可能性……。

 まぁ、可能性の段階か。


『それ程深く考えなくても良いでしょう♪ ライバル会社はたくさんありますし。企業間での争いはよくある事です♪』


 よくあるのかよ。

 本当に企業戦争じゃねぇか。


 どうやら今回の件は迷宮入りという事になりそうだ。

 今後も調査を続けるだろうけど。


《そうね……ふぎゃ!》


 突然モニターが揺れる。

 白狐に覆いかぶさる形で夜叉さん、カブキさん、閻魔さんが画面いっぱいに飛び込んできた。


《おーっ、里原殿にラビット殿ではないですかー! ヒック》


《アッハハハハ! なんでみんな爆睡してんだよー! ヒック》


《フハハハハ! よーし、俺様達は今そっちに向かってるから叩き起こしてやる! ヒック》


 来るのかよ!

 つーかメチャメチャ酔ってんなぁオイ!


《貴方達、魔列車の中で暴れんじゃないわよ! 他のお客様に迷惑で……うぎゃぁぁぁぁ――》


〈ブツン〉


 モニターから映像が消えた。

 ……頑張れ白狐さん。


 騒がしい映像が消えた事で、再び社長室は静寂に包まれる。


『ジャッカルは……』


「え?」


 おもむろに語りだしたので隣に顔を向けると、ラビットさんは眠る死神の頭を撫でながら遠くを見つめていた。

 ……と思う。ウサギ頭がそんな雰囲気を醸し出しているから。


『ジャッカルは正直なところ、我々にとって手に余る存在でした』


 ラビットさんでも手に余る存在って……。


『なんというか……どう接したら良いのかわからなかったのですよ』


「一族の希望……とか言ってましたね」


『ええ。彼女は壊す才能に溢れ、なんでも簡単に壊してしまいます。ですから壊す度に我々は彼女を誉め、新しい物を作って与えていました』


 ………。


「でもそれって」


『はい。間違いでした。壊すばかりでもいけないですから。そして、自分と周囲の人間との差異に気付き、壊すばかりではおかしいと一人で気付いた彼女は我々の予想以上に賢かったのです』


 だから、自分はジョーカー一族では忌み嫌われる存在だと思ったのか。


『すぐに物を作って与え、破壊を讃える私達は逆効果だったのです。そんなのは彼女に皮肉を感じさせるだけでした。間違いだと気付いた時には全て遅し』


「ジャッカルは既に消息を絶っていたと」


 ラビットさんは頷く。


『ホホホ♪ まさか傭兵集団を指揮しているとは思いませんでしたが。しかし結局のところ、これが正しかったのかもしれませんね』


「ふむ。異端の行動は優しく見守るって事ですか」


『はい♪ 彼女は賢い。より多くの物事を見極める為に、一族の領域という型に填まらないように、我々と距離を置いたのは正しい選択です』


「それが一族の発展に大きく影響するんですね?」


『ええ。どう転がるかはわかりません。ですがやはり彼女は我々の希望なのですよ♪』


 ふーん。

 ジョーカー一族の発展の時期……か。

 これ以上発展してどうすんだよ。


「あぁ、あとラビットさん」


『なんでしょう?』


「これコメディーです」


『ぶはっ!』


 ウサギ頭が吹き出した。

 オレやっぱこの人個人的に好きだ。


 二人で笑い合っていると、その足の上で動く感触があった。

 眠っていた死神が目を擦っている。


『おや♪』

「起きたのか死神」


 毛布を片手に死神は立ち上がり、オレの袖を引っ張った。


「……準くん、トイレ」


 らしい。

 そのくせ今にも寝直しそうだ。


「あー、ラビットさん。トイレは?」


『ホホホ♪ 社長室を出て突き当たりを右に曲がったその奥でございます♪』


「だとよ、死神」


「すぴー」


 寝るな!

 仕方なく黒ローブを引きずりながら社長室の出口へ向かう。


「すぴー」

〈ずりずり〜〉


 せめて歩けよ。


 と、ここで何故か死神が重くなる。

 振り返ってみると……。


「うーんロシュ、トイレ〜? 私も行くです〜」


 腹ばいになったナイトメアが、寝呆けまなこで死神の毛布を掴んでいた。


「うー。準くん、僕も〜」


 腹ばいになったヴァンパイアが、寝呆けまなこでナイトメアの毛布を掴んでいた。


「んぁ〜、私もだ〜」


 腹ばいになった冬音さんが、寝呆けまなこでヴァンパイアの毛布を掴んでいた。


「あら♪ じゃあ私も♪」


 腹ばいになった彩花さんが、寝呆けまなこで冬音さんの毛布を掴んでいた。


 ………。


 ヘビ列車だ。


 ………。


 ………。


 まずは起きろ。貴様等。


 このままオレに連れていけって事なのか? 引っ張って頂戴ってか? なぁ、答えなさいよ、ぐうたら共。


 ………。


 んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!


〈ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり〉


――――――――


―――――


―――


【里原準 in 魔導社最上階、トイレ前】


 あーあ。


 久々にヤンキー座りしてるよオレ。

 トイレから続々と出てくる寝ボケ族を待っているのだ。そしてここまで持ってきた毛布を配る役割だ。


 ………ハァ。


「準くん有難うございましたですー!」


 あいよーメアちゃん。戻って寝てろー。


「準くんありがとー!」


 あいよーバンプ。戻って寝てろー。


「準、運んでくれてサンキュー」


 あいよー冬音さん。戻って寝てろー。


「ふふふっ♪ ご苦労さま、里原くん♪」


 あいよー彩花さん。戻って寝てろー。


「ヤッホー準くん、変なポーズだねっ。アハハハ」


 あいよー死神。テメーぶっ飛ばすぞ。


 全員がトイレから出てきたのを確認したオレは立ち上がろうとしたが、その前に死神が隣に座った。

 何故か膝を抱えて。


「お前は戻って寝ないのか?」


「うん! バッチリ目が覚めたぜー!」


 ラビットさんの膝枕は贅沢だぞ。

 死神の腕には腕輪がついてる。アップ・デ・スポップスポップだ。


「おい、それ効果無くなったんじゃないのか?」


「うん、もうただの腕輪ー!」


「なんでまだ付けてんの?」


「別にいいでしょ! 文句ある!?」


「無いです」


 寝たら元気いっぱいだよコイツ。

 窓に面した廊下から外を眺めても、見えるのは気が遠くなるほど高く淡青の空ばかり。

 ずっと見てても飽きないかも。


「それより準くん」


「あん?」


「一周年だよっ!」


「な、なんだってー!?」


「………」


「……一周年だな」


 冷たい目ぇすんなよ。

 ちょっとヘコむじゃねぇか。


「私が準くんと出会って一周年♪」


「おー」


「110話で警察ネタとか書きたかった誰かさんはショックを受けてます!」


「知るか」


「準くんはこの一年で何か思い出した?」


「は?」


 何、突然。

 隣でわけのわからん事を言った死神はニシシ、と笑い、立ち上がった。


「……ま、いっか! いやー、きっと帰ったら三笠くんの頭はすっごい事になってると思うなぁ♪」


 帰るの超怖ぇ。


「おっと、そうだ死神」


「?」


「閻魔さん達がもうすぐココに………」


〈ドカァァァァ――ン!〉


 地響き。

 揺れる魔導社。


 ……酔っ払い達が来たみたいだな。


「さて、ラビットさんにヘルメットを借りに行こうか」


「えー、なんでー?」


「もう一戦ありそうだからな」


 こうしてオレと死神はこの後宴会場になる社長室へと戻っていったのだった。


 さて、本作も二年目に突入です!

 まだまだ書きたいお話がたくさんあるらしいので、どうぞ皆様、今後も宜しくお願いいたします。


「いたしまーすっ!」


 では、今回はこの辺で♪


「今年はヨーグルトを蒸す計画を立ててるんだぜ!」


「……やめて」

皆様、この度は感謝企画兼、作者の自己満足長編にお付き合い頂き有難うございましたっ! これでまた通常のお話に戻ります。三笠くんの頭が恋しいです(?) では、どうぞ今後も宜しくお願い致します。《是音》でした♪

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