第十三章 邂逅
次の次の章で完結です!
ルイスは撃たれた肩を庇いながら、這うように地面を進んで基地の軍人を捜した。幸い、すぐにルイスは発見され、ドーナによる処置を受けた。死体一体と血まみれのルイスを発見した兵士は、リックだった。リックは狼狽しきってしきりに手術を行っている部屋の前を行き来し、落ち着きなくルイスの回復を待っていた。
死体はアイリーンの指示で処理され、今は教会に運ばれていた。
リックの側にいたダリスは、唇を噛んで大きく項垂れていた。
「一体…何があったっていうんだよ…?」
「フォスター大尉…、確かロイルくんと任務に出ていたはずなんだけど…レイシェン曹長と同じでまた行方不明に…」
「…ロイルが、撃ったのか?」
リックは素早く振り返って、ダリスを睨んだ。ひどく落ち込んだ様子のダリスは、リックを一瞥し、面倒そうにため息を吐いた。
「だったら、誰が撃ったんだよ…あとあのガキの死体は何だっていうんだよ…」
「ロイルくんは無闇に人を殺したりなんかしない、彼は命の重さを知っている…、ロイルくんが、フォスター大尉を撃つ理由だってない!」
「…俺は…フォスター大尉を尊敬していたんだ…!お前こそあいつを買い被り過ぎじゃないか?!」
ガタン、とやけに大きく椅子が倒れる音が響き渡った。ダリスとリックはようやく落ち着きを取り戻したのか、押し黙って、リックはダリスの隣に腰をおろした。
「…思えば…ロイルくんが苦手だって思っていたのは、俺にどこか似ているからなんだと思う」
「…お前と、あいつがか?」
「うん、ヴァレスのこととか、誰より辛かったのはロイルくんなのに、俺はヴァレスの一番になれたと思っていた。だからヴァレスがいなくなったとき、辛く当たってしまって、彼、年相応の顔で僕を見上げていて、思った」
リックは壁に背を預けて、手術中と手書きされた文字を見上げて続けた。
「俺の中の強がっている部分は、彼そのものなんだって」
ダリスは考え込むようにリックの言葉に何か返すことは無かった。リックはダリスを見遣って、深く頭を下げて目を閉じた。
「それからずっと思い返すんだ。彼が僕をあの村でみつけたあの日のことを…」
トレストゥーヴェは質素なドレスに身を包み、まだ誰も来ないダイニングで一人静かに泣いていた。突っ伏した机はすっかり彼女の涙で濡れてしまい、小さな嗚咽がダイニングに響いていた。
イナーシャは妹がダイニングに入ってからずっと泣いているのを知っていたが、入っていって慰める言葉も持ち合わせておらず、ただ、そのドアの前で彼女の悲しみの声を聞いているしかなかった。
「姉さんは卑怯よ…どうして私も巻き込むの?私がいなかったら…ロイルだって、ロイルだって」
トレストゥーヴェはイナーシャが既に外にいることを知っていたのか、そう叫んだ。
返事をしようか迷ったが、イナーシャは落ち着きを持って答えた。
「君を巻き込んだのは、それが正しいと僕が思ったからだ。確かに、悪かった」
「もうお仕舞いだわ…私が愛した彼は記憶を取り戻したらいなくなってしまう…!ああ、姉さん、私はアンタを恨むわ!」
だんだん、とテーブルを叩く激しい音と共に、トレストゥーヴェは繰り返す。
「彼が死んだら私も死んでやる!それがアンタへの罰なのよ!」
イナーシャは強く拳を握って涙を耐えた。自分の復讐の為、復讐を望んでいなかった妹を踏み台としている自分が許せずにいた。こうして改めて口で言われると尚更胸に突き刺さり、イナーシャはその場に崩れて顔を覆い隠した。
「許して…ジュリア姉さん…!」
イナーシャに細長い影が落ちた。顔を覆い隠してたイナーシャは目の前に佇む男に気づかなかった。
男―レインは貼り付けられただけの笑顔でイナーシャに声をかけた。
「とうとう、悲願の日がやってくるわけだね、イナーシャ」
「…!レイン!」
「お前にいい事を教えてあげよう」
レインはそって体を曲げて、イナーシャの耳元へ吐息を吹きかけるように優しく告げた。
「兄さんが帰ってきたよ。さあ、人柱の妹を連れて兄さんの部屋に来るんだ」
イナーシャは目を見開いた。そんなまさか、いやらしく微笑んだレインはさぞ愉快そうにイナーシャの驚いた表情を見つめた。
「メルディスの、お帰りだ」