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死神といっしょ!  作者: 是音
110/116

第110話 魔導会社進攻戦、決着!

【《ベルゼルガ》 in メインストリート】


――――――――


 ギャハ……。


 ギャハハハハハ。


 ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!


『デストロイ動けねぇよバカーー!』


 ふっざけんなよあの二人! 放置か!? よりによってこのオレを放置なのか!?

 次に会ったらデストロイぶっ飛ばしてやるからな!


『んぎ、んぎぎぎぎぎぎ………はぁ!』


 全力で腕を動かし、やっとのことで上半身を自由にする。

 


『んぎぎぎぎぎぎ!』


 次にずりずりと足を引き抜く。

 あーちきしょー!

 デストロイちきしょー!

 ガラガラと音をたてながらようやく埋まっていた身体を外へ出したオレはその場に座り込んだ。

 つーか足がガクガクでほとんど歩けねぇし。


 いやー、強かった強かった。オレが本調子ではなかったとはいえ、ここまでやられたのは久しぶりだ。あの二人組は間違いなく強かった。


 まずあの男。

 アイツの膝蹴りはとんでもねぇよ。頭をカスっただけなのに軽い脳震盪を起こしちまった。あんなもんが直撃してたら頭は真っ二つだったぞオイ。

 そしてオレの弾丸を、跳弾まで回避しやがった。あのガキを抱えながらだ。

 大体、オレは堅固で柔軟な身体を持っている。反射神経も半端ねぇ。そんなオレは滅多に打撃攻撃なんざ食らわない。

 見切れるからな。


 だがあの男は……別格だ。

 跳躍、踏み込みのタイミングさえ掴めば回避は容易い。だがオレはそのタイミングが掴めなかった。


 ノーモーションなんだよ。


 見えねぇんだよ。踏み込みと跳躍のモーションが。

 速筋の質が違いすぎる。キヒヒ、だから本人は自分ではそんな動きをしているなんて気付いちゃいない。無意識でやってた筈だ。

 何者だよ。


 まー。男の方も興味をそそられる存在ではあったが、問題はガキの方。


 ありゃあ死神だな。重力魔法使ってたし。


 タイプ《ジオ》。

 身体に重力魔法を加えて打撃攻撃の威力を激大にする補助魔法の事を言う。

 実は術者のセンス、対象者との相性が深く関わる高度な技術なんだよ。

 故に《ジオ》って技術を使う奴は限られる。

 オレの知りうる限り、ジオを使えていた奴はただ一人。


 《ルイシェルメサイア》という女の死神業者だけだった筈だぜ。


 まぁそれだけでもかなりビックリしたんだけどよ。嬉しい事にあのガキ、まだまだオレを楽しませるとっておきを隠し持っていやがった。


 重力結界、《メガ・グラビトン》だ。

 これにゃあさすがの破壊愛好家、ベルゼルガも本気でビビッた。

 この大技を使う死神業者はメチャメチャ有名だからよ。


 死神一族最強、《ギルスカルヴァライザー》の持ち技なんだもんなぁ。


 ルイシェルメサイアとギルスカルヴァライザー。伝説とまで言われた二人の技術を使うあのガキ、アイツは多分……。


 きひ……。


 きひひひひひひ。


 すげぇすげぇ、まさに生粋の死神じゃん。


 ギルスカルヴァライザーの持ち技をこの身体で食らったのは貴重な体験だったな。うん。

 親父が褒めちぎるわけだ。

 ギャハハハハハ!


 ………。


 ………ケッ。


 だがオレは親父とは違うぜ。


 手応えはあった。

 今のオレじゃあまだまだだが、この《TATARIGAMI》の力は間違いなくギルスカルヴァライザーに匹敵する。

 まだだ。

 まだ強くなる。

 破壊愛好家は、もっと破壊の限りを尽くしてぇのさ!


 ………。


 ………………。


 さてと。


 首がちょいと痛いが、まぁそんな事を言ってられる場合じゃない。

 ゆっくりと、手で砂を払いながら立ち上がる。


 ふん。


 オレは顔を上げて視線を前に走らせた。

 〈そいつら〉を確認すると、自然に顔がにやけちまう。

 気配を消してここまでオレに近づけるって時点で実力が知れる。つっても〈こいつら〉の実力は有名だけど。


『随分とまぁ、遅い到着だなぁオイ』


 目の前には三つの白いシルエット。

 右にも三つの白いシルエット。

 左にも三つの白いシルエット。

 背後にも三つの白いシルエット。

 オレはそいつらに挑発的な口調で話し掛ける。

 どうやらいつのまにか囲まれていたらしい。

 オレとしたことが、思考に集中しすぎたかな。


 オレを囲んだ十二の影。

 白い忍装束。


 《式神十二式》という名の精鋭達は、全員が背負った刀の柄を握っていた。

 余裕を見せるオレに対してそいつらは次々に口を開き、平坦な調子で言葉を発し始めた。覆面で顔は見えねぇけど。


「貴様」

「破壊業者だな」

「魔導社の敵」

「パラダイス・ロストが」

「雇った者か」


 四方から喋りやがるから気持ち悪ぃよ!

 オレは立ち上がって両手を広げて見せた。


『だったらなんだよ? 《チリ紙十二円》』


「安っ!」

「ふざけるな!」

「どこで売っている!」


 五人くらいが食い付いた……。

 ちょっと面白ぇぞこいつら。


「やはり」

「破壊業者」

「魔導社制圧という」

「暴挙」

「決して」

「許さん」

「我らの戒め」

「身をもって」

「受けよ」


 おー、怒ってる怒ってる。さすがは意思を持ったパペット。イダの奴が感心するわけだ。

 ……十二対一ってか。

 しかも相手が式神十二式。

 ゾクゾクするねぇ♪ 実にスリリング。


 連中はやる気らしいから、こっちも戦闘態勢だ。

 オレは両手を胸の前で重ね、人差し指を立てて《印》を結ぶ。

 さっきの戦闘では不発に終わったが、タタリガミの中にはもはや呪詛が満タンなんだよ。


 だから詠唱の必要は無いのさ。


 大破壊攻撃のな。


『十二人なんて数はオレの前ではデストロイ無意味なんだよ』


 むしろ多勢に対して効果を発揮する攻撃だからな。

 オレはフェイスガードを開き、攻撃の準備をする。


 タタリガミって能力は、綿密に言えばセットの名称なんだ。

 呪詛を吸収・放出する魔眼と、吸収した呪詛を血に呪わせて貯蔵する魔心臓。

 この二つを合わせてタタリガミという。

 鍛えれば鍛えるほど、魔眼の吸収・放出速度やパワーは上がるし、魔心臓の許容量も増大する。

 無限の可能性を秘めた能力なんだぜ。ハハハ!


 そして今のオレが持っている魔心臓には最大許容の呪詛が蓄えられてる。

 その全てを放出する《デストラクト・ディザスター》で、式神なんざスクラップどころか瓦礫の一部にしてやるよ。


『魔斬刀ごと粉々になりな! 大破壊こう――』


 黒光を放とうとした瞬間、異常が発生した。


「臨!」


 と式神の一人が唱えたのと同時に、オレの身体から一気に力が抜けたのだ。

 いや、抜けたのは……力じゃない。


「兵!」


 ドクンと心臓が、呪詛を溜め込んだ心臓が脈打つ。


『……!?』


 急にタタリガミの反応が鈍くなった。

 オレを囲んだ十二の忍装束の連中は口々に、一文字ずつ念を込めて唱えだす。


「闘!」

「者!」


『くぉ……』


 抜けていくのは力じゃねえ!

 タタリガミに蓄えた呪詛エネルギーが……抜けていく。

 まるで穴の開いた風船から勢い良く抜ける空気のように。

 連中の唱えるその一言一言が、オレを縛り付ける。


「皆!」

「陣!」

「列!」

「在!」


 《デストラクト・ディザスター》が撃てねえ。エネルギーとなる呪詛を急激に失っちまった。

 いや。

 それどころか、もう魔眼の吸収・放出機能、魔心臓の血呪機能が――


「前!」


 機能を停止しちまった。


 ………。

 さすが魔導社の精鋭。

 呪詛使いの敵に対して《九字》を切るのは常套手段だが、一人一人が念を込めて一文字に集中しやがるから効果は絶大だ。


 まぁ、オレの未熟なタタリガミじゃあ耐えられなかったわけだ。


 武器は0。


 ダメージ大。


 十二人に包囲。


 うわぁ、やっべぇ。破壊の為の道具も体力も戦術も無ぇよー。

 腹減ったー。

 身体痛いー。

 デストローイ。


「魔斬刀……抜刀!」


「応!」

×十一


 周囲から一斉に音が聞こえる。刀を抜き、鞘と擦れる際に生じるすらりという気持ちのいい音だ。


 万策尽きたか?


〈―――ィィィィィ〉


 …………。


 ケケケケ。


 いんや、そうでもねぇな。


「魔斬刀、能力解放……」

閃光砲ぴかぴかビーム、ファイヤーーーー!!》


「!?」

×十二


 式神十二式は魔斬刀の能力を解放しようとしたが、その前に緊急回避せざるを得なかった。

 まるで空と地面を繋ぐ柱のように、上空から放たれた金色のビームが式神十二式を襲ったからだ。


 ったく、遅いんだよ。

 オレが頭を上げると、スラスターの高音を響かせながら真上に巨大な人型の機械が降りてきた。

 こいつは大傀儡っていう兵器だ。

 高機動型ってことは防御型のセメタリーキーパーはぶっ壊れたらしいな。

 その肩にはタイタンっていうオレの同僚も乗っていた。


〈キィィィ――――ン〉


 推進スラスターの音に負けないくれぇの大音量で、機械の中からパイロットの声が響く。


《アハハハハ! 随分とボロボロだねっ、ベル!》


 ……相変わらず口の減らねぇ小娘だ。

 ちなみに韋駄天って名前のこいつは自分の事をボクとか言いやがるので、頻繁に男と間違えられる。機械から出てくりゃ一発でわかるが。


 肩に乗ったタイタンが溜め息まじりに笑う。


『自分がデストロイされてるじゃないの。馬鹿ねぇ』


 ……相変わらず口の減らねぇ女だ。

 大人っぽい外見と態度をしているコイツは(つっても戦闘時はアーマーなんぞ着てるから体格しかわかんねぇけど)しかし時々ものすごくガキっぽくなる。ショックを受けると子供みたいに泣き虫野郎に変わるのだ。どっちが本物なんだか。


 オレは二人に向かって怒気混じりに叫んだ。


『うっせぇよ! オレはてめぇらよりダメージを蓄めてたんだから仕方ねぇだろ!』


《うわぁ言い訳〜。デストロイ恥ずかしいよ〜》


『やかましい!』


 いつもこの傀儡製作者のガキはオレに絡んでくる。

 でもって、傀儡の肩に乗っている女が決まって仲裁に入るのだ。


『もー。いいから早く乗りなさいよ。離脱するわよ』


 止まらない大傀儡の攻撃を避けている式神十二式の方を見ながら、タイタンは手を差し伸べてくる。

 それを掴んで引き上げられたオレは大傀儡の肩に座った。

 救出を完了した大傀儡は弾幕を張りながら飛び上がる。

 眼下ではオレ達の撤退を追うつもりがないのか、それとも弾幕で近づけない事で諦めたのか、式神十二式が魔斬刀を納めてこちらを見上げているだけだった。

 そんな上空からの景色もだんだんと小さくなっていく。


《あうー。本調子なら奴らの魔斬刀、全部奪ってやるのにー》


 コイツは刀が好きだからなぁ。

 でかい魔斬刀を持たせる為に大傀儡を作った程。


 反対側の肩に乗ったタイタン。も随分とまぁボロボロだ。


『今回の仕事はちょっとハードだったわね、ベル』


 ………。


『デストロイ腹減ったー』


『もー。頑固なんだから』


『デストロイ腹減ったー』


『帰ったら《破天荒》がご飯作っててくれるかもね』


《やだ!》

『やだ!』


 こうしてオレ達、破壊業者三人の今回の仕事は終わった。

 ギャハハ。

 世の中にゃあまだまだ強い奴が居るもんだな。


 さて。


 オレ達も自分達の物語へ戻ることにするかねぇ。


《ボク嫌だからねー! 破天荒お姉ちゃんの実験台は嫌だー!》


『デストロイ同意ー!』


『……また怒られるわよ』



【破壊業者三人組、撤退♪】


――――――――


―――――


―――



“おやおやジャッカル”


“また壊してしまったのですか?”



 ――あ……。



“ンフフフ♪ いいのですよ、また作ってあげますから♪”


“クククク♪ ジャッカルは壊す事に長けていますね♪”



 ――ごめんなさい……。



“カカカカ♪ しかし物を生み出す事に長けるジョーカー一族の中で……”


“シシシシ♪ 唯一、壊す事に長けている貴女は……異端ですね”



 ――異端……。


 ――私、異端……?


 ――みんなと……違う?

 


“ギギギギ♪ そう。お前は我々とは違うんだよ♪”



 ――そう……なの。



“アリゲーター! 言い方が悪いですよ”


“ギギギギ♪ 悪い悪い”


“ホホホホ♪ ジャッカル。ジョーカー一族はなにも作る事に長けていないといけないわけでは無いのですよ♪ ただ貴女は、一族では珍しい存在だというだけです”



 ――珍しい……?


 ――不器用な私は……珍しい……?



――――――――


―――――


―――



【in 魔導社社長室】



 ジョーカーの家系はみんな何かを生み出す事に優れていた。

 生み出すというのは、とても難しい。

 壊すことは容易いのに。

 私は壊すことしか能が無かった。


 ジョーカー一族で唯一、物を生み出す才能に恵まれていなかった。


 私は、小さい頃からそういうコンプレックスを抱いていた。


「ラビット、貴方は私に言いましたよね?」


『なにをです?』


 無傷の私は目の前の男に問い掛ける。するとラビット・ジョーカーはボロボロになったスーツの埃を払いながら首を傾げた。


「私がみんなと違うって……」


 私が呟くとラビットはポンッと手を叩いた。

 どうやら思い出したようね。


『ホホホホ♪ そうでした。みんなと違って貴女は《きっとボンバーなバディに成長する》と……』


「くたばりなさいゲス野郎ー!」


『ぐはっ♪』


 思いっきりぶん殴ってやった。


 このアホウサギ、私にお仕置きの時間だとか言っておきながら全然攻撃して来ない。

 それどころか私の攻撃を避けもせずに受け続けてる。


 ウフフ……嘗められたものね。


『のぉぉぉぉ! 私のウサヒゲが一本抜けていますー!』


 やかましい。

 というかウサヒゲって何?


「ラビット。貴方、戦う気はあるのですか?」


『ありません♪』


 ………。


 じゃあ何しに来たのよ。この変人。


『ホホホホ♪ 私の大事なジャッカルが折角魔導社へ遊びに来てくれたんですから。お話がしたいと思いまして♪』


 さっきお仕置きの時間とか言ってたじゃないの。

 お話がしたい?

 何を今更。


「貴方と話すことなんて無いです。それに私は遊びに来たわけじゃない」


『いいではないですか。一族と言っても滅多に会う事のない我々。久しぶりなのですから話でも……』


 この暢気な野郎に苛立った私は息を吸い込む。

 私の力は、魔力で凝縮した〈声〉という音の塊をぶつけることができる。

 つまり音速の砲弾!


「《ジャッカル・ハウリング》!!」


『おっと』


〈ドォォォォン!!〉


 ラビットが立っていた場所に巨大な穴が空き、下の階が見える。

 しかし、ここで初めて動きを見せたラビットは天井に足を付けて逆さまに立っていた。

 声を避けるとはさすがね。


 私のハウリングは威力、速度、共に最上級♪


『ホホホホ♪ 相変わらずの威力ですね』


「余裕見せてて良いのですか?」


『まあまあ。そう殺気立っても仕方ありませんよ♪』


「ボーッとしてたらその自慢のウサギ頭、吹き飛びますよ」


『殺す気でいきますよジャッカル・ジョーカァァァァァァ!!!』


 怒ったーー!


 いよいよ本気ねラビット!

 そうこなくては!

 さぁ見せなさい、ラビットの能力を! その上で貴方を完膚無きまでに叩きのめし、私がジョーカー一族の顔に泥を塗ってやる。


「ジャッカル・ハウリング!!」


『ホホホホ♪ 迎撃の音爆、《エイミング・サウンド》♪』


〈パパパパパパァァン!〉


 ………!


 私のジャッカル・ハウリングが掻き消された!?


『まだまだ行きますよ♪』


 天井からぶら下がったラビットは白い手袋をはめた片手を前に出した。

 指を変な形に揃えている。


 まさか……!


『瞬撃の音爆、《バースト・サウンド》♪』


 ラビットは指をパチンと鳴らした。

 瞬間、私は周囲の空気がピリピリと張り詰めたのを察知した。


「ちぃ!」


 避けたのは本能。

 肌で感じた感覚だった。


〈バン! バン! ババババババハン!〉


 何もない空中で連続した爆発が起こる。


 音爆……。音を爆発させたという事ね。


「ウフフフ♪ ジョーカー一族は《音使いの一族》とも呼ばれている。ラビット、貴方は指を鳴らした時に発生する音を空間で自由なタイミングで爆破することができるようですね♪」


『《バースト・サウンド》♪』


「聞きなさいよーー!」


〈ババババババハン!〉


 バック転を繰り返して音爆の連撃から逃げるしかない。

 でも私の攻撃は口から放たれる。

 つまり姿勢や体勢なんて気にしなくていいの♪

 そしてここからが私の真骨頂!


「《インフレクション・ハウリング》!!」


 バック転で逆立ちの状態になり、ラビットを視界で捉えるたびにハウリングを放つ。


『ホホホホ、速いですね♪ さすがさすが』


 指を鳴らすのを止めてラビットは天井から跳躍して横の壁へ避ける。さすがにラビットの跳躍力は驚異的。


 でもね。


 私の放ったハウリングは……。


「〈屈折インフレクション〉するのですよ♪」


 私の意思に沿って音の塊は空中で屈折し、白スーツを追う。

 跳弾術より確実で自由度が高く、何より速くて高威力。


 当たったら終了♪


『時限爆音、《リミット・サウンド》♪』


 ハウリングがまた迎撃される。

 ラビットは指を鳴らしていない。


 時間差爆弾か!


『私は常に一つ多く指を鳴らしています。攻撃とは別の、迎撃防御の為に♪』


 ウフ、相変わらず用心深いのね。

 まぁ、そうでなければ魔導社の社長なんてできないですか。


「随分と慎重派なのですね」


『私の座右の銘は《石橋を叩いてぶっ壊せ》ですので♪』


 駄目じゃん。


『さて、逃げてばかりでも仕方ありません。……《ラビット・ホッパー》!』


 ぐっ、と足に力を入れたラビットは壁を蹴り――タァン! という音と共に消えた。

 ……速い!


 次に現れたのは反対側の壁。

 でもすぐに消える。


〈タァン! タァン! タァン! タァン!〉


 4ビートのリズムで壁や天井を移動している。

 ただ、移動する様子は見えない。


〈タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!〉


 リズムが速くなり、8ビートを刻み始める。

 ウフ、ウフフフ♪


 これは破壊業者の御三方が苦戦するわけね。

 見えないんだもの。


 それでも彼が《最速》の称号を手に入れられないのは……もっと速い御方が居るという事。

 恐ろしくも素敵な話ね♪


〈タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ〉


 刻むビートは12分音符。

 ラビットが蹴った壁や天井、床はベコリと凹み、その脚力の強さを表している。


 さぁ。


 かかってきなさいよ。


 壊す事しか能が無い、このジャッカル・ジョーカーに戦闘で勝とうだなんて暗愚な考えを覆してあげますから♪


〈タタタタタタタタタタタタタタタタ!〉


 速さはついに16ビート。

 巨大なハウリングを放てば当たるかもしれませんが、確実性に欠ける。

 ならば――ウフフ♪


 ここで声が響いてくる。

 絶え間ない移動の中で喋っているのだから、私には響いて聞こえる。


『疲れてきました……♪』


「やっぱりアホだ貴方は!」


『ホホホホ、ですからそろそろ戦いを終わらせて話をしませんか? 貴方が飛空艇ダイダロスを守るために自らしんがりを駆って出たのはわかってます』


「わかっていたのなら、貴方は愚問を言っています。貴方が動ける限り、私はしんがりを務め続けますから」


『それもそうですね♪』


 空気が張り詰める。

 ジャッカル頭の鼻先で殺気が擦れる。


 さあ――来い!


『不断の音爆、《絶対音楽アブソリュート》♪』


 周囲に敷き詰められた音という爆弾が、私を襲う。


 ウフ……ウフフ………♪


 まさか、これ程とはね♪


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!!〉


――――――――


―――――


―――


【里原準 in 魔導社中枢塔】


〈――――ォォン〉


 うおっ!


 また上の方で凄ぇ爆音だ。


 オレは現在、一人で魔導社中枢塔を駆け上っている。

 塔の周辺で休憩していた冬音さんや彩花さん達に合流できた事でとりあえず安心したのだが、オレだけは魔導社の中をまだ進んでいる。


 確認の為だ。


 破壊業者が言うには敵のボスも撤退するだろうと言っていたが、閻魔さんに報告するには確認しておくべきだと思ったのだ。


 冬音さんとメアちゃんはボロボロだったし。

 彩花さんとバンプは〈お腹減った〉とか言って寝てたし。(オイ)

 死神は魔力の使いすぎでバテバテだった。


 んで、オレが一人で走ってる状態。


 爆音が聞こえたって事は誰かが戦ってるって事だろ?

 まぁ……最悪の場合、オレが加勢することになるかも。


 そんな事を考えているうちに爆音が響いていた魔導社の社長室前に到着。

 響いていたというより爆音はまだ響いている。


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!〉


 つーか、この社長室は最上階で、ここまで走って上ってきたオレは息が切れまくりだ。


 とりあえずドアを開く。


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!〉


「………な」


 なんだ?


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!〉


 異様なまでにだだっ広い社長室の中には、ジャッカルの着ぐるみを被った奴が居た。


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!〉


「ウフ……ウフフ、ウフフフ♪」


 そいつは、笑いながら爆発している。

 いや、空気が爆発しているのか?

 全身に取り付けた爆弾で自爆しているような光景だ。一体どういう事だ。


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!〉


 ジャッカル頭は強力な爆発を食らいまくっているというのに、爆圧に吹き飛ばされずに踏み留まっている。

 ベルゼルガだって衝撃にはあっさり吹き飛ばされていたというのに。

 しかもこの連続する爆発、一発の威力がとんでもない。

 ジャッカル頭から外れた一発は壁に当たり、ドでかい穴を空けた。


 そんなもんを無数に食らいまくっているのだ。


「お、おいアンタ!」


 オレの声は届いていない。

 ただただ爆発の衝撃を受け続けるばかり。


「ウフフフ♪ ウッフフフフフ♪」


 まるで桃源平和の夢に浸っているかのように。

 まるで甘美な味わいを楽しんでいるかのように。


「ウフ……ラビット。これだけの音爆に魔力を込める為には……」


 爆圧に耐えるどころか、一歩一歩進みだす。

 オレやベルゼルガとはレベルが違う……! 何者だ!


「魔力を込める為には……限界まで接近する必要が……」


〈ボボボボボボボボォォォォォン!!〉


「ありますよね♪」


 ジャッカル頭の女は片手を伸ばし、がしっ、と何かを掴んだ。


『ホホホホホホホホ! ご名答♪』


 !!


 ラビットなジョーカーさんが突然姿を現わし、その片腕をジャッカル頭に掴まれていた。


 ウサギ頭とジャッカル頭……。


 まさか、ジョーカー一族!?


 じゃああの女は――


『お見事ですジャッカル・ジョーカー。私の音爆にここまで耐えられる者など、世界中で貴女くらいのものでしょう』


 ラビットさんは楽しそうに笑った。

 あの女はジャッカル・ジョーカーなのか。

 すっげぇ。


「ウフフ、私に対して物理攻撃は無駄だと知っていたのでしょう?」


 ジャッカルはラビットさんの両肩を掴んで自分の前に引き寄せた。


『勿論知っていましたよ。貴女は《最硬》の称号を持っている事で有名ですから♪』


「私の……勝ちね♪」


 ジャッカル頭はその口を大きく開き――


「零距離咆号、《ポイントブランク》!!」


 ラビットさんに向けて至近距離で叫んだ。


〈ドゥゥゥゥン!!〉


 二人の間で爆発が起こり、さすがの二人もその場で仰向けに倒れた。


「ラ、ラビットさん!」


 オレはウサギ頭の方へ駆け寄る。


『お、おや里原様。この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません♪』


 元気よさげな口調だが、自慢のウサギ頭はボロボロになってる。

 ラビットさんは上半身を持ち上げ、ジャッカルの方を見た。

 ジャッカルも上半身を持ち上げてこっちを見ている。


『貴女の勝ちですよジャッカル。さすがは私達ジョーカー一族の誇り♪』


「な、何を……。誇りですって?」


『ええ。誇りであり、我々の希望』


「ふざけるな! 私は一族の異端だ!」


 ジャッカルの口調が荒々しくなる。二人の事情を知る由もないオレは黙ってラビットさんの背中を支えるだけだ。


『ジャッカル。異端とは、正統からはずれていることです』


「だから――」


『それを悪い事、忌み嫌われる者と解釈するのは間違いです』


「?」


『ジョーカー一族はモノを生み出す事、つまり創造に長けている』


 語るラビットさんにジャッカルは頷く。


『しかし正確に言えばジョーカー一族は〈創造するだけしかできない〉という事です』


「!」


『世界の法則、表裏一体。裏があってこそ表はより発展できる。しかしジョーカー一族には創造という表しかありませんでした。そんな時、貴女という存在が現れた』


「………あ」


『そう。我々が何よりも欲したもの。〈破壊〉に長けたジョーカー一族。貴女は我々の希望なのですよ♪』


「私が……みんなの希望?」


『ホホホホ♪ 貴女が突然消息を絶ってしまった時は大変な騒ぎでしたよ。しかし、まぁ、元気そうでなによりでした♪』


「う……うるさい」


 ジャッカルは小さな声で呟いた。照れてる感じだ。


『創造の力も破壊の力も備えた貴女、ジャッカルは紛れもない《ジョーカー》です♪』


「私に創造の力なんて――」


〈ゴォォォォォォーーー!!!〉


 !?


 社長室の中は雷のような轟音で埋め尽くされた。

 耳を押さえながら窓の外を見る。


《ボス! お迎えにあがりました! 撤退して下さい!》


 うぉー!

 でけぇー!


 めちゃくちゃ巨大な要塞みたいな飛空艇が中枢塔の横に浮かんでいた。


「あ、貴方達!」


 驚きの声をあげるジャッカル。


『ホホホ、ホホホホ! ジャッカル。あなたは良い仲間を〈つくった〉みたいですね♪』


「……ウフ、馬鹿な方達♪」


 とても嬉しそうに呟いたジャッカルは立ち上がり、軽やかにバック転しながら割れた窓際に立った。


「ウフフフ! まぁジョーカー一族にちょっかいを出すのはやめてあげますよラビット!」


『たまには顔を見せてあげなさい。みんな待ってますよ♪ 温泉でも行きましょう。ホホホホ♪』


 ジョーカー一族の温泉風景……。ちょっと見てみたいかも。


 ジャッカルはトン、と地面を蹴り、空にふわりと飛び出した。


「気が向いたらね♪ 私は温泉にはうるさいですよ。 ウフフ♪バイバイ、馬鹿ウサギ。それから素敵な侵入者さん達♪」


 宙に飛んだジャッカル・ジョーカーを拾い上げた飛空艇は、高く高くその巨大な船体を飛び上がらせた。


 オレは窓際に立って見上げ、異界の太陽が放つフレアに目を細めながら大空に舞うお騒がせ集団を見送ったのだった。


 ……やれやれだ。


『昔から素直じゃない子なんですから。ホホホ』


 ………。


「あの。ラビットさん」


『なんでしょうか里原様?』


 ………。


「ウサギの耳が片方、取れてますよ」


『………』


「………」


『な、なんですってぇぇぇぇ!?』


 ハッ。


 ったく……やれやれだよ。


―――――

【《ジャッカル・ジョーカー》 VS 《ラビット・ジョーカー》 戦闘終了♪】


【傭兵集団、《パラダイス・ロスト》戦線離脱♪】


【魔導社戦、終結♪】

次話で魔導社編は終わりです♪ なんと今回、過去最高文字数を更新してしまいました!爆 分けようと思ったのですが、まとめてお届けでございます♪

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