第19話: 生き残った四つの卵
はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。
海岸から戻ってしばらくした後、僕は見つけた奇妙な卵を、かなり広い部屋へ運び込んだ。
何人かの護衛にも手伝ってもらいながら、僕は一つずつ卵の状態を調べ始めた。
その形は、地球で見たネコザメの卵によく似ていた。
だが、細かく見れば見るほど、地球のものとは明らかに違っている。
殻は非常に硬い。
まるで石のようだった。
色も奇妙だ。
乾いた葉のような色をしている。
僕は指先で、表面を軽く叩いた。
「……硬いな。」
隣に立っていた護衛が頷く。
「石のようですね、アラリック様。」
「普通の石より硬いかもしれない。」
僕は続けて、卵の内部を観察した。
殻の奥には、細長い形をした何かがある。
色は殻とほとんど同じだが、わずかに透けている。
さらに奇妙なのは――。
それが、本来なら胚であるはずなのに、まるで鉄のように硬いことだった。
「……これ、本当に胚なのか?」
僕は顎に手を当てた。
*これが本当に生き物なら、こんなに硬い構造で、どうやって身体を成長させるんだ?*
僕は地球の知識だけで、すべてを説明しようとはしなかった。
エルドハローには、地球とは異なる自然法則が存在する可能性がある。
それに、この世界の海水には「塩」と呼ばれているものが大量に含まれている。
だが、それは僕が地球で知っている塩とは明らかに違う。
その成分が何なのか、僕にはまだ分からない。
だからこそ、最初から結論を決めつけるわけにはいかなかった。
僕は一つずつ記録を始めた。
卵の形。
色。
硬さ。
水の状態。
温度。
湿度。
経過時間。
そして、卵の周囲にある環境まで記録していく。
「今は何も変えないでおこう。」
護衛たちが頷く。
「この状態のままにして、しばらく観察する。」
「分かりました。」
一日目が過ぎた。
大きな変化はなかった。
二日目も、ほとんど同じだった。
僕は何人かの護衛とともに、卵を観察し続けた。
しかし、しばらく時間が経った頃――。
パキッ。
「……何?」
僕はすぐに振り返った。
そのうちの一つに、ひびが入っていた。
僕は近づく。
ひびは少しずつ広がっていく。
内部の状態も、明らかに変化していた。
僕はすぐに確認した。
だが、結果は僕が期待していたものではなかった。
内部の胚が、徐々に弱っている。
「……そんな。」
僕は言葉を失った。
しばらくすると、別の卵にも同じ変化が現れた。
一つ。
また一つ。
それまで安定しているように見えた状態が、次々と崩れていく。
僕はもう一度、記録を確認した。
水は新鮮で、まだ生きている。
外から見える範囲では、大きな変化もない。
だが、卵が置かれていた場所には、蒸気と熱い水があった。
僕は温度に疑いを持ち始めた。
しかし――。
だからといって、熱が原因だとすぐに決めつけることはできない。
*温度が高すぎたのかもしれない。*
*水中のガス交換が十分ではなかった可能性もある。*
*あるいは、この世界の「塩」が水分のバランスに影響しているのかもしれない。*
*……それとも、全部が関係している?*
僕は小さく息を吐いた。
「だったら、変数を分けて調べるしかないな。」
隣にいた護衛が困惑した顔をする。
「変数……ですか?」
「卵に影響する可能性があるものだ。温度、水、空気、湿度、それから水に含まれる成分。」
「……分かりました。」
護衛は頷いたものの、まだ完全には理解していないようだった。
僕は部屋に置かれた桶や水の入った容器、それから簡単な道具を見渡した。
*すごいな。*
*科学者の頭脳。*
*なのに研究室にあるのは、桶と鍋だけ。*
思わず笑いそうになった。
だが、目の前の卵を見て、すぐに表情を戻す。
僕は観察を続けた。
そして――。
時間が経つにつれて、残った卵の数は減っていった。
最後に残ったのは、四つ。
僕は四つの卵の前で、しばらく立ち尽くした。
「……四つ。」
海岸から持ち帰った卵のうち、まだ生命の兆候を示しているのは、この四つだけだった。
この四つまで生き残れるのかは、まだ分からない。
だから僕は、より安定した環境を作ることにした。
新鮮で生きた海水を用意する。
そして、卵を慎重にその中へ入れた。
部屋の温度が高すぎず、低すぎないように調整する。
さらに、容器を完全に密閉することもしなかった。
卵が周囲の環境と適切に物質を交換できるようにするためだ。
「卵には、できるだけ触れないでくれ。」
「分かりました。」
「今は観察だけだ。」
「はい、アラリック様。」
それから、何日も経過した。
僕は小さな変化も見逃さないよう、記録を続けた。
何も変化しない日もあった。
そして――。
卵の内部で、ほんのわずかに何かが動いているように見える日もあった。
そんなある日のことだった。
僕は、何かに気づいた。
「……待て。」
僕は一つ目の卵を確認する。
内部に変化がある。
次に二つ目。
三つ目。
そして四つ目。
僕は何度も確認した。
見間違いではないか確かめるために、もう一度すべての卵を確認する。
「……生きてる。」
僕は数秒間、何も言えなかった。
「本当に……生きてる。」
一人の護衛が近づいてくる。
「アラリック様?」
僕は答えなかった。
ただ、四つの卵を見つめ続けていた。
これまでに、いくつもの卵が駄目になっていった。
それでも――。
最後に残った四つは、確かに生きている。
僕はゆっくりと息を吸った。
「……成功だ。」
その瞬間だった。
自分でも気づかないうちに、目が熱くなっていた。
僕は小さく笑った。
「ははは……。」
そして、頬を涙が伝っていく。
「……よかった。」
慌てて涙を拭う。
だが、涙は止まらなかった。
「本当に……生きてるんだな。」
僕の後ろにいた護衛たちも、何も言わずに四つの卵を見つめていた。
彼らも、これまで卵が一つずつ駄目になっていくところを見てきた。
だからこそ、今目の前にある四つの命を見て、安堵していた。
一人の護衛が静かに頭を下げる。
「……よかったです。」
別の護衛も微笑んだ。
「ようやく、生き残ってくれましたね。」
部屋の中が静かになる。
大きな歓声もない。
特別な祝宴もない。
ただ、そこにいる者たちが四つの小さな命を見つめていた。
僕はもう一度深く息を吐き、涙を拭った。
「よし……。」
僕は立ち上がる。
「外に出よう。」
僕は扉へ向かった。
そして、ドアノブに手をかける。
扉を開けた。
ガチャッ。
「……うわっ!?」
扉を開けた瞬間、目の前にネリアの顔があった。
「……。」
「……。」
僕とネリアは、数秒間そのまま見つめ合った。
「なんで待ってるんだ?」
ネリアは手に持っていたものを差し出した。
「これを渡すためです。」
「……何それ?」
「マジックバッグです。」
僕の目が一気に輝いた。
「マジックバッグ!?」
ネリアが僕へ渡す。
「カイルからです。パーティー全員に配ったそうです。」
「本当か!?」
「はい。」
「やった!」
僕はマジックバッグを受け取り、嬉しそうに眺めた。
*これ、めちゃくちゃ便利じゃないか!*
*これが最初からあれば、荷物を持って歩き回る必要もなかったのに!*
ネリアが僕を見ながら笑う。
「そんなに嬉しいんですか?」
「もちろん! これは、この世界で見た中でもかなり便利な道具だ。」
「……ただのバッグに見えますけど。」
「ただのバッグじゃない!」
僕は思わず言い返した。
そして、僕たちはそのまま食事をする場所へ向かって歩き始めた。
歩いている間も、僕は何度か新しいマジックバッグを確認してしまう。
*ありがとう、カイル。*
*これでようやく、便利な収納手段を手に入れた。*
食事をする場所へ到着すると、アルブレヒト・ヴァルテリスが家族とともに待っていた。
彼は僕を見ると、すぐに声をかけてきた。
「おお、アラリック。卵のほうはどうなった?」
「アルブレヒトさん。」
僕は少しだけ気まずそうにする。
「えっと……。」
僕は頬を掻いた。
「実は、四つだけです。」
アルブレヒトは一瞬黙った。
「四つか。」
「はい……。」
アルブレヒトは静かに頷いた。
「私は、それがどれほど難しいことなのか分かっている。」
「……。」
「そもそも、我々はその卵が存在することすら知らなかった。」
アルブレヒトは僕を見る。
「それを見つけ、調べ、そして生かした。」
そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとう、アラリック。」
僕は少し照れながら笑った。
「僕はただ、研究しただけです。」
「それでも、素晴らしい成果だ。」
僕は頷いた。
すると、アルブレヒトが再び尋ねる。
「ところで……その卵は、いつ孵るんだ?」
「……。」
僕は固まった。
「孵る?」
「ああ。」
僕は少し考え込む。
「たぶん……数週間くらいだと思います。」
「数週間か。」
「正確な期間は、まだ分かりません。」
僕は小さく息を吐く。
「実際に観察を続けてみないと、判断できない。」
「なるほど。」
その会話を聞いていたアルブレヒトの末っ子が、突然目を輝かせた。
「じゃあ、孵ったら魚が食べられるの!?」
「……。」
僕は子供を見る。
アルブレヒトも息子を見る。
ネリアは必死に笑いをこらえている。
そして――。
「ふふっ。」
近くにいた護衛が、思わず小さく笑った。
それをきっかけに、周囲から笑い声が広がる。
「ははは!」
「この子は、もう食べることを考えているのか!」
アルブレヒトも笑っている。
だが、末っ子本人は不思議そうな顔をしていた。
「なんでみんな笑ってるの?」
僕もとうとう笑ってしまった。
「いや、なんでもない。」
僕は子供の頭を軽く撫でる。
「魚がちゃんと育ったら、いつか食べられるかもしれないな。」
子供の目がさらに輝いた。
「やったー!」
その言葉に、また全員が笑った。
僕も笑いながら、その光景を眺めていた。
卵の研究を始めてから、初めて心が少し軽くなった気がする。
だが――。
僕はまだ分かっていなかった。
この研究が、始まったばかりだということを。
四つの卵には、まだ多くの謎が残されている。
いつ孵化するのか。
中から何が生まれるのか。
そして――。
この世界の生物が、地球の生物とどこまで違うのか。
僕には、まだ何も分からない。
それでも今は、四つの命が生きていることが嬉しかった。
翌日――。
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