第100話 死神と年末
さ、さて・・・年末です。
この時期はなかなか疲れる。
最後の一枚となったカレンダーには、ラスト数日の間に忘年会やら同窓会やらの予定がぎっしりで、なにかとゆっくりできない日が続いたからだ。
つーか忘年会、同窓会が多すぎる。
まず高校のクラスメイトに始まり、不良仲間に呼ばれ、ファンタズマに呼ばれ、中学のクラスメイトに呼ばれ、中学の不良仲間に呼ばれ、昔のバンド仲間に呼ばれ、高坂先生と彩花さんに呼ばれ...etc
・・・よく身体が保ったと自分を褒めてやりたい。
死神も閻魔さんや友人達との同窓会で留守がちだったし。
で、そんなスケジュールも一段落して落ち着いたオレは、予定の中で最後の忘年会から帰ってくるなりコタツの中に腰まで突っ込んで寝そべっていた。
ぼーっ、と天井なんかに描かれた模様を目線でなぞったりしていると、ぐにゃりと天井が歪んでワープゲートが開いた。
んぁ、死神が帰ってきたみたいだ。
「ただいまぁ準くん!」
「おー。おかえり・・・ってうわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドスーーーーン!
「ぉごふ・・・っ!」
アホだ。オレは。
自分の顔の真上にワープゲートが開いたのだから、奴が降ってくる事くらい予想できたはずだ・・・。
「キャー!準くん大丈夫!?」
「お、おふ。ほいあえふ、おへ(よ、よし。とりあえず、どけ)」
「うひゃっ!ごめんねっ!」
死神が今回だけは何故か背中からダイブしてきた為、人間の二段積みというよくわからん状態だった。
「ふぃー。私も疲れた疲れたー。準くんが〈ごろんた〉してるから私もコタツに入ろっと♪」
「・・・なんだ〈ごろんた〉って」
「んー?」
死神がもぞもぞとコタツの中に身体を入れながら相づちした。
「あぁ〈ごろんた〉っていうのはね、私とかメアとかバンプが小さい頃から使ってる言葉なの♪」
・・・ごろんた?
「えへへ。昔、ちっちゃかったメア(通称チビメア)がね、サボってお昼寝をする閻魔さんを見て
『閻魔さんがゴロンとしてるのですよー!』
って言おうとしたら間違えて
『閻魔さんが《ごろんた》してるのですよー!』
って言ったのが始まりなの♪」
か、可愛いなチビメア。
「ははっ。それでゴロゴロしている姿はお前達の中で〈ごろんた〉になったのか」
「うふふ〜、そうなんだよ」
そう喋りながらゴロゴロしているオレは、しかし何か落ち着かない。
この感覚は、例えば出された課題をやらずに忘れたまま遊んでいる時のような。
うーん、と首を傾げつつ上半身を持ち上げて居間を見回してみた。
部屋の隅には死神の絵本が転がっている。
あっちには死神の雑誌。
こっちにも死神の雑誌。
そっちには得体の知れないボードゲームなんかが転がっている。
・・・。
あぁ。わかったぞ。
大掃除だ。
つーか、散らかしているのは全て死神である。定期的にオレが掃除しているし気付いたら死神も片付けていたから良かったものの、ここ最近はそれさえも忘れる程に忙しくて散らかりっぱなしになっていたのだ。
落ち着かないわけだ。
ちょうど年末だし、大掃除をしようと思っていたところだ。
「よし死神」
「?」
「大掃除だ」
「やだ!」
拒否反応!
「寒いからやだ!」
寒いかららしい。
そんな事を言っていたらコイツはコタツに入りっぱなしなので・・・
コタツから死神をひっこぬく事にした。
「にゃぁぁぁぁああ!寒い寒い!」
暖房効きまくりの部屋で寒いとかぬかすんじゃねぇ。
「コタツがいいの!」
本気を出してコタツにしがみつく死神は完全に依存しちまっていた。
「年末に大掃除しとかないと、年が越せねぇぞ?」
「え!年が越せないと私達どうなっちゃうの!?」
・・・。
「《一年最後の日に時空列圧縮空間が発生し、オレ達はそれに呑み込まれてしまう。物理法則を無視した現象によりオレ達は跡形もなく潰れてしまうだろう。ただしその際、まれに意識パルスのみが超光速で圧縮された物質の周囲を回転する場合があり、そうなったらもう・・・やばい》」
すごい嘘をついてみた。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
すごい効果があった。
「にゃ、にゃんでそんな重大な事を早く言わなかったのさ準くん!」
「うむ。《時空的戒律》で本当は言ってはいけないと定められていたからな」
「戒律を破ってまで教えてくれたの準くん!?」
「うむ。来年は《超時空監査保護官》に追われる生活になると思うから、覚悟しておけよ」
「愛の逃避行ね!」
やっべぇ、こいつマジで信じてる!
「そういうわけだから、さぁ大掃除をしよう死神」
「それは断る」
オレの話が無駄に終わった瞬間でした。
「コタツから出るのはいやなのー!やなのー!」
・・・。
「いやー!いやなのー!」
・・・。
「そんな事を言うなら、コタツは片付けますよ!!」
「やだー!お母さんは卑怯だー!」
亀のようにコタツから顔だけを出して抵抗の意を示す死神。
「うー。でも・・・時空列圧縮空間が・・・」
すごく迷っている!
「よしっ、じゃあもうちょっとコタツで暖まってから・・・」
「逃げで使う《もうちょっと》や《また今度》は信用しねぇんだよ」
ズルズルズル
潜り込もうとする死神を引き出す。
「ぬーん。じゃあ《しりとり百連続分》くらい」
何それ。
「百連続しりとりが終わったら大掃除しようよ!ねっ?ねっ?」
「・・・はいはい」
必死だコイツ。
「やたー!百連続だから重複はアリねっ」
くれぐれも《トマト》だけで繋げようとすんなよ。
面倒くさい百連続しりとりが、始まった。
「《プリン》!!」
終わったぁーーーーーーー!
「ほら準くん!《ん》だよ《ん》!」
ケンカ売ってんのかてめぇ。
「《ん》が付いたら終わりだろ」
「《ンジャメナ(都市名)》があるじゃないの!」
裏技出たーー!
ンジャメナ(別名ウンジャメナ)はアフリカ中部、チャド共和国の首都です。
「しりとりは最後に《ん》が付いたら負けだろ」
「負けはイヤ!」
という事で仕切り直しだ。
「じゃあ次はオレからいくぞ。んー、《メディア》」
「《あ》!? あ、あ、アンパ・・・あっ、駄目だ! アンパンマ・・・あっ、駄目だ!」
大丈夫かオイ。
先は長そうだ。
――――――――
―――――
―――
【十五分後】
・・・。
・・・。
「よっしゃ!・・・トマト」
「おし・・・トマト」
「トマト」
「・・・トマト」
「トマトだぜー」
「トマト」
「トマト!」
「トースト」
「・・・トマト」
「トマト」
「トメィト」
「トマト」
「トマト」
「・・・」
「・・・」
「結局トマトばっかじゃねぇか!」
「仕方ないでしょ! てゆぅか準くん、何とか言ってんの!?」
「てめぇだって何とかちょっと外人ぽく言ってんだよ!」
「文句言わないの!あと四回だから!」
「オラァトマトぉぉぉぉ!!」
「オラァトマトぉぉぉぉ(意:私はトマト)!」
「トマトコルァぁぁぁぁ!」
「トマトコルァぁぁぁぁぁ!(意:トマト採りは肩が凝るわぁ♪)」
――――――――
―――――
―――
ウィィィィィィン!
「アハハハ!突撃ーー!」
掃除機を任された死神は居間を縦横無尽に走り回っている。
オレはキッチンやら他の部屋を行ったり来たり。
でっかい段ボール箱を外に運んでいると、
「ねー準くーん!」
掃除機を止めた死神に呼ばれた。
「なんだー!?」
「テレビ動かすの手伝ってー!」
「待ってろー!」
ちなみにオレが運んでいるこの段ボール箱、中身は死神のイタズラガラクタばっかりである。
こんなでかい段ボール箱をマンションの廊下に置いておくわけにもいかないので仕方なくまた戻る。
「よし、テレビだったな・・・」
「アハハハハハ」
奴は掃除機放り出してテレビ観賞をしていた。オイ。
「ほら動かすぞ・・・って、そういえばお前重力魔法使えよ」
今更コイツの便利な能力に気付いた。
「あ、そっか」
本人も今更気付いた。
「ところで準くん、あの箱は?」
ふわふわとテレビを無重力化させながら死神はオレが運んでいたデカ箱に目を向けた。
「ん?ああ、お前の部屋の前に大量に置いてあったガラクタ。いらないから処分しろって事だろ?」
そう言った瞬間、
「ぎゃー!駄目ー!」
叫びながら黒ローブは段ボールに飛び付いた。
「駄目だよー!《無次元クローゼット》の中身を整理するために出したんだよー!」
無次元クローゼット!?
「全部、要るモノなのか?」
「そうだよー!」
「そ、それはすまなかった」
ちょっと欲しいぞ無次元クローゼット。
つーか危なかった。もし捨てたりしたら年末大乱闘が起こりかねなかったからな。
「ちょうど良い機会だから準くんに私のコレクション見せてあげる!」
いや、いいよ。
有無も言わさず死神は箱の中身を漁りだす。
「さぁまずはじめにご紹介致しますのは《長靴》!」
マニアックなコレクションだなオイ。
「長靴は私が自慢するコレクションの一部で、中でも伝説の《ネオ・ヴィヴァーチェ》は手に入れるのに大変苦労した一品です! さてここで名作シリーズの歴史と伝統を、この・・・」
ゴソゴソゴソゴソゴソゴソ
「ホワイトボードで説明していきます!」
講師キター!
大掃除そっちのけで死神のコレクション紹介は続く。
そういえば今回で第100話らしい。
すげぇよ。
これも読んでくれる方達が居たからこそだなっ。
感謝です。
「ほら死神もコレクション紹介なんかしてないで」
「はぁい♪じゃあ感謝の気持ちをこめて私の長靴コレクションの一つ、《アルファ・ヴィヴァーチェ(初代生産版)》をプレゼント!」
知るか!
「《アルファ・ヴィヴァーチェ》は初代ヴィヴァーチェが生み出した名作で、現在売られているアルファ・ヴィヴァーチェ、略してアルヴィヴァはほとんど復刻版なんだよっ!」
また変な説明が始まった!
さてさて。大掃除も終わっていないし、正月の準備も残っている。
よく考えたらまだまだやる事がたくさんあるな。
――――――――
「おい、死神」
「はぁい♪ えと、今年一年どうも有難うございました! 来年もグラマラスな死神をどうぞ今後も宜しくお願い致します!」
「お願い致します」
では良いお年を!
「準くん、年越しそばいっぱい食べるからね!2007杯!」
「か、勘弁して・・・」
第100話です!キリが良いです!笑 この回のテーマはズバリ《原点回帰》でございます。準くんと死神さんの日常に年末という時期を加えてお送り致しました。 作者の自己満足作品ですが、どうぞ来年も《死神といっしょ!》を宜しくお願い致します!笑 では良いお年を♪