五話
ロイルは飛び込んだ部屋の人数の多さにまず驚き、やがてそこにいる面々を凝視してまた驚いた。階段からは一本線ですぐにドアが一枚伸びていて、そのままそのドアを勢いよく開いたロイルは、自分の存在の場違いさに冷や汗を感じた。レインはロイルの到着をすぐさま気がついて飛び跳ねるように喜んで、人の良さそうな笑顔を浮かべていた。
「ロイル!やっと来たね!」
「貴様…!」
「ロイル!」
ロイルは高い少女の声にハッとして振り返った。数日前から行方が分からず、ロイルも心配していたトレストゥーヴェの姿に、ロイルは戸惑いを見せた。
「とれす…トゥーヴェ…どうしてこんな所に?」
「なんや、賑やかやね」
先ほどまで感じなかった気配に、ロイルは身を硬くした。その声に反応したのか、レイン、トレストゥーヴェ、イナーシャの三人も深く頭を下げる。ぽん、と軽く両肩に乗せられたマーリスの両手は、いやに重く感じた。
「ここは…一体?」
「僕のアトリエ。どや?綺麗な子ばっかりやろ?」
無理やり肩をつかまれたまま、ぐるりと室内を見渡させられたロイルはうっとうしげにその手を払ってピアスに触れた。マーリスは猫のようなロイルの態度に、わずかながら笑んで部屋の真ん中の一段高くなった場所に立った。
「僕は復讐ん為に、一人の男と、一人の少年、一人の老人を招待した。」
マーリスは手を高く挙げ、よく響くように二度手を叩いた。少しの静寂があって、ロイルの背後の扉が開いた。
「さあ、これで役者はあと一人っちゅうことや」
車椅子が鈍い音を立てながら室内に入ってきた。扉の先は階段だったため、階段は杖を使わされたのか、車椅子に座った老人の息は浅く荒い。そしてその車椅子を引いていた少年は、澱んだ目でロイルを見つめて、静かに涙を流した。
「ヴァレス…」
その隣には、なんの表情も無い、彼の死んだはずの妹を連れて…。
レニは馬車で屋敷に無理やり乗り上げ、馬はいななきと共に少し暴れて止まった。キールは壁と衝突しそうになった馬を宥め、素早く降りると馬車の扉を開け放った。
レニはキールに感謝して、胸元のタイを投げ捨てた。
「キールさん、至急戻ってアイリーンさんに伝えて欲しいことがあります。」
「で、ですが、オズボーン様はどうやってお帰りに?見たところ通信機も持っていない様ですし…」
「私のことは構いません。明日、空軍が再びアクアドームを襲撃します。それに備えて住民を避難させ、警備をすることをお伝え下さい」
「な、りょ、了解致しました」
キールは再び御者席に戻り、心配そうな表情でレニを見下ろし、敬礼する。
「ご武運を」
レニは笑顔でその敬礼に答え、走り出した。
昔、マーリスが母と二人で暮らしていた懐かしいあの日の屋敷の中を。
レニはすぐに二階へと駆け上がり、マーリスの書斎を目指した。思えば、レニはこの時と同じように階段を駆け上がっていたのを思い出す。タスク村が炎上して、その村の中心で横たわっていた弟の死を知ったあの日。動揺した自分の心をそのまま思い出していた…。