第103話 (超感謝企画) 《魔導会社マジック・コーポレーション》
皆様、いつも〈死神といっしょ!〉を御愛読頂き有難うございます! 作者の是音でございます。 この度、皆様の応援と御愛読のお陰により、《連載一周年・100話突破・アクセス11万突破》という素敵だらけな結果に到る事ができました。 本当に感謝の気持ちでいっぱいでございます! そして今回、感謝・記念としてお送りいたします超感謝企画。楽しんで頂けたら幸いでございます。 長々と失礼いたしました。それではどうぞ♪
朝っぱらから謎の歌を熱唱しながら居間を走り回る死神。
いつもなら放っておくのだが、今朝はそうはいかない。
だからオレも全速で走り回っていた。
「死神コラー!」
「《ぶんぶんぶぶぶん♪ 正義の味方〜♪》」
「待て死神コラー!」
「《うふふんふふん♪ アイツはシュワシュワやってくる〜♪》」
「てめぇー!」
「《ぺぺすぺぺすぺん♪ あれは誰!? 誰なの!?》」
「…………」
「《知らね〜》」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「うひゃっ、準くんが私を追い掛けてる♪」
「ざけんなよてめぇー!」
「もうっ、私に夢中なんだよね♪」
「い、いいから! 早く……!」
「大変っ、野獣が追い掛けて来る〜♪」
「………」
「♪」
「いいからオレの服を返せーーーーー!!」
上半身が裸なんだよバカヤローーー!!
寒い! 死ぬ! 寒い! 死ぬ!
何故か異常に素早い死神は、朝早くにオレの着る予定だった服を抱えて逃げ出したのだ。
とんでもねぇイタズラだ。
しばらく駆け回った後に死神をとっ捕まえたオレはなんとか死神から服を奪い返した。
「うわぁーん! 準くんがぶったぁー!」
「当然です! 限度をわきまえなさい!」
服を着ながら一喝。
「……ごめんなさいお母さん」
「誰がお母さんだ!」
そう叫びながら、頭をさする死神の前に朝食を出す。
いつも通りの朝。
いつも通りの光景。
だが、この日は次の瞬間からとんでもない一日になる。
〈ドッスーーーーン!〉
居間の方で響く衝突音。
『痛いー』
そして次に呻き声。
何事かと思い、オレと死神はキッチンから顔を出す。
死神が行儀悪く口にくわえていた箸を引っ込抜きながら。
居間を覗くとコタツの上には白と桃色の着物が倒れていた。
次にガバッ、と狐の仮面を付けた顔が上がる。が、視線は居間の虚空を右往左往。
現れたのは白狐さんだった。
「白狐さんだーっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
声をかけた瞬間、
〈バババババババッ〉
と白狐さんは大慌てで着物を整えつつ起き上がり、コタツの上でコンパクトに居座りを正した。
『だ、だだだだだだ大丈夫……』
ワープゲートからの着地に失敗したらしい。
でもあの白狐さんが着地に失敗する程慌てていたという事だろ? また厄介な事件が起こったんじゃ……。
そしてその予想は正しかった。
ふぅ、と一息置いた白狐さんは顔を上げる。
『ロシュも里原くんも、聞いて頂戴』
「?」
「?」
『魔導社が――』
――――――――
―――――
―――
《魔導社が墜ちた。》
白狐さんが放ったその一言は、オレと死神を愕然とさせるには十分だった。
「……ふぇ!?」
「……墜…ちた?」
『墜ちた……というか、正確には魔導社アジア支社が武力制圧された。という事ね』
魔導社。
魔導会社マジック・コーポレーション。
地獄と天国のみならず、異界全体を商売相手とする大企業だ。
それを統括しているのはウサギの奇人。《ラビット・ジョーカー》。
ここ最近はアジア支社に留まっていた社長だ。
そして、今回被害を受けたのはアジア支社。
「ビジョーさんとシャドーさんは!?」
「そうだ、二人は無事なんですか!?」
オレと死神の質問に、白狐さんは肩を落とした。
『ラビットもシャドーも魔導社本社の医務施設に搬送されたわ』
「え……」
「重傷……か?」
ジョーカーさんといえば、指を一度鳴らすだけであの炎魔獣を吹き飛ばした程の実力者だ。
シャドーも具現化しなければ、ほとんど無敵の影女である。
それに魔導社にはパペット軍団も居る筈。
いくら襲撃を受けたのが本社ではなく支社だったとしても、あの大企業を敵に回し、あろうことか武力で制圧だと?
「そんなに敵は凄いの?」
死神が首を傾げる。
どうやら同じ疑問を抱いたようだ。
『敵に関しては規模・目的、共に謎よ。ただ、ラビットは《傭兵集団》だと漏らしていたわ』
傭兵集団……。
「雇った奴が、居るんだな」
白狐さんが首肯する。
『連中のバックについている者。現在早急に閻魔が調査を進めているわ……でも』
ここで狐の仮面が一息つく。
『これは極秘事項よ。地獄は本来、戦力を死神業以外に使用してはいけないのよ』
「でも閻魔さんは……」
『ええ。エリート餓鬼を引き連れて黒幕の調査に向かった』
「それって……」
『だから極秘事項よ。ラビットは閻魔の友人ですもの。アイツが黙っているわけがないわ』
確かにな。
占拠された魔導社へ殴り込むよりもその裏を探る。
きっとメチャメチャ怒っている筈なのに、冷静な判断ができるのはさすがだな。
『そこで閻魔から伝言よ』
「へ?」
『《魔導社のクソ野郎共は任せたぜ。フハハハハ!》だそうよ』
………。
なにぃ!?
『ちなみに佐久間さん、須藤さんの所へは夜叉とカブキが向かっているはずよ。私達はこの後、閻魔と合流するわ』
「む、無理でしょう! オレ達だけで挑むのは!」
と、オレが抗議したが、それよりも大きな声によってかき消された。
死神である。
「やったるぜーーーー!!」
やる気満々だコイツ!
「お、おい死神」
『大丈夫よ里原くん。占拠している集団の意識を守備に向けさせるだけで良いの』
大丈夫……なのか?
しかしなるほど。確かにそうした方が閻魔さん達も動きやすいだろう。
「やるやるやるやるー! 連中を壊滅させてやるー! ね、準くん!」
「壊滅!?」
『本当に図々しいお願いをしているのは承知よ。申し訳なく思っているわ』
いや、ジョーカーさんはオレも、死神も世話になっている。
つーかオレ自身があの人もシャドーも気に入っている。
「……準くん?」
はっきり言えば勝算なんて……。
うーん。
冬音さんと彩花さんが居るなら何が起こるかわからんな。
少数で向かうのだから逃げやすいと思うし。
……。
「準くん、きっと魔導社からお礼いっぱいもらえるよ?」
「よし。任されました」
「やったぜーー!(亡者キタぜーー!)」
オレの返事に白狐さんも両肩を軽く上げて嬉しそうな仕草をした。
『有難う。なるべく時間を稼いで欲しいのだけれど、適度なところで撤退してくれて構わないわ』
「わかりました」
「撤退は無いぜー!」
死神は敵を殲滅するつもりなのだろうか。
『それから、ラビットとシャドーからも伝言を承っているの』
良かった。話せるくらいには無事らしい。
まー、あの二人が並んで病院のベッドに寝ている姿なんてどうやったって想像できねぇし。
「伝言?」
『ええ。ラビットは《ブレイクショットには十分お気を付けください》だそうよ』
《ブレイクショット》?
その単語は確か……ビリヤードなんかで聞いた事がある。
どういう意味だろう。
気をつけろって事は多分大事な情報なのだろうから覚えておこう。
「ねぇねぇ白狐さん! シャドーさんは!?」
『シャドーからは《お見舞いにはメロンを宜しくお願いします〜》だそうよ』
「元気じゃんかー!」
「元気じゃねぇかー!」
――――――――
―――――
―――
冬の異界は快晴。
空には大きな雲が浮き、あんなに大きかったらでっかい建物が一つは入りそうだ。とかわけのわからん事を考えてみる。
徐行運転の魔列車の中にオレ達は居た。
魔導社のアジア支社を占拠されても運行停止になっていないという事は、それだけ他支社が頑張っているということだ。
とは言っても、現在魔列車に乗っているのはオレ達くらいのものだろう。
占拠されたアジア支社の近くへ好んで行く奴なんて居ないからな。
「いやー、しっかし大変な事になったもんだ」
「まったくですー」
ラウンジ車両のテーブル。それを囲むようにオレと冬音さん、ナイトメアが地図と睨み合っていた。
死神はなにやら個室に籠もって作業をしているらしい。
「これが魔導社の地図か」
「支社なのに大きいですよねー」
冬音さんはナイトメアのニット帽についた大きな玉をつつきながら言う。
「……ところで冬音さん」
「ん? なんだ準」
「なんですか、この格好」
オレも冬音さんも、真っ黒のスーツを着ていた。
シャツも、ネクタイも、手袋も、靴も、全部黒。
「いや、私に訊かれても……これは須藤が持ってきた物だから」
言いながら横へ目を向ける。
冬音さんの目線の先にはバンプの銀髪を手グシでいじっている彩花さんが居た。彩花さんも全身黒一色だ。
「あら、いいじゃないの♪ 助っ人は大抵こういう格好をするものなのよ」
ということらしい。
ここでずっと地図を見続けていたナイトメアが顔を上げた。
「準くん、やっぱり三手に分かれた方が良いかもですよ」
「構造上、そうなるかぁ」
魔導社の地図。これは以前、死神がイタズラ同盟の一員として魔導社へ侵入するというアホな行動を起こした際にシャドーから譲り受けたものだ。
白狐さんから渡された物もあるのだが、シャドーの書き込みがあるこの地図の方が使い勝手が良い。
そして今、ナイトメアが提案した侵入方法。
構造上、最善の侵入方法。
魔導社の構造は、社長の趣味が由来してか面白い形をしている。
まず三本の円柱型のビルが三角形の頂点に位置するように建っている。
そしてその更に上に大きな円盤型ビルが、三本を繋げるように乗っかっている。無理矢理な例えをすれば、三本足のクラゲ……。無理矢理すぎだな。
ともかく入り口は三通りあっても、結局上がっていけば繋がるのだ。
これなら三手に分かれた方が敵勢力を混乱させやすいってなもんだ。
「このビル、一番塔、二番塔、三番塔とあります。結局は最上階へ繋がるわけですが、何番塔か選ばなきゃですよ」
「んなもん私が一番に決まってるだろうが!」
スポン、と冬音さんが勢いでナイトメアのニット帽を引き抜き、やられた方は
「ふやぁ!」
と気の抜けた声を出していた。
ちなみに、この場に居る全員に〈程よく撤退〉という意志は微塵も無いらしい。最上階まで突き進むつもりだ。
侵入じゃなくて進攻の方が正しいかも……。
テーブル上の地図に見入っていると、彩花さんから逃げてきたヴァンパイアがオレの隣に座った。
「じゃあ僕達は二番ー!いいよね彩花さん!」
元気良く宣言して彩花さんの方を向き、相手が頷くのを見て笑顔になった。
「じゃあ、オレと死神は三番だな」
オレは余った三番目の塔の地図をコンコンと指で叩いた。
侵入と称しても、実のところ作戦なんか無い。
敵の意識をこちらに向けるように動き、見つかったらとにかく暴れ回る。という冬音さん流の作戦が作戦なのかよくわからんからだ。
「うーし、分担が決まったところでそろそろ到着だ。準、死神を呼んでこい!」
「わかりました」
アジア支社近くの街へ到着する知らせを聞いた冬音さんは、ナイトメアの頭を撫でながら楽しそうに笑い、
彩花さんは黒い革手袋をはめ直しながらヴァンパイアと一緒に〈いっちにー〉とか言いながら準備運動を始める。
オレも黒ネクタイを緩めて襟を楽にしてから、死神を呼びに行くべく席を立ったのだった。
――――――――
―――――
―――
【魔導社アジア支社・北部】
一番塔方面へ向かった冬音さんとナイトメア。
二番塔方面へ向かった彩花さんとヴァンパイア。
そして三番塔から進むオレと死神は、魔導社の北部に位置する街で魔列車から降りた。
降りたのだが……。
「おい死神」
「?」
「魔導社ってアレか?」
「……多分」
「ずいぶんと、お前の持ってきた地図より大規模じゃねぇか?」
「うん」
三本のビルに円盤が乗った形?
そりゃおめぇ。
かなりてっぺんの方の話じゃねぇか。
さらに円盤の形をした頂上にはなにやら巨大な物体が乗っかっている。敵が乗ってきた飛空艇だろう。ウチの学校くらいあるんじゃないか? あんなもんに乗って来る連中が相手なら魔導社が占拠されるのも無理はないかもしれない。
もしかしたら……地獄旅館でさえも。
「死神お前さ、もしかしてあの地図……」
「うん、ほんの一部」
「ふざけんな!」
魔導社はそんな規模ではなかった。
三本の円柱(中枢塔)は、《魔導社アジア支社という一都市》の中心に位置する本部みたいなものだったのだ。
その周囲にはいつもは煙が出ているであろう煙突が突き出た建物がたくさん。きっと《魔工場》と呼ばれるものだ。
魔剣ドミニオンは本社で造られたらしいから、ここで生まれる製品はゲルさんの店で売られているような物ばかりなのだろう。
他にも実験施設やら貯水プールなどなど。中枢塔の周囲は様々な建造物によって埋め尽くされているようだ。
万能かつナンバーワンシェアを誇る大企業の支社は、それ自体が一つの都市と化していた。
「まず三番塔まで行くのが一苦労じゃねぇか」
「そこは愛の力だよ準く……」
ポカッ
「ぐすっ、ごめんなさい。地図を間違えた私が悪かったです」
うーん。今頃は冬音さんも彩花さんもビックリしている事だろう。ナイトメアだってきっとカンカンだな。
とにかく、オレと死神は降り立ったこの名も無き街を塔に向かって歩き始める。
襲撃の被害を受けた為だろうか、この街にも人はおらず閑散としていた。
しかし見渡す建物は意外に損壊していない。
どうやら被害を最小限に抑えようという、律儀な考え方をした傭兵集団らしい。
「準くん、準くん」
死神がオレのスーツの裾を引っ張る。
「どうした?」
呼ばれたので横を向いて死神の方を見るが、何故か呼んだ本人は目を合わせようとしない。
うん。こういう時は大抵、嫌な予感が的中する場合が多い。
「あのね」
「うん」
「怒らない?」
「うん」
「……言い忘れた事がもう一つあるの」
ほら来たぞ。
「まだ言い忘れた事があるのか」
「……うん」
「言ってみろ」
「えっと――」
死神が口を開き掛けたその時。
『グルァァァァァァァ!!』
『アオォォォォォォン!!』
『グルルルルルルルル!!』
!!
は!?
何!?
遠吠え?
「死神! なんだ今のは!」
この質問をする時、既にオレは死神を脇に抱えて走りだしていた。
幸いにも今の遠吠えは後ろからだったのでとにかくメインストリートを駆け抜ける。状況がわからんが決してラッキーイベントではない事くらいはわかる。
「あ、あのね」
この非常事態に死神は尚もオレから顔をそらす。
既に嫌な予感が的中してしまったのは明白だった。
「ここも、もう魔導社の中なの」
「何!?」
「だから、この街も、魔導社アジア支社の管轄で成り立っている街だから……」
「…………」
「…………」
「魔導社管轄の街……だから。なんだ?」
「えへへ♪ 勿論、敵はいっぱいだよね♪」
「貴様は生粋の馬鹿野郎だぁぁぁぁぁぁ!!!」
ベシィッ!
「痛ぁぁぁぁい! 準くん怒らないって言ったのにーーー!」
頭を押さえる死神を抱えて走りつつ、顔だけ後ろを振り向いてみる。
『ガルルルルルルル!!』
路地裏から、二足歩行の獣がどんどんオレ達の居るメインストリートに飛び出してきていた。
しかも全員、軍服を着用。
黒スーツよりも実戦的なファッションの――狼男達。
『グル、グルァァァ! 侵入者ァァァァァ!!』
お、狼男だとぉぉぉぉ!?
『餌ァァァァァ!!』
餌とか言ってるーーー!
「ほら準くん、頑張れ頑張れー!」
「……貴様を身代わりに置いて行っても良いんだぞ」
「ギャー! 私が餌ー!?」
まずい、死神がじたばたし始めた。
「じょ、冗談だ……! 冗談だから暴れるな!」
なんか前にもこんな状況を経験した気がするぞ。
コイツの実家で。
『ガルルルルル! 食欲旺盛!』
『グルルルルル! 弱肉強食!』
『アオォォォン! 愛羅武勇!』
愛羅武勇!?
と、とにかく支社へ向かわないと!
【《里原準&死神》 in 魔導社。 戦闘開始♪】