最終章 本当の優しさ
最終章!なんだか感無量ですね!
ロイルは、温かな思い出に浸っていた。生まれてまもなく母を亡くしたが、二人の兄は優しく、父が構ってくれなくとも、父の代わりによくしてくれた。ヴァレスと共に過ごした日々も楽しく、充実した世界が、ロイルの視界をよぎっていく。だか時々欠落したように記憶が抜けていて、それが悲しかったことや、つらったことであるのを理解した。
それはどんどん増えていって、温かい記憶は薄れていく。
これが過去の自分、メルディスが感じていたことだったのかと、ロイルは思った。
ふと、欠落していた部分に一度だけスポットライトが当てられる。
それは、一人の東洋人とのやりとりであった。
「お前の母さんは偉大なる実験に貢献して死んだのだ。お前は、この実験に貢献する義務がある」
頭が禿げ上がって、目つきが鋭い男は、怯えるメルディスに強い口調で言い放った。
白衣から丸い球体を取り出した男―セイランは、それを見えるように掲げてメルディスに返った。
「これはコア。これが何でできているか、分かるか?」
メルディスはすぐさま首を振った。セイランは嘲笑して、再びコアを白衣に戻した。
「これは死んだ人間の意思が詰まっている。無念や悲しみ。そういった負に膨大なエネルギー源があったと、とある学者が見つけた。成分は死体から抽出した血液。どうだ、すごい話だろう?」
「よく…分かりません…」
「…サルにも劣る知能だな」
セイランは焦点が定まらない目でメルディスを見つめて、胸元を引き寄せてにたりと笑った。
「しかしいいだろう、これからお前を生まれ変わらせてやるさあ、来るんだ」
そして記憶は途切れた。凄まじい感情が頭をよぎり、この後何があったかいやでも知らされた。
ロイルは胸にてをやって、そっと呟いた。
「僕は…やはりコアを埋め込んで…」
セイランが最初にメルディスに行った手術がこの出来事だった。
生きたまま強いエネルギー源であるコアを埋め込まれたメルディスは重みに耐えかねて死んでしまったが、ロイルとして生きているこの今は、三個目のコアにして実現した命だった。
ロイルは記憶をたどりながら、記憶が流れていく様がばらばらの時を刻んでいるのに気がついた。
「あれは…」
異国の着物。失った片目に黒髪。見慣れた男が憤っているのを見下ろして、ロイルはその記憶に触れた。