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Dark plant  作者: 神崎ミア
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四話

 翌日。深くフードを被ったロイルに、住民に成り済ましたルイスはただぶらぶらと街中を歩いていた。時間は正午。人で賑わった市場から少し離れて、今まではスラムと化していた路地を歩く。

エックスは警備が厳重なアクアドームに幾度と無く侵入しては細い路地で人を何人も殺していく。

今までが平和だったため、家に鍵すらついていなかった住民達は今ではすっかり引きこもりがちとなってしまった。


ルイスは写真を何度も見比べ、側を通る住民こどもを凝視していたが、手がかりは全く無い。

現れる場所も毎回変わり、殺害方法も異なる。計画性がなく、目星のつけようがなかった。

ロイルはくちゃくちゃとチューインガムを噛みながら気だるげに辺りを見渡した。

やけに真剣な表情のルイスが疎ましくすら感じる。


「君ももう少しやる気を出したらどうなんだね?」

「…僕は叩く側、お前は調査する側。」

「全く…アイリーン様のご命令でなければ誰がお前なんかと…」


ルイスはそれから延々と悪態をつき続けたが、ロイルの耳からは貫通するばかりだった。

ロイルは猫でも探すように細い土管などの穴をぼんやりと眺めたり、たまにゴミ箱の蓋でさえとってみせた。勿論エックスを真剣に捜してやっている行為ではない。

神経は研ぎ澄ましていたが、どうもやる気が持てないのが本音だった。


それはルイスがパートナーだったから。というわけでもなく、胸にぽっかりと空いた隙間がロイルの脳を鈍らせていた。



「…何があったのかね」

「…何のことだ」

「オズボーンのことだ。君がヘマでもしたのか?」

「関係ないだろう、余計な無駄口を叩くな阿呆」

「…気の毒だな、君はつくづく」


ルイスの最後の言葉は本当に憐れみを含んだ言い方だった。

ロイルは奥歯をかみ締め、ついつっかかってしまいそうなのをなんとか自分自身で押さえ込んで

平静を装う。そういえばここ最近、倒れるようにそのまま眠ってしまうような強烈な眠気がどうした訳か襲ってこない。いつもなら任務後は三日必ず眠りにつくのだが、どうも体の調子が悪かった。

そのせいで何もかもうまくいかないのだとロイルは決め込んだ。




「ティナは…いい子だよ。私の言うことには忠実で。私なら、ティナからパートナー解消などされたら堪らんな…」

「何が言いたい、僕を馬鹿にしているのか貴様」


ロイルは振り返らずに声を荒げてそう返した。ルイスは少し押し黙って、小さく返した。


「君は今、とても辛いのだろう」


ロイルは答えず、ガムを膨らませた。パチン、と軽快な音と共に、自分の中の何かが崩れるような音が聞こえた気がしたのだ。


「お前に何が分かるっていうんだ…」


ロイルは素早くルイスに詰め寄り、近くの壁に背中を押し付ける。ルイスは体制を崩して眼鏡を落とした。ロイルは怒りで震える手でルイスの高級そうな私服を握り締めて続ける。


「親友に裏切られて腹を刺されたあげく…この前は銃だって突きつけられた…そうかと思えば僕の記憶がごちゃごちゃと横から割り込んでレニがいなくなった!そしてトレストゥーヴェは行方知れず…」


ドン、とルイスを突き飛ばして、ロイルはよろよろと後退した。


「何の不自由もないパートナーがいて幸せなお前に何が分かるっていうんだ…教えろ…ルイス…!」


顔を両手で覆って膝をついたロイルに、嫌いな相手でも申し訳なさがこみ上げたルイスはなんと言葉を掛けようかと考えていた所、ぼんやりとした視界でロイルの背後に人影を感じた。

すっかり滅入ってその気配に気づかないロイルに、ルイスは眼鏡を探しながら声を上げた。


「ハーゲン、君の…」


そう言った瞬間、凄まじい轟音と共に激しい砂埃が舞い上がった。

一瞬、何が起きたか理解できず、急いで眼鏡を探し当てたルイスは、間の前に広がった光景に息を飲み込んだ。



「ばけ…もの…」


巨大な獅子の体。四本の足で立ち、調度建物と建物の間にすっぽり挟まる程度の姿で遠くの人目には触れない。そして大きく開かれた口からはだらしなく涎が流れ出ている。

ロイルはなんとかその獅子の一撃を交わして刀を構えると、その体に刃を突き立てた。


「援護射撃をしよう!」


ルイスは戦ってはいけないという掟をやや破って銃を構える。ロイルに突き立てられた傷が痛むのか、獅子は唸り声を上げて大きく腕を振りかざした。

その腕が調度ルイスの肩を掠めて大きくしなり、ルイスは数メートル先へ飛ばされて倒れこんだ。



「チッ、何だこいつは…!」


ロイルはルイスが無事であることを一瞥を送って確認し、ルイスの銃で目元を狙って射撃した。

だが弾丸は硬い皮膚で跳ね返ったようで、獅子はワニのような尾を振り上げた。

ロイルはなおルイスが装填した弾全弾撃ちこんで切りかかる。

しかしロイルは最初の一撃から、どうもこの獅子の様子がおかしいことに気がついていた。

まるで今まで戦ってきたかのように衰弱していたのだ。

それでも凄まじい勢いを見せる獅子に、ロイルは胸元へと転がり込んだ。

心臓を一突きしてやろうと刀を構えた瞬間、その動きが止まる。

遠くで、ルイスが叫ぶのが耳に届いた。


「ハーゲン!」


そして躊躇ってはいけないと分かっていながら動けなくなってしまったロイルに、獅子は大きく爪を振る下ろすのだった。





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