第13話: 香る肉と、屋根の上の逃亡者、そして念動力の修行
はじめましての方も、お馴染みの方も、お越しいただきありがとうございます!作者のティラピア池です。今日も皆様に楽しんでいただけるよう、気合を入れてお届けします!
長い旅を終え、ようやく僕たちは街へ到着した。
僕は残っていたイノシシの肉を四分の一ほど荷車に積んでいた。
目的は簡単だ。
この肉を売って、受けたイノシシ討伐のクエストを終わらせること。
僕は街の肉屋を営んでいる商人のところへ向かった。
「すみません。このイノシシの肉を売りたいんですが、だいたいいくらになりますか?」
商人は荷車に積まれた肉をじっと見つめた。
「ふむ……。まずは匂いを嗅いで、状態を確認させてもらおうか、坊や。」
商人は肉に顔を近づけ、慎重に匂いを確認する。
数秒後――。
商人の表情が変わった。
「……なんて香りだ。」
商人は肉を少し手に取り、さらに詳しく確認する。
「食感も悪くない……それに、この香り。まるで採れたてのように新鮮だ。」
僕は頭を掻いた。
「それで……いくらになりますか?」
商人はしばらく考え込んだ。
そして、ようやく口を開く。
「そうだな……十五枚の銀貨ではどうだ?」
「十五枚の銀貨!?」
思わず大声が出た。
周囲にいた人々も、一斉にこちらを振り向いた。
僕自身も驚いていた。
*この肉だけで十五枚の銀貨……?*
*最初は普通のイノシシ肉として売るつもりだったんだけど……。*
商人はすぐに代金を支払ってくれた。
僕は受け取った銀貨を袋へしまう。
「ありがとうございます。」
取引を終えた僕たちは、クエストの報告をするため冒険者ギルドへ向かって歩き始めた。
僕とアヤ、そしてカイル・ヴァレンティスの三人で街中を進んでいると――。
「捕まえろ! 逃がすな!」
突然、遠くから大声が聞こえてきた。
「……今度は何だ?」
僕は声のした方向へ顔を向ける。
すると、何人もの衛兵が一人の少女を追いかけていた。
しかも、その少女は――。
「……速いな。」
少女は建物の屋根の上を走っていた。
アヤも驚いたように上を見上げる。
「屋根の上を走ってる……?」
カイルは少女の動きを観察する。
「どうやら魔法を使っているみたいだな。」
少女は屋根から屋根へと軽々と飛び移っていく。
そして突然――高く跳び上がった。
「……え?」
僕はその場で立ち止まった。
そのとき、偶然にも僕の両手は大きく開いていた。
少女は空中から、まっすぐ僕のほうへ飛んでくる。
「えっ?」
次の瞬間――。
「ふわっ――。」
少女の身体が、僕の両手へと落ちてきた。
しかし――。
「……?」
驚くほど軽い。
まるで風が両手に触れたような感覚しかなかった。
僕はそのまま固まった。
少女も固まっている。
「……」
「……」
僕たちは数秒間、互いの顔を見つめた。
そして僕はようやく気づいた。
*……え?*
*僕、今この子を抱えてるのか?*
少女は僕をじっと見つめると――。
突然、いたずらっぽい表情を浮かべた。
そして舌を出した。
「べーっ!」
「……」
僕は完全に言葉を失った。
顔が一気に熱くなる。
*……一体、何なんだ今の!?*
どうやら彼女は、身体を極端に軽くする魔法を使っているらしい。
その魔法によって、屋根の上を軽々と走り、空中から飛び降りてもほとんど重さを感じなかったのだ。
少女は僕の両手から軽々と離れる。
「待て!」
しかし、少女はすでに再び屋根へ向かって走り出していた。
「逃がすな! 追え!」
衛兵たちも少女を追って走っていく。
僕はその場に立ち尽くした。
「……」
すると――。
「ぷっ……あははは!」
アヤが突然笑い出した。
「笑うな!」
カイルも口元を押さえながら、必死に笑いを堪えている。
「ははっ……お前、顔真っ赤だぞ。」
「僕だって、なんで突然飛び込んできたのか分からないんだよ!」
アヤはまだ笑っている。
「でも、すごく面白かった!」
「もういいから……行こう。」
僕たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
ギルドでイノシシ討伐クエストの報告を終えると、カイルが突然僕に声をかけてきた。
「アラリック。今から修行するぞ。」
「修行?」
「念動力(Telekinesis)だ。」
僕は以前の修行を思い出した。
「……分かった。」
カイルは地面に落ちていた一枚の枯れ葉を拾い、僕の目の前に置いた。
「まずはこれを魔法で浮かせてみろ。」
「これだけ?」
「それすら安定してできていないだろ。」
「……」
僕は大きく息を吸い込んだ。
そして、枯れ葉に意識を集中させる。
「……」
枯れ葉が僅かに動いた。
「いいぞ。そのまま集中しろ!」
僕はさらに枯れ葉を浮かせようとする。
しかし――。
また、さっきの少女のことが頭に浮かんだ。
*……どうして、あの子はあんなに軽かったんだ?*
「……」
枯れ葉の動きが止まった。
そして――。
「ひらっ……。」
枯れ葉は地面へ落ちていった。
カイルは大きくため息をついた。
「……アラリック。」
「何?」
「集中できていない。」
「集中してるって。」
「してない。」
「……」
僕はもう一度、枯れ葉を拾った。
「もう一回。」
僕は何度も挑戦した。
枯れ葉が少しだけ動くこともあった。
数センチほど浮かせることにも成功した。
しかし、集中力が完全には安定しない。
あの少女のことを思い出すたび、念動力の制御が崩れてしまう。
「集中しろ、アラリック。」
「分かってる!」
修行はそのまま続いた。
やがて太陽が沈み、空が暗くなっていく。
それでも僕はカイルと一緒に修行を続けた。
そして、夜になった。
僕は一度座り込み、ゆっくりと息を整える。
「……カイル。」
「なんだ?」
僕は真剣な表情でカイルを見る。
「……あの女の子、なんであんなに風みたいに軽かったんだ?」
カイルは黙った。
「……」
数秒後――。
カイルは再び大きなため息をついた。
「……まだそれを考えてたのか?」
「うん。」
カイルは呆れたような表情を浮かべた。
「……明日も修行だな。」
「分かった。」
僕は立ち上がり、アヤとカイルと一緒に宿へ戻る。
しかし、僕の頭の中には、あの少女についての疑問がまだ残っていた。
*どうして、あの子は魔法だけで……あんなに風のように軽くなれたんだ?*
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