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自伝小説 氷点下のアンビエントPart2

作者: だぶのー
掲載日:2026/05/27

一話完結の短編になります。

高校二年生の年末だった。


そのころの僕は、たいした用もないのに部屋をうろうろする習性があった。若者にはそういう時期がある。エネルギーはあるが、向ける先がないのだ。


電話が鳴った。


「はい、Oです」


「あ、三組のMです」


僕は受話器を持ったまま固まった。


Mさんは男子のあいだで有名だった。かわいくて、胸が大きかった。つまり、高校生男子に必要な条件をほぼ満たしていた。


「もしよかったら、二年参り、一緒に行きませんか」


人生には、突然ボーナスステージ!のような瞬間がある。


「いいよ」


と言ったあと、僕はしばらく受話器を見ていた。


たった数分前までただのプラスチックだった電話機が、運命の装置に見えた。


その日から、世界は妙に明るくなった。


ラーメンが伸びても平気だったし、音楽制作がうまくいかなくても、「まあ彼女できそうだしな」と思えた。


まだ彼女ではなかったが、人間の脳は都合よくできている。


大晦日の夜、雪が降った。


僕はM65を着て、ジーンズを履き、どこで買ったか覚えていないブーツを履いた。ポケットにはウォークマン。コールドカットが入っていた。


待ち合わせ場所のMさんは、黒い服でまとめていた。


学校で見るときより数倍きれいに見えた。


女子という生き物は、夜と化粧によって性能が上がるらしい。


「待った?」

「ううん」


僕たちは神社へ向かった。


ところが、二人とも異常に歩くのが速かった。


まるで競歩だった。


恋愛感情と運動能力には何らかの関係があるのかもしれない。


僕は隣に女の子がいるというだけで限界だった。


肩が近い。


匂いがする。


息が白い。


それだけで脳がショートしそうだった。


参拝を終えるころには、少し会話ができるようになっていた。


願い事の話をしたり、学校の話をしたりした。


帰り道では、どうにか普通のカップルくらいには見えたと思う。


少なくとも競歩選手ではなくなっていた。


駐輪場に着くと、また沈黙になった。


するとMさんが言った。


「私、今日は遅くなっても大丈夫なんだ」


僕は理解した。


理解すると同時に、頭の中で大量の警報が鳴り始めた。


もしこのあと二人きりになったらどうする。


うまくリードできるのか。


童貞だと思われないか。


映画みたいに自然にできるのか。


高校生男子の脳は、だいたいこの程度のことで埋まっている。


そして僕は言った。


「帰ったほうがいいよ」


自分でも驚いた。


まるで口が勝手にしゃべったみたいだった。


Mさんは少し黙り、


「そっか」


と言った。


雪が降っていた。


鐘が鳴っていた。


そして僕の恋愛らしきものも終わった。


Mさんは帰っていった。


赤いテールランプが雪の中へ消えていくのを、僕は見ていた。


あとには、ものすごい後悔だけが残った。


家に帰ると、僕は寝間着に着替えた。


それからMさんのことを考えながら三回オナ〇ーした。


人間という生き物は、本当に統一性がない。

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