第10話 準とナイトメア
「ご馳走様〜!」
死神がニコニコ顔で食器を片付ける。今日はやけにご機嫌だな。
「あ、準くん今日私出かけるからね〜」
「おー」
?
「……い、今何て言った?」
オレは動揺して死神に問い返した。
「だからぁ、私今日ちょっと友達の所行ってくるねって言ったのっ!」
これは奇跡か?
それともオレの日頃の行いが良いからか?
「そ、そうかそうか!」
「何準くん、行かないで欲しいの〜?」
「え、あ、いやいや!あ〜寂しいなぁ〜」
「でも行っちゃうもんね〜」
フハハハ! とっとと行きやがれ!
「じゃあ行ってきまぁす!」
「おう、気を付けてな」
「はぁい」
バタン
……やった。
やったぞ! 平和だ!
我が家に平和が訪れたぞ!
久しぶりに一人だ!
寝るぞ〜。今日は寝るぞ〜。飯も作らねぇぞ〜。ツッコミもしねぇぞ〜!
「さて、昼寝昼寝〜♪」
「昼寝ですか〜♪」
「こんな機会滅多に無いからな〜♪」
「お供します〜♪」
「そうかそうか♪」
こうしてオレ達は居間に布団を敷いてまったり寝ることにした。
うとうとし始めたとき、先程の文章に妙な違和感を感じた。
う〜ん、オレ達は居間に布団を敷いて……。
オレ達は居間に……。
オレ達は……。
オレ達……。
オレ……達。
オレと……誰?
オレは隣で微かに動く紫の毛玉がついたニット帽を見た。
「ぉわぁぁぁぁぁ!! 何でメアちゃんがいるんだよ!!?」
「ふぁ、準くん気付くの遅すぎです〜。おやすみなさい」
「おぅ、おやすみ〜。……じゃない! 寝るなぁ!!」
オレは隣で普通に眠るダークピエロを起こした。
「う〜ん、昼寝昼寝〜♪って言ったの準くんじゃないですか」
「そりゃそうだけど! いつの間にいたの!?」
「んー、『ご馳走様〜!』からです」
最初からいたみたいです。死神といいナイトメアといい、一体どこから入って来るんだ?
「準くん、私眠気を誘ったり夢を操ったりできるんですよ〜」
「突然の提案だなオイ。ま、ナイトメアっていうぐらいだからなぁ」
「試してみます?」
「夢を操れるのか。おー面白そうだな、頼むわ」
「ナイトメアって《悪夢》って意味ですけどね」
「オイチョット待テヤッパリ」
「おやすみなさーい♪」
そしてオレは強制的に眠らされた。
――――――――
―――――
―――
……悪夢だ。
夢の世界に入ったオレとナイトメアはその光景に苦笑いした。
「準くん、苦労お察しします」
「究極の悪夢をありがとうメアちゃん……」
夢のなかのオレ達は学校のグラウンドに立ち、数百人の死神と美香に囲まれていた。数百人の死神はそれぞれ違うことをしている。鎌を振り回したり、『ご飯』を連呼したり、ヨーグルト燃やしまくってたり、オレの顔に落書きしたり、ナイトメアにデコピンしたり...etc
美香はというと、数百人が全てオレの近くに集まり、およそ公開できそうにもない暴言や爆弾発言をオレに向かって集中放火していた。
「もういっぺん言ってみろコノヤロー!!」
遠くでは死神に何か言われたナイトメアが軽く泣きながら五人の死神を追い掛けていた。
もう帰りてぇよ……。
「里原くんこんな問題も解けないのですか?」
「分母のルートは二乗して有利化だと言ったでしょう!?」
「ガーナの特産物はチョコじゃなくてカカオです! 脳みそまでチョコになってしまいましたか?」
あぁぁぁ三笠の大群だぁぁぁ。
すみませんすみません勉強不足のオレが悪いですだから、だからそんなに問題集を持ってこないでぇぇぇ!
「アハハハハハハ死ねや悪趣味女ー!!!!」
ナイトメアが目を回しながら死神達に黒い球体を乱射していた。完全に狂っている。
「メ、メアちゃん! この夢は危険だからやめよう!」
「ど、同感です! ではとりあえず私の夢に移動します!」
突然オレ達の足元に黒い穴が開き、下へ落とされた。
―――――
「脱出成功です!」
ナイトメアの夢の中は夜の遊園地だった。イルミネーションが綺麗だ。
「可愛らしい夢だね〜」
「え、あ、照れます……」
? 率直な感想を言っただけなんだけど。
「でもここもやっぱり……」
「はい。悪夢です」
そう言った瞬間後ろに三つの影が現れた。
『メア、またサボりましたね?』
『あなたって子はなんでいつもそうなの!』
『あっはははは! お仕置きだなぁこりゃあ!!』
一人は般若面だから夜叉さんか。
他に狐面の人とよくわからんが大量に伸びた赤い髪の中に派手な化粧をした顔がある男。
ちなみに狐面は着物姿で化粧男はド派手な衣裳を着ている。これ何ていうんだっけ?
ナイトメアは三人を見ると顔が真っ青になった。
「ひぃっ! 夜叉さん、それに白狐さんとカブキさんまで……」
そうだそうだ、歌舞伎の格好だよあれ。どうりで派手すぎると思った。
それより夜叉さんは刀、白狐という女性はクナイ、歌舞伎男は長槍を持っている。
ヤバいんじゃない?
『カブキの言う通りお仕置きが必要ですね』
「えー! メアちゃん仕事頑張ってるんじゃないの!?」
「そんなこと! 私最近はサボって……るかも。エヘッ」
エヘじゃねぇー!!
『覚悟なさいメア! ついでに里原殿!』
ついでで殺されてたまるかぁー!
「メアちゃん早くここから抜け出そうよ!」
「こういう時ってセオリー通りしばらくは抜け出せないんですよ!」
「何だよセオリー通りって!?」
「とりあえず逃げましょう!」
オレ達は遊園地のなかに逃げた。
オレの悪夢では死神達が何百人も出て来たのにナイトメアはこの三人で十分過ぎるらしい。ナイトメアにとっては一人につき死神数百人分の悪夢ってコトなんだろうな。
『あっはははは! お仕置きだぁ!』
歌舞伎男が凄い勢いで追ってくる。歌舞伎の衣裳って相当重いはずだが。
『待ちなさいメア!』
狐面の女がアトラクションを飛び移りながら追ってくる。身軽すぎだろ。
『あなたは少し怠けすぎですぞ!』
夜叉さんが……7人で追い掛けてる!?
さすが、日本の神秘分身の術ここにあり! 鼻が高いです夜叉さん!
……んなこと言ってる場合じゃねぇよ! 逃げなきゃ!
「みんなこんなに怖いの!?」
「これは悪夢ですから、私の怒られた時の記憶なんです! 白狐さんとカブキさんは普段は超優しいですもん! 夜叉さんはあんまり変わらないですけど……」
ナイトメアが時間稼ぎの為に歌舞伎男に特大の黒い球体を放つ。球体は直撃した。これは効いただろう。
『あっはははは! 効かない効かない!!』
無傷かよ!
「あわわわわ! メアちゃんどうやったら抜け出せるんだよ!?」
「逃げ延びていればあとチョットで効果が消えますから!」
「あの三人から逃げ延びていられると思う?」
「……無理です。あの三人は死神業アジア方面最強の三人ですから。ぐすんっ」
そんなすげぇのかよ夜叉さん!!
ただの合コン好きだと思ってた。そんな人が死神なんかに弱み握られるなよ……。
『誰が合コン好きですって!?』
あ、知らないうちに声に出てた。
『鬼ごっこはここまでです!《狩魔・鬼斬剣{カルマ・キザンケン}》!!』
うおー!
カッコイイ!
あー。
なんかすっげぇぞ赤い剣圧だぁ。
こっちに来る〜。
「準くんなにやってんですか伏せて!」
ナイトメアの言葉に反応したオレはすぐに伏せた。頭上を赤い剣圧が通過し、ジェットコースターの柱を切断した。
「うお〜っ本当に死んでしまう!」
「準くん見てください! 出口です!」
目の前には黒いゲートが開いていた。夢の出口だ。
『逃がしませんよ。鬼人召喚!!』
ゲートの前に地面から巨大な角が出てきた。
もう夜叉さん格好よすぎ。
おいしいキャラにしたままで逃げるのも癪なので死神から聞いた裏情報を暴露してみた。
「夜叉さーん! 昔海外出張という名目で楊貴妃を見に行ったってのは本当ですかぁ!? 羨ましいなぁ! やっぱ美人でしたか!?」
『何ぃ! マジかよ夜叉!? 何でオレを連れていかなかったんだ!』
『そういう問題じゃないわよカブキ! どういうことかしら夜叉〜?』
『……あー。里原殿そろそろ起きる時間ですぞー』
召喚されかけの大鬼が消えた。
「ナイスです準くん!」
オレとナイトメアはゲートに飛び込んだ。
――――――――
―――――
―――
目を覚ましたオレ達は居間で寝ていた。
「助かったみたいですね〜」
「死ぬかと思った……」
自分の悪夢に入って苦しむナイトメアってどうなの?
とりあえずもう悪夢はこりごりだ。
ナイトメアが伸びをする。
「ん〜、でもよく眠れました〜♪」
気が付くともう夕方だった。そして急にナイトメアが青ざめた顔になる。
「あ、私仕事サボってたんだった……」
夢が現実になりそうだなオイ。
「じ、じゃあ私帰ります! 今日は楽しかったです準くん! また遊びましょうね〜♪」
「おー。あんまり仕事サボるなよ〜」
ナイトメアは黒いゲートに入っていった。ナルホドこうやって入ってきたのか。
―――――
そしてテンションの高い死神が帰ってきた。
「たっだいまぁ! あ〜楽しかったぁ♪ 柿とピラニアでまさかあんな熱そうな電線を……アハハハハ!! ん〜? どうした準くん? 寂びしかったかぁ?」
溜め息が出る。
「ハァ、お前は一人で十分だわ……」
「え!? 《お前一人を全力で愛す》!? キャーどうしよー!!」
言ってねぇよ。
いかん、今日は昼寝したのにいつもより疲れた……。もう一回寝よ。
「えっ、準くん寝ちゃうの!? 夕飯は夕飯! ちょっと! ホラお土産だよー《モアイVSヘラクレス》の銅像! ……ツッコミ無しかよー! ちょっと、え! マジ寝だよこの人〜!!」
死神は必死に起こそうとしたみたいだったが一度寝たオレは簡単には起きない。
我が家の夕飯は深夜になってしまいましたとさ。死神はぐったりでした。