第106話 彩花とバンプと無限粉末師
【〈彩花&バンプ〉 in 二番塔方面メインストリート】
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「いいわよー! 速いわよー♪」
「………」
僕と彩花さんは風を切りながらメインストリートらしき場所を移動中。
本当に速いよぉ。
〈ドドドドドドド〉
僕はひたすらフワフワした首元にしがみついている。
フワフワした首。
毛皮。
僕と彩花さんは、それぞれ二人の狼男さんの背中に乗っていた。
「速く! もっと速く走りなさーい♪」
『ぐすっ……助けて下さいボス』
「今は私がボスよ♪」
『グル……ぐすっ』
彩花さんを背中に乗せた狼男は半泣き。
そりゃあ、あんな事言われたら……ね。
何故僕と彩花さんが敵である狼男さん二人の背中に乗っているのかというと、それは少し前の事でした。
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ロシュの地図。アレはあてにならないだろうという事を大体予想していた僕と彩花さんは、駅から降りた後も大して驚かなかった。
「あー。やっぱりロシュの奴、間違った地図だったね彩花さん」
「そうね♪ 可愛いわね死神ちゃんは」
「なんで皆に教えてあげなかったの?」
「だって面白いじゃないの」
もー。こういう人なんだよぉ。
彩花さんはニコニコ笑いながら遠くの方に目を向けている。
「あらあら。二番塔って結構遠いのね」
「うん」
「あ、そうだバンプ」
「なぁに?」
「後ろ、危ないわよ♪」
後ろ?
僕は彩花さんに言われて後ろを振り向いた。
………。
『ガルルルルルル!』
『グルァァァァァ!』
………。
まさかの至近距離!!
僕の背後には狼男さんが二人、殺気出しまくりで立っていた。
『グルル』
『侵入者ァ!』
「いいえ私は〈赤ずきん〉ちゃんよ♪」
何言ってんのこの人。
まだニコニコ顔のまま振り返った彩花さんはさらっと痛い発言をした。
狼男さん達も茫然としてるし。
『……(あ、やっべ)』
『……(変な奴に絡んじゃった)』
「私は赤ずきんちゃんよ♪」
彩花さん、しつこいよ。
『は、はぁ……』
『赤ずきん……』
「アナタ達は狼よね?」
『ま、まぁ……』
『一応……』
「私を襲おうとしてるのよね?」
『ま、まぁ……』
『一応……』
な、何この会話!?
いつのまにか彩花さんのペースになっているよ。
彩花さんのオーラ、意味不明発言によってその場は謎な空間になってしまう。
準くん曰く、彩花さんの特殊フィールド。絶対領域。〈ゲヘナ・ワールド(地獄世界)〉。
『そうだ!』
『我々は侵入者を排除するのみ!』
喉を鳴らす狼男。
ヤバいヤバい!
ヤバい状況なのに彩花さんは余裕の表情で居る。
それどころか狼男さん達に向かってため息を吐き、呆れたように肩をすくめる始末。
僕、永遠にこの人には勝てないと思う。
「はぁ〜っ。これだから狼ってのは何時の世も〈やられ役〉なのよ♪」
『!?』
『なんだと娘ェ!』
「アナタ達は赤ずきんという童話を知らないの?」
『む……?』
『知らぬ』
「もうっ、仕方ないわね♪」
コホン、と咳払いした彩花さんは人差し指を立てて話し始めた。
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【赤ずきん(彩花アレンジ)】
むかぁしむかし、必要以上にメルヘンチックな国に〈赤ずきん〉こと本名〈レッド・ズッキンバーグ〉という子が住んでおりました♪
(本名すごいよ)
時期は丁度年末。
赤ずきんちゃんは、お年玉の為にここは一つおばあちゃんに媚を売っておこうと考えました。
(腹黒っ!)
それにおばあちゃんは病気がちなので、優しくしておけば遺産を全部自分にくれるかもしれません。
(腹黒っ!)
様々な現実的邪念に108の煩悩を刺激されまくり、ついに赤ずきんちゃんは〈遺書の書き方テキスト〉を片手におばあちゃんの家へ向かう事にしました。
『おばあちゃん、元気かしら?』
(そのセリフがやけに重いよ!)
おばあちゃんは森の奥深くに住んでいます。
赤ずきんちゃんは舌打ちをしながら早足で歩いていました。
『チッ、土地代をケチってあんな所に住んでるから〈森中さん〉って名字で呼ばれんだよ』
おばあちゃんが世間と相容れない仲であることを心配してあげる赤ずきんちゃんはとっても優しい女の子です♪
(皮肉ってるだけだよぉ!)
さてさて森の中を進む赤ずきんちゃん。
可愛らしい女の子が一人で歩いていて狙わない者が居ないはずがありません!
(ついに登場ですよ)
(グル……)
(狼だな)
森の木の影から目を光らせていたのは、〈超ド変態・頭パー・思考レベルGマイナス・重度の花粉症〉狼さんでした♪
(グルァァァァァ貴様ァァァァァ!!)
(言いたい放題かァァァァァ!!)
(お、落ち着いて下さい〜っ)
狼さんは赤ずきんちゃんの目の前に飛び出し、彼女を甘い言葉で誘惑します。
『ズズッ、あど〜、ぢょっどいいでずが〜?』
(重度の花粉症キター!)
突然狼に進路を塞がれた赤ずきんちゃんはあからさまに不機嫌な顔になりました。
『……何?』
(冷たっ)
『あ、あど〜。ぢょっど僕のはなぢを聞いで……』
『知らない人に付いていってはいけないって言われてるから』
『だ、誰に?』
『〈元殺人鬼のおじいちゃん〉に』
『失礼しました〜』
(凄い家系……)
こうしてあっさりと撤退してしまった狼さん。
そりゃあ元殺人鬼がバックに付いていたら手を出す方がアホです。
でも狼さんは思考レベルGマイナスでした。
(貴様ァァァァァ!まだ言うかァァァァァ!!)
(お、落ち着いてっ!)
狼さんは再度トライします。もう、本当に見てらんないくらいお馬鹿さんなんだからぁ♪
(ヌァァァァァ!!)
(ガルァ!ギャバルァァァァァァァァァ!!)
(彩花さんいいかげんにしなよ!)
あらあら♪
おとなしく聞けないという事は、アナタ達も思考レベルGマイナスなのかしら?
(!!)
(ぐぅ!)
(うわぁ、一発で手懐けた……)
さぁ、お話を続けましょ♪
懲りない狼さん、再び赤ずきんちゃんの目の前に飛び出します。今度は鼻炎薬を服用して。
『ジャッジャジャーン! 狼さんだよぉ〜〜〜ん!』
『痛いよお前。失せろ』
『…………』
赤ずきんちゃんが放った言葉という名の武器は狼さんのハートに巨大な傷をつけ、大ダメージを受けた狼さんは泣きながら撤退しました。
(……)
(……)
(……)
木の影に隠れた狼さんはメソメソ泣いていました。
『もうやだよぅ。あの子怖いよぅ。もう帰ろうかなぁ……』
それでも狼さんはめげません♪
『え!?』
それでも狼さんはめげません♪
『え、いや、僕はもう諦めようと……』
それでも狼さんはめげません♪
『ちょっ。あの、だから……』
それでも狼さんはめげません♪
この任務を成功させないと妻と子供が危険に曝されてしまうから、狼さんに撤退は許されないのです!
『うそ!?』
(ひでぇ)
(ひでぇ)
(ひでぇ)
しかしこのまま赤ずきんに挑んでも同じ事。
悩んでいた狼さんは、なんと近くに注射器が落ちている事に気付きました。
(なんで?)
狼さんはその中身がなんなのか、すぐに理解しました。
『僕にドーピングをしろということか』
(やめろー!)
(やめろー!)
(やめろー!)
ドーピング。薬による筋力強化。
狼さんは急激にパワーアーップ!!
『うおぉぉぉぉぉ!』
グレートウルフマンは再度赤ずきんちゃんに挑みに行きます。
(グレートウルフマン!?)
(い、いきなり)
(格好良いぞ)
さぁ頑張れグレートウルフマン!
強いぞグレートウルフマン!
負けるなグレートウルフマン!
超狼へと変貌した彼は最後の戦いを挑むべく、おばあちゃんの家に入ろうとする赤ずきんちゃんの前に飛び出しました。
『ハーッハッハッハ! 覚悟しろ赤ずきん! このグレートウルフマンが……』
しかし
グレートウルフマンは見た。
赤ずきんちゃんの後ろの
大きな人影を。
『ひっ』
それは元殺人鬼のおじいちゃん、〈キリング・ズッキンバーグ〉でした。
『おじいちゃん、あの狼さっきからしつこいのよ』
『おじいちゃんにお任せじゃ♪』
さてさて。
この後グレートウルフマンがどうなったのかというと………。
私の口からはとてもとても。
〈ギュイィィィィィィン!!〉
『う、うわっ、うぎゃぁぁぁぁぁ!』
(うわぁぁぁぁ!)
(ひ、ひでぇぇぇ!)
(………)←バンプ悶絶
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つい先程の話を思い出した僕は狼男さんの背中で身震いした。
あの彩花さんのお話を聞いた狼男さん二人は一気に気が弱ってしまい、あげく彩花さんに
『やられ役ばかりの狼に革命を起こしなさい! グレートウルフマンみたいになりたくなかったらね♪』
と、トドメの言葉をモロに食らったのでした。
で、今の状況に到る。
長いメインストリートを二番塔まで歩くのがイヤだと言っていた彩花さんは、見事に狼男という便利な〈乗り物〉を確保したのだ。
おそるべしゲヘナ・ワールド。
僕や彩花さんを背中に乗せて走る狼男さん二人も、なにやら泣きべそをかいている。
多分僕と同じく回想したんだと思う。
「やーん、あったかいわねー! 毛皮の乗り物よー♪」
当の本人は能天気に狼男の背中に顔を埋めてはしゃいでいたり。
軍服の狼男さんの頑張りによって二番塔が近くに見えてきたその時だった。
急に僕を背負っていた狼男の目付きが鋭くなる。
『ガルル……』
「どうしたんですか?」
『……奴だ』
彩花さんを背負っていた狼男と目線を交差させながらそう呟く。
奴?
僕は狼男さんの背中から前方の二番塔を見てみた。
んー?
誰か……居る。
女の人だ。
『チィッ、やはり塔を守るのは奴か』
『グルル、あの連中はハナから気に食わなかった』
高速で進みながら交わされる二人の不思議な会話に僕と彩花さんは首を傾げる。
「ねぇ狼ちゃん、どうしたの?」
『破壊業者です』
『我らのボスが雇った連中』
二番塔が近づく。
その前でピクリともせずに立ちはだかる女性のシルエットから、声が響いてきた。
『貴方達!!』
『!』
『!』
どこか白狐さんを思わせる力強い声。
貴方達、とは二人の狼男に対して言ったんだと思うよ。
女性は続ける。
『貴方達はパラダイス・ロストの兵士でしょう! 裏切るつもりなの!?』
言われても狼男達は止まらない。
低い唸り声をあげ、牙をむき出しにする。
『我らは決してボスを裏切る事はない』
『我らはただ、貴様が気に入らんだけだ!』
完全に戦闘態勢に入ってる。
僕や彩花さんを背負ったまま戦うのかなぁ、とか考えてると彩花さんが口を開いた。
「バンプ、危ないから飛び降りなさい♪」
「へ?」
「あら、残念。手遅れ♪」
彩花さんはまるで料理を焦がしてしまった時なんかに見せるような困った顔で、ペロっと舌を出した。
手遅れって何?
『恥を知れ刃狼隊の者共!』
怒気混じりにそう女性が叫んだ瞬間、僕を乗せていた狼男さんの大きな身体がガクンと傾いた。
『グッ!?』
狼男さんは倒れる前に僕を背中から放り投げた。
見れば彩花さん達の方も同じ状態に陥ってる。
で、でも、これがあの女性の攻撃とは考えにくいよ。
だってあの人、腕を振っただけだもん。
メインストリートの地面に転がる僕。
あ、彩花さんは!?
「ていっ」
体操選手みたいな着地ポーズをしていた。
僕と彩花さんは助かったみたいだけど、二人の狼男さんはまだ非常事態の中にあった。
倒れたまま凄い勢いで引きずられてる!
『ゴアァァァァ! な、なるほどなァ!』
『グルルァァァ! 貴様の能力は………』
メインストリート上を二番塔へ、女性に向かって引きずられていた二人。
でもその途中で急に左右に分かれた。
二人は今度は道の両側にそびえ立つビルに向かって引きずられていく。
こ、このままだと……!
〈バガァァァァァァァン!!〉
『ぐあァ!』
『ガハッ!』
ビルに激突した二人は瓦礫に……う、埋もれてしまった。
中から這い出てきた二人だったけど、そこで気絶してしまう。
………。
「ひ、ひどいぞ――」
「ひどい事しないで頂戴♪」
彩花さんが僕の前に立つ。
あ。ちょっと怒ってる。
『あら、貴方達ね? 侵入者というのは』
「いいえ、赤ずきんちゃんよ」
まだ言ってる!
『赤ず……。ん?』
本当に理解できてない様子の女性は首を傾げ、そして初めて歩きだした。
近づいてくるその姿は、タイトなボディスーツを身に付けていて、その上に、彼女の顔まで装甲みたいなもの(アーマーって言うのかな?)に覆われてる。
でも僕が一番最初に気になったのはその両腕。
両腕だけはバランスが悪く大きい。
全ての爪が鋭く尖ったその手甲があまりに大きいんだよ。金色で、盾にも使えるかも。
「私、パシリはとっても大切にするのよ♪」
嘘だ。
『侵入者は破壊するわ』
相手聞いてないし。
「ところでアナタ」
『?』
「綾取りが好きなのね♪」
『!!』
装甲を纏ったお姉さんが彩花さんの言葉に動揺を見せた。
「ふふっ♪ 見えたわよ、あのビルから飛び出した糸が狼ちゃんの身体にシュルシュル〜って巻き付くのが♪」
糸?
そういえば狼男さん達は何かに足を縛られたような格好で倒れて引きずられてた。
『……強化繊維を見破ったの?』
「え、隠そうとしてたの?」
挑発キターー!
『い、言ってくれるじゃないの……!』
あぁ、すっごいイライラしてる。
「いいからさっさと来なさいな。〈ガチガチ女〉さん♪」
そりゃアーマー姿はガチガチしてるけど!
『ガチガチ!?』
「むしろ性格がガチガチ♪」
『ガーーーン』
ひどい!
『………』
あ。今あの人から〈ブチ〉って何かが切れる音がしたような気がするよ。
『ゆ、許さなーーーい!!』
ほら怒ったじゃん!
女性の腕から妙な駆動音が鳴り始める。
〈ヴン、ヴーーーン、キュイィィィィィ――〉
『破壊業者……無限粉末師、《タイタン》! 推して参る!!』
「よしっ! 行きなさいバンプ!!」
「えぇぇぇ!?」
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【《彩花&バンプ》 VS 《タイタン》 戦闘開始♪】
皆様、いつも《死神といっしょ!》を御愛読頂き有難うございます。感謝企画の最中に失礼致します。 ご存知の通り〈小説家になろう〉でシステム評価の改善が行われました。 これを機に当作品も文法について最低限の体裁を保つべく第1話から少しずつ、できる時に改善していく事に致しました。一マス空け、三点リーダ等が主ですので内容に殆ど影響はございません。 以上、作者からのちょっとした報告でした♪ どうぞ今後も宜しくお願い致します!